GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC FEATURES OF LANTHANUM DEPOSITION IN THE GASTRODUODENAL MUCOSA
Masaya IWAMURO Hiromitsu KANZAKISeiji KAWANOYoshiro KAWAHARATakehiro TANAKAHiroyuki OKADA
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2017 Volume 59 Issue 6 Pages 1428-1434

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要旨

当院で胃・十二指腸へのランタン沈着症と診断した10症例について,内視鏡所見および臨床背景を後ろ向きに検討した.10例(男性9例,女性1例)の平均年齢は64.3歳(42歳~77歳)であり,全例が慢性腎不全のため血液透析中であった.炭酸ランタンの服用期間は12~86カ月.全例で胃にランタン沈着があり,通常観察にて白色病変として観察された.拡大観察を行った6例では微細顆粒状の白色沈着物がみられた.3例では十二指腸にもランタン沈着があり,いずれも白色の粘膜を呈した.これらの所見がみられた場合には,ランタン沈着症として経過を追跡する必要があると考えられた.

Ⅰ 緒  言

炭酸ランタン(ホスレノール)は高リン血症の治療薬であり,一般的に高い安全性と忍容性を有することから,透析患者を中心とする慢性腎不全の管理において広く用いられている 1.炭酸ランタン製剤を服用すると,ランタンが胃内で食物に含まれるリンを吸着し,リンとランタンが結合する結果,不溶性のリン酸ランタンが生成される.リン酸ランタンは解離することなく便中に排泄されるため,炭酸ランタンの服用により消化管からのリンの吸収が阻害される.ランタンが消化管から血中へ移行する割合は摂取量の0.002%未満とされており,わずかに吸収されたランタンは主として胆汁を介して便中に排泄される 2.このようにランタンは糞便として体外に排泄されるため,炭酸ランタンを長期にわたって服用しても安 全とされている.

一方で,炭酸ランタン服用者の消化管粘膜にランタン沈着を認めることが2015年に初めて報告されて以降,われわれも含めて複数の研究者から同様の報告がある 3)~13.これまでに報告されている消化管粘膜へのランタン沈着症としては,胃粘膜への沈着が最も多く,種々の内視鏡所見が報告されているが,われわれは自著において自験1例および既報を集計し,“白色の微細顆粒”がランタン沈着症に特徴的な内視鏡像である可能性を報告した 13.しかしながらこれまでに多数例の内視鏡像を解析した報告はなく,その特徴はいまだ明らかとなっていない.そこで今回われわれは,自験10例の胃および十二指腸病変について内視鏡所見の検討を行ったので報告する.

Ⅱ 対象と方法

2015年9月から2016年8月の間に岡山大学光学医療診療部で内視鏡検査および生検を行い,ランタン沈着症と診断された10症例を検討対象とした.ランタン沈着の有無はヘマトキシリン・エオジン染色標本にて判定し,元素分析にてランタンの存在を確認した.10例の年齢,性別,炭酸ランタン服用期間,ランタン沈着部位,内視鏡所見について後ろ向きに解析した.上部消化管内視鏡検査で用いた機器はOlympus社製GIF-Q260,GIF-H260Z,GIF-H290Zおよび富士フィルム社製EG-L580NW,EG-L600ZWであり,大腸内視鏡検査で用いた機器はOlympus社製PCF-Q260AI,PCF-Q260AZIである.

元素分析についてはパラフィン包埋ブロックを薄切し,スライドグラス上に貼付したのちにキシレン(10分,2回)および100%エタノール(5分,3回),80%エタノール(5分),50%エタノール(5分)の順に浸漬し脱パラフィン処理を行い,さらにオスミウムコーター(HPC-1S,真空デバイス社製)にてオスミウム蒸着処理(10秒)したサンプルを使用した.走査電子顕微鏡(S4800,日立ハイテクノロジーズ製)にて観察を行い,含有元素の解析にはエネルギー分散型X線分光法(EDAX Genesis APEX2システム,Ametek社製)にて作成したEDXスペクトルを用いた.

本研究の計画書は岡山大学生命倫理審査委員会の承認を得た(承認番号1608-021).

Ⅲ 結  果

1)患者背景

10例の内訳は男性9例,女性1例であり,平均年齢64.3歳(42歳~77歳)であった.全例が慢性腎不全のため血液透析中であり,炭酸ランタン服用期間が明らかである8例の内服期間中央値は70.5カ月(12~86カ月)であった.腎疾患以外の基礎疾患としては,糖尿病(3例),早期胃癌の内視鏡治療後(2例),透析アミロイドーシス(2例),高血圧症(2例),大腸癌(2例),サルコイドーシス(1例),C型慢性肝炎(1例),AAアミロイドーシス(1例),関節炎(1例),Budd-Chiari症候群(1例)を認めた.内視鏡検査を実施した目的はスクリーニングが最多であり(4例),このほかに早期胃癌の内視鏡治療後の定期検査(2例),便潜血陽性の精査(1例),黒色便の精査(1例),Budd-Chiari症候群に伴う食道静脈瘤の定期検査(1例),アミロイド検索目的(1例)が挙げられた.したがってほとんどの症例でスクリーニング目的または他疾患の精査目的に内視鏡検査が実施されており,内視鏡検査時に消化器症状を伴っていたのは黒色便を呈した1例のみであった.

2)内視鏡所見

10例全例で胃粘膜生検標本内にランタン沈着を認めた.通常観察にていずれも白色の病変として観察され,同部位から生検が実施されていた.広範囲に白色粘膜を呈するもの(Figure 1),発赤陥凹面の周囲を縁取るように環状に白色変化を呈するもの(Figure 2),微細な白色点として認識できたもの(Figure 3 13等があり,多彩な所見を呈した.拡大観察を行った6例ではいずれも微細顆粒状の白色沈着物がみられた.Narrow-band imaging (NBI)観察では微細顆粒状の白色沈着物がより明瞭に捉えられた.特に沈着量が軽微である症例では,白色光観察に比べてNBI観察のほうがランタン沈着部位を容易に同定可能であった(Figure 3).

Figure 1 

胃ランタン沈着症例.びまん性の白色粘膜を呈している(a).拡大観察(b)およびNBI併用拡大観察(c)では微細顆粒状の白色沈着物を認める.

Figure 2 

胃ランタン沈着症例.環状の白色変化を認める(a).他の症例と同様に,NBI併用拡大観察にて微細顆粒状の白色沈着物がみられる(b).

Figure 3 

胃ランタン沈着症例.微細な白色点を認めるが,本症例では通常観察で視認しづらい(a).NBI併用拡大観察では微細顆粒状の白色沈着物が確認できる(b).

白色病変の局在は噴門部・体部1例,体部のみ4例,体部・角部・前庭部3例,角部のみ1例,角部・前庭部1例であった.内服期間と病変の局在や広がり,肉眼所見には明らかな相関を認めなかった.白色病変以外の胃の所見としては萎縮性胃炎(6例),疣状胃炎(3例),黄色腫(2例),内視鏡治療後潰瘍(2例),発赤(2例),腸上皮化生(1例),過形成性ポリープ(1例)がみられた.

10例中3例では十二指腸粘膜生検標本内にもランタン沈着がみられ,いずれも内視鏡検査にて白色の十二指腸粘膜を認めた(Figure 4).

Figure 4 

十二指腸ランタン沈着症例.襞に沿って白色の粘膜を認める.

大腸内視鏡検査は5例で実施されたが,白色の粘膜変化はみられず,うち3例で生検が行われていたが組織学的にもランタン沈着は認めなかった.なおこの3例における生検の目的は大腸癌の精査,大腸ポリープの切除,アミロイドーシスの検索目的が1例ずつであった.小腸内視鏡検査が実施された症例はなかった.

3)病理所見および走査電子顕微鏡,エネルギー分散型X線分光法解析結果

ヘマトキシリン・エオジン染色標本において,沈着したランタンは微細な顆粒状~針状の好酸性物質として認められた(Figure 5).走査電子顕微鏡では高輝度物質として観察され,エネルギー分散型X線分光法を用いた元素マッピングではランタンおよびリンの局在が高輝度物質の局在と合致し,リン酸ランタンの沈着であることを全例で確認した.

Figure 5 

胃粘膜へのランタン沈着.ヘマトキシリン・エオジン染色標本では微細な顆粒状~針状の好酸性物質の沈着を認める(a).走査電子顕微鏡では高輝度物質として観察される(b).エネルギー分散型X線分光法を用いた元素マッピングでは,ランタンおよびリンの局在が高輝度物質の局在と合致し,リン酸ランタンの沈着であることを確認した.

Ⅳ 考  察

炭酸ランタン製剤として,本邦ではホスレノールチュアブルが2009年から,ホスレノール顆粒が2012年から処方可能となっている.炭酸ランタンは胃内pHにかかわらず高いリン除去効果を示すため,酸分泌抑制剤投与下でも高いリン除去効果を示す.また炭酸ランタンの副作用として悪心や嘔吐,便秘などの胃腸障害が出現しやすい 14ものの,前述の通り高い安全性と忍容性を有しているため,現在では炭酸ランタンは広く使用されている.

消化管粘膜へのランタン沈着については2015年以降,本邦の病理医を中心に複数の報告がある.内視鏡検査における胃の肉眼所見としては“胃粘膜の襞に沿った白色肥厚”,“襞状の白色肥厚”,“環状の白色肥厚” 3,“多数の微小かつ不整な白色点” 5,“びまん性の顆粒状の白色粘膜” 9),11や“微細顆粒状の白色変化を伴う発赤域”のように白色の病変として記載されていることが多い.また“びらん”,“ポリープ” 7,“潰瘍” 6なども報告されているが,“びらん”と記載された報告においても,図示された内視鏡写真では微細顆粒状の白色部分が確認できる 7),12.今回のわれわれの検討では,10例全例で白色病変が認識でき,“びまん性の白色粘膜”,“環状の白色変化”あるいは“微細な白色点”のように症例により通常観察による所見は異なっていたが,拡大観察ではいずれも微細顆粒状の白色沈着物が視認できた.また,十二指腸にランタン沈着を認めた3例についても,内視鏡検査にて白色の十二指腸粘膜を認めた.したがって,胃・十二指腸粘膜内のランタンは通常光観察では白色病変として視認され,拡大観察では白色の微細顆粒状沈着物として観察されると考えられる.またランタン沈着の多寡により通常観察での所見に差異が生じると推測されるが,このうち“びまん性”や“環状”の白色病変を呈する場合は認識が容易であるものの,“微細な白色点”を呈する症例では通常観察で病変を捉え難い場合があり,NBIを併用した拡大観察が有用であった(Figure 4 15

胃において白色もしくは褪色調を呈する病変としては,腸上皮化生,黄色腫,多発性白色扁平隆起,潰瘍瘢痕などの非腫瘍性病変のほか,腺腫,癌,カルチノイド(神経内分泌腫瘍G1),リンパ腫などの腫瘍性病変までが含まれる.これらの病変は典型的にはびまん性の白色粘膜や環状の白色変化,微細な白色点を呈さず,自験例におけるランタン沈着症例との鑑別は比較的容易と推測されるが,ランタン沈着が通常観察においてどのような肉眼像を呈するかについてはさらなる症例の集積および解析が必要であろう.また拡大観察にて微細顆粒状の白色沈着物が散在性にみられる点はランタン沈着に特徴的な所見と考えられ,他疾患との鑑別に有用である可能性がある.

消化管に沈着したランタンはヘマトキシリン・エオジン染色標本にて微細な顆粒状~針状,不定形の好酸性物質として観察される.炭酸ランタンの服用歴があることが確認できれば,ヘマトキシリン・エオジン染色標本のみでもランタン沈着と診断することは可能である.走査電子顕微鏡観察では沈着したランタンが高輝度物質として観察され(Figure 5-b),沈着部位と非沈着部位のコントラスト比が高いことから,沈着したランタンを同定することがより容易となる 15.電子顕微鏡観察に引き続いてエネルギー分散型X線分光法解析を行うことで,視野内の元素構成比を解析することが可能である.なお前述の通り,消化管粘膜内でランタンはリンと結合して存在しており,高輝度物質に一致してランタンおよびリンが検出できる 4),5),7)~13),15

自験例の炭酸ランタン服用期間は中央値70.5カ月であり,最短の症例は12カ月であった.浪江らは炭酸ランタンの服用期間が長い患者において,消化管粘膜へのランタン沈着量が多くなる可能性を指摘している 3が,Yabukiらは炭酸ランタンを3カ月間服用した患者の胃切除標本においてランタン沈着を検出したと述べており 8,服用期間が短い患者でも消化管粘膜にランタン沈着を生じうる.またGotoらは炭酸ランタン服用中の14症例の胃生検標本を再解析し,12症例(85.7%)にランタン沈着を認めたと述べている 10.したがって,服用期間の長短に関わらず,炭酸ランタン使用歴のある患者については上部消化管内視鏡検査の適応と考えられる.

慢性腎不全患者において種々の薬剤の成分が胃や十二指腸に沈着することは以前より知られており,利尿剤や降圧剤服用中の患者における粘膜の黒色変化は偽メラノーシス(pseudomelanosis)と称される 16.消化管も含めて臓器障害が続発することはなく,偽メラノーシスがみられたとしても一般的に薬剤の中止を要しない 9.これに対して,消化管粘膜にランタンが沈着した場合の病的意義は明らかとなっておらず,このような症例で炭酸ランタン製剤の服用を中止すべきか否かについては現時点で定まった見解がない.Rothenbergらは胃および十二指腸にランタン沈着を認めた症例において,炭酸ランタン服用中止3カ月後の内視鏡検査下生検で組織学的に胃と十二指腸のランタン沈着症の改善がみられたと記している 6.Yabukiらの報告によれば,胃癌で胃切除およびリンパ節郭清を行った慢性腎不全患者の3症例について,胃粘膜内にランタン沈着を認めたほか,胃癌の転移とは無関係な複数の周辺リンパ節にもランタン沈着を検出したという 8.このことから消化管粘膜に沈着したランタンはリンパ流を介して除去されるのではないか,と推測している.一方で浪江らは服用中止後8カ月を経過しても内視鏡所見が不変であった,と述べており 3,胃粘膜内へいったん沈着すれば非可逆性である可能性は否定できない.内服中止により沈着量が減少するかどうか,また内服継続により蓄積性に沈着量が増加するかどうか,ひいては消化管粘膜へのランタン沈着が病的意義を有するか否かについては結論がでていない.また,炭酸ランタン服用者における消化管粘膜へのランタン沈着の有病率も現時点では明らかになっておらず,今後の検討が必要である.

このように現時点では病的意義や有病率が明らかとなっていないため,消化管粘膜にランタン沈着を認める場合には,炭酸ランタン製剤の内服継続の是非に関しては主治医の裁量に委ねるべきであるが,定期的に内視鏡検査を行い白色病変の推移を追跡することで,本症が生体に与える影響を解明する一助となると考えられる.

Ⅴ 結  論

胃および十二指腸粘膜へのランタン沈着は,内視鏡検査にて白色病変として認識できると考えられた.また拡大観察では微細顆粒状の白色沈着物として捉えられた.消化管粘膜へのランタン沈着については病原性が明らかとなっていないが,これらの所見がみられた場合には,ランタン沈着症として経過を追跡する必要があると考えられた.

謝 辞

走査電子顕微鏡観察およびエネルギー分散型X線解析を行っていただいた浦田晴生様(岡山大学医学部共同実験室)に深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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