GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2017 Volume 59 Issue 3 Pages 337-365

Details
要旨

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「EPLBD診療ガイドライン」を作成した.EPLBDは近年普及している総胆管結石に対する治療法の一つである.この分野においてはエビデンスレベルが低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは「EST診療ガイドライン」に準じて,定義と適応,手技,特殊な症例への対処,偶発症,治療成績,術後経過観察の6つの項目に分け,現時点での指針とした.

[1]はじめに

近年普及している総胆管結石に対する内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilation:EPLBD)を安全かつ確実に実施するためには,基本的な指針が必要である.これまで,本法においてEPLBDに関してのガイドラインはなかった.そこで,同学会ガイドライン委員会は,EPLBD診療ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することを決定した.作成方法は,近年行われている国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014」 1)に従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).執筆の形式は「EST診療ガイドライン」 2)に準じ,CQ(Clinical question)形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインがEPLBD診療での有用な指針となることを期待する.

Table 1 

推奨の強さとエビデンスレベル.

[2]本ガイドラインの作成手順

1.委員

日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として胆膵消化器内視鏡医7名が作成を委嘱された.また評価委員として,胆膵消化器内視鏡医4名が評価を担当した(Table 2).

Table 2 

EPLBD診療ガイドライン作成委員会構成メンバー.

2.推奨の強さとエビデンスレベル,ショートステートメント

作成委員により,定義と適応,手技,特殊な症例への対処,偶発症,治療成績,術後経過観察の6つの項目が設定された.それぞれの項目について,CQを作成し,評価委員会の評価を参考に修正を加え最終的に21個となった.そして,各CQに対して,PubMedおよび医学中央雑誌にて初めてEPLBDが報告された2002年から2015年までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルをMinds診療ガイドライン作成の手引き2014に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計9名によりDelphi法による投票を行った.Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.完成したガイドライン案は,評価委員の評価を受けたうえで修正を加えた後,今回学会会員に公開した.

3.対象

本ガイドラインの取り扱う対象患者は,EPLBDによる治療,検査を受ける患者とする.また,利用者はEPLBDを施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.

[3]本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.

1.本ガイドラインに関係し,委員または委員と生計を一にする扶養家族が個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職(100万円以上),株(100万円以上),特許等使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料等(50万円以上),研究費(個人名義100万円以上),その他の報酬(100万円以上)

なし

2.本ガイドラインに関係し,委員の所属部門と産業連携活動(治験は除く)を行っている企業・団体について:寄附講座(100万円以上),共同研究・委託料(100万円以上),実施許諾・権利譲渡(100万円以上),奨学寄附金(100万円以上)

富士フイルム(株)

[4]資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.

[5]EPLBD診療ガイドライン

1.定義と適応

ステートメント1-1:

EPLBDの適応は,胆管拡張を有し,ESTやEPBD単独で結石除去困難な大結石や多数結石などである.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)は,胆管結石に対する経乳頭的治療法として1974年に報告され 1)~3),現在では最も標準的な手技のひとつとなっている.同じく経乳頭的治療である内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilation;EPBD) 4)~6) は,乳頭機能の温存 7)を重視する場合や,出血傾向を有する症例に対する選択として行われている.10mm以下の小口径バルーンを用いて胆管口を拡張させる手技であり,通常ESTを付加せずに行う.一方,内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;EPLBD)は,12mm以上の大口径バルーンを用いて胆管口を拡張させる手技である.EPLBDは,2003年にErsozら 8)により初めて報告された手技であり,EPLBD後に大きな開口部が得られるため,胆管拡張を有し,ESTやEPBD単独では治療困難な症例(大結石,多数結石,樽型結石など)に対する結石除去が比較的容易に行える 9)~12)

Ersozら 8)は,EST大切開後に通常のバスケットカテーテルやバルーンカテーテルでは結石除去困難であった58例にEPLBDを行った.遠位胆管の先細りを有する18例のうち16例(89%)で機械的砕石具(mechanical lithotripter;ML)を用いずに結石除去に成功している.また,15mm以上の大結石や積上げ結石,樽型結石を有する40例のうち38例(95%)でMLを用いずに結石除去に成功している.Maydeoら 9)は,12mm以上の巨大結石に対してMLを用いずに95%の結石除去率が得られたと報告している.本邦からはMinamiら 10)が,12mm以上の大結石を対象として,亜硝酸剤併用下に最大径20mmのバルーンを用いて,手押しでインフレート,デフレートを繰り返すという方法で99%の完全結石除去率が得られたと述べている.Itoiら 12)は,EPLBDを施行することにより,手技の時間短縮が得られ,被曝時間の短縮につながったと報告している.

結石径については,これまでの報告では10mm以上 11),12mm以上 9),10),13),15mm以上 12),14)などが適応とされている.個数については3個以上という報告が多い 12),15).遠位胆管の先細りや屈曲を有する症例も結石除去処置が困難であり,EPLBDの良い適応とされている 8),12),15)

EST後の再発結石もEPLBDの良い適応である 16),17).EST後の再発結石症例では,追加切開を要することも少なくないが,出血や穿孔のリスクがある.Haradaら 17)はEST後再発結石に対し,EPLBDを施行した群と施行しなかった群で比較し,MLの使用率はEPLBD群で有意に低く,少なくとも2年以内の結石再々発率はEPLBD群の方が低かったと報告している.

ステートメント1-2:

EPLBDの禁忌は,遠位胆管狭窄症例,胆管非拡張症例,急性膵炎症例(推奨の強さ:1),出血傾向を有する症例,抗血栓薬内服中の症例(推奨の強さ:2)などである.

Delphi法による評価 中央値:8 最低値:7 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

EPLBDは遠位胆管に明らかな狭窄を有する症例や胆管が拡張していない症例では推奨されない 1),2).このような症例では,EPLBDによる拡張処置により穿孔を惹起するリスクが高くなると考えられている.

その他,「EST診療ガイドライン」 3)でESTの禁忌とされている症例,すなわち出血傾向を有する症例,抗血栓薬内服中の症例,急性膵炎症例(胆石性膵炎は除く)などもEPLBDの禁忌である.

抗血栓薬内服中の症例については,ESTを付加する場合,「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 4)においてESTは出血高危険度の手技とされているため,EPLBDにおいても原則的にEST診療ガイドライン 3)に基づいた対処が望ましい(CQ2-5を参照).

急性膵炎のうち胆石性膵炎については,「急性膵炎診療ガイドライン2015第4版」 5)では急性胆石性膵炎のうち,胆管炎合併例,黄疸の出現または増悪がみられる症例には,早期のERCP/ESTを施行すべきであると強く推奨している.ただし,EPLBDについては現時点までに明らかなエビデンスはなく,今後の症例蓄積が必要である.乳頭陥頓結石については,結石が乳頭近傍からはずれない場合にはバルーン拡張により胆管穿孔の危険があるため適応はなく,プレカットやESTを試みるべきである.

ステートメント1-3:

EPLBDの術者の条件として,熟練したERCP医のもとでESTをはじめとする基本手技を学びトレーニングを受けることを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D

解説:

ERCPは診断よりもむしろ治療手技として用いられることが増加しているので,EPLBDはESTと同様,ERCPのトレーニングにおける必修項目であり,初学者がひとりでERCPを行うようになるまでにマスターすべき手技である.EPLBDはESTの代替手技ではなく,ESTを補完する手技であるので,EPLBDに先立ってESTの手技を習得すべきである.

参考として,ASGE(米国消化器内視鏡学会)では初学者はESTを施行するまでに,A)十二指腸スコープの挿入法,B)乳頭正面視,C)選択的カニュレーション,D)胆管膵管造影所見の読影,などERCPの基本的手技とカニュレーションについて十分に身につけておく必要があるとしており 1),これらについて十分に学んでからESTのトレーニングを開始すべきである.また,高周波発生装置の原理と各モードの違い,各種スフィンクテロトームやガイドワイヤの違いについても十分な知識を持っておく必要がある.ESTの適応や手技の基本,さらに偶発症やそれに関するリスクファクターについても理解しておくべきである.ASGEでは初学者がひとりでERCPを行うようになるまでに,40件のEST,10件のステント留置を含む200件のERCPのトレーニングを受ける必要があるとの目安を示している 2).近年では指導医によるハンズオントレーニングのほかに,ESTのトレーニングに有用な各種モデルも開発されている 3)~5)

2.手技

ステートメント2-1:

EST付加後のEPLBDは,初回結石除去率を向上させ,機械式砕石具使用頻度を減少させる可能性がある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

EPLBDはESTを施行後に大口径バルーンを用いて大きな胆管開口部を得る手技として2003年に報告された 1).その後,ESTを付加せず手技を単純化する大口径バルーンのみで乳頭を拡張させる方法が2009年に報告されている 2).従来の6-8mmバルーンを用いる内視鏡的乳頭バルーン拡張術(Endoscopic papillary balloon dilatation:EPBD)はESTと比較し,膵炎の合併症率が高いことが報告されており 3)~5),より大口径のバルーンを用い,ESTを付加せずに拡張する手技は膵炎発症も危惧された.しかしながらJeongら 2)のESTを付加しないEPLBD(EPLBD without EST)38例のpreliminaryの検討によると中等症の膵炎が1例(2.6%)のみであり,EPLBD without ESTは安全かつ有用な手技であると報告している.Hwangら 6)の131例(without EST 62例,with EST 69例)のRCTの結果によると,膵炎(without EST 6.5% vs. with EST 4.3%,p=0.593),バスケット嵌頓(without EST 0% vs. with EST 1.4%,p=0.341),穿孔(without EST 0% vs. with EST 1.4%,p=0.341)といずれもEST付加の有無では合併症率には差は認めていない.本邦からのretrospectiveの解析でもESTの付加の有無では偶発症の頻度には差は認めていない 7),8).Parkら 9)は日本,韓国の12施設で施行した946例のEPLBD症例の偶発症の危険因子を検討しているが,without ESTは偶発症の危険因子にはならないとしている.さらにKimら 10)のEPLBD with EST 30編の論文,EPLBD without EST 3編の論文によるmeta-analysisの結果によるとEPLBD with large EST 756例,EPLBD with limited EST 946例,EPLBD without EST 416例における,全体の偶発症(8.6%,7.5%,7.0%,p=0.568),膵炎発症(2.1%,3.1%,3.9%,p=0.349)と差は認めていない.他にも同様の報告がなされている 11),12).このようにEPLBDに先立ちESTを施行することは偶発症の観点からは有用性は乏しいと考えられる.しかしながら,これらの報告は胆管拡張例や大結石例を適応としている点に注意が必要である.

EPLBD with ESTとEPLBD without ESTの結石除去の成績の比較については,本邦からの後ろ向きの成績が報告されており,結石除去率,機械式砕石具(Mechanical lithotripter:ML)使用頻度には差は認めていない 7),8).また,with ESTとwithout ESTの2つのRCTでは,いずれの報告も結石除去率,ML使用率には差は認めず,EPLBD施行前のESTは必ずしも必要ではないと結論づけている 6),11).しかしながら,Kimら 10)のmeta-analysisによると,初回の結石除去率はESTを付加した方が高く(with EST 84.0% vs without 76.2%,P<0.001),ML使用頻度はESTを付加した方が低い(with EST 14.1% vs without 21.6%,P<0.001)結果であり,ESTの付加が初回結石除去率の向上,ML使用頻度の減少に有用な可能性がある.しかしながら,このmeta-analysisは,前向きに比較検討した研究は少なく,またEPLBD with ESTの論文は30編(2,511例)であるのに対しEPLBD without ESTは3編(414例)と少なくバイアスが生じている可能性もあり,今後さらなる大規模な比較研究が必要である.

ステートメント2-2:

ESTの切開方向は,11時から12時(方向)を推奨する.切開範囲は中切開までとする.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B

解説:

切開方向による出血・穿孔のリスクを比較したエビデンスは存在しないが,11時から12時方向に切開するのが安全であると考えられており,多くの専門家が推奨している 1)~4).出血に関しては,Mirjaliliら 5)は剖検19例における乳頭部近傍の98の動脈を同定し,内視鏡画面における血管分布を報告している.この報告によると,10時から11時方向の血管分布が10-11%と少なく,この方向への切開が出血のリスクは低いと述べている.しかしながら,胆管走行を考慮すると11時から12時方向の切開が妥当と考えられる.

切開範囲については,Parkら 6)による多施設共同の946例の解析では,肝硬変(OR 8.03,p=0.003),EST長(full-EST:OR 6.22,p<0.001),結石径(≥16mm:OR 4.00,p<0.001)が出血の危険因子である.またKimら 7)のmeta-analysisによるとlarge ESTはlimited EST(OR 3.33,P<.001),without EST(OR 2.17,P=0.049)と比べ出血率が高いことが報告されている.このように大切開は避けるべきであるとの意見が多い 8).小切開と中切開のどちらを選択すべきかについては明確なエビデンスはない.15mm以上の結石を対象としたsmall EST+EPLBD(n=27)とconventional EST(n=28)の55例との比較では,1st sessionでの完全除石率(85% vs 86%,P=0.473),ML使用率(33% vs 32%,P=0.527)とも差はないためSmall ESTはESTと比べても治療効果に与える影響は少ないとの報告はある 9) が,少数例の報告である.傍乳頭憩室例に対しては小切開とバルーン拡張で安全に手技施行可能であったとの報告がなされている 10)

ステートメント2-3:

バルーン径は,遠位胆管径と結石短径を考慮して選択する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

本邦で使用可能なEPLBD用のラージバルーンカテーテルは,CRE Wireguided Biliary Dilatation Balloon Catheter(Boston Scientific),カネカEPBDカテーテル DI-Wl Giga(Kaneka Medix),カネカ胆管拡張バルーン REN(Kaneka Medix)と,Sphicterotomeと一体型となっているディスポーザブルバルーンダイレータ V-System(ナイフ付)「StoneMaster V」(Olympus)の4種類がある.処置具別の比較に関する報告はない.

バルーン径に関して,Hisatomiら 1)の豚生体モデルを用いた研究では12mm以上の拡張で胆管壁損傷,15mm以上で胆管穿孔の発症が報告されている.但し,豚の胆管壁そのものが薄く,下部胆管周囲が膵に取り囲まれていないなど解剖学的構造が人体と異なっているため,この結果が必ずしも人体に適応されるわけではない.バルーン径に関する比較研究の報告はないが,EPLBDの偶発症に関するParkら 2)の多施設共同研究の報告では,穿孔のリスク因子にバルーン径は含まれなかった.また,15mm以上のバルーン拡張にてEPLBDを施行した101例のretrospective studyに関するYounら 3)の報告では,膵炎 5%,穿孔 1%の偶発症を認めるのみであった.以上より,バルーン径と偶発症頻度に関する明確なエビデンスはない.専門家の意見としては,動物実験により穿孔のリスクの高まりを受けて15mm以上のバルーンはなるべく使用しないよう提案する 4)ものもあるが,多くの専門家は 5)~7),バルーン径は胆管径や結石短径を超えない範囲で選択することを提唱している.なお,胆管径の測定に関しては,遠位胆管が細い症例も存在する 5)ことから遠位胆管径で行う.

ステートメント2-4-1:

拡張径の目安は,遠位胆管径を超えないようにする.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

EPLBDの偶発症に関するParkら 1)の多施設共同研究の報告では,EPLBD施行946例のうち9例に穿孔の合併を認めているが,うち3例は致命的であり,その原因としてバルーンの過拡張にあると分析している.また,多変量解析にて遠位胆管狭窄が穿孔のリスク因子として抽出されている(OR 17.083,95%CI 3.963-74.132;p<0.001).また,Billroth-Ⅱ法に対する胆管結石治療としてDouble balloon enteroscopy下にEPLBDを施行したChengら 2)のretrospective studyの報告では,48例のうち2例に穿孔を認めており,いずれも遠位胆管径と同程度のバルーンを用いて拡張した例であった(case 1,使用バルーン 12mm/遠位胆管径 12mm;case 2,使用バルーン 18mm/遠位胆管径 18mm).EPLBDに関する国際ガイドライン 3)においても,胆管径を超えない拡張が推奨されている.以上より,バルーンの拡張は遠位胆管径を超えないようにすることが重要と考える.

拡張の際には乳頭括約筋に相当する部位にnotch(バルーンのくびれ)が生じるが,EPBDの際にはnotchの消失を確認するまで拡張を行うことが一般的である 4).EPLBDにおいてもnotchの消失を確認することが多いが,最大拡張圧の75%以上の加圧でもnotchが消失しない場合には遠位胆管狭窄が潜んでいる可能性があり 5),それ以上の加圧を控えるのが安全である.

ステートメント2-4-2:

バルーン拡張は緩徐に行うが,適切な拡張時間については明確なエビデンスがない.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

バルーンの拡張速度に関する研究報告はないものの,過拡張に伴う穿孔を防止する観点からバルーンの拡張は緩徐に行うことが提唱されている 1)~3)

バルーンの拡張時間に関しては,短いもので5-15秒の拡張 4),あるいはnotchの消失直後に拡張を止めている報告 5)から,長いもので2-6分の拡張を行った報告 6)まであるが,明確なエビデンスは存在しない.拡張時間に関する比較試験は,拡張時間30秒と60秒で比較したPaspatisら 7)のRandomized control studyのみであり,拡張時間30秒の64例と60秒の60例では結石除去率(86% vs 85%,p=0.5)及び合併症率(出血:3.1% vs 6.7%,p=0.2;穿孔:1.6% vs 1.7%,p=0.9;膵炎:3.1% vs 3.3%,p=0.9)に差を認めなかった.また,Fengら 8)のEPLBDとESTとの比較に関するmeta-analysisでは,拡張時間60秒以上のEPLBD,60秒以下のEPLBDとESTとの結石除去率を比較し,いずれも有意差を認めなかったことを報告している(拡張時間60秒以下のEPLBD vs EST,OR=2.77,90% CI 0.80-9.61,p=0.11;拡張時間60秒以上のEPLBD vs EST,OR=0.56,90% CI 0.18-1.78,p=0.33).国際ガイドラインではnotch消失後30-60秒の拡張を推奨しており 9),必ずしも長時間の拡張を要さない可能性が示唆されるが,この点に関しては更なるエビデンスの集積が必要と考える.

ステートメント2-5:

抗血栓薬の休薬は,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインにおける出血高危険度の内視鏡処置に準拠した対処が望ましい.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

Kimら 1)のメタアナリシスの報告では,ESTを付加するEPLBDとESTを付加しないEPLBDの出血リスクが同等であることを報告している(limited EST+EPLBD 1.3% vs EPLBD without EST 1.9%,p=0.35).その他,重症の出血を合併した症例報告 2),3)もあり,少なくともEPLBDはEST付加に関わらず出血のリスクを伴う内視鏡処置であると考える.

ESTを付加するEPLBDに関しては,ESTが消化器内視鏡診療ガイドライン 4)における出血高危険度の内視鏡処置に相当するため,ガイドラインに準拠した対処が必要であると考える.特に,EPLBDの偶発症に関するParkら 5)の多施設共同研究の報告にて,大切開は出血のリスク因子である事が報告されており(OR 6.2,95%CI 2.374-16.307;p<0.001),避けるべきである.

一方,ESTを付加しないEPLBDについてであるが,凝固障害例あるいは抗血栓薬服用例を対象としたEPLBDに関する報告はない.凝固障害あるいは肝硬変を伴う例における乳頭処置法としてESTとEPBDを比較したParkら 6)のrestorspective cohort studyの報告では,出血はEPBD施行21例から認めず,EST施行20例のうち6例(30%)で認め,凝固障害例ではESTよりEPBDが望ましいとしている.EPLBDに関する国際ガイドライン 7)では,抗凝固療法の中断が困難な場合に,ESTを付加しないEPLBDを推奨している.しかしながらESTを付加しないEPLBD施行時の抗血栓薬の対処に関する明らかなエビデンスは存在せず,安全性に関してはさらなる検討が必要である.

ステートメント2-6:

ペースメーカーあるいは埋め込み型除細動器患者にESTを付加する場合は,高周波手術装置による影響が考えられるため循環器専門医へのコンサルトが望ましい.また手技施行中には,通常の患者同様,心電図,血圧,酸素飽和度のモニタリングを行う.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

バルーン拡張自体は電気的な機序によらないため,心臓ペースメーカーや埋込型除細動器に与える影響はないと考えられる.しかしEST付加後にバルーン拡張を行う場合には,高周波発生装置による干渉が危惧されており,安全性は十分に確立しているとは言い難い.高周波電流はペースメーカーに対して外部より影響を与え,ペースメーカー本体内部の破壊とdemand機構を障害するなどの理由で危険と考えられている.これまでにも,術中の高周波発生装置の使用により,ペースメーカーが不調をきたして死亡した症例の報告もみられる 1)が,大腸ポリペクトミーでは高周波発生装置を用いても安全に施行できたとの報告もなされている 2),3).また,ESTに関しても循環器専門医との連携により安全に施行可能であったとの報告もなされている 4)

ASGEのガイドラインを含め,専門家の意見では,完全房室ブロックの場合にはペースメーカーを非同期設定(VOOあるいはDOOモード)に変更するように推奨されている 5),6).しかしながらペースメーカーの種類によっては状況が異なり,患者の状態とペースメーカーの種類や対処法を含め,循環器専門医に十分にコンサルトすることが望ましい.

ICD患者に対する高周波装置使用の報告はなく,循環器専門医にコンサルトを行い,手技施行の決定をすべきである.

3.特殊な症例への対応

ステートメント3-1:

傍乳頭憩室や憩室内乳頭症例においても,EPLBDは施行可能である.(推奨度:2)ESTを付加する場合には,切開長や切開方向を決めることが時に困難であるため,より慎重な操作を要する.(推奨度:1)

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

傍乳頭憩室の頻度は加齢とともに増加し,高齢者において多いものでは65%に存在すると報告されている 1),2).傍乳頭憩室は時に乳頭括約筋切開術(EST)を困難にすることがあり,偶発症のリスクを増加させる 3)ともいわれている.これまでの傍乳頭憩室の有無でEPLBDの有用性を比較した後ろ向き研究では,いずれも結石除去成功率や穿孔や出血を含めた偶発症率に有意差は認めていない 4)~6).また,946症例のEPLBDを集積した多施設研究でも傍乳頭憩室症例において,膵炎,出血,穿孔などの偶発症は増加しないと報告されている 7).しかし,傍乳頭憩室を有するEPLBDにおいては,解剖学的に乳頭括約筋の脆弱性から穿孔の可能性があり,ゆっくりと拡張するなどの慎重な操作が求められる.乳頭の位置が憩室の中または辺縁にある場合は,憩室の近くにある場合よりERCP後膵炎の頻度が高い(14.3% vs 3.0%,p=0.047)という報告があり注意を要する 5).ESTを付加する場合は,安全な切開を行うためにガイドワイヤ誘導式のスフィンクテロトームを使用し,憩室内乳頭症例では口側の十二指腸粘膜に刃が接触し,不要な切開をきたすことがあるため,刃の手前に絶縁コーティングの被覆を有するスフィンクテロトームが有用である 8).また,傍乳頭憩室や憩室内乳頭症例では口側隆起が不明瞭な場合や乳頭の傾きによって,切開方向がわかりにくいことがあるため,結石除去用バルーンカテーテルを乳頭部で膨らませる 9),刃を張った状態スフィンクテロトームを出し入れするなどの工夫で口側隆起と切開方向を確認することも有用である.

ステートメント3-2:

術後再建腸管例においてもEPLBDは可能である.ただし再建術式によって手技の難易度が異なる.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

術後再建腸管例に対するEPLBDは可能であり,結石除去に有用である.術後再建腸管例に対するESTは通常困難なことが多く,特殊なスフィンクテロトームが必要である.これに対しEPBDまたはEPLBDは正常解剖例と同様なデバイスを使用し,比較的簡便に行うことができるため,ESTが困難な場合はEPLBDのみでの結石除去も可能である.Jangら 1)はBillroth Ⅱ再建の巨大結石など総胆管結石困難症例40例に対し,ESTなしでのEPLBDでも重大な偶発症は認めず完全結石除去が可能であったと報告している.術後再建腸管例におけるEPLBDの適応は正常解剖例と同様である.手技に関しては,Billroth Ⅰ再建例,噴門側胃切除後空腸間置や胃全摘後空腸間置例では通常のEPLBD手技と同様であるが,Billroth Ⅱ再建例や胃(亜)全摘後Roux-en-Y法では乳頭まで到達するには大腸内視鏡やバルーン小腸内視鏡が必要である.このように小腸用内視鏡を用いた際は,有効長の問題から使用されるデバイスが制限されるため注意が必要である 2),3).乳頭到達後の乳頭拡張においては,通常のERCPと異なり乳頭を足側から捉えるため,通常のスフィンクテロトームでは胆管方向に切開することが困難であることが少なくない.このような場合にはニードルナイフや回転式のスフィンクテロトームが有用である.症例報告やcase seriesではあるが,術後再建腸管例に対しEPLBDを用いた完全結石除去率は96.7%-100%と良好な成績が報告されている 2)~7).これは同様な術後再建腸管例に対しESTを用いての結石除去の成功率(81.3%-100%) 8)~10)より良好な結果である.これら術後再建腸管例におけるEPLBDの報告では偶発症は軽症膵炎と軽症から中等症の出血を認めているが,穿孔などの重篤な偶発症は認めていない.一方でESTを加えないEPLBDでの重症急性膵炎 11)や口側隆起の瘻孔部をEPLBDし重症急性膵炎を発症した症例報告 12)もあり注意を要する.術後再建腸管例に対しEPLBDは有用であるが,ESTとEPLBDを比較したrandomized controlled trialはなく,安全性は確立されているとはいえない.

4.偶発症

ステートメント4-1:

EPLBDによる早期偶発症の発生頻度は0%~22.5%であり,出血,穿孔,膵炎,胆道炎,などがある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:B

解説:

EPLBDによる早期偶発症の発生頻度は,0%~22.5%と報告されている.主な内訳と発生頻度は,急性膵炎0%~13.2%,出血0%~10.0%,穿孔0%~2.5%,胆道炎0%~5.0%,と報告されている 1)~41).その頻度を抜粋して,Table 3に示す.また,頻度は低いものの死亡例の報告もある.

Table 3 

EPLBD偶発症一覧.

Kim JHら 42)の32論文を対象としたシステマティックレビューでは,EPLBD with ESTの方がEST単独に比し有意に偶発症発生頻度は低いと報告している(8.3% vs. 12.7%,OR 1.60,p<0.001).また,他のメタアナリシス論文でも,EPLBD with ESTの方がEST単独に比し偶発症発生頻度は同等 31),35),41)あるいは低い 43)との報告が多い.

傍憩室乳頭例に対するEPLBD with ESTの検討では,Kim HWら 44)は,傍憩室乳頭の有無間に有意差はなかったと報告している.また,Kim KHら 45)は,傍憩室乳頭の有無別にEPLBD with EST vs. EPLBD without ESTの偶発症発生頻度に差はなかったと報告している.

近年ESTを付加せずにラージバルーンで乳頭を拡張する方法(EPLBD without EST)の報告が散見されている.Hwangら 29)は,EPLBD with ESTとEPLBD without ESTでは偶発症発生頻度およびその内訳には有意差はなかったと報告している(7.2% vs. 6.5%,p=0.858).またKogureら 34)も両者の偶発症発生頻度(7% vs. 8%)とPEPの発生頻度(7% vs. 4%,p=0.9999)に有意差はなかったと報告しているが,EPLBD without EST群に1例の重症膵炎が発生している.Guoら 41)も,EPLBD with EST,EPLBD without EST,EST単独の3群におけるprospective randomized studyを行い,偶発症発生頻度(5.9% vs. 4.7% vs. 4.7%,p=1.000)とその内訳に有意差はなかったと報告している.EPLBD without ESTの安全性についての報告が散見されるが,現段階ではコンセンサスが得られておらず今後の検討が待たれる.

一方,再発性胆管結石例などEST後乳頭に対するEPLBDの偶発症発生頻度は非常に少ないと報告されており 23),33),初回乳頭例に対するEPLBDに比し偶発症の発生頻度は少ない可能性がある.

術者はEPLBDの適応を厳選したうえ偶発症の頻度や発生時の対策について十分に理解し,術前に患者から十分なInformed consentを得ておく必要がある.

ステートメント4-2:

EPLBD後の出血に対する対処法は,内視鏡的止血術が第一選択である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

現段階では,EPLBD後に発生した出血の機序は明らかとはなっていない.

Fengら 1)のメタアナリシス解析でも,EPLBD with ESTはEST単独に比し出血率は低かったと報告しているが(OR,0.15;p=0.002),同等であったとの報告 2),3)もある.しかし,EPLBD後出血に起因した死亡例の報告 3)もあり,十分注意しておく必要がある.

Parkら 4)のサブ解析では,ESTの大切開が偶発症のリスクを増加させると述べている.Kimら 5)は,EPLBD時の大切開ESTは,EPLBD時のlimited-EST(p<0.001,OR=3.33)やEPLBD without EST(p=0.049,OR=2.17)に比し出血の頻度が高かったと報告している.また,本論文中ではlimited ESTとEPLBD without ESTの両者間に出血頻度の差はなかったとも報告している.

以上のように,現時点ではEPLBD後の出血は,ESTに起因したとする報告が多い.

EPLBD後の出血への対応はEST診療ガイドライン 6)に準じて行う.EPLBD直後の術中出血の場合,EST切開部であれば氷水散布やエピネフリン加整生理食塩水散布などの散布法を用いる 7).一方,術後出血の場合は,術後数日後に下血・貧血,あるいは出血性ショックで発症することがあり,通常の消化管出血の場合と同様に全身管理を行い状況に応じて緊急内視鏡を行う.

止血術には,内視鏡的止血術,血管造影下塞栓術,外科的止血術などがあり,EST同様に内視鏡的止血術を第一選択として試みる.EPLBD後出血に対する止血術に関する既報告はないが,EST後出血に準じてエピネフリン局注法,バルーン圧迫法,止血鉗子,APC,などが挙げられるが個々の状況による術者の判断で選択する 8).EST時同様に,ラージバルーンカテーテルやEPBD用のバルーンカテーテル,あるいは採石用バルーンカテーテルを用いた圧迫法は比較的簡便で有用であろう 9),10).最近,EPLBD後の出血に対してカバードメタリックステントの一時留置による止血法の症例報告 11),12)もあるが,本邦では保険収載されていない.内視鏡的止血術が困難な場合には,状況に応じて血管造影下塞栓術や外科的止血術を考慮する.

ステートメント4-3:

EPLBDに関連する穿孔が疑われた場合には単純CTを行う.穿孔と診断された場合には,外科医と密に連携し時期を逃さずに適切な治療を行う.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:7 最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EPLBDによる穿孔は,Kim JHら 1)のシステマティックレビューでは0.6%(0-2.8%)であり,EPLBD with large EST,EPLBD with limited EST,EPLBD without ESTの3群間における穿孔の頻度に有意差はみられなかった(3% vs. 5% vs. 2%:p=1.000)と報告している1)

日韓12施設による946例の偶発症検討のサブ解析報告では 2),多変量解析で穿孔のリスク因子として下部胆管狭窄を指摘している(OR 17.08,p<0.001).本論文中ではEPLBDによる4例の死亡例が報告されており,そのうち3例が穿孔に起因していた.Hisatomiら 3)は,porcine modelを使ったin vivoの基礎的実験を行い,胆管径に比しバルーン径が大きくなるにつれて,胆管粘膜損傷と穿孔の発生率が高くなったと報告している.また,Parkら 2)は,胆管結石が長い期間存在していると,胆管径も次第に大きくなってくるため,段階的なバルーン拡張を行うことを推奨している.したがって,EPLBDの適応を厳選し,下部胆管径を超えないバルーン拡張を行うことが穿孔の発生予防策のひとつとなり得る.

穿孔の診断および対応については,現時点ではEST診療ガイドライン 4)に準ずる.穿孔の診断は,術中の内視鏡画面あるいはX線透視画面で肝腎周囲の異常ガス像(free air),あるいは造影剤の漏出や処置具の位置の異常などを契機とする.しかし,free airは手技中に確認困難なこともあるため,術後の身体所見や血液生化学検査などで穿孔が疑われた場合には積極的にCTを実施する.後腹膜気腫は,時に気胸や皮下気腫へ発展することがあり,注意深い全身管理が必要である 5).穿孔の診断(疑い含む)後は,絶食および輸液管理とし,抗菌剤投与,胃管留置などによる全身管理を行い,速やかに外科医へコンサルトを行う.

EPLBDによる穿孔部位の多くは乳頭部近傍や胆管穿孔と考えられるが,EST後の穿孔時と同様に胆道ドレナージや胃管留置が施行しておくことは,その後の後腹膜への感染助長や膵液活性化が最小限に抑えられる可能性があると考えられる 5)~7).また,EPLBD後には胆管内気腫が発生しやすく,空気塞栓などの偶発症対策としてCO2送気下で手技を施行することが望ましい 8),9)

保存的治療で改善のみられない場合や,消化管穿孔の場合には外科的治療の適応であり,診断の遅れや治療の遅れは予後不良因子と報告されている 10)~14)

なお,EPLBD後の穿孔の成り立ちや対応については,まだ少数例での報告のみであり,今後の症例蓄積が必要である.

ステートメント4-4:

EPLBD後膵炎の発症機序は解明されていないが,急性膵炎診療ガイドラインに準じた予防と治療を行う.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

Kim JHら 1)のシステマティックレビューでは,EPLBD(バルーン径:12-20mm)with EST後の膵炎発症は2.4%(0%-13.2%)であり,その内訳は,98.4%が軽症あるいは中等症であり,重症膵炎の既往のある1例が死亡していた.また,6つのRCT 2)~7)と5つのメタアナリシス解析 8)~12) において,膵炎発症頻度はEPLBD with ESTはEST単独の両者間で有意差はなかったと報告している.

また,Kim JHらのレビューでは,EPLBD without EST(retrospective studies:413例) 1)も検討しており,PEP発症は3.9%(2.6%-6.4%)で,いずれも軽症と中等症であったと報告している.また,EPLBD with EST後のPEPの発症頻度はEST後膵炎あるいはEPBD後膵炎に比し有意に低い(2.4% vs. 4.3% vs. 8.6%,p=0.006)とも報告している.さらに,EPLBD with large EST vs. EPLBD with limited EST vs. EPLBD without ESTの3群間におけるPEPの発症率(2.4% vs. 3.1% vs. 3.9%,p=0.349)には差はみられなかったとも報告している.

そのほかに,Parkら 13)の多施設検討における膵炎の発症リスクは14mm以上のバルーンカテーテルの使用でPEPの発症が低率だった(OR 0.272,95% CI 0.095-0.778,p=0.015)と解析した報告もある.

現時点では,EPLBD後膵炎の発症機序については解明されていないが,乳頭が大きく開口し,処置具による乳頭への負担が減ることが,PEPの発症減に関わっていることが推測されている 14)

EPLBD後膵炎の予防策は確立されていないが,ERCPに起因する膵炎発症の要素が関与しているものと考えられるため,ERCP後膵炎に準じた対処法あるいは予防策を行う 15)

5.治療成績

ステートメント5-1:

総胆管結石症に対するEPLBDでの結石除去率は,初回治療で80.9%-89%,最終的な完全結石除去率は95.2%-100%である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:A

解説:

胆管結石に対するEPLBD+ESTとEST単独治療を比較したRCTにおいて,EPLBDの完全結石除去率は初回治療時で80.9%-89%,最終的には95.2%-100%と報告されている(Table 4 1)~6).胆管結石除去率に関しては,EPLBD群で初回治療時の完全結石除去率がEST群に比べ有意に高いとの報告もみられるが 5),6),初回治療および最終的な結石除去率もEST群と比べ差が無いとする報告が多い 1)~4).胆管径または結石径が12mm以上を対象としたRCTのメタ解析でも同様に,初回治療時における結石除去率はEPLBD群,EST群でそれぞれ85.5%,86.9%(RR 0.98;95%CI:0.91-1.06),最終的な結石除去率は97.5%,99.0%(RR 0.98;95%CI:0.96-1.01)と両治療間で差はみられなかったと述べられている 7).一方,大結石例で用いられる機械的砕石器(mechanical lithotripter;ML)の使用については,3つのRCTにおいてEPLBD群での有意な使用率の低下が認められている 4)~6).さらにメタ解析では,結石径が15mmを超える大結石例で特にML使用率の有意な低下が示されている 7),8).EPLBDによって胆管口が大きく開大することで,比較的大きな結石でも破砕せず截石可能となるため,結果として処置時間や透視時間の短縮に繋がる可能性も示唆されている 6)

Table 4 

EPLBDの結石除去率.

EST付加の有無によるEPLBDの結石除去率に関しては報告が少ないものの,EPLBD with ESTとEPLBD without ESTを比較したシステマティックレビューが報告されている 9).それによるとEPLBD with EST,EPLBD without ESTで最終的な完全結石除去率に差はみられないものの(96.5% vs 97.2%,P=0.432),初回治療時の結石除去率に関してはEPLBD with EST に比べEPLBD without ESTで有意に低率であったと報告されている(84.0% vs 76.2%,P<0.001).

ステートメント5-2:

EPLBD後の胆管結石再発率は4.4%-14.5%である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

EPLBD後の結石再発率は,症例数や観察期間などが異なるため報告により様々であるが 1)~7),追跡率が高く,観察期間が比較的長い論文に限定すると,EPLBD後の結石再発率は4.4%-14.5%と報告されている(Table 5).EPLBDの長期予後に関する報告のほとんどは後ろ向き研究であるが,本邦より2編の前向きコホート研究が報告されている.EPLBD後の42例全例を前向きに追跡調査した研究報告では,観察期間22カ月(中央値)で結石再発率は14%にみられ,累積再発率は1年で6%,2年で15%と述べられている 5).一方,症例数の最も多いEPLBD後183症例の前向きコホート研究では,平均観察期間43カ月で結石再発率は4.4%と,他の報告に比べ低率であったとの研究報告もみられる 7).EPLBDの長期予後に関する報告は,ほとんどがEPLBD +ESTの治療成績であるが,ESTを付加しないEPLBDの長期治療成績も報告されている.ChanらはEPLBD単独治療を行った胆管結石連続172例の長期予後を検証した結果,結石再発は14.5%にみられ,再発までの期間は平均27カ月であったと述べている 2).またEPLBD後の結石再発をEST単独治療と比較した報告もみられ,両治療群間で再発率に差は無いと述べられているが 3),4),いずれも後ろ向きの研究で対象の背景も異なっており,RCT後の長期治療成績の報告が待たれるところである.結石の再々発に関しては1論文のみであるが,EPLBD施行例全体の2.7%,再発例に限ると62.5%にみられたとの報告もある 7).EPLBD後の胆管結石再発に係わる危険因子に関しては,EST後の結石再発同様,大きな胆管径が挙げられている 2),3),5).EPLBD後の治療経過に関する報告は5年未満の症例がほとんどであるため,EPLBDが乳頭機能に及ぼす影響や,結石再発を含めた晩期偶発症についてはさらなる検証が必要である.

Table 5 

EPLBD後の結石再発率.

ステートメント5-3:

EPLBD後の胆管結石再発に対し,経乳頭的内視鏡治療を行うことを提案する.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:8 最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

EPLBD後の胆管結石再発に対する治療法につき言及した報告はないが,結石再発時には多くの症例で再度の内視鏡治療が行われている 1)~3).EPLBD後の胆管挿管は比較的容易であるが,再発時には多結石または大結石例も多く 3),結石へのアクセスや結石除去に難渋する症例では必要に応じ追加のEPLBDが施行されている 1)~3).結石再発例の多くは内視鏡治療により完全結石除去が得られるが,内視鏡治療抵抗例や頻回再発例においてはEST後の結石再発同様,胆管-空腸吻合術などの外科的治療も選択肢の一つと考えられる 4)

6.術後経過観察

ステートメント6-1:

総胆管結石再発を除く,EPLBDによる晩期偶発症の発生頻度は0%-10%であり,胆嚢炎,胆管炎などがある.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

胆管結石再発を除くEPLBDの晩期合併症として報告があるのは,胆嚢炎,胆管炎である 1)~3)

EPLBD後の長期観察症例について,観察期間の記載がある文献での中央値は短いもので12カ月,長いもので45カ月である 1)~9).これらの多くの文献は胆管結石再発については記載があるものの,その他の合併症については明記されていないものが多い.胆嚢炎を合併した報告 1)~3)において,その頻度は5-10%であり,また,胆管炎を合併した報告において,その頻度は4%である 2).胆嚢炎や胆管炎を合併した報告において胆嚢結石の有無,胆管結石の再発の有無については言及されているものはわずかであり 3),無石性の胆嚢炎,胆管炎の発生頻度については不明である.晩期合併症として胆管狭窄,膵炎,胆道癌を認めなかったとする報告が 4)あるが,観察期間が中央値12カ月程度のものであり,今後,より観察期間の長い検討が必要である.

一方,ESTについては,胆管結石再発を除く晩期合併症として胆嚢炎や胆管炎がある.胆嚢炎は有石胆嚢で3.6-22%,無石胆嚢で0-11.9% 10),胆管炎は多くのものが胆管結石の再発に伴うものであるが,胆管結石の再発を伴わない胆管炎の頻度については2.8%との報告がある 11).また,報告が少なく頻度は不明であるが乳頭狭窄や胆管狭窄,膵炎などの報告もある.

これらの結果から,観察期間や症例数が十分とは言えないものの,EPLBDを追加することでEST単独の場合と比較して明らかに晩期合併症のリスクが上がることはないものと推察されるが,前述のごとく,より観察期間の長い検討が待たれる.

ステートメント6-2:

EPLBDと胆道癌発生の関与は不明である.

Delphi法による評価 中央値:9 最低値:9 最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:D

解説:

EPLBD後の晩期合併症として胆道癌を合併するか否かについては,十分な観察期間が得られていないこともあり,現時点では不明である.既存の内視鏡的な乳頭処置としてEST,EPBDがあるが,これらの処置の晩期合併症として胆道癌の頻度が高いというエビデンスはない 1),2).一方で,外科的乳頭形成術を行った症例では,5.8-7.4%に胆道癌を認めたという報告 3),4)があり,EPLBDがESTやEPBDに準じた経過をたどるのか,あるいは,外科的乳頭形成術に準じた経過をたどるのかによって,胆道癌の合併頻度も大きく異なる可能性があり,今後さらなる長期経過観察症例の蓄積が必要である.

文 献
 
© 2017 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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