2017 Volume 59 Issue 3 Pages 291-295
症例は71歳男性.他院で2004年に十二指腸乳頭部癌に対して経十二指腸的乳頭形成術を施行された.2014年10月に発熱,嘔気を主訴に当院を受診し,腹部CT検査で総胆管結石を認め,閉塞性黄疸・胆管炎の診断で入院となった.ERCP所見では,乳頭形成術後の胆管口はpin hole状に狭窄していた.内視鏡的乳頭括約筋切開を行い,さらにEndoscopic papillary large balloon dilation(以下EPLBD)を施行した後,結石をバスケット鉗子で摘出した.治療後に胆管炎を併発したが,保存的治療で軽快し退院となった.以後再燃なく経過している.乳頭切除後の総胆管結石に対して内視鏡治療を施行した症例は稀であり,文献的考察を加え報告する.
Endoscopic sphincterotomy(以下EST)は,閉塞性黄疸や急性胆管炎を伴う総胆管結石に対して広く普及した手技であり,2013年の急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドラインでも推奨されている 1).一方で経皮経肝胆管ドレナージ等も治療法の一つであるが,開腹手術歴のある症例などでは腹腔内臓器損傷の危険性が考えられる.今回われわれは,経十二指腸的乳頭形成術(transduodenal sphincteroplasty,以下TS)後の総胆管結石に対し,EST,EPLBDを施行し結石を除去しえた症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
患者:71歳,男性.
主訴:発熱,食欲低下,嘔気.
現病歴:1982年,家族性大腸ポリポーシスに対して結腸亜全摘出術,回腸直腸吻合術.2004年,十二指腸乳頭部癌(TisN0M0,Stage 0)に対してTS,残存直腸癌(TisN0M0,Stage 0)に対して腹会陰式直腸切断術,胆嚢摘出術.2013年,胃癌に対して幽門側胃切除術(T1bN0M0,StageⅠA).高血圧,糖尿病で外来通院中.2014年10月に発熱,食欲低下,嘔気を認めたため当院を受診した.精査の結果,総胆管結石,胆管炎の診断で入院となった.
入院時現症:意識清明,身長157cm,体重47kg,体温37.1℃,血圧143/70mmHg,脈拍80/分,SpO2 99%(room air).眼球結膜に軽度の黄染あり.腹部は平坦かつ軟で心窩部に圧痛を認めるが,腹膜刺激徴候はみられなかった.
血液検査所見:WBC 9,200/μl,Hb 13.5g/dl,Plt 13.5×104/μl,T.Bil 2.4mg/dl,D.Bil 0.8mg/dl,γGTP 251U/l,AST 205U/l,ALT 260U/l,AMY 53U/l,BUN 14mg/dl,Cre 0.6mg/dl,BS 208mg/dl,HbA1c 6.0,CRP 6.4mg/dl,PT-INR 1.14,APTT 23.2秒と,肝胆道系酵素の上昇,炎症反応の上昇を認めた.
腹部CT所見(Figure 1):総胆管の拡張と下部胆管に10mm大の結石を多数認めた.

腹部単純CT所見(冠状断).
下部胆管内に10mm大の多数の結石(矢印)と総胆管拡張を認めた.
入院後経過:以上から,総胆管結石,胆管炎の診断で入院となった.胆管炎に対して絶食と補液,スルバクタム/セフォペラゾンの経静脈的投与による初期治療を施行した.炎症反応が改善した第7病日に,ERCP検査を施行した.胆管口と膵管口は前医の手術記録によると別々に吻合形成されていたが,術後乳頭を観察すると,pin hole状に狭窄し共通口となっていた(Figure 2).術後の治癒過程で癒合したものと考えられた.通常のERCPに準じてカテーテルを11時方向に先進し,カニュレーションを試みた(Figure 3).造影すると,総胆管は17mmと拡張を認め,下部胆管に最大16mmの透亮像を多数認めた(Figure 4).ESTを施行し(Figure 5),さらに12-15mmの拡張バルーンを用いてEPLBDを施行し通過が良好であることを確認した.胆管口の拡張は良好であり,出血は認められなかった.バスケット鉗子を用いてビリルビンカルシウム結石を除去した.切石後の透視像で結石の遺残がないことを確認し,手術を終了した(Figure 6).術後,炎症反応や肝胆道系酵素の改善に時間を要したが,保存的治療で改善し術後27日目に退院となった.退院5カ月後に逆行性の胆管炎により再入院となったが,絶食,補液,抗生物質による保存的加療により改善し,以後再燃なく経過している.

ERCP内視鏡像.
胆管と膵管は共通口となり,pin hole状に狭窄を認めた(矢印).

ERCP内視鏡像.
術後乳頭よりカテーテルを11時方向へ先進させ,総胆管へのカニュレーションを試みた.

ERCP透視像.
総胆管は17mmに拡張を認め,下部胆管に最大16mmの結石を疑う透亮像を認めた(矢印).

ERCP内視鏡像.
ESTを施行し,バスケット鉗子でビリルビンカルシウム結石を除去した.

ERCP透視像.
陰影欠損像はすべて消失した.
TSは,1980年代に広く行われた術式であり,主に胆石症に対する附加手術の一つとして行われていた.現在では十二指腸乳頭部の腺腫に対して施行されることが多く,胆石症診療ガイドライン2009年版 2)によると,原発性総胆管結石に対してTSを追加すべきかについて,推奨度はC1となっている.また,十二指腸乳頭部癌に対しては本来膵頭十二指腸切除術が適応となるが,腺腫内癌においては縮小手術として適応となりうるとBegerら 3)は述べている.自験例は粘膜内にとどまる癌を疑い,TSが施行された.さらに複数の開腹手術歴があり,今回の総胆管結石に対する外科的治療は高リスクと考え内視鏡治療を第一選択とした.医学中央雑誌で「乳頭形成」「乳頭切除」「術後」「総胆管結石」をキーワードに1984年から2014年の範囲で検索した限り(会議録を除く),TS後にESTを施行した報告例は認められず,自験例は稀な症例と考えられた.術後乳頭に対するESTの適応について詳細に述べた文献は確認できなかった.自験例は術後乳頭を正面視し,さらに通常のカニュレーション操作が可能であり,かつ残存する口側隆起をメルクマールとすることで大切開ESTを行うことが可能であった.口側隆起が残存していた理由は,乳頭形成術が小範囲で行われたためであると推察される.その反面,広範囲な乳頭切除が行われ口側隆起が消失している症例に対するESTは,出血や膵炎などのリスクが高く注意が必要と考えられる.施行前に術後乳頭の状態を慎重に観察し評価することが重要である.また,最も穿孔や出血などの偶発症が少ないとされる11時から12時方向への切開 4)が困難な場合は,ESTを中止しEPLBDを考慮する必要がある.なお当院では総胆管結石に対してESTを第一選択としており,自験例に対して施行したEPLBDは切開口の内腔を確認する程度の意味合いで行っている.以上より術後乳頭に対するESTの適応として,切開のメルクマールとなる口側隆起が残存していること,術後乳頭を正面視すること,偶発症の少ない11から12時方向への切開が可能である場合に限定されると考える.また術後乳頭へのカニュレーションができず選択的胆管挿入困難例については,既知の膵管ガイドワイヤー留置法 5),Two-devices-in one-channel method 6),Rendezvous technique(ランデブー法) 7),プレカット 8)など様々な手技が知られており,考慮される.
TS後の経過については様々な報告がある.まず1984年のAntrumら 9)による118例の検討では,平均5年のフォローアップで結石の遺残や再発はなかったと報告されている.しかし,1987年のMottaら 10)による60例の検討では,14年のフォローアップ期間中に50例では特に問題なく経過していた.しかし,7例は軽度の臨床症状を示し,1例は再発結石による胆管炎,1例は総胆管の狭窄と結石再発と胆管炎,1例はアルコール性肝硬変を認めた.結石再発はそれぞれ6年目と8年目に起きたことから,長期のフォローアップが必要としている.さらに本邦より,乳頭形成術後10~22年と最も長い期間フォローアップされた108例について報告された 11),12).これによると,術後合併症として結石再発が6例,胆管炎7例,肝膿瘍4例,胆道癌8例が認められている.悪性病変の発生も危惧され,TS術後は経過観察を厳重に行うべきと結論付けている.
総胆管結石に対する内視鏡治療であるEST,EPLBDは広く普及した手技である.しかし,ESTの0.2~2.7%,EPLBDの0~10.5%に出血などの偶発症が報告されており,その他にも胆管炎や膵炎,穿孔などが合併症として挙げられている 13),14).自験例は胆管口吻合部が瘢痕化しpin hole状に狭窄しており,EST中に新生血管を損傷し出血する危険性が考えられたが,上述のとおり安全に手術を終了できた.しかしながら,術後早期に胆管炎を併発しており,今後は悪性病変の発生にも注意して長期にわたる慎重な経過観察が必要と考えられる.
経十二指腸的乳頭形成術後の総胆管結石に対して,ESTを施行し結石を除去した症例を経験した.乳頭形成術後の症例においてもESTは有効であるが,ESTが可能であるかどうかの判断と有効な手技の選択については,症例ごと適確かつ柔軟な対応が求められると思われる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし