2017 Volume 59 Issue 7 Pages 1492-1498
症例は52歳,男性.血便を主訴として来院.大腸内視鏡検査で,全結腸型潰瘍性大腸炎と診断.絶食とメサラジンの内服で症状は軽快,外来通院していた.潰瘍性大腸炎発症から,約3カ月後,右上肢の麻痺を主訴に再来院.脳CT,MRI,血管造影検査で脳静脈洞血栓症と診断した.脳静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎患者は,比較的稀であるので報告する.
潰瘍性大腸炎における腸管外合併症として静脈血栓・塞栓症はよく知られているが,脳静脈洞血栓症を合併するのは比較的稀である 1),2).今回,われわれは全結腸型潰瘍性大腸炎に上矢状静脈洞血栓症を合併した1例を経験したので報告する.
患者:52歳,男性.
主訴:下痢,血便.
家族歴:父,下肢静脈血栓症,肺梗塞.
既往歴:特記事項なし.
現病歴:2008年1月2日頃から下痢が出現した.1月10日から顕血便も出現したため,近医を受診し,服薬加療されたが症状改善なく,1月21日,当院を受診し精査加療目的で入院となった.
現症:身長166cm,体重55kg.意識清明.体温37.8℃.脈拍98/分,整.血圧116/80mmHg.眼瞼結膜に貧血はなかった.眼球結膜に黄疸はなかった.表在リンパ節は触知しなかった.胸部に異常所見は認めなかった.腹部平坦,軟.左下腹部に圧痛あり,肝,脾,腎は触知しなかった.神経学的に異常所見を認めなかった.下腿に浮腫はなかった.
入院時検査成績:白血球12,000/mm3,CRP 5.6mg/mlと炎症反応の上昇を認めた.ヘモグロビン 12.6g/dlと貧血を認めた.総コレステロール 106mg/ml,総タンパク 5.5g/ml,アルブミン 1.9g/mlと低栄養を認めた.
臨床経過:入院第1病日(1月21日),大腸内視鏡検査を施行した.直腸からS状結腸まで連続性の血管透見像の消失した易出血性の粘膜粗造,びらん,腸管の拡張不良を認めた(Figure 1-a,b,Matts分類 3)Grade3).生検病理組織検査で,炎症細胞浸潤,およびcryptitisとcrypt abscessを認め(Figure 2),便培養検査で有意菌を検出せず,潰瘍性大腸炎と診断し,絶食,メサラジン2,250mg/日にて治療した.第8病日,顕血便が消失し,下痢も軽快したので,低残渣食を開始した.第25病日,全結腸内視鏡検査にて,盲腸部から直腸まで血管透見像の消失した粘膜粗造,びらん,偽ポリープの散在(Matts分類Grade3)と改善傾向を認めたため退院とし,外来通院にて下痢,血便はなく経過良好であった.第73病日,右上肢の麻痺および全身痙攣を主訴に,当院脳神経外科を受診した.脳CT検査では,左頭頂葉に帯状の高吸収域を認めた(Figure 3).脳MRI検査では,左前頭葉皮質部に拡散強調像(diffusion weighted image;DWI)で高信号強度(Figure 4),T2強調像(T2 weighted image;T2WI),FLAIR(Fluid attenuated inversion recovery)像で高信号強度を認めた.脳CT,MRI検査では診断できず,硬膜動静脈瘻,microAVM,脳腫瘍などを念頭に置いて鑑別診断のため脳血管造影検査を施行したが診断できず,第74病日に精密検査を目的として和歌山県立医科大学附属病院脳神経外科へ転入院となった.転院時の症状として,失語症,四肢麻痺を認め,入院時の血液検査では,白血球9,500/mm3,CRP 0.3mg/ml,protein C 94%,protein S 77%と異常はなかったが,Dダイマー 1.6μg/mLと軽度上昇していた.抗核抗体,抗カルジオリピン抗体,ループスアンチコアグラントなどいずれも異常は認めなかった.動脈領域の異常では説明がつかない脳梗塞と脳出血,および当院の血管造影検査の静脈相で,上矢状静脈洞に欠損像と左前頭葉皮質静脈の血流遅延を認めたため(Figure 5-a,b),上矢状静脈洞血栓症と診断した.ヘパリン持続静脈注射(2万単位/日)を施行し,脳浮腫の治療(グリセオール)などを行うも,脳浮腫,脳ヘルニアの増悪を認めたため,第80病日,緊急外減圧術を施行した.脳浮腫の改善,全失語症は運動性失語症へ改善,四肢麻痺は右上下肢1/5,左上下肢4/5まで改善し,第123病日,潰瘍性大腸炎の治療の継続とリハビリ加療目的で当院に転入院した.第152病日,深部静脈血栓症を合併した.ワルファリンの服用で改善した.第206病日,頭蓋形成術を施行した.以後,リハビリを継続,失語症は完全に改善,右上肢1/5,右下肢3/5の麻痺を残存するも,現在,発症から8年経過,外来で通院加療中であり,潰瘍性大腸炎は寛解維持している.

a,b:大腸内視鏡検査.
直腸からS状結腸まで連続性の血管透見像の消失した易出血性の粘膜粗造,びらん,腸管の拡張不良を認めた(Matts分類Grade3).

生検病理組織検査.
炎症細胞浸潤,およびcryptitisとcrypt abscessを認めた.

脳CT検査.
左頭頂葉に帯状の高吸収域を認めた(黒矢印).

脳MRI検査(DWI).
左前頭葉皮質部に拡散強調像で,高信号強度を認めた.

a:脳血管造影検査(左内頸動脈造影:早期静脈相).上矢状静脈洞に欠損像を認めた.
b:脳血管造影検査(後期静脈相).皮質静脈の血流遅延を認めた.
脳静脈洞血栓症は,脳静脈洞の閉塞により,脳浮腫や静脈性梗塞,出血性脳梗塞を呈する疾患である.脳静脈洞血栓症は,基礎疾患を有する若年者から中年に発症することが多く,妊娠・産褥,経口避妊薬の服用,抗凝固蛋白欠乏症であるアンチトロンビンⅢ欠乏症やproteinC/S欠乏症,抗リン脂質抗体症候群,感染症,頭部外傷,膠原病,悪性疾患,血液疾患などが原因となる 4).臨床症状としては,頭痛,片麻痺,失語症の症状が多く,約40%に痙攣発作がみられ,視床の損傷により意識障害を起こすことがある 4).潰瘍性大腸炎に合併するのはまれであり,医学中央雑誌で,1986年から2016年まで,「潰瘍性大腸炎」と「脳静脈洞血栓症」で検索したところ(会議録は除く),本邦報告は自験例を含めて18例 5)~21)であった(Table 1).平均年齢は32.1歳(16歳から65歳)と比較的若年で,男女比は,15対3で男性が大半であった.潰瘍性大腸炎の平均罹病期間は,4.47年(1カ月から12年)で,一定の傾向はなかった.病期に関しては,活動期に多くみられ,病型が判明しているのは,全結腸型が多かった.脳静脈洞血栓症発症前後の内視鏡所見の記載があるのは,18例中9例で潰瘍を認めたのは6例,びらんを認めたのは3例であり,重症例が多かった.本症例は,下痢,顕血便の症状は改善していたが,脳静脈洞血栓症の発症前後は内視鏡検査を施行していないので,病期は不明とした.血便や下血などの潰瘍性大腸炎の症状で入院したのは5例で,頭痛,全身痙攣や麻痺などの静脈洞血栓症の症状を発症して入院した症例は13例であった.

本邦における潰瘍性大腸炎に合併した脳静脈洞血栓症例.
脳静脈洞血栓症の診断は,特徴的な症状はなく,発症初期には困難な場合がある 10),14),16),18).脳静脈洞血栓症さえ疑えば,確定診断するためには,造影脳CT検査では,静脈や静脈洞内に血栓が造影欠損として認められ,静脈洞に沿った硬膜の造影が増強される.脳MRI検査では,静脈洞内の血栓が認められるが,血栓形成後の時期により性状が異なる.MR静脈造影検査では,静脈洞の閉塞を認める.脳血管造影検査では,静脈洞の欠損影と静脈還流遅延を認める 4).静脈血栓の場所は,上矢上静脈洞が15例と多かった.当院では,脳CT,MRI検査で特徴的な所見はなく,鑑別診断として硬膜動静脈瘻,microAVMなどを念頭に鑑別診断としたが,当時は脳静脈血栓症を鑑別診断に含めることができず,静脈相の画像をしっかり検討できなかったのが反省点と思われる.脳静脈洞血栓症の診断時間は受診して当日に診断できた症例は18例中7例であったが,154日要した症例もあった.本症例では当院で診断できなかったが,2日以内であった.
脳静脈洞血栓症の治療としては,一般的に抗凝固剤が第一選択であり,2週間持続静注した後,ワルファリンの経口投与に切り替えることが推奨されている 4).抗凝固療法としてヘパリンを使用しているのは,本症例を含め18例中10例であった.診断当日にヘパリンを開始した症例は7例,翌日開始したのは1例,消化管出血を危惧して,4日目に開始したのは2例であった.他に潰瘍性大腸炎の消化管出血の悪化を懸念し,トロンボキサンA2合成阻害剤を使用した症例 13),潰瘍性大腸炎に対する治療を強化するために,ステロイド強力静注療法を行った症例 10),急性期を保存的に脱した後に抗血小板薬を内服した症例 7)などであった.本症例は,顕血便の症状は消失していたが,寛解期でもヘパリンの使用には注意が必要といった報告がある 21).本症例では転院先の消化器内科と相談の上ヘパリンの持続静注の治療を選択したが,症状改善なく脳ヘルニアの進行を認めたため,開頭減圧術を施行しなければならなかった.
潰瘍性大腸炎における血栓形成の機序としては,炎症に伴う血液凝固能の亢進,血小板数の増加,血小板粘着能亢進などが関連している可能性があると報告されている 22).本症例は,血栓症の家族歴があったが,血液検査では抗凝固蛋白欠乏症などの明らかな異常は認めなかった.活動期に血栓症を合併する頻度は高いといわれており 23),潰瘍性大腸炎を寛解維持することが重篤な合併症予防に重要と考えるが,寛解期でも発症する可能性があり 24),本症例の場合は病期は不明であったが,顕血便や下痢の症状は改善されても脳静脈洞血栓症を発症したことから,潰瘍性大腸炎の経過観察中は,病期や症状改善にかかわらず頭痛や脳神経症状などを認めた場合は,本症を念頭に置き脳CT検査,脳MRI,MRvenograpy検査などをすすめる必要があると思われる.
脳静脈洞血栓症を合併した潰瘍性大腸炎の1例を経験した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし