2017 Volume 59 Issue 3 Pages 272-276
症例は76歳女性.筋萎縮性側索硬化症の進行に伴う嚥下障害のために,経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:percutaneus endoscopic gastrostomy)を施行された.術後2日目から腹満感が出現し,腹部単純X線検査では小腸から横行結腸までの拡張像が認められた.腸閉塞の診断で,胃壁固定を解除したところ症状は速やかに改善した.穿刺位置が通常よりも足側となり,胃壁固定2点のうち,より足側の1点が横行結腸を穿刺し,その結果腸閉塞を来たしたものと推察された.術前の上部消化管内視鏡検査や腹部CTを参考とした穿刺部位の確認も重要だが,実際に穿刺する際の標準的な穿刺位置の確認も十分に考慮すべきである.
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:percutaneus endoscopic gastrostomy)による大腸誤穿刺は穿刺時には分からず,初回交換時に気づかれることが多い 1).今回われわれは,PEG造設早期にPEGの本穿刺ではなく,胃壁固定による大腸誤穿刺が原因と思われる腸閉塞を来たした症例を経験したため報告する.
患者:76歳女性.
現病歴:2010年8月に当院神経内科にて(ALS:筋萎縮性側策硬化症)と診断され,嚥下障害の進行が認められたため,PEG造設目的に当科を紹介された.
PEG造設:術前に,上部消化管内視鏡検査(EGD)(Figure 1)にて指サインとイルミネーションテストが陽性であること,腹部CT(Figure 2)にて,腹壁と胃の間に腸管が介在しないことを確認した(内視鏡検査時に胃に送気した状態で空気を吸引せずスコープを抜去し単純CT検査施行).造設時,左側臥位で内視鏡を挿入し,十二指腸まで挿入した後でストレッチを施行し,送気で胃を十分に拡張した後で仰臥位にした.指サイン,イルミネーションテストで胃体下部前壁に穿刺部を決定し,鮒田式胃壁固定具(クリエートメディック株式会社製)で2点胃壁固定を施行した.この際,足側の胃壁固定からの出血がみられ,クリップによる止血術を施行した(Figure 3).PEGは,イントロデューサー変法であるカンガルーセルジンガーPEGキット(日本シャーウッド社製)を使用した(Figure 4).固定時の出血以外には,通常の造設と変わりなく終了した.

上部消化管内視鏡像.指サイン陽性.

腹部単純CT.内視鏡検査後に送気した状態で撮影.介在腸管が無い事を確認.

上部消化管内視鏡像.胃壁固定時出血しクリッピング施行.

上部消化管内視鏡像.カンガルーセルジンガーPEGキット24Fr留置.
PEG造設後の経過:術翌日の血液検査および腹部単純X線検査では異常なく,自覚症状もないため,微温湯200mlの注入を開始した.しかし,術後2日目より腹満感と嘔吐が出現し,腹部単純X線検査にて小腸と横行結腸のガス貯留を認めた.術後6日目のCTでは,横行結腸口側までの腸管拡張がみられ(Figure 5),PEG造設時の何らかの影響が疑われた.基礎疾患と全身状態からイレウスチューブの挿入や開腹手術は危険性が高いと判断し,まず胃壁固定を解除することとした.足側の固定糸を抜糸した直後より頻回の下痢が出現し,腹満感は軽快した.その後は炎症反応の上昇や腹膜炎の所見もなく,腸閉塞の症状は速やかに改善した.術後13日目に大腸内視鏡検査を施行したところ,脾彎曲部の大腸粘膜に一部虚血性変化によるものと思われる発赤・浮腫を12時,7時方向に認めたが,狭窄は認められなかった.また,大腸管腔内にPEGのバンパーは認められず,PEGからの造影検査でも,腹腔内への造影剤の流出は確認されなかった.以上より,PEG自体による大腸誤穿刺ではなく,胃壁固定時の固定糸が横行結腸を貫通し固定されたことによって大腸の通過障害が生じ,腸閉塞を来たしたと考えられた.その後の経過は問題なかったが2011年3月に呼吸不全にて永眠された.

術後6日目(腸閉塞発症時)腹部単純CT.拡張した横行結腸が口側へ持ち上げられそこから下行していく際に胃に接しており,その時点から肛門側は腸管が虚脱しており閉塞起点と考えられた.
PEG対象者は身体予備能力が低下しており,合併症を起こしやすいためより安全に施行する工夫が求められている.その一つとして鮒田式胃壁固定具等 2)を使用する胃壁固定がある.胃壁固定法は主に自己抜去後の腹膜炎予防,創部感染減少 3)が言われているため当院では全例で胃壁固定を行っている.手技の追加による合併症増加の可能性や器具使用に伴うコストの増加などの理由のため全例への併用を躊躇している施設もある.柴田らは胃壁固定群,非固定群にて造設後2週間の早期合併症に関し検討した結果,創部感染は非固定群で有意に多く,胃壁固定群では自己抜去症例に対し腹膜炎の進展を防ぐことができたと報告している 4).
本症例は胃壁固定の解除後から腸閉塞の症状が改善し,大腸管腔内にPEGのバンパーが確認できなかったことから,PEGの本穿刺で横行結腸を誤穿刺したわけではなく,2点施行した胃壁固定の一方が横行結腸を穿刺し,結紮により管腔が狭窄し腸閉塞を来したと考えられた(Figure 6).

術後6日目(腸閉塞発症時)のCT検査をもとにした腸管と胃壁固定,PEGバンパーのシェーマ.拡張した横行結腸は口側へ持ち上げられそこから下行していく際に胃に接しており,その時点から肛門側は虚脱した腸管が認められ閉塞起点と考えられた.
PEG造設時の横行結腸誤穿刺はFriedmannらによると,発見時期としてはPEG交換前が約4割,交換時が約6割であり,PEG交換時期まで気づかれない事が多いとされ 5),また症状としては下痢やPEGからの便の流出がほとんどであるが,中には無症状の場合もあるとされている.またPEG本穿刺による大腸誤穿刺の際の処置としてはPEGを抜去し保存的に経過観察されたものが半数,外科的手術例も約半数認められた 6),7).
PEG本穿刺による大腸誤穿刺の予防策としては,1)術前のCTにて穿刺部への腸管の介在がないことを確認する,2)左側臥位で内視鏡を挿入し,十二指腸までスコープをすすめ,ストレッチ後に送気し,その後仰臥位にする,3)穿刺前に十分に胃内送気をする,4)指サインおよびイルミネーション・テストを確認する 8),9)などが挙げられる.本症例ではそれらのことを施行し,穿刺部位を決定したにもかかわらず横行結腸の誤穿刺を来してしまった.指サイン,イルミネーションサイン,CTで穿刺位置を確認してもPEG本穿刺にて大腸誤穿刺を起こした報告は認められ 10),Foutchは本穿刺の際に試験穿刺法を提唱している 11).上記の予防策はいずれも本穿刺に対するものであるが胃壁固定も本穿刺と同様に上記に順じて穿刺位置を決定している.実際の腹壁での穿刺位置は左季肋部で臍部より上方で腹直筋上,あるいは正中上が適切とされる 12).本症例の大腸誤穿刺の要因として,胃壁固定時,内視鏡で確認しながら穿刺部位が胃体部前壁小弯よりになるように調整したため足側の胃壁固定の位置が穿刺前に確認した位置よりも足側になってしまい胃壁固定の穿刺位置が通常よりも足側になったと考えられる.また胃壁と腹壁の間に距離がありその間に腸管が挟まってしまった可能性も考えられる.
PEG造設時,実際に指サイン,イルミネーションサインを確認した位置をサインペンなどでしっかりマーキングし,実際に穿刺位置が大きくずれたりしていないか内視鏡画面に捕らわれずに十分な確認が必要と思われた.また胃壁固定の穿刺の深さが深い時には,胃壁と腸管の距離が離れており,胃壁と腸管の間に他臓器が入り込んでいる可能性もあるため,胃壁固定の際も穿刺の深さにも十分注意する必要があったと思われた.
一方,本症例は基礎疾患がALSであるが,ALSに対するPEG造設に伴う合併症(PEG造設時,造設後も含めて)を5%以上経験した施設は40%あったとの報告がある 13).合併症としては鎮静剤による術中の呼吸不全が最も多く,その他には胃内出血,肝臓穿刺,横行結腸貫通が認められた.呼吸不全が多いのは専門医療機関受診時には呼吸不全が進行しており,PEG造設の安全な時期を逸してしまっていることが多いと推測されている13).胃内出血,肝臓穿刺,横行結腸貫通がALS患者で多いという報告は認められないが,偶発症の予防には腹部CT,エコー検査による臓器の位置確認が重要とされている.
2002年の関西経皮内視鏡的胃瘻造設術研究会の187施設によるすべての疾患を対象にした調査によれば,PEG造設時の合併症頻度は3.5%であったが,PEG造設後は18.5%と有意に高かった 14).PEG造設後の主な合併症として,自己抜去や感染症が挙げられる.これらの合併症予防には胃壁固定や患者の衣服調整(つなぎ腹,腹帯),定期的な血液検査,胃瘻部感染対策など医療者のリスク管理が重要であるとの報告もある 15).本症例のような慢性神経・筋疾患の症例の場合には,PEG造設後もより慎重な対応が必要と思われた.
PEG造設術の胃壁固定糸により術後腸閉塞を来たした1例を経験した.PEG造設においては本穿刺のみならず胃壁固定においても誤穿刺に留意することが重要であると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし