GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2017 Volume 59 Issue 3 Pages 298-299

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Ⅰ 緒  言

鎮静下の上部内視鏡は検査,処置中に患者さんの酸素化が低下し,時として安全かつ確実に施行することが困難なことがある.特にハイリスク群の患者さんには酸素投与を行いながらの検査になることも少なくない.

上部内視鏡中の酸素投与経路にはフェイスマスク,ネーザルカヌラを使用する方法が一般的である.しかしフェイスマスクは鼻翼から下顎まで覆うため内視鏡の妨げになってしまい,ネーザルカヌラは酸素の投与量が限られてしまい,いずれも良好な酸素化を維持できないことが少なくない.そこで今回,われわれは鎮静上部内視鏡の酸素投与法として吸引チューブを用いた経鼻カテーテル法を提案したい.経鼻カテーテル法は小児科領域では酸素投与法として一般的に行われている 1

Ⅱ 手技の解説

鎮静剤の投与後に片側の鼻腔からカテーテルとして10Frの吸引チューブ(テルモ社製トップ吸引カテーテル口鼻腔用40cm)を挿入する.このチューブは先端から13mmまで2個の側孔を有している.挿入する際にはリドカインゼリーを用いて約8cm挿入するとカテーテルの先端が舌根を超えて下咽頭に留置される.被験者の不快感を避けるためにカテーテル挿入は鎮静薬を投与し,薬剤の効果が表れてから内視鏡を挿入するまでの間に行う.

鎮静剤投与はミダゾラムを1mgずつ投与し,ラムゼイ鎮静スコア 23を目標とする.スコア3以上になったらカテーテル,内視鏡と順に挿入する.内視鏡挿入時にチューブの先端を確認し位置を微調整する.位置を確認したら酸素を投与する(Figure 13).この手技は下咽頭の酸素濃度を上昇させるので自発呼吸があれば経皮酸素飽和度(SpO2)が低下してから行っても有効な酸素供給が行われると考える.

Figure 1 

10Frの吸引チューブを鼻腔より約8cm挿入する.

Figure 2 

吸引チューブの先端は下咽頭に留置されている.

Figure 3 

内視鏡挿入時に吸引チューブの先端が下咽頭に位置していることを確認する.

Ⅲ 手技の安全性の検討

2009年4月から2013年3月まで横浜市立大学附属病院で鎮静下で経鼻内視鏡を用いて胃瘻造設術を施行した40例を従来の酸素投与方法であるフェイスマスクを用いた群をM群,経鼻カテーテル法を用いて酸素投与を行った群をC群としてそれぞれ20例ずつに分けて検証を行った.本研究は横浜市立大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号B160700004).2009年4月から2013年3月が本研究の期間であり,2009年4月から2012年8月までに造設を行った患者がM群,2012年9月から2013年3月まではC群となっている.背景としてはM群は平均年齢が62.6±18.3歳で基礎疾患としては口腔外科疾患が9例,神経疾患が8例,その他が3例であり,C群では63.1±12.8歳で神経疾患が9例,口腔外科疾患が5例,その他が6例であった.両群間の投与酸素濃度,酸素飽和度,投与薬剤量をStudent’s t testで検討した.

結果はTable 1のようにC群で有意差をもって良好な酸素化が得られた(p<0.001).また,投与酸素濃度も有意差をもって,C群で少なく抑えられた(p<0.001).さらに安全性の面でもM群では2例で酸素化の著明な悪化を認め術が中止となっているが,C群では全例で術を完遂できた.

Table 1 

経鼻カテーテル法の手技成績.

Ⅳ 考  察

鎮静で用いるベンゾジアゼピン系は舌根沈下を引き起こすため酸素化不良がもたらされる.舌根沈下を引き起こしてしまうと従来法のフェイスマスクを用いた酸素投与では投与濃度に比して気道に有効な酸素量が供給されないことが考えられるが,経鼻カテーテル法では舌根を超えて酸素供給路であるカテーテルの先端が下咽頭に留置されるため舌根沈下の影響を受けず酸素化不良が起こらないと考えられる.また,鎮静下での経鼻カテーテル法は患者さんの不快感もなく,吸引チューブは10Frと細いため鼻出血等の合併症が起きる可能性も少ないと考えられる.少なくとも筆者の施設では経鼻カテーテル法での合併症は幸いなことに1例も経験していない.

Ⅴ 結  論

以上経鼻カテーテル法の安全性と有用性について解説した.

経鼻カテーテル法は簡便で安全であり,鎮静上部内視鏡時の酸素投与方法として普及していくものと考えられる.

なお本稿の要旨は第84回日本内視鏡学会総会で発表した.

稿を終えるにあたり,御教示いただきました横浜市立大学附属病院麻酔科の宮下徹也先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
  • 1.   小泉 とし, 山崎 香菜子.各酸素吸入法のオキシグラフ的考察.東京女子医科大学雑誌 1962;32:265-71.
  • 2.   Ramsay  MA,  Savege  TM,  Simpson  BR et al. Controlled sedation with alphaxalone-alphadolone. Br Med J. 1974 Jun 22; 2:656-9.
 
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