GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ILEAL PERFORATION DUE TO EATL (ENTEROPATHY-ASSOCIATED T-CELL LYMPHOMA), LOCATED IN THE GASTROINTESTINAL TRACT INCLUDING THE STOMACH AND DUODENUM
Yoshihiro SASAKI Yukihiro KIYATakeshi KAMIJOYusuke SHIMADAMasatake HAYASHIShino OHNOHideo KAMIICHIKazuhiko HIRANONorio KAWAMURASakura TOMITA
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2017 Volume 59 Issue 6 Pages 1422-1427

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要旨

症例は73歳女性で,2015年2月に倦怠感と心窩部痛を認め,上部・下部内視鏡検査を施行した.胃,十二指腸に不整形潰瘍が散在し,造影CT検査で胃,回腸中心に壁肥厚を認めた.胃,十二指腸の各々生検から腸管症関連T細胞リンパ腫(Ⅱ型)と診断した.肺血栓塞栓症で入院となり,その後に回腸穿孔による腹膜炎を認めた.全身状態から外科的加療は困難で,入院14日後(初回受診から36日後)に死亡となった.腸管症関連T細胞リンパ腫は予後不良のT細胞リンパ腫で,通常は回腸・空腸主体の病変を呈する.本症例のように上部消化管内視鏡検査で胃と十二指腸の両方に病変が観察・診断されることは,極めて稀であり,報告する.

Ⅰ 緒  言

腸管症関連T細胞リンパ腫(Enteropathy-associated T-cell lymphoma;以下EATL)は成熟T細胞およびNK細胞腫瘍の亜型として,2008年にWHOで定義された予後不良なT細胞リンパ腫である 1.細胞形態や免疫組織からⅠ型とⅡ型にわかれるが,臨床的な差異はほとんどない 2.病変は小腸主体で,胃と十二指腸の両方に病変が観察・診断されることは,極めて稀である.今回,われわれは,胃と十二指腸に不整形潰瘍が散在し,生検で診断しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

73歳女性.

[既往歴]糖尿病,高血圧,心房細動.

[現病歴]2015年2月に倦怠感・心窩部痛を認め,当院受診となった.上部消化管内視鏡検査では,胃体部後壁を中心とした不整形潰瘍を認め,十二指腸球部から上十二指腸角にも粘膜下腫瘍様の不整形潰瘍が散在していた.悪性リンパ腫を疑い,胃体部後壁,前壁の不整形潰瘍3カ所から5個を生検,十二指腸球部,上十二指腸角2カ所から2個を生検施行した.下部消化管には腫瘍性病変は認めなかった.

入院待機中に呼吸困難・倦怠感が出現し,造影CT検査で右肺動脈主幹部~各葉枝,左肺動脈上葉根部~下葉枝に造影欠損を認めた.肺血栓塞栓症と診断し,初回受診後22日目に当院循環器科に入院となった.

[外来時検査成績]Hb:12.6g/dl,WBC:6,900/μl,Plt:20.7×104/μlと血算には異常を認めなかった.生化学・免疫血清検査では,LDH:280IU/l,IL-2R:958U/ml,CRP:5.42mg/dlと軽度の高値を認めたが,他には異常を認めなかった.

[画像検査]上部消化管内視鏡所見:胃体部後壁から胃角部後壁,小彎を中心に,浅くて広範囲な不整形潰瘍を認めた(Figure 1).穹窿部は粘膜下腫瘍様の潰瘍性病変を認め,体部前壁,前庭部は不整形な浅い小潰瘍性病変が多発していた.十二指腸球部・上十二指腸角に,なだらかに隆起し中心が陥凹したⅡc+Ⅱa様病変あるいは粘膜下腫瘍様の不整形潰瘍を認めた(Figure 2).

Figure 1 

初診時の上部消化管内視鏡検査(胃).

胃体部後壁から胃角部後壁,小彎を中心に,浅くて広範囲な不整形潰瘍を認めた.穹窿部は粘膜下腫瘍様な潰瘍性病変を認め,体部前壁,前庭部は不整形な浅い小潰瘍性病変が多発していた.

Figure 2 

初診時の上部消化管内視鏡検査(十二指腸).

十二指腸球部,上十二指腸角に,なだらかに隆起し,中心が陥凹したⅡc+Ⅱa様病変あるいは粘膜下腫瘍様の不整形潰瘍を認めた.

下部消化管内視鏡所見:回腸末端,全大腸に腫瘍性病変は認めなかった.

胸腹部造影CT:胃体下部中心に広範な壁肥厚を認め,比較的均一な造影効果を呈していた.胃大彎側,小彎側にリンパ節腫大を認めた.骨盤内回腸を中心に,比較的均一な濃度を示す壁肥厚と局所的な拡張を認めた(Figure 3).

Figure 3 

外来時の胸腹部造影CT(水平断).

胃体下部中心に,比較的均一な造影効果を伴う壁肥厚を認めた.骨盤内回腸を中心に,比較的均一な濃度を示す壁肥厚と局所的な拡張を認めた.

[入院後経過]肺血栓塞栓症に対し,ヘパリンナトリウムを2万単位/日で開始し,APTTが45~60秒となることを目標とした.またワルファリンカリウムを2.5mgから開始し,INRが1.5~2.5を目標とした.血栓性素因(アンチトロンビン/プロテインS/プロテインC欠損症,抗リン脂質抗体症候群)は認めず,高齢で心房細動,高血圧の既往はあったが,肺血栓塞栓症の原因は腫瘍性と考えた.

胃と十二指腸病変からの生検による病理組織検査では,中型の異型細胞がびまん性に増殖し,免疫染色ではCD3,CD8,CD56,CD7,bcl-2,granzyme B,TIA-1が陽性でCD20,CD79a,CD4,CD5,CD10,CD30,bcl-6,cyclin D1が陰性であった(Figure 4).EBER in situ hybridizationが陰性で節外性NK/T細胞性リンパ腫が否定され,HTLV-1陰性で成人T細胞リンパ腫も否定された.腸管上皮内にT細胞由来のintraepithelial lymphocytes(以下IELs)を認め(Figure 5),細胞形態と免疫染色からEATL(Ⅱ型)と診断した.

Figure 4 

病理組織検査(胃病変からの生検).

淡明ないし淡好酸性の細胞質を有する,中型の異型細胞がびまん性に増殖していた.

Figure 5 

病理組織検査(十二指腸病変からの生検).

粘膜上皮内にCD3,CD56陽性細胞が浸潤し,intraepithelial lymphocyteを呈していた.

化学療法を予定したが,入院12日目に急激な腹痛を認め,CT検査を施行した.受診時のCTと比較し,腹水増加,free airの出現,リンパ腫病変と思われる骨盤内回腸周囲に,液体貯留と脂肪織濃度の著明な上昇,回腸壁の菲薄化と腸管ガスの突出を認め,回腸穿孔による腹膜炎と診断した(Figure 6).肺血栓塞栓症と穿孔との直接の因果関係ははっきりしなかった.全身状態から外科的加療は困難であり,保存的加療となった.しかし,その後に急激な全身状態の悪化のため,入院14日後(初回受診から36日後)に永眠された.

Figure 6 

入院後の胸腹部造影CT(水平断).

回腸壁の菲薄化と腸管ガスの突出を認めた(➡).

回腸周囲での液体貯留,脂肪組織濃度の上昇から,同部の穿孔による腹膜炎と診断した.

Ⅲ 考  察

EATLはT/NK細胞リンパ腫の亜型で,腸管上皮内T細胞に由来したIELsを特徴とする 1.年間発生率が100万人に0.5~1人 2,すべてのリンパ腫の中での比率は0.25~1.4% 3),4と稀な疾患である.男性が多く,全体の55~65%を占め,平均罹患年齢は60~65歳である 2.Ⅰ型とⅡ型にわかれ,Ⅰ型の比率が66~90%と優位であり 1),2,欧米ではⅠ型の頻度が高く,アジアではⅡ型の頻度が高いという地域差がある 2

Ⅰ型の特徴はceliac sprue病(以下CS病)を基礎疾患とすることが多く,CD56陰性,CD8陰性,CD30陽性の大細胞型リンパ腫である 1.一方Ⅱ型はCS病の合併も少なく,CD56陽性,CD8陽性または陰性,CD30陰性で,単調な増殖を示す小~中細胞型リンパ腫である 1.富田らは本邦でのⅡ型の20症例の免疫組織・ゲノム解析を行った.免疫組織での各々の陽性率は,CD3が100%,CD8が80%,CD56が85%,TIA-1が100%と,従来の報告によく合致し,新たにFISH法で9q34gainが高率に発現することを報告した.細胞形態は中型~大型細胞が65%,小型~中型細胞が25%,中型細胞が10%と報告し,本邦やアジアでのⅡ型が,従来のⅡ型と細胞形態がやや異なる可能性を示唆した 5.Ⅰ型とⅡ型の差異として,Ⅱ型の方が消化管穿孔・腸閉塞などを来たしやすいとの報告もあるが 3,EATL62例(Ⅰ型38例,Ⅱ型20例,不明4例)の検討では,腫瘍径の大きさ以外は臨床的な差がないとされる 2.2016年のWHO分類の改訂により,Ⅰ型は従来のEATLの名称のままであるが,Ⅱ型は単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(monomorphic epitheliotrophic intestinal T-cell lymphoma)に変更される予定である 6.今後は症例の積み重ねで臨床的な差異が明らかにされる可能性もあるが,以下では従来のⅠ型とⅡ型をまとめて述べる.

今回われわれは医学中央雑誌で「腸管症関連T細胞リンパ腫(EATL)」をキーワードとし,1983年~2015年6月までで検索した.会議録でも詳細な記載があったのを含めると43例あり,自験例を加えた44例で検討した.

平均年齢は66歳(47~82歳),性差は男性が33例,女性が11例で,男女比が3:1と男性に多かった.Ⅰ型が2例,Ⅱ型が27例,不明が15例であったが,不明例の全例でCS病の合併が無く,多くがⅡ型と思われる.

罹患部位は,重複を含め,小腸が41例(93.2%)と大半を占め,大腸が7例(15.9%),十二指腸が5例(11.4%),胃が2例(4.5%)であり,本症例は胃と十二指腸の両方に内視鏡所見を呈する初めての報告であった.Delabieらによる報告でも小腸90%,大腸16%,胃8%,鼡径リンパ節6%など,小腸主体であり,表在リンパ節や骨髄等にはほとんど病変を認めないため 2,EATL症例の60%がstage Ⅳで診断される 4

十二指腸5症例での発生部位は,上行部が2例,下行部,水平部が各々1例で,本症例のように球部~上十二指腸角は初めてであった.内視鏡所見は,各々の表現では「2型」,「3型」,「粘膜下腫瘍様」,「全周性の不整狭窄」と進行癌様の形態を呈し,本症例のようなⅡa+Ⅱc様あるいは粘膜下腫瘍様病変の報告は初めてであった.

胃病変は本邦2例目であり,1例目の報告では「胃角部小彎に深ぼれ潰瘍,胃体下部小彎および大彎から上部にかけて地図上の不整形潰瘍」を呈していた.本症例では,浅くて広範囲な潰瘍,粘膜下腫瘍様病変,多発潰瘍を呈していた.

EATLの小腸内視鏡所見は,広範囲な病変を呈することが多く,びまん性・多発性病変を主体とし,粘膜の顆粒状・浮腫状変化,潰瘍や粘膜下腫瘍様病変を呈することが特徴とされる 7)~9.そのため,本症例の胃,十二指腸の内視鏡所見のみからEATLと診断するのは非常に困難である.

症状で最も多いのは腹痛28例(63.6%)で,他には体重減少,下痢,黒色便,倦怠感など,他の消化管疾患と比較し,本疾患に特異なものはなかった.初期症状に乏しく,Sieniawskiらによると,突然の消化管穿孔による腹膜炎で緊急手術となり,診断されるのが約40%であった 4.また高率に消化管の合併症をきたし,今回の集計からも発症時あるいは経過中に消化管穿孔を呈したのは24例(54.5%),腸閉塞を6例(13.6%),瘻孔形成を1例に認め,本症例も消化管穿孔をきたした.

診断方法は内視鏡検査(小腸内視鏡含む)が15例(34.1%)であり,手術(穿孔や治療,開腹生検等)が26例(59.1%),剖検が2例,腹水穿刺が1例であった.

T細胞リンパ腫ではCD8,CD56は各々予後不良のマーカーであり,両者が陽性になると更に不良となる 10.今回集計したEATL44症例のCD別の生存期間・穿孔率,また消化管穿孔の有無による平均生存期間を検討した.CDマーカーの陽性率は,CD3が37例(84.1%),CD8が28例(63.6%),CD56が35例(79.5%)であった.CD8,CD56の片方が陽性で,死亡記載されていたのは6症例であり,その平均生存期間は207日であった.本症例のようにCD8,56共に陽性で,かつ死亡記載のあった14症例での平均生存期間が124日であり,CD8・CD56が共に陽性であると,一般的なT細胞リンパ腫と同様にEATLでも予後不良であった.

CD別の穿孔率は,CD8陽性28例中12例(42.9%),CD56陽性35例中15例(42.8%),CD8,CD56共に陽性である23例中9例(39.1%)に穿孔を認めた.

死亡記載のあった24症例中,消化管穿孔を15例に認め,その平均生存期間は98日であった.一方穿孔しなかった9例での平均生存期間は202日であり,穿孔群の方が予後不良であった.

本症例では胃・十二指腸病変を認めたが,EATLは小腸主体の疾患であり,腹痛や体重減少が持続し,上部・下部消化管内視鏡検査,CT検査で明らかな異常を認めない場合は,まずは負担の少ないカプセル内視鏡による積極的な小腸検索が望まれる.根治的な治療は確立されていないが,早期の診断・治療による症例蓄積により,予後の改善が望まれるところである.

Ⅳ 結  語

上部内視鏡検査にて胃,十二指腸共に病変を認め,観察・診断できえたEATL(Ⅱ型)の極めて稀な一例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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