2017 Volume 59 Issue 5 Pages 1289-1301
2cm以下の胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)の取り扱い方について既報をreviewし考察した.消化管間葉系細胞腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor:GIMT)のうち消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)であれば,2cm以下でも稀ながら急速に増大して悪性の経過をたどる例があるので腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopy cooperative surgery:LECS)などの方法での切除が必要である.通常内視鏡検査において鉗子等で触ってみて硬いSMTはGIMTの可能性大であり,ガイドライン通りに年に1-2回の経過観察が必要と考える.GIMTの診断はEUSで可能であり一度は施行しておくことが勧められるが,EUS下吸引細胞診(EUS-fine needle aspiration:EUS-FNA)に関しては,経過観察中にEUS上GISTを疑う不均一な内部エコー,辺縁不整,嚢胞変性,高エコースポット等の所見が描出された場合,あるいは経過中にサイズが2cmを超えてくるような症例で,手術適応の判断を要する場合に必要と考える.
消化管にみられる粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)のうち線維組織,平滑筋組織,脂肪組織,リンパ組織などの間葉系細胞が腫瘍化したものを消化管間葉系細胞腫瘍(gastrointestinal mesenchymal tumor:GIMT)と総称する.GIMTはさらに,平滑筋への分化をしめすsmooth muscle type,神経系への分化を示すneural type,双方への分化を示すcombind type,どちらへの分化も示さない消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:GIST)に分けられる.このなかではGISTが最も高頻度で,65~80%を占めている 1).本邦のガイドラインではサイズにかかわらずGISTと診断されれば手術適応となる2).一方,2cm未満で無症状,生検未施行のもので,明らかな悪性所見がない胃SMTであれば年1-2回の経過観察で可となっている.以上より2cm未満の胃SMTにおいて,GISTか否かを区別することは臨床上大きな意味をもつと考えられる.日常の通常内視鏡検査で遭遇する胃SMTは2cm未満の小さなものが多く,大部分は鉗子圧迫での感触でGIMTと診断できるものの,GIST,平滑筋種,神経鞘腫,および平滑筋肉腫はいずれも胃壁の固有筋層由来の場合が大部分であり,通常生検では腫瘍組織は得られず,また,超音波内視鏡検査を用いても,その鑑別は困難である.
本稿では,2cm以下の胃GISTの診断,自然史,治療結果について,既報から現況をreviewし,2cm以下の胃SMTをどうあつかうかについて考察したい.なお,reviewした症例報告等ではサイズ2cmという記載が多くあり,ガイドラインに表記されている2cm未満ではなく2cm以下の胃SMTとして検討する.
GISTの頻度は10万人に1-2人と稀であり,わが国においては胃に発生する頻度が高い特徴がある 2).
一方で,Kawanowaらは,胃癌で胃全摘された100検体について5mm毎の切片を作成し,病理学的検索を行ったところ,35検体(35%)中に50ケの微小GISTを認め,46ケ/50ケ(92%)はKIT陽性であった.45ケ/50ケ(90%)は胃上部に存在し,平均サイズは1.5mm(0.2-4.0mm)であったと報告している 3).5mm幅の切片であることを考慮に入れるとmicro GISTはさらに頻度が高い可能性が推測されるが,それらのうち,ごく一部が臨床的に意味のあるGISTに進展するものと考えられる.実際に治療対象となった検討では,Miettinenらの切除した胃GIST 1,765例においてサイズが計測できた1,687例の平均サイズは6cm(0.3-44cm)で2cm以下が127例(7.5%),2cm<,5cm以下が644例(38.2%),5cm<,10cm未満が501例(29.7%),そして10cm以上が415例(24.6%)となっている 4).
Yamamotoらは40施設からの集計で胃GIST治療例482例中2cm以下は90例(18.7%)であったと報告している 5).本邦および韓国で外科手術を施行した胃GIST 1,057例の検討では,2cm以下は131例(12.4%),2cm<,5cm未満が548例(51.8%),5cm<,10cm未満が239例(22.6%),そして10cm以上が139例(12.2%)となっている 6).
米国の癌データベースであるSurveillance Epidemiology and End Results(SEER)databaseから抽出した2001から2011年までに組織学的に確定診断した2cm未満のGIST 378例(1cm未満:138例,1cm以上2cm未満:240例)の検討では 7),発症は年率4.2/1,000万人で平均年齢は64歳,性差はなく,局所病変が79.4%,胃病変が62%を占めたとしている.
胃SMTの治療方針は2cm未満の例に対して悪性所見(潰瘍形成,辺縁不整,増大)がなければ,年1-2回の経過観察とし,一方,増大傾向あるいは悪性所見があれば,相対的手術適応,あるいは,CT,EUS,EUS-FNAで精査を行い,その結果で経過観察,相対的手術適応としている(Figure 1) 2).
胃粘膜下腫瘍(SMT)の治療方針.
GISTについては,良性の経過をたどるGISTの存在証明は現時点ではなく,また,良性の経過をたどるGISTが存在したとしても,良性の経過をたどるGISTと悪性の経過をたどるGISTの鑑別は困難であり,現時点では良悪性の鑑別の診断根拠がないことからサイズに関係なく,GISTは治療対象となると記載されている.
2)海外のガイドラインNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは内視鏡検査で偶発的に発見された2cm未満のGISTの対処法を構築するにはデータが足らないし,定期的なEUSによる経過観察の有用性についてのエビデンスもない.有症状例は外科的切除が標準であるが,2cm未満でEUSにおいて高リスクの様相を呈していないのであれば6-12カ月ごとの定期的な経過観察で可としている 8).
一方,European Society for Medical Oncology(ESMO)ガイドラインでは,2cm未満の上部消化管の組織学的検索ができていないSMTは,GISTであったとしても,通常低リスクであるので,標準的なアプローチはEUSによる毎年の経過観察である.サイズ増大や,有症状になった場合に摘除を考慮する.経過観察についての最適基準はないが,まずは,3カ月ごとなど短期間での経過観察を行い,増大がなければ徐々に期間を延長していけばよいと記されている.組織学的にGISTと診断されれば摘出が標準的アプローチであるが,低リスクであれば患者と相談のうえ経過観察も許容される 9).
以上から2cm以下のSMTの質的診断が臨床上重要になってくる.
すなわち,通常内視鏡,EUS,EUS下吸引細胞診(EUS-fine needle aspiration:EUS-FNA)が一般的な検査になるが,どこまで必要か.また,CT,MRI,PET等の検査の必要性はどうなのか.それら諸検査のGIST診療における現況と有用性について検証する必要がある.
通常の内視鏡検査においてサイズの小さいSMTには比較的高頻度に遭遇する.表面平滑で周囲粘膜と同色調のSMTで,生検鉗子等で圧迫することによって硬くて,いわゆるcushion sign陰性のものは,GIMTの可能性が大であるが,GISTかどうかの鑑別は困難である.
切除標本での検討であるが,通常内視鏡検査で診断可能な胃における腫瘍の発生部位では,平滑筋種は圧倒的に噴門部に多く,GISTは噴門部以外に多いという報告があるが,その検討の対象は2cm以上のSMTであった 10).
2)CTGISTと同じく固有筋層由来の腫瘍である神経鞘腫との鑑別において,Choiらは神経鞘腫16例(平均3.2cm:1.0-5.0cm)とGIST 56例(平均3.6cm:1.6-5.0cm)のCT所見を比較し,多変量解析においてGISTでは不均一な造影パターン,壁外発育あるいは壁内外発育が有意な因子であり,また,神経鞘腫では周囲リンパ節腫大が有意に多いことが示された11).また,腫瘍増大のダブリングタイムの平均値はGISTで377.6日(89-715.1日),神経症種1,685.4日(1,124.6-2,762.5日)であり,GISTで有意に短かった(p=0.004) 11).
3)MRI被爆のリスクもなく,消化管の層構造をみるためにも有用であるが,空間分解能はあまり高くないため小さい病変の描出には限界があるとされている.その高い分解能により造影剤の使用なしで周囲臓器との関係を明瞭に描出することも可能であり,肝転移・骨盤部病変などの描出には優れているが,腫瘍の信号強のパターンに特異性はなく,GISTの鑑別に有用とされる所見も明らかにされていない.したがって2cm以下のSMTの質的診断のみならず,存在診断にも有用とはいえない 2).
4)18FDG-PET大多数の未治療のGISTに有意な取り込みが認められるとされているが,低リスク群の腫瘍には弱い集積しか示さない.また,小さな病変では空間分解能の点から描出されにくい.Parkらは,集積の程度とKi-67index,腫瘍サイズ,核細胞分裂数,および病期が相関すると報告している 12).術前検査としてCTでの転移・播種巣の見逃しを防ぐという補助的意味合いはあるものの,この検査のみでの存在診断・鑑別診断・病期診断は困難である 2).
5)EUSGISTを含むGIMTはEUSによって胃壁4層,すなわち固有筋層由来の低エコー像の腫瘤像として診断可能である 13),14).EUSによる診断において,不均一な内部エコー,辺縁不整,嚢胞変性,高エコースポットなどの存在が悪性を疑う所見としてあげられており,GISTの診断に有用と考えられる.EUSにおいてOkaiらは腫瘍辺縁haloがGISTと神経鞘腫には高率に認められるが,平滑筋種には認められなかった.また,GISTは低エコーを示すが,固有筋層よりは高エコーであり,一方,平滑筋種や神経鞘腫では固有筋層と同レベルのエコーパターンを示す.GIST,特に悪性度の高いGISTでは腫瘍表面の分葉化が認められると報告している.さらにGISTのダブリングタイムについて,高リスク,低リスクのものでそれぞれ,9.3カ月,18.7カ月であったとしている 15).
OnishiらはGIST増大の予測因子としてEUSにおける腫瘍内低エコー領域の存在を挙げている.低エコー領域の存在は腫瘍サイズに関係なく存在し,2cm未満の例においても48%に認められたとしている 16).
最近EUS-elastographyの検討が報告されている 17).後述するEUS-FNAはサイズの小さい症例に対しては,十分な組織が得られない可能性や出血のリスクが否定できないが,EUS-elastographyは抗血栓薬使用患者に対しても安全にできるというメリットがある.GISTは平滑筋種に比べて硬いことが示されており,鑑別に有用である可能性があるが,神経鞘腫でも硬いものが存在するため,その鑑別が困難な場合があると考えられる.EUS-elastographyは今後も症例を重ねてGIST診断における精度を検討する必要があるが,多くの平滑筋種や神経鞘腫のエコーパターンはhomogenousであり,GISTの多くはheterogenousであることを考慮し,EUS-elastographyとEUSのエコーパターンとを組み合わせることによって診断率が向上する可能性がある.
6)EUS-FNAEUSによる診断では確定診断には至らない.確定診断のためには,生検組織を採取して,免疫組織学的検索を行う必要がある.生検方法において,ボーリング生検や,被覆する粘膜をエタノールやレーザー,粘膜切除術で除去して粘膜下から採取する方法もあるが,確実な組織採取には至らないことが多い.近年,より確実な組織採取の方法として,EIS-FNAが開発され,免疫組織学的検索と組み合わせることによって,GISTの診断がほぼ確実に行えるようになった.
Sekineらは,20mm未満のGISTの診断においてもEUS-FNAが有用としており,感度,陽性的中率がそれぞれ,81.3%,100%であったと報告している.中央値62カ月間経過観察した18例において,観察期間中に有意にサイズが増大したと報告している(11.4mm→22.7mm:p=0.015) 18).
AkahoshiらもEUS-FNAによる診断率はSMTのサイズが大きいほど高くなるが 19),2cm未満の検討においても診断率73%(66例/90例中)であったとしている.そのうちGISTと判明した43例中33例(77%)は超低リスク,10例(23%)は中リスクであったとしている 20).しかしながら,小さなSMTのEUS-FNAにおいては腫瘍の可動性により固定されにくく穿刺が困難,また,穿刺されたとしても腫瘍内での針の運動が制限されて(針と一緒に腫瘍も動く),十分な生検材料を得られにくい.Hodaらは,EUS-FNAでのSMTの診断率は30mm未満の例では高くなく,10mmまでの例では40-50%(確診18%),11-30mmまでで60-70%(確診30%)としている 21).20mm以下のSMTに対するEUS-FNAの診断はサイズ大のものより劣るが,近年,直視型コンベックス走査式超音波内視鏡の登場により,より小さなSMTにおいても検体採取が可能となり 22),更なる診断能の向上が期待されている 23).
EUS-FNAは切除すべきかどうか迷う症例には必須の検査方法と考えるが,専用の内視鏡装置,熟練した手技,採取した検体の取り扱いを確実にするための病理医あるいは細胞診検査技師の同席が必要であり,一般の施設で簡単に行える検査ではないことが問題である.Dumonceauらは,EUS-FNAは手術が計画されている例,良性が明らかなSMT,2cm未満のSMTに対しては施行する必要はなく,一方で癌,リンパ腫,あるいは神経内分泌腫瘍が疑われる場合や切除不能で組織型次第で化学療法あるいは放射線療法が行われる例に対して適応になるとしている 24).
また,小さなSMTでEUS-FNAが困難な症例に対しては,SMTに生理食塩水等を局注し,針状メスで粘膜を切開し,SMTを露出させてから生検を行い,その後,切開部をクリップで縫合する粘膜切開生検法の有効性が報告されている 25),26).
GISTの予後は腫瘍サイズよりも核分裂像数に影響を受けることが示されており 27),悪性度評価も腫瘍サイズと対物レンズ40倍で50視野を観察した核分裂像数(/50HPFs)の組み合わせで行われている.従来よりFletcher分類(いわゆるNIHコンセンサス分類)(Table 1) 28)が用いられてきた.すなわち,2cm未満のGISTでは<5/50HPFsで超低リスク,6~10/HPFsで中リスク,>10/HPFsで高リスクと診断される.最近では,腫瘍発生部位による予後が異なることや,腫瘍被膜破裂有無も考慮に入れた,Miettinen分類 29)やmodified Fletcher分類(いわゆるJoensuu分類) 30)も用いられてきている.
GISTのリスク分類.
Huangらの2cm以下のGIST切除31例の検討では,NIH gradeは超低リスク28例(90.3%),低リスク1例(3.2%),中リスク2例(6.5%),高リスクゼロであった.観察期間中央値41.3カ月(7.5-152.3カ月)において,2例が死亡し,そのうち1例は腫瘍再発,他の1例は他病死(膵癌)であった.一方,3例が転移あるいは再発したが,いずれも診断時は超低リスク例であった.肝転移した1例の病理像は,腫瘍内出血,壊死,そして粘膜浸潤像を示していた.また,他の再発例2例は,粘膜浸潤像を示していたとしている 31).
前述の米国SEER databaseから抽出した2cm未満のGIST 378例の検討では,5年死亡率は,2cm未満全体で30.9%と予想以上に高かったが,GISTによる5年死亡率は12.9%であり,死亡率を高めているのはGISTに合併した癌の影響であるとしている.さらにstageが判明している症例においてGISTによる5年死亡率は進行例,転移例(34%)に比べ,局所病変例では5.6%であった.ただし,病変部位別の検討は行われておらず,胃病変に限定すれば,さらに死亡率は低いのではないかと推測される.また,この検討は外科切除,あるいは生検で組織が確定した例のみの検討であり,2cm未満の多くの無症候例は含まれておらず,検討結果は過剰評価になっている可能性が十分にある 7).
Kimらの報告では,2cm以下の胃GIST 114例中96例が超低リスク,16例が中リスク,2例が高リスクであった.5年無再発生存率が超低リスク例で98.9%,中リスクで96.3%であるが,高リスクでは74.9%に低下している 6).
Miettinenらの切除した胃GIST 1,765例において2cm以下が127例,2-5cmの644例中,術後follow upされた例での原病死例は2cm以下の症例ではゼロであった.一方,2-5cmの症例では5例(2%)に原病死例が見られ,そのうち4例はlow risk症例であった 4).
Wangらの単施設での胃GIST 295例(59%)を含むGIST 497例の検討において,2cm以下の51例の5年生存率は100%,2.1-5cmの178例で98%,5.1-10cmの109例で80.9%,>10cmの63例で49.2%,また,核分裂像数では<5/50HPFの296例で95.9%,5-10/50HPFの44例で68%,>10/50HPFの61例で54.2%と報告している 32).
以上の報告からは2cm以下のGIST治療例では大部分が超低リスクで予後も非常に良好であるが,超低リスク例においても経過中に再発例が稀に認められる.
2cm以下のSMTとして経過観察中に2年間で著明なサイズ増大を呈した,自験例を提示する.
60歳代,女性.検診で胃窮隆部に径10mm大,扁平隆起型SMTを認め,鉗子圧迫で硬く,筋原性腫瘍として経過観察となった.1年後は12-13mmに若干増大していた.さらに1年後には25mm大に増大し,丈も高くなっていた.その3カ月後にEUSを施行し,胃壁第4層由来のほぼ均一な低エコーを呈する腫瘍として描出された.EUS上サイズは38×28mmであった(Figure 2).腹腔鏡補助下胃部分切除術が施行され,術後診断は胃GIST T3N0M0H0 StageⅢAであった.c-kitはびまん性に陽性,Ki-67陽性4%,核分裂増数8/50HPFsで中リスク症例であった.
60歳代,女性例.
a:2009年2月 通常内視鏡像.
b:2010年2月 通常内視鏡像.
c:2011年2月 通常内視鏡像.
d:2011年5月 通常内視鏡像.
e:2011年5月 超音波内視鏡像(UM-2R 12MHz).
2cm以下のSMTとして経過観察中に著明なサイズ増大を呈した,あるいは悪性化の経過を辿ったGIST既報例を挙げる.
Tanakaらの報告した1例は,1cm大のSMT例において2カ月後にタール便が出現し,その1カ月後の内視鏡検査では潰瘍を有する3cm大の腫瘍に増大しており,外科切除の結果,高リスク例のGISTであった.術後のimanitibは投与なく,6カ月後に肝転移を来し,その2年後に死亡した 33).
Asoらは,径15mmの胃GIST(核分裂像数7/50HPFs)を切除し,術後1年で肝左葉に径15mm大の転移を認めた例を報告している 34).
Sawakiらは2年間で18mmから84mmまで増大し,肝転移を認めた1例を報告している 35).
金山らは,3年間で胃噴門部直下2cmから7cmに増大し,潰瘍を形成し著明な貧血を呈したSMT例を報告している.最初の診断時のEUS所見は均一な低エコー病変であった.術後の病理組織像では高リスクGISTであった 36).
田中らは約7年半の経過で2cmから13cmに増大し,中心壊死をともなった例の報告している.同症例では免疫染色でSMA,S-100陰性でc-kit,CD34陽性でGISTと診断されるも核分裂像は明らかではなかった 37).
伊藤らは15mmのSMTが34カ月で58mmに増大し切除した中リスクGIST例を報告している 38).
また,工藤らは,4mmのSMTが3年後に7mm,4年後に65mmに増大し,出血のため緊急手術をした症例を報告している.同症例も高リスクGIST例であった 39).
Nakajimaらは,SMTとして8年間の経過観察後,タール便を来して手術した1.9cmの症例を報告している.手術時転移は認めなかったが,術後24カ月で肝転移を来し,術後55カ月で死亡した 40).
河村らはEUS上16mmのSMTが14カ月後に20mm,40カ月後に35mmに増大した低悪性度GIST例を報告している 41).
Figure 3に上記症例のサイズ変化を示したが,このように2cm以下のGISTであっても数年のうちに,あるいは短期間で増大するものが存在し,短期間に肝転移を来す例もある.また,一定期間変化なく,その後急速に増大する例も存在する.
Lokらの報告では,EUSで経過観察した固有筋層由来のサイズの中央値13mmの胃SMT 23例中,平均経過観察期間17.3±10.2カ月において,サイズ増大は3例のみに認められたとしている.それらはいずれも胃体部に存在し,腫瘍の組織診断,経過観察期間,およびサイズ変化は,それぞれ,神経鞘腫,24カ月,16mm→23.5mm.神経鞘腫,20カ月,16mm→21mm.低リスクGIST,21カ月,20mm→26mmであった 42).
Fangらは,平均サイズ1.1cm(0.4-3.0cm)の41例のGISTにおいて平均39.2カ月(24-101カ月)の経過観察期間で7例(28%)にサイズ増大が認められ,1.4cmを超えるもので辺縁が不整のものは有意に増大すると報告している 43).
一方,予後に影響をおよぼす大きな因子である核分裂数についてRossiらは1cmを超えるGISTにおいて激的に増加すると報告している 44).
Miyazakiらは,サイズ増大で切除にいたった小SMTの90%以上はGISTであり,10%は高リスク例であったとしており,10%未満のみ良性神経鞘腫であったとレトロスペクティブ検討から報告している45).さらに,同研究において,年間のサイズ増大について高リスク例(0.4cm(0.2-0.6cm))と低リスク例(0.2cm(0.1-1.6cm))とで有意差はなかったとしている 45).
組織診断がついた切除可能な原発GIST治療の第一選択は外科治療である 2).GISTの転移は多くの場合,血行性転移(肝転移)か腹膜播種であり,局所リンパ節に転移することは稀であり 46),リンパ節の系統的予防的郭清が予後を改善するという報告はない.転移を疑うリンパ節の郭清においても,系統的リンパ節郭清の臨床的意義は認められておらず,リンパ節郭清は転移リンパ節のpick-up郭清で十分とされている 2),46).GISTの外科治療においては肉眼的断端陰性が原則であり,部分切除で根治可能ならば部分切除を,部分切除で一括切除が不可能であれば,全摘ないしは周囲臓器切除を伴う拡大切除を行うとされており 2),2cm以下のGISTに対しては部分切除でほとんどが根治可能と考えられる.
2)低侵襲治療腹腔鏡下手術
腹腔下手術についてGLでは開腹術に比較して,短期成績では,同等ないしはそれ以上の手術成績をもつ可能性が報告されているが,腫瘍の大きさ,形態,部位,手術チームにより,腹腔鏡下手術の適応や方法が異なり,がんの集学的診断治療チームにより適応を検討することが望ましい.また,前向き無作為比較臨床試験はなく,安全で長期的にも腫瘍学的にも開腹術と同等あるいはそれ以上かどうかは現時点では確立されていないとなっている 2).
内視鏡的切除
内視鏡下に腫瘍性SMTをESDの手法や経口内視鏡を用いて全層で切除する方法があるが,現時点では確立された方法ではなく,積極的に勧められる治療方法ではない.臨床試験レベルの医療であり,患者に十分な説明による同意を取るべきであるとなっている2).大部分が固有筋層由来の腫瘍切除であり,胃内腔からのみのアプローチでは高率に穿孔を併発することが予想されるし,また,その際,偽被膜損傷を伴っていれば腹腔内への播種も危惧されるので,一般には勧められない.
腹腔鏡・内視鏡合同手術
現時点で内視鏡を用いた局所切除として最も安全,確実な方法はHikiらの考案した腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopy cooperative surgery:LECS)であると考える 47).LECSは,内視鏡のESDのテクニックを用いて,腫瘍周囲の粘膜切開を全周性に行い,同部を切り取り線として,さらに内視鏡下に人工的に穿孔させ(Figure 4-a),穿孔部から切り取り線に沿って内視鏡下,あるいは腹腔鏡下に胃壁の全層切除し,腫瘍を腹腔内で切除(Figure 4-b,c)を行う方法である.穿孔部はステープラあるいは手縫いで閉鎖する(Figure 4-d).これにより胃切除範囲を必要最低限とし,縫合閉鎖による術後の胃変形の予防が可能となった.その後,NEWS 48),CLEAN-NET 49),Inverted LECS with Crown Methods 50),そしてclosed-LECS 51),52)などの新たなLECS関連手技が考案され,Hikiらの考案したLECS 47)はclassical LECSとして呼称されている.
LECSの方法.
a:ESDのテクニックを用いた腫瘍周囲の粘膜全周切開.
b:腹腔鏡下に胃壁の全層切除.
c:腫瘍を腹腔内で切除.
d:穿孔部をステープラで閉鎖.
当院では,Nishizakiらが考案したclosed-LECS 51),52)を行っている.
すなわち,腫瘍の外縁に内視鏡用電気メスでマーキングを置き,その外側をESD手技により粘膜下層の切開線を腫瘍の全周性に形成する(Figure 5-a).腹腔鏡下に上記切開線に沿って漿膜面に電気メスでマーキングを置く(Figure 5-b).スペーサーとして鏡視下用スポンジ(セクレア®)を漿膜マーキング中央に置き,セクレアを包み込むように漿膜筋層縫合を行う(Figure 5-c,d).内視鏡下に腫瘍部の胃壁全層切開を行い腫瘍を切除する.その際,埋め込んだセクレアが露出し,切開を進めるうえでの目印となる(Figure 5-e).その後,内視鏡下に腫瘍を回収する.この方法では,胃液や腫瘍細胞の腹腔内への散布は回避できる.径3cmを超える腫瘍では食道胃接合部の通過が困難となるケースが多いが,2cm以下のGISTは良い治療適応になると考える.
closed-LECSの方法.
a:腫瘍外縁の粘膜全周切開.
b:腹腔鏡下に上記切開線に沿って漿膜面に電気メスでマーキング.
c,d:鏡視下用スポンジ(セクレア®)を漿膜マーキング中央に置き,セクレアを包み込むように漿膜筋層縫合.
e:内視鏡下に腫瘍部の胃壁全層切開を行い腫瘍を切除.
これら,LECSおよび,関連手技は腫瘍の性状,施設の状況で各方法が選択されると思われるが,いずれも局所切除は胃の外から行うという概念をくつがえし,胃の内側と外側から内視鏡胃と外科医によるコラボレーションで完遂する画期的な方法であり,安全性と長期成績も含めたさらなる臨床データの集積が望まれる.
日本消化器内視鏡学会では2cm以下の小さな胃SMTの適切な検査方法,経過観察期間,治療方法など診療方針を確立する目的で学術研究として全国多施設共同の前向き観察研究「胃粘膜下腫瘍の診断・検査・治療に関する研究」を実施中である.対象は内視鏡で診断された2cm以下の実質性の胃SMTで10年間前向きに経過観察する.Primary endpointは経過観察10年での増大例の割合を評価し,Secondary endpointとして5mm以上の増大に要する期間,増大に及ぼす臨床因子を解析する.症例登録は2016年8月31日に締め切り,全国22施設から576例が登録された.
2cm以下でも稀ながら急速に増大して悪性の経過をたどる例がある以上,GISTの診断がつけば低侵襲で確実な治療が期待できるLECSおよび関連手技を用いた方法での切除が必要と考えられる.
1cm以下の小さなSMTであっても鉗子等で触ってみて硬いSMTはGIMTの可能性大であり,定期的な内視鏡検査は最低限必要と考える.その経過観察期間としてはGISTであった場合,2カ月,あるいは1年で急速に増大した例も存在するため1年では長いのかもしれないが,非常に稀なケースであることを考慮すると,ガイドライン通りに年に1-2回が妥当と考える.
EUSについては,施行によりGIMTか否かは,ほぼ診断がつくので一度は施行しておくことが勧められるが,1cm以下の例もふくめ全例に施行することは現実的ではないと考える.通常内視鏡検査で悪性リンパ腫やSMTの形態を呈する癌などが疑われる場合や,経過観察中にサイズ,形態の変化が認められた際に施行は必須と考える.
EUS-FNAに関しては,SMTの経過観察中にEUS上GISTを疑う不均一な内部エコー,辺縁不整,嚢胞変性,高エコースポット等の所見が描出された場合,経過中にサイズが2cmを超えてくるような症例で,手術適応の判断を要する場合には必要と考える.
2cm以下の胃SMT診療における現況をreviewし,取り扱いについても言及したが,現状では概ねGISTガイドラインに沿った方針が妥当と考える.今後,内視鏡学会学術研究の結果等から,病態,自然史,そして診療指針についてさらに新たな知見が得られるものと考える.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし