2017 Volume 59 Issue 5 Pages 1344-1351
背景と目的:内視鏡的バルーン拡張(EBD)は,クローン病(CD)患者の小腸狭窄に対する外科手術の代替手段である.しかしながら,EBDの長期有効性はまだほとんど知られていない.本研究の目的は,CD患者の小腸狭窄に対するEBDの長期予後を明らかにすることであった.
対象と方法:被験者は小腸狭窄に対してEBDを受けた65人のCD患者で,少なくとも6カ月間追跡調査した.すべての被験者は,小腸狭窄に起因する閉塞症状を有しており,短期的成功は,技術的成功と閉塞症状の消失と定義された.EBDの短期的成功率,安全性プロファイル,長期経過として累積非手術率および累積再拡張率を解析した.
成績:短期的功率は80.0%(52/65)であった.合併症は,65人中6人(9.2%)に認めた.この研究の観察期間中に17人の患者(26.2%)が外科手術を受けた.EBD後の累積非手術率は,2年で79%,3年で73%であった.短期的成功例は,不成功例と比べ有意に非手術率が高かった(P<0.0001).短期的成功52例において,初回EBD後の累積再拡張率は,2年で64%,3年で47%であった.
結論:CD小腸狭窄に対するEBDは,短期的成功だけでなく長期的にも有効である.しかしながら,再拡張率が高いことは,この内視鏡的手技の臨床的問題の1つである.
クローン病(CD)は,腸管全層の炎症を特徴とする慢性炎症性消化管疾患である.この疾患の長期かつ再発性の経過を考慮すると,短期腸症候群または栄養失調のリスクを軽減するために頻繁な手術は避けるべきである.しかし,CD患者の80%までが診断10年以内に少なくとも1回の外科的切除を必要とする 1).診断後の累積手術率は5年で46~62%,10年で61~75%と報告されている 2)~4).さらに,初回手術後に再手術を受けた患者のほぼ半数が手術を受けることがわかっている 5),6).腸管狭窄はCD患者の最も一般的な腸管合併症の1つである.重度の腸管狭窄は,腸切除または狭窄形成を含む外科的介入を必要とする 7),8).しかし,外科的介入は,再発狭窄のリスクを増加させる 9).内視鏡バルーン拡張(EBD)はCrohnの狭窄に対する十分に確立された治療選択肢であり,外科手術の回避を可能にする 10)~20).体系的なレビューによると,EBDの技術的成功率は71-100%であり,報告された症例の53-100%において臨床的有効性が観察されている 21).近年,バルーンアシスト下小腸内視鏡(BAE)を用いた小腸狭窄に対するEBDに関するいくつかの報告がある 22)~26).しかしながら,これらの報告はすべて小コホート研究であり,長期的な有効性は十分に評価されていない.したがって,小腸狭窄に対するEBDがCDの長期経過にどのように影響するかは不明である.この研究は,CD患者の小腸狭窄に対するEBDの長期予後を明らかにするために行われた.
小腸狭窄による閉塞症状を呈し,EBDの適応症を満たしたCD患者をこの研究の対象とした.回腸結腸吻合の狭窄のみを有する患者,EBD後の観察期間が6カ月未満の患者は対象から除外された.当施設で小腸狭窄に対するダブルバルーン小腸内視鏡(DBE)を使用したEBDの適応は以下の項目である.1)閉塞症状の原因である小腸狭窄,2)狭窄長さが5cm以下,狭窄部に3)瘻孔や膿瘍がない,4)深い潰瘍がない,5)高度の屈曲がない 25).われわれは,DBE施行前に狭窄部位,長さ,数などについて小腸造影とCTにて確認している.当施設で2005年4月から2012年9月の間に,DBEを用いたEBDの適応基準に合致したと考えられた75人の患者に同手技が試みられた.しかし,これらの患者のうちの10人において,瘻孔および深い潰瘍がDBE施行時に確認された.これらのうち,2つは瘻孔であり,8つは深部潰瘍であり,DBEの前の諸検査では同定できていなかった.したがって,この10人を除外した合計65人の患者が本研究で評価された.被験者のベースライン時の患者背景,狭窄部位の詳細および併用治療をTable 1に示す.

Baseline characteristics, details of stricture site and concomitant treatments of the patients at the time of initial endoscopic balloon dilation.
EBDは,DBE(EN-450 T5, Fujifilm Medical Co., Tokyo, Japan)および12-18mmのThrough-the-scope(TTS)バルーンカテーテル(CRETM balloon catheter, Boston Scientific Co., Natick, MA, USA)を用いて行った.拡張バルーンは1~7気圧の圧力まで膨張させ,30秒から2分間維持した.大量の空気滞留を避けるために,通常,EBD中の送気には二酸化炭素を使用した 27).EBDは,ミダゾラムとブプレノルフィンによるconscious sedation下で行われた.
短期的成功は,技術的に適切な拡張が行えた後に閉塞症状(例えば,腹痛,腹部膨満感および嘔吐)の消失によって定義された.患者はEBD後2日間入院しているので,閉塞症状が消失したかどうかは入院中に判断することができた.複数の小腸狭窄を有する患者では,閉塞症状の原因とみなされた小腸狭窄がEBDによって拡張されたと確認し得た場合に,短期的成功と判断した.また,成功例と不成功例を比較することにより,短期的成功に影響する要因を調査した.
Safety profileわれわれは,EBDの安全性プロファイルを評価するために,追加治療が必要なEBD後合併症の率および詳細を分析した.
Long-term outcomes長期的成績は,被験者の累積非手術率および累積再拡張率について評価した.2回目のEBDは,通常,閉塞症状の再発を有する患者の再拡張のために行われた.しかし,閉塞症状が再発しない患者でも経過観察中にスコープが通過しない再狭窄を発見した場合には,閉塞性症状の再発を避けるために予防的EBDを行った.また,再拡張の必要性がある患者と必要がない患者とを比較することにより,再拡張に影響を及ぼす要因を調査した.
Ethical considerationsDBE,EBDおよび意識鎮静に関する完全な情報が患者に提供された.手順が実行される前にすべての患者から文書による同意が得られた.
Statistical analysis対応のない連続可変データの比較にはStudent’s t-検定を用いた.カイ2乗検定またはフィッシャーの正確確率検定は頻度の比較に使用した.累積非手術率および累積再拡張率はKaplan-Meier法およびLog-Rank検定を用いて分析した.統計解析にはSPSSバージョン16.0を使用した.p値<0.05をもって統計的に有意であると判断した.
技術的に成功したEBDは52例で実施できた.これらの52例すべてが閉塞症状の消失を確認した.一方,技術的に失敗した症例のうち2例は,追加の栄養療法により閉塞症状は消失した.結果的にDBEを用いたEBDは65例中52例(80.0%)で成功した.ほとんどの短期的成功例(48/52,92.3%)では,最初のEBD後に狭窄部位を通過することが可能であった.不成功13例のうち8例は狭窄部位まで挿入できず,5例はガイドワイヤーやTTSバルーンを狭窄の正しい位置に保持できなかったことが不成功の原因であった.2つの群間で臨床的特徴および付随する治療に有意差はなかった(データは示さず).EBD不成功例(52.8%,7/13)ではEBD成功例(17.3%,9/52)よりも3cm以上の長い狭窄長を有した例が多かった(p=0.02).他の狭窄関連因子は両群間で有意差はなかった(Table 2).

Comparison of the stricture related factors between EBD successful and unsuccessful cases.
合併症は,EBD成功6例(9.2%)で発生した.1例は輸血を必要とする出血を経験し,1例が急性膵炎を発症した.これらの患者は,保存的治療後に回復した.1人の患者(1.5%)のみに穿孔を認め,緊急手術(部分回腸切除術)後に回復した.残る3人の患者は高アミラーゼ血症を認めたが,いずれも数日間の絶食にて回復した.
Long-term outcome17例の患者(26.2%)は,初回EBDから41.8±24.9カ月の観察期間中に手術を受けた.全対象の累積非手術率は,2年および3年でそれぞれ79%および73%であった(Figure 1).52例のEBD成功例のうち9例(17.3%)が手術を受けた.閉塞性症状の持続により手術を施行した患者は6例であったが,他の症例の手術理由は2例が新たに診断された瘻孔であり,残りの1例は直腸癌であった.一方,EBD不成功13例のうち8例(61.5%)が手術を受け,8例の手術理由はすべて小腸閉塞であった.Figure 2は,EBDの成功例と不成功例における累積非手術率の比較を示している.EBD成功例は,EBD不成功例よりも有意に高い非手術率を示した(P<0.0001).

The cumulative surgery-free rate among all the subjects was 79% and 73% at 2 and 3 years, respectively, with observation periods of 41.8±24.9 months after the initial EBD.

The cumulative surgery-free rate of successful EBD cases was 80% at 3 years after the initial EBD. The successful cases after initial EBD (green line) showed significantly higher surgery-free rates than the EBD unsuccessful cases (blue line) (P<0.0001).
52例のEBD成功例では,初回EBD後の狭窄の状態を確認するために45人の患者(86.5%)で内視鏡検査が再検査された.初回EBDと確認目的の内視鏡検査との間の期間は12.0±13.6カ月であった.26人の患者は2回目のEBD施行が必要であり,そのうち19例は閉塞症状の再発により行われたが,7例では再狭窄の予防治療として行われた.累積再拡張率の解析に関しては,基本的に初期EBDが行われた狭窄を調査した.1例のみ初回EBD施行部の肛門側に位置する狭窄に対してEBDを受けた.これは肛門アプローチによって責任病巣までDBEを挿入するために行われた.
初回EBD後の40.3±24.8カ月の観察期間中,2年および3年後の累積再拡張率はそれぞれ64%および47%であった(Figure 3).再拡張が必要であった患者と不要であった患者との間で,臨床的特徴および狭窄長を含む狭窄部位の性状に関して明らかな有意差はなかった.再拡張を行った2名と再拡張を行わなかった3名の患者は,初期ESD後に活動性小腸病変を理由として抗TNF-α抗体を開始したが,2群間で併用療法に関して有意差はなかった(Table 3,4).また,2つの群の間で初期EBDの技術的な方法に関しても有意差はなかった(Table 5).

The cumulative re-dilation free rate of the EBD successful cases was 64% and 47% in 2 and 3 years, respectively, during the observation period of 40.3±24.8 months after the initial EBD.

Comparison of baseline characteristics and concomitant treatments between patients with and without re-dilation.

Comparison of the stricture related factors between between patients with and without re-dilation.

Comparison of the initial dilation methods between patients with and without re-dilation.
EBDは,CD患者の胃腸管狭窄に対する外科手術の代替手段である.CDの狭窄に対するEBDは1990年代から頻繁に行われてきたが,上部消化管内視鏡スコープや大腸内視鏡スコープで到達できる上部消化管,大腸および回腸結腸吻合の狭窄に主に適用されている 10)~20).BAEは,その開発後から小腸疾患の診断と治療のために広く使用されており,CDによる小腸狭窄の治療もDBEを用いて行われている.しかしながら,この手技を検討した以前の研究は,小さなコホート研究のみである 22)~25).われわれの知る限り,今回の研究は,小腸狭窄に対するEBDを検討した最大のコホート研究である.
今日まで,この手技の安全性および有効性をどのように評価すべきか一定の見解はない.短期的成功の確立された定義はなく,異なる研究で異なる定義が用いられている.この研究では,短期的成功は技術的成功および閉塞症状の消失と定義された.この定義によれば,本研究において高い短期的成功率(80.0%)が確認された.仮に短期的成功をスコープが狭窄部位を通過可能となることと定義した場合は,成功率は73.8%であり,これは以前の検討で報告されたものとほぼ同等の成績であった 22)~25).比較分析では,短期的不成功の症例は3cm以上の長い狭窄長を有する可能性がより高かった.したがって,長い狭窄がEBDの短期的不成功の潜在的要因であり,EBDの対象を選択するときには狭窄の長さに注意を払う必要がある.
EBDの主要な懸念の1つは,穿孔である.以前の報告では穿孔率は0-9%と報告されており 10)~20),22)~25),われわれの研究では1.5%であった.他の合併症としては,出血1例,膵炎1例および高アミラーゼ血症の3例が観察され,これらのすべてが保存的治療で回復した.したがって,われわれは,EBDが小腸狭窄を治療するための安全で侵襲性の低い方法であると考えている.しかしながら,施行前に確認できなかった禁忌事項がDBE施行時に発見されたために,10例はEBDの施行を中止せざるを得なかった.したがって,EBD前の正確な検査は,処置の適応をきちんと確認するために重要であると考えられた.
本研究は主にEBDの長期有効性に焦点を当てている.累積非手術率は,2年および3年でそれぞれ79%および73%であった.この割合は,大腸のナイーブ病変や回腸結腸吻合部に対するEBDを評価した過去の研究結果と同等であった 10)~20).したがって,小腸狭窄に対するDBEを用いたEBDは,手術を避けるという観点から従来のスコープを使用したEBDとほぼ同じ有効性を有していた.初回EBD後41.8±24.9カ月の追跡期間において,EBD成功例は,EBD不成功例(61.5%)よりも手術率(17.3%)が低かった.これらの結果を考慮すると,CD患者の小腸狭窄に対するEBDは,初回EBD後少なくとも約4年間の観察期間にわたって,短期間だけでなく長期間にわたって有効であることが示唆された.
EBD後の閉塞性症状の再発率は22~31%と報告されている 22)~25).したがって,初回EBD成功例のうち外科手術を避けるために再拡張を必要とした症例がある.今日まで,再拡張の実施頻度に関するデータはない.この研究では,症例の約半分が再拡張を必要とし,累積再拡張率は初回EBD後3年で47%であった.この高い再拡張率はCDの病気の特徴と関連していると考えられる.頻繁な再拡張の必要性はEBDの課題であり,再拡張に影響を及ぼす要因を知ることが望ましい.しかし,今回の試験では,再膨張の必要性がある患者と必要がない患者を比較しても再拡張率に影響を与えた要因は特定できなかった.
われわれは,本研究のいくつかの制限を認識している.第1に,遡及的検討は対象症例のリクルートバイアスをもたらした可能性がある.しかしながら,実際の臨床診療では,小腸狭窄を有するほとんどすべての患者において,適応基準を満たせば,EBDを試みているのが現状である.したがって,本研究ではリクルートバイアスは比較的低いと考えられる.第2に,CDに対する種々の治療法が小腸狭窄に影響を及ぼす可能性がある 29).しかし,この研究では,種々の併用療法の種類や内容に関してEBDの成功例と不成功例の間で有意な相違は認めなかった.さらに,本研究でEBDの有効性に影響を与えた要因は特定できなかった.
本研究では,小腸狭窄のEBDがCD患者にとって安全かつ有効な外科手術の代替手段であることが確認された.しかしながら,再拡張率が高いことは,この手技の課題の1つであろう.これらの結果をより正確に確認するためには,より多くの患者をより長い期間観察することが必要である.現在,日本の厚生労働省の難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班が実施している研究プロジェクトの枠組みとして,本治療に関する全国的かつ前向きの多施設研究が進行中である.
CD患者の小腸狭窄に対するDBEを用いたEBDは,短期間の成功だけでなく,手術を避けるという長期的な有効性も提供する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし