GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SELF-EXPANDING METALLIC STENT IMPROVES HISTOPATHOLOGICAL EDEMA COMPARED WITH TRANSANAL DRAINAGE TUBE FOR MALIGNANT COLORECTAL OBSTRUCTION
Hiroshi TAKEYAMA Kotaro KITANITomoko WAKASAMasanori TSUJIEYoshinori FUJIWARAShigeto MIZUNOMasao YUKAWAYoshio OHTAMasatoshi INOUE
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2017 Volume 59 Issue 6 Pages 1444-1453

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要旨

【背景と目的】閉塞性大腸癌症例における術前減圧法としての大腸ステント(self-expanding metallic stent:SEMS)の有用性を経肛門イレウス管(transanal drainage tube:TDT)および減圧不成功により緊急手術となった症例(emergency surgery after failure of decompression:ESFD)と,病理組織学的変化を含めて比較検討した.

【対象と方法】2010年1月から2015年6月までの術前減圧処置を試みた閉塞性大腸癌患者39例のデータを解析した.留置成功率,臨床的減圧成功率,切除標本の病理組織学所見について解析した.浮腫の程度については病理組織学的に評価を行った.

【結果】留置成功率はSEMS群で100%,TDT群で78.9%であった.臨床的な減圧成功率はSEMS群で100%,TDT群で80.0%であった.術後腸閉塞はSEMS群でTDT群より有意に少なかった(P=0.014).病理組織学的な浮腫の程度はSEMS群でTDT群より有意に改善していた(P<0.0001).TDT群において,浮腫の程度は減圧期間と相関を認めなかった(P=0.629),一方SEMS群はすべての症例で浮腫は軽度であった(浮腫grade 0-2).人工肛門造設率は浮腫の程度が強い群(浮腫grade 3)において低浮腫群(浮腫grade 0-2)よりも高かった(P=0.003).病理組織学的に穿孔を認めた症例は認めなかった.

【結論】SEMSはTDTと比較して病理組織学的に有意に浮腫を改善させていた.この結果はSEMSがTDTと比較して,臨床的に良好な成績を得ている一因を示唆していると考えられる.

Ⅰ 背  景

大腸癌患者において,初発症状の20%が閉塞症状である 1.閉塞性大腸癌(malignant colorectal obstruction:MCO)に対する,これまでの最も一般的な治療は,術前減圧処置を伴わない緊急手術であった.緊急手術の方法としては一期的手術から三期的な手術までの方法があった 2

最近,MCOに対して術前に減圧処置を行うことが普及してきている.大腸ステント(self-expanding metallic stent:SEMS)もしくは経肛門イレウス管(transanal drainage tube:TDT)留置などの非外科的治療による術前減圧や術中洗腸で直接拡張した大腸を減圧することで,外科的安全性が改善する 3),4.中でもSEMSやTDTにおいては一期的吻合の成功率の改善が期待できる3),4).特にSEMSは術前減圧に効果的であり,減圧により緊急手術を回避し予定手術を行うことができ,周術期合併症を減少させ,人工肛門造設を回避できると多くの報告がある 5)~8

SEMSの術前減圧処置を伴わない緊急手術に対する優位性は多く報告されているが,TDTに対する優位性の報告はほとんどされていない 9.さらに,多くの報告で臨床的なSEMSの有効性を示しているが,SEMS留置後の病理組織学的変化における検討は十分にはなされていない.減圧後の組織について病理組織学的変化を解析することで,SEMSが臨床的に有用である一因を明らかにすることができると考えた.

本研究は,SEMSで減圧処置を行った群とTDTで術前減圧処置を行った群と減圧処置不成功で緊急手術を行った群(emergency surgery after failure of decompression:ESFD)の3群において病理組織学的変化を含めてSEMSの有効性について後方視的に検討した.

Ⅱ 対象と方法

症例

2010年1月から2015年6月まで近畿大学医学部奈良病院で術前減圧処置を受けたMCO症例39例.適格基準は,画像上で大腸の拡張を認め,持続的な減圧を必要としている状態であることとした.大腸ステント安全研究会による大腸閉塞スコアでは,全症例がスコア0であった 10.除外基準は,腹膜炎・腸管壊死・穿孔・右側結腸とした.周術期の結果と病理組織学的所見について評価した.すべての医療処置は経験のある消化器外科医と消化器内視鏡医によって行われた.

患者選択はランダム化されておらず,減圧処置方法の選択は単純に治療時期により決定された.2010年の1月から2012年12月の期間の初期治療はTDTであり,TDT不成功例にはESFDが施行された.2013年1月から12月の期間の初期治療はTDTであり,TDT不成功例にはSEMSが施行された.2014年1月から2015年6月の期間の初期治療はSEMSであった.後方視的に医療記録および臨床所見を検討した.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,近畿大学医学部奈良病院倫理委員会の承認を得て行った(No.326).

TDT留置方法

TDTは既に過去に報告されている手順に従って行った 11.緊急大腸内視鏡(CF-Q260 or PCF-Q260J:オリンパス社製)を行い,内視鏡下にガイドワイヤーを留置し,ガイドワイヤー下に22-Frデニスチューブ(Covidien社製)を留置した.まず,内視鏡で閉塞部位を同定し,ガストログラフィンで閉塞の距離を確認,内視鏡下および透視下にガイドワイヤーが閉塞部位を超えるように留置した.内視鏡を抜去し,ガイドワイヤー下にTDTを留置し20ccの蒸留水でバルーンを膨らませて手技を終了とした.

SEMS留置方法

1例のみにWallFlex 22mm(Boston Scientific 社製)を使用し21例にはNiti-S 22mm(TaeWoong社製)を使用した.方法は,緊急内視鏡を行い,内視鏡チャンネルを通して,狭窄部へガイドワイヤーを通過させて,そのまま内視鏡下にガイドワイヤー沿いにステントを留置した.狭窄長を透視下に測定し留置するステント長を決定した.拡張前のステントは内視鏡チャンネルを通過できる細径であり,すべての手技は内視鏡観察下に行うことが可能であった.

手技成功および臨床的成功

手技成功は減圧器具の留置成功と定義した.臨床的成功は閉塞症状(腹部膨満,嘔吐,腹痛,ガスや排便停止)の改善と定義した 12

手術手技

すべての症例は経験豊富な消化器外科医によって,原発巣に関しては腫瘍学的に標準的な治癒切除が行われた.

切除標本の組織病理学的評価

すべての標本は病理医2名によって独立したブラインド解析が行われた.評価が分かれた症例は一致した評価が得られるまで再検討された.腫瘍から5cm口側腸管を用いて病理学的浮腫の程度を評価した.間質の浮腫を以下の4つにgradingした.grade0は閉塞の口側と肛門側において粘膜下層の所見にほとんど差がない状態,grade1は粘膜下層の微小血管が拡張し,赤血球で満たされた状態,grade2は粘膜下層の微小血管が拡張し間質成分が疎になっている状態,grade3は粘膜下層の微小血管が拡張し間質成分が疎になり,粘膜下層の厚みが1.5mm以上もしくは固有筋層よりも厚くなった状態,であると定義した.各gradeの代表的な画像をFigure 1に示した.

Figure 1 

病理組織学的浮腫の各gradeの代表的画像.

統計解析

統計学的手法としては,統計ソフトJMP Pro version11(SAS社製)を用いて行った.連続変数は平均値と標準偏差にて表記し,カテゴリー変数は頻度とパーセントで表記した,その他の記載は適宜特記した.統計手法はWilcoxons rank test,Kruskal-Wallis test,Steel testまたはχ二乗検定を用いた.Steel testはSEMS群との比較を行った.P<0.05をもって有意差ありと判定した.

Ⅲ 結  果

患者背景

減圧処置の効果を比較するために手術直前に行った処置によって症例を群分けした(Figure 2).全39症例において通算手技試行症例は,SEMSは22例(2例はTDTから手技もしくは臨床的不成功例からの移行例),TDTは19例であった.TDTの手技成功例は15例であり,臨床的成功例は12例であった.TDTの手技不成功例4例のうち1例はSEMSへ移行し,3例はESFDへ移行した.TDTの臨床的不成功例3例のうち1例はSEMSへ移行し,2例はESFDへ移行した.最終的には39例の内訳は,SEMS 22例,TDT 12例,ESFD 5例となった.

Figure 2 

治療経過のフローチャート.

患者背景はTable 1に示した.性別,年齢,腫瘍径,分化度,閉塞部位,TNM分類について群間で有意差は認めなかった.米国麻酔科学会(American Society of Anesthesiologists:ASA)スコアについてはSEMS群が他群より有意に不良であった(P<0.01).

Table 1 

患者背景.

減圧処置の手技成功および臨床的成功率

手技の結果はTable 2に示した.TDT手技不成功4例のうち,1例はSEMSへ,3例はESFDへ移行した(Figure 2).TDT留置後に臨床的不成功であった3例のうち1例はSEMSへ,2例はESFDヘ移行した.手技成功率も臨床的成功率もSEMSの方がTDTよりも有意に高かった(P=0.024,0.029).手技および臨床的成功を両方加味した成功率を考えると,SEMSはTDTよりさらに高い成功率であった(P=0.002).

Table 2 

減圧処置の手技および臨床的成功率.

MCOに対する手術治療成績

MCOの手術治療成績をTable 3に示した.SEMSはESFDと比較して,人工肛門造設を伴わない一期的吻合(one-stage anastomosis without stoma:OSAWS)と腹腔鏡手術の割合が有意に高く(P<0.001,<0.0001),出血量が有意に少なく(P=0.019),術後在院期間が短かった(P=0.033).SEMSとTDTの比較では,減圧器具の留置期間,腹腔鏡手術の開腹移行率,手術時間,術後イレウス以外の術後合併症,などにおいて統計的有意差は認めなかった.術後イレウスのみSEMSはTDTより有意に少なかった(P=0.014).

Table 3 

閉塞性大腸癌の減圧後の治療成績.

減圧処置後の組織における病理組織学的浮腫の変化と顕微鏡的穿孔の解析

浮腫gradeの平均スコアはSEMSで他の群より有意に低かった(P<0.0001).どの群においても顕微鏡的検索で穿孔は認めなかった(Table 4).

Table 4 

病理組織学的所見.

浮腫の程度と減圧期間の相関

39例を浮腫の強い群(浮腫grade3)と浮腫の弱い群(浮腫grade 0-2)の2群に分けて解析した.TDTにおいては2群間で減圧期間に有意差は認めなかった(P=0.629).SEMSにおいてはすべての症例が浮腫の弱い群に分類された(Figure 3).

Figure 3 

浮腫gradeと減圧器具留置期間の関係.

In the TDT group, there was no significant difference between edema grade and duration of decompression (p=0.629). In the SEMS group, all patients were classified in a low edema group (edema grade 0-2). p<0.05, Wilcoxon rank test.

人工肛門造設と病理組織学的浮腫の相関

人工肛門造設の有無と病理組織学的な浮腫の程度は有意に相関していた(P=0.003)(Table 5).

Table 5 

人工肛門造設と病理組織学的浮腫の相関.

Ⅳ 考  察

システマティックレビューではSEMSの手技成功率は90-100%,臨床的成功率は84-94%と報告されている 13),14.本検討では,SEMSの手技および臨床的成功率は100%,TDTでは約80%であり,SEMSは手技的にも臨床的にも有意に成功率が高かった.手技および臨床的な成功を両方加味して検討するとSEMSはTDTよりさらに成功率は高くなった.SEMSはすべての手技を完全に内視鏡下に行うことができる所謂“through the scope:TTS”法であり,ガイドワイヤーを通して透視下に留置を行う“over the wire:OTW”法であるTDTよりも高い手技成功率につながったと考えられた.実際TTS法はOTW法よりもSEMS留置の手技的に有用であると報告されている15.また,SEMSはTDTよりも内腔が大きいためにまた臨床的成功率が高いと考えられている 16

本検討において,ESFD群よりもSEMSおよびTDT群において,腹腔鏡手術率,D3リンパ節郭清率,OSAWS率が高く,術後在院期間が短く,術中出血量が少なかった.SEMS留置後に開腹手術が行われた症例は,減圧が不十分であったからではなく,卵巣・尿管・小腸などへの浸潤を認めていたことが理由であった.以上の結果より,これまでの報告と一致し,十分な術前の減圧は手術成績および術後成績の向上につながると考えられた 5)~8.しかし本検討ではESFD群の症例が少なく,手術根治度(癌遺残R0-2)などについては差を認めなかった.

OSAWSはSEMSとTDTのすべての症例について行われたが,1例も縫合不全を認めなかったためにSEMSとTDTにおいては差を認めなかった.しかし術前減圧が不十分なESFDと比較すると減圧処置を行ったSEMSおよびTDTではOSAWS率は高かった.縫合不全の機序としては,閉塞部より口側に便が貯留し,腸管が拡張することで腸管壁に浮腫や血流障害が起こり,縫合不全が増加すると考えられている 17)~20.さらに,たとえ減圧後でも,減圧からの手術までの期間が短い不十分な減圧では縫合不全率は高いと報告されている 20.そこで,縫合不全を避ける方法として時折人工肛門が術中に選択される.実際,術前減圧を行った症例では人工肛門造設率が低く一期的吻合率が高いと報告されている 4

OSAWSの施行の選択は術中の腸管の状態による.手術中にはしばしば閉塞部位より口側の腸管の浮腫状変化を認める.肉眼的な浮腫状変化を認めた際にはOSAWSを行わないことが多い.吻合部の浮腫は,吻合部の治癒過程が悪く,縫合不全へとつながる 21.ゆえに今回われわれは腸管の浮腫が治療成績と関係しているのではないかと推測し,病理組織学的に浮腫の状態を評価した.大腸癌の手術においては吻合部再発を回避するために少なくとも口側5cmのマージンをとって切除を行う 22.よってわれわれは吻合部となり得る腫瘍より口側5cmの部位の浮腫を評価した.結果としては,SEMSはTDTより病理組織学的な浮腫の改善を認めたが,予想に反して,TDTとESFDとでは有意差は認めなかった.

減圧期間が腸管の安静と相関している可能性があると考え,減圧期間と浮腫の程度を解析した.TDTでは浮腫の程度と減圧期間の相関は認めず,SEMSにおいてはすべての症例が低浮腫群(grade 0-2)であった.この結果より,TDTは減圧効果が不確実であり,必ずしも腸管浮腫の改善を期待できるわけではないと考えられた.この点においてもSEMSはTDTより効果的であると考えられた.

さらに,浮腫の程度と手術術式,つまりOSAWSの選択について相関が認められた.OSAWSは浮腫grade3の症例では60%しか選択されなかったのに対して,浮腫grade 0-2の症例では96.6%で選択されていた.手術中の腸管の肉眼的所見に基づいて術式は選択されるが,この術式選択は顕微鏡的所見とも相関していたことが示された.しかし,肉眼的所見を反映する術式と顕微鏡的所見は完全には一致していなかった.OSAWSは浮腫grade3であったTDTの4症例において施行されていた.本研究は症例数が少なく,幸い縫合不全症例を認めなかったが,これらのように顕微鏡的に浮腫が強い症例においてOSAWSを選択したことは安全面において不確実であった可能性がある.SEMSは手術中に肉眼には観察・判断できない顕微鏡的な浮腫まで改善させることができると考えられた.

最近の研究で,SEMS留置後症例において局所再発が多いと報告されている 23.この理由としては腫瘍の穿孔により腹腔内へ腫瘍細胞が散布されるからではないかと考えられている 3),23),24.しかし本研究では,無症状の穿孔も含めていずれの症例にも穿孔は認めなかった.これの一因としては軟らかいステントであるNiti-Sステントを使用したことである可能性がある.Niti-Sステントは穿孔率が低いという報告がある 25)~27.硬いステントは軟らかいステントより,穿孔・びらん・潰瘍が高率に認めるとも報告されている 25),26),28),29

本研究ではいくつかのlimitaionがある.1つ目として,本研究は症例数の少ない後方視的研究である.無作為研究ではなく後方視的研究であるので研究デザインに影響をうけている可能性がある.ASA分類において,SEMS症例ではASA分類スコアが不良であった.しかし本研究で解析した症例はすべてASA分類で1もしくは2であり,この違いは臨床的結果についてはあまり影響しないと考えた.2つ目は,縫合不全症例を認めなかったために決定的な臨床的結論が出せなかったことである.3つ目は,手術直前の減圧治療法についてのみ評価した点である.Figure 1に示す通り,TDTは手技,臨床的不成功例で別の治療へ移行した症例が数症例ある.これらの不成功例をTDT症例として含めるとSEMSの有効性はさらに示すことができたと考えられる.

結論として,本研究においてSEMSはTDTと比較して,手技的・臨床的優位性だけでなく組織病理学的にも優位性を認めた.本研究はSEMSがTDTと比較して,MCO症例の切除腸管において病理組織学的に浮腫を優位に改善させていたことを示した初めての報告である.この結果は,SEMSがTDTやESFDよりも良好な臨床成績が得られている一因である可能性がある.しかし,病理学的な浮腫と術後成績の直接的な関連は十分には示すことができなかった.本研究結果をより確実なものにするには,さらに大規模なランダム化研究が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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