GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ESD OF SUPERFICIAL ESOPHAGEAL CANCER ASSOCIATED WITH ESOPHAGEAL ACHALASIA
Satoshi TABUCHI Kazuo KOYANAGIMakoto NISHIMURAKoji NAGATASoji OZAWA
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2017 Volume 59 Issue 6 Pages 1403-1408

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要旨

患者は70歳代の女性.20年以上前より食道アカラシアと診断されていたが嚥下障害の増悪と誤嚥性肺炎を認めた.食道アカラシアは進行シグモイド型(aSg型),Ⅱ度と診断した.また,上部消化管内視鏡検査で胸部上部食道に発赤を伴う0-Ⅱc病変を認め生検にて扁平上皮癌と診断された.NBI(Narrow band imaging)併用拡大内視鏡検査ではbrownish area内にループ様の異常血管を認め深達度T1a(LPM)と診断した.食道表在癌に対するESDを先行施行した.病理検査結果では深達度T1a(LPM),ly0,v0であり内視鏡的治癒切除と判断した.4カ月後に食道アカラシアに対して腹腔鏡下手術を施行した.経過良好で,術後8年の現在において食道癌,食道アカラシアともに再発所見は認めていない.

Ⅰ 緒  言

食道アカラシアに食道癌が合併することはよく知られているが,表在癌で発見され内視鏡的切除を施行した症例の報告は少ない.また,内科的治療が不応な進行をした食道アカラシアには手術療法も考慮される.今回,食道アカラシアに合併した食道表在癌に対してESDを先行した後,腹腔鏡下食道アカラシア手術を施行して良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:70歳代,女性.

主訴:嚥下困難感,咳嗽.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:胃癌(父),乳癌(妹).

生活歴:機会飲酒,喫煙歴なし.

現病歴:約20年前より食道アカラシアと診断されていたが無治療で経過観察されていた.2007年8月頃より嚥下困難感の増悪と肺炎を認めた.前医にて肺炎に対する抗生剤治療後,上部消化管内視鏡を施行したところ食道表在癌の合併を認め紹介受診となった.

入院時現症:特記すべきことなし.

入院時血液検査所見:特記すべき異常なし.

食道X線造影所見:食道は高度に拡張し胸部下部においてL字型に屈曲していた(Figure 1).最大径は4.5cmであった.進行シグモイド型(aSg型),Ⅱ度の食道アカラシアと診断した.食道の異常蠕動波・収縮波も認めた.

Figure 1 

上部消化管造影.

食道の高度拡張とシグモイド型屈曲を認めた.また,食道の異常蠕動波・収縮波も認めた.食道表在癌病変の描出は困難であった.

食道内視鏡所見:食道の拡張・屈曲があり,食道内に残渣・液体の貯留を認め,貯留拡張タイプと診断した.異常収縮波も認めた.また,切歯より22~27cmに前壁中心の約1/2周性の0-Ⅱc病変を認めたが,残渣貯留による粘膜の炎症所見を伴い深達度診断は困難であった(Figure 2-a).NBI拡大観察では日本食道学会分類のType B1血管と診断した(Figure 2-b).また,ヨード染色にて同部位に一致したヨード不染を認めた(Figure 2-c).

Figure 2 

上部消化管内視鏡.

a:通常内視鏡.食道の拡張・屈曲,残渣・液体の貯留,異常収縮波を認めた.発赤を示す0-Ⅱc病変を認めた(矢印).

b:NBI拡大観察.拡張,蛇行,口径不同,形状不均一を示すループ様の異常血管(Type B1)を認めた.

c:ヨード染色.発赤部位に一致したヨード不染を認めた(矢印).

d:超音波内視鏡(20MHz).病変はほとんどが第2層までであった.一部第3層を圧排する下に凸の領域を認めたがあきらかな不整,途絶は認めなかった(矢印).

食道超音波内視鏡(EUS)所見(20MHz):病変のほとんどは第2層までであった.一部第3層を圧排する下に凸の領域を認めたがあきらかな不整,途絶は認めなかった(Figure 2-d).

食道内圧検査所見:下部食道括約筋内圧は18cmH2Oと上昇し食道静止圧は12cmH2Oと上昇を認めた.また,一時蠕動波の消失と同期性収縮波を認め食道アカラシアに特徴的な所見と診断した.

頸・胸・腹部造影CT所見:胸部食道の拡張を認める以外異常を認めなかった.

PET/CT検査所見:異常集積像を認めなかった.

経過:NBI拡大観察所見とEUS所見より0-Ⅱc,深達度T1a(LPM)と診断し,約半周性の病変でありESDの適応と判断した.食道表在癌にESDを施行した後,食道アカラシアに対する手術を行う方針とした.ESD施行時の所見では一部粘膜下層の強い繊維化を認めたが,穿孔なく病変を一括切除した.切除標本病理検査所見は,高分化型扁平上皮癌,0-Ⅱc,48×40mm,T1a(LPM),ly0,v0,HM0,VM0で内視鏡的治癒切除であった(Figure 3).4カ月後の上部消化管内視鏡でESD施行部は瘢痕化し再発所見を認めず,食道アカラシアに対して腹腔鏡下Heller and Dor手術を施行した.経口摂取良好で術後6日目に退院となった.術後8年経過した現在において食道癌再発はなく嚥下障害,逆流症状もなく経過している.

Figure 3 

ESD切除標本.

a:肉眼所見と組織構築図.切除標本は55×45mm,腫瘍径は48×40mmであった(赤線:EP,黄線:LPM).

b:病理組織学的所見(a緑線での断面)(×10,H&E).粘膜筋板への浸潤を認めず,脈管浸潤も認めなかった.

Ⅲ 考  察

食道アカラシアは下部食道括約部の弛緩不全と食道体部の蠕動運動の障害を認める原因不明の食道運動機能障害と定義されている 1.また,食道アカラシアに高頻度に食道癌が合併することは周知のことである 2.アカラシア症例における食道癌発生機序は,Rake 3によると唾液や食物残渣貯留の刺激による長期間の慢性炎症により癌化すると報告されている.しかし,アカラシア術後にも食道癌が発生することより食物残渣のみが発癌要因とすることに否定的な報告もある 4

食道アカラシアに合併した食道癌は発見時には進行癌であることが多く,食道アカラシアに合併した食道表在癌に内視鏡的治療を施行した症例の報告は少ない.その原因として食物残渣の貯留に伴う粘膜の変化などにより食道微小病変の発見が困難であることが考えられる.したがって,内視鏡検査の際には検査前の食事制限や,場合によっては胃管による食道洗浄などの処置を行う等の工夫が必要である.

今回,われわれが医学中央雑誌でアカラシア,食道表在癌,内視鏡治療をキーワードとして1983~2016年の期間で検索した範囲で食道アカラシアに合併した食道表在癌に内視鏡的治療を行った論文報告は自験例を含め13例であった(Table 1 5)~16.年齢は46~81歳(平均65.3歳),男女比は10:3で男性に多かった.病悩期間は9~36年(平均20.9年)であった.食道表在癌の発生部位は上中部に多く,病型はⅡcが多くみられた.組織型は全例扁平上皮癌であった.深達度診断は慢性炎症が背景にあり通常内視鏡観察での診断の困難性が指摘されているが,森ら 13,岡崎ら 16)はNBI併用拡大観察を行い深達度診断での有用性を示している.本症例においてもNBI併用拡大観察によりType B1血管を認め,病理組織学的深達度と合致していた.内視鏡治療は,5例でEMR,8例でESDが施行されていた.2008年まではEMRであったが,それ以降はESDが施行されていた.アカラシア症例の内視鏡治療に際しては食道が屈曲蛇行していることが多く,病変の正面視が困難なことも多いため,体位等の工夫も必要であると考えられる.また,粘膜下層の線維化が強いことや比較的太い血管が粘膜下層に存在することが多く,手技に習熟した専門医にコンサルトすべきであると考えられた.食道アカラシアの治療に関しては,内視鏡的拡張術などの内科的治療を行った症例が5例で外科的治療を行った症例が8例であった.

Table 1 

食道アカラシア合併食道表在癌に対して内視鏡治療を施行した症例.

食道アカラシア症例においては,食道表在癌の合併を念頭においた定期的な内視鏡検査が重要であり,深達度診断にはNBI拡大内視鏡観察が有用であると考えられた.

Ⅳ 結  論

NBI併用拡大内視鏡は食道アカラシアに合併した食道表在癌の深達度診断において有用であった.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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