要旨
内視鏡分子イメージングは,従来のイメージング技術とは異なる方法でターゲット分子の局在,機能,性質を付加情報として与えることができる新たな技術である.本技術の確立には,1)病変における特異度・感度ともに高いバイオマーカーの発見・確立,2)バイオマーカーとの親和性が高く,明瞭なシグナルを産出可能な蛍光プローブの存在,3)低侵襲でリアルタイムに高解像度のイメージを供給可能な画像機器の開発の3点が重要な要素となる.本技術は,消化管癌に対するスクリーニングのみならず,治療方針の決定や治療効果の判定に応用が可能と考えられる.抗体医薬,低分子化合物の普及などに伴い治療と診断を融合したTheranosticsの臨床応用が期待され,内視鏡分子イメージングは個別化医療においても中心的な役割を果たすと考えられる.
Ⅰ はじめに
米国生体医工学会(American Institute for Medical and Biological Engineering:AIMBE)は,20世紀後半における臨床医学に最も貢献した医療機器の一つとして1970年代の内視鏡を殿堂入りさせた.以来,恒常的に進化し続けてきた消化器内視鏡において,イメージングと治療技術という2つの要素の相乗効果による成果は不可分であるが,前者が貢献した部分は多大である.「イメージング」は,対象の情報を様々な方法で測定して画像化すること,あるいは用いる技術を指すものであり,内視鏡診断学の支柱である.2006年に米国消化器内視鏡学会(American Society of Gastrointestinal Endoscopy:ASGE)は「Diagnostic Endoscopy 2020 vision」と題して,消化器内視鏡診断学の近未来を予測する記事を掲載した
1).ここにEndoscopic molecular imaging(内視鏡分子イメージング)なる技術用語が初めて登場し,予見について記されている.
その2020年を数年後にひかえた日本では本格的な高齢化社会を迎え,内視鏡が扱うべき担癌症例の急増が懸念されている
2).消化器癌においては,早期における診断および治療がその予後を左右する.消化器内視鏡は消化管病変の存在診断,鑑別診断,治療という多様なフェーズで異なる役割を担っている(Figure 1)
3).内視鏡診断の目的は低侵襲,高感度,短時間という条件の予防医学レベルでの癌の超早期診断,癌のハイリスクグループに対するスクリーニング効率化,癌の種類や悪性度の判定,病変範囲の特定,治療効果判定など多彩である.近年のニーズ増加と技術革新が相まってここ数年でイメージング技術は著しく進歩し,臨床現場では様々なオプションが選択可能となったばかりでなく
4),5),ガイドラインにおける位置づけも高まりつつある.内視鏡下において癌由来の自家蛍光や光の吸収・反射を応用する分光イメージング技術は臨床現場に広く定着し
6),7),細胞の構造を可視化する超拡大ないし顕微内視鏡による手法も臨床応用が進んでいる
8),9).さらに,癌の分子動態が解明され,各種の分子標的薬剤が投与可能となった今日において,内視鏡診断技術とバイオマーカーとの組み合わせによる内視鏡分子イメージングの登場は現実味を帯びつつある
10),11).
内視鏡分子イメージングの確立には,1)病変における特異度・感度ともに高いバイオマーカーの発見・確立,2)バイオマーカーとの親和性が高く,明瞭なシグナルを産出可能な蛍光プローブの存在,3)低侵襲でリアルタイムに高解像度のイメージを供給可能な画像機器の開発の3点が重要な要素となる
12).本稿では消化管癌を中心に内視鏡分子イメージングの現況と今後の展望について述べる.
Ⅱ ターゲット分子
消化管癌は食道,胃,十二指腸,小腸,大腸のいずれの臓器からも発生する.したがって広範囲な領域が腫瘍発生母地となりうる.これまでの研究では罹患数を反映して,大腸癌,胃癌,特に欧米ではバレット食道癌に焦点がおかれている
13)~17).標的分子にはこれらの疾患で高率に変異や高発現が確認されているAPC,K-RAS,p53,マイクロサテライト不安定性,アポトーシス関連分子などが選択されている
14),18),19).また,高分子糖タンパクであるムチンはコア蛋白の解析が進み,様々な癌種において特異的に発現していることが解明されてきた
20),21).癌細胞で発現するepidermal growth factor receptor(EGFR)
22),23),vascular endothelial growth factor(VEGF)
10),cacinoembryonic antigen(CEA)
13),16)も重要なバイオマーカー候補となる.EGFRに代表される細胞膜表面に発現するレセプターは抗体型プローブで認識しやすいといった利点がある.近年では抗EGFR抗体薬,抗VEGF抗体薬を用いる治療が診療ガイドラインに掲げられ普及が進んでおり,治療すべき分子標的を内視鏡で可視化するという考え方はprecision medicineとしても合理的である
24).しかし,癌の形成過程においては多段階的に様々な因子が介在しているとともに
25),各分子の発現もheterogeneousであることを十分に認識し,複数の分子マーカーを同一の病変に反応させるなど精度を高める工夫が望まれる
26).また,癌幹細胞に関する研究は癌種を問わず,これからの治療において重要な課題であるが,癌幹細胞を標的とした分子イメージング研究も実現に向けてすでに動き始めており,今後の展開に期待が寄せられている
27),28).
Ⅲ 認識プローブ
標的分子を認識するプローブは一般的にexogenousに投与されるが,バイオマーカーに対する高い親和性と特異性,指標として用いる蛍光マーカーとの結合力とがあわせて求められる.これらには抗体,抗体フラグメント,ペプチド,activatable probe(活性型プローブ),nanoparticle(ナノ粒子)などがあげられるが,それぞれに特徴的な利点と弱点とがある
29)~32)(Figure 2).抗体はこれまでにも様々な種類が蛍光色素でラベルされ,応用が進められてきた
33),34).抗体は分子量が大きいために粘膜面までのデリバリーや腎障害,全身投与におけるアレルギー反応などが問題点として指摘される半面,ヒト化抗体医薬の開発が進んでいる現在では,コンパニオン診断薬としての実用化に期待が寄せられている.ペプチドはファージディスプレイ手法により目的とするアミノ酸分子を選択することが可能で蛍光ラベルも容易である15).特異性が高く,細胞内での局在が高いことも利点である.Activatable probeは定常状態では無蛍光あるいは微弱蛍光を発するのみであるが,腫瘍に関連する酵素などの存在下ではじめて強い蛍光を発するしくみであり,従来のon-off型のデザインとは異なるユニークな構造を有している35).蛍光団と基質が一体化していることから,蛍光色素をラベルする必要がないことも利点の一つである.
Ⅳ 蛍光マーカー
蛍光マーカーについてはいくつかの有力な化合物が研究用としてではあるが既に利用可能である.Thermo Fisher Scientific社からのAlexa FluorやGE Healthcare社からのCyDyeシリーズは光安定性が高く,pHの影響も受けにくいことから抗体やペプチドの標識に適している.浦野らの開発した光誘起電子移動(Photoinduced Electron Transfer;PeT)を設計原理とするactivatable probeでは蛍光量子収率を精密に予測することも可能となっている
35).筆者らはインドシアニングリーンを母核とした標識物質を開発してきたが,特徴は赤外線領域における蛍光を利用していることである
36),37).赤外線域には,①生体内で自家蛍光がみられないためノイズが出にくい,②組織透過性が高く深部の診断が可能,③生体への安全性がより高いといった利点があげられる
38)~41).Quantum dotも近赤外光に反応する物質であるが,核となる部分がカドミウムなどの物質で構成されているため生体への安全性が懸念され,臨床応用に向けてはさらなる工夫が望まれる
42).
Ⅴ イメージング機器
臨床応用へのステップとして,ターゲットの深さの位置を反映する視認性,反応している化合物の定量化,複数の化合物を投与してmultiplexなイメージが得られることなどが機器に求められる要件である.共焦点レーザー内視鏡(Confocal laser endomicroscope:CLE)はreal timeに約1,000倍の拡大画像が得られるばかりでなく,焦点深度を0~250μmの範囲で調節可能な機種であり,acriflavineやfluoresceinといった蛍光色素を利用して励起された光情報を解析ならびに可視化できる機種である.バレット食道や炎症性腸疾患の診断に関する報告のみならず,最近では内視鏡分子イメージングのツールとして注目を集めている
10),23).共焦点レーザー内視鏡を分子イメージングに用いる場合は,その蛍光シグナルが組織の,さらには細胞のどのエリアから産出されているかを観測することが可能である.一方,筆者らも赤外線領域に感度を有するバンドパスフィルターを用いて蛍光内視鏡を試作し,その実用性には一定の成果を得た
39),40).共焦点や超拡大といった機能を有することは十分条件であるが,分子イメージング内視鏡では目標とする物質のシグナルとバックグラウンドとのコントラスト,つまりS/N比(signal-to-noise ratio)に重点が置かれるべきと考えられる.分子イメージング内視鏡が実験用機器としてではなく,実臨床の現場で応用されるためには,モダリティがこの条件を十分に満たすとともに,どれほど低侵襲かつ短時間で目的とするシグナルをイメージに結びつけることができるかが重要なポイントとなる.
Ⅵ 投与方法
蛍光プローブを静脈注射による全身投与にすべきか,あるいは局所散布すべきかといった方法論については目的用途や投与するプローブの特性などで判断する必要がある.抗体等の静脈内投与では腎障害をはじめとする副作用の問題が大きな障壁となるが,前述したように近年では分子標的治療薬としてヒト化モノクローナル抗体の投与も各種の疾患で可能となっており,病変に集積する性質を有する薬剤(低分子化合物など)と観測プローブとの組み合わせにも期待が持たれている.局所散布の場合は,腫瘍が露出していることが前提となり,消化管における粘液の存在がコンタクトに大きく影響を及ぼすことが推察される.いずれの投与方法を選択するにせよ,診断薬としての投与物質のpharmacokineticsおよびpharmacodynamicsについて市場に登場するまでに十分に解析される必要がある
24).
Ⅶ 内視鏡分子イメージングがもたらす影響
バレット食道からの腺癌発症率は0.5%/年であり,high grade dysplasia(HGD)から浸潤癌への進展は概ね5年以内に30~35%と高いうえに腺癌の5年生存率は10%程度と低い.欧米ではバレット食道におけるdysplasiaの診断と治療が喫緊の課題であるが,日本でも対策を整える必要性が高まっている
43).Low grade dysplasia(LGD)を含め,バレット食道におけるdysplasiaはmultifocalに生じることから,欧米ではエビデンスに基づき,シアトルプロトコールと呼ばれる1~2cmごとに4カ所から生検組織を採取する方法が一般的に行われている
44).精度を上げるためにjumbo biopsy forcepsを用いることも多くある(Figure 3-a)が,侵襲的であるばかりでなく,サンプリングエラーや病理医間のバイアスなど問題点が残されている.
Bird-Liebermanらは,dysplasiaを含むバレット食道のレクチン分画を解析し,蛍光プローブによるHGD,LGDの分布の可視化に成功した
17)(Figure 3-b~d).このような内視鏡分子イメージング技術の導入により,組織に生検のダメージを与えることなく,病変の存在診断から質的診断までを効率的に行えることは意義が高い.同様に潰瘍性大腸炎におけるdysplasiaの診断においてもサンプリングやそれに基づく治療方針の決定には慎重な対応が求められるが,分子イメージング技術を用いた合理的な内視鏡診断法が実験レベルにおいて開発されており,臨床現場の課題克服に有効な手段と期待できる
45).
MitsunagaらはEGFR抗体に近赤外光領域で発熱する化学物質を標識し,様々な癌を移植したマウスに投与し,体外から癌部位に近赤外光を照射したところ,抗体注射あるいは近赤外光照射のいずれかを施した群と比較して有意に長期の生存が得られたと報告した
46).光分子イメージングを応用することで,標識抗体の治療選択性のみならず,光治療とのシナジー効果をも明らかにした画期的な研究成果であり,光線免疫療法(photoimmunotherapy)という新たな治療選択が確立された.近年,このような診断治療学をtheranosticsと呼び(therapeuticsとdiagnosticsの双方の意味を組み合わせた造語),今後の個別化医療において担う役割が大きい領域と考えられている
47),48).米国では再発頭頸部癌を対象にセツキシマブに蛍光プローブを結合させた化合物を静脈投与し,photoimmunotherapyを行う臨床試験が進行中である( https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT02422979).
大腸癌は腺腫などの前癌病変から遺伝子変異を受けながら進行するため,前癌段階での診断や予防が重要である
49),50).Choiらは,幹細胞マーカーの一つであるLgr5に着目し,トランスジェニックマウスを用いて大腸腺腫の発育過程におけるLgr+細胞の発現を可視化することを試みたところ,マーカーとして用いたeGFPが実際のポリープが出現する2~4週間前に大腸粘膜上にすでに強く発現していることが確認された
28)(Figure 4-a,b).さらに,発育の緩徐な病変はeGFPが陰性であることが示された(Figure 4-c).通常内視鏡観察では正常に見える領域において進展速度の速い腺腫の発現を内視鏡分子イメージングで予見する画期的な研究成果である.
以上のように,消化器内視鏡が担う消化管癌の存在診断,質的診断,治療,さらには予測という多様なフェーズで分子イメージングは成果を出しつつあり,臨床現場に大きな影響を与えることが予想される.
Ⅷ 分子イメージングをめぐる最近の動向
米国NIHはプログラムの一つであるMolecular Libraries and Imagingに多額の予算を計上し,多くの大学・研究機関のみならず関連企業も分子イメージング研究に競合的に参入している.ヨーロッパではEuropean Master in Molecular Imaging(EMMI)やDiagnostic Molecular Imaging(DiMI)などを基盤に分子イメージングに特化した研究体制が設立されている.北米を中心とするWorld Molecular Imaging Society(WMIS)は,Society for Molecular Imaging(SMI)とAcademy of Molecular Imaging(AMI)を統合することで構成され,世界最大規模の組織となった.欧州のEuropean Society for Molecular ImagingとアジアのFASMI(Federation of Asian Societies for Molecular Imaging)の協力によりWorld Molecular Imaging Congress(WMIC)が組織され,分子イメージング学は急速に国際化を遂げながら,われわれのライフサイエンスに大きな影響を及ぼしつつある.現行の分子イメージング技術にはPET-CTやMRIといったモダリティが重用されているが,内視鏡を用いる光分子イメージングの強みは装置がコンパクトである上に比較的安価であり,被爆の懸念がない点である.また,多彩な蛍光プローブを組み合わせることにより,リアルタイムで局在から性質を観察できる魅力がある.最近の研究動向はin vitroからin vivoへ,動物からヒトへ,そして診断から治療へとその関心や応用は技術進歩とともにシフトしており,近い将来,消化器内視鏡の臨床現場に本技術が新たな役割を担って登場することが期待できる.
Ⅸ おわりに
その時代の持ちうる最高技術を駆使してもなお,まだ見えない情報を可視化したいと願う内視鏡医(ニーズ)と技術者(シーズ)のたゆまぬ努力により内視鏡診断技術は向上を遂げてきた.内視鏡分子イメージングは上述したように存在診断,質的診断,治療,予測のいずれのフェーズにおいても豊富で質の高い成果を供給している.本技術の確立にはマーカー探索,プローブ開発,そしてイメージング機器の3要素が揃って推進されることが条件で,医薬工,産学官の複合的な連携コンソーシアムが臨床応用に向けての要となる(Figure 5).大学・研究機関,医療機器メーカーのみならず,分子生物学や医用画像に関連する企業,製薬企業が共同体を形成することで,臨床応用への導入が実現可能となる.
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