2017 Volume 59 Issue 7 Pages 1524-1531
悪性肝門部胆管狭窄に対して複数本の金属ステントを留置した後のステント閉塞に対する処置は難易度が高い.処置を成功させるためには,ガイドワイヤー,カテーテル,ステントなど,各処置具の特性を理解して適切に選択することが重要であり,処置を行う際には,それらの処置具を扱ううえでのポイントを理解しておかなければならない.stent-in-stent法で留置した複数の金属ステントが閉塞した場合の処置では,金属ステントのメッシュの隙間にカテーテルやプラスチックステントを通過させることが最大の難関であることを知ったうえで,それぞれの処置具を慎重に操作する必要がある.プラスチックステントを留置する際はそれらを留置する順序も重要であり,基本的には金属ステントを留置した順番で留置する.本手技の成功には術者のみならず,介助者のテクニックも重要であり,日頃からスコープを握るだけではなく,ガイドワイヤーの扱いに慣れておかなければならない.
悪性肝門部胆管狭窄に対する胆管ドレナージの手技についてはいまだ一定の見解がない.プラスチックステントを使用するべきか,金属ステントを使用するべきか,あるいは,片葉ドレナージにするべきか,両葉ドレナージにするべきかなど,意見の分かれるところが多い.さらに,両葉に金属ステントを留置する際にはstent-in-stent法で留置するのか,side-by-side法で留置するのか,また,閉塞時には金属ステントをステント内に留置するのか,あるいはプラスチックステントを留置するのか,最適といえる確立した手技はない.当院では悪性肝門部胆管狭窄に対し,複数本の金属ステントをstent-in-stent法で留置し,それらの閉塞時にはプラスチックステントを金属ステント内に留置している 1).本項では,悪性肝門部胆管狭窄に対して留置した金属ステント閉塞時の対処法について概説する.
ステント閉塞が疑われた際の内視鏡処置のストラテジーをFigure 1に示す.それぞれのステップにおける実際のコツは後述することとし,ここではまず使用する処置具について解説する.
悪性肝門部胆管狭窄に対する金属ステント留置後の閉塞に対する内視鏡処置の流れ.
スコープは基本的にTJF260V(オリンパス)(鉗子チャンネル径4.2mm)を用いる.肝門部胆管狭窄のドレナージの際は,良性であれ,悪性であれ,複数本のステントを留置することを念頭に処置を行う.複数本ステントを留置する場合,目的とする胆管を探ってステントを留置し,またもう1本探ってステントを留置するという方法も考えられるが,その場合最初に留置したステントの影響で次の目的とする胆管を探れない,という現象が起こりうる.成功率を向上させるには,目的とするすべての胆管にまずガイドワイヤーを留置したのちにステントを留置することが重要である.したがって,ガイドワイヤーが複数本鉗子チャンネルを通った状態でさまざまな処置具を使用する可能性があり,そのためには鉗子チャンネル径が大きいものほど有利である.症例によっては十二指腸狭窄を合併しており,TJF260Vの通過が困難な場合,鉗子チャンネル径3.7mmのJF260V(オリンパス)を使用することもあるが,TJF260Vと同様のイメージで0.035インチのガイドワイヤーを複数本いれたまま処置を行うと鉗子チャンネルを処置具が通過しないということがあるので注意が必要である.
b.ガイドワイヤーガイドワイヤーには狭窄などを探る役割(seeking)と各種処置具を目標の場所まで届ける役割(leading)がある.この2つの役割に必要なガイドワイヤーの性質は相反するものであり,現状でこの2つの役割を1本で完全にこなせるガイドワイヤーを探すのは困難である.seekingに重要なのはトルク伝達性や先端の柔軟性であり,これらの性質に優れるのはRadifocus(テルモ社)やNaviPro(Boston Scientific社)といった親水性コーティングのガイドワイヤーである.胆管挿管に続いてまず使用するのはこれらのガイドワイヤーであり,総胆管から肝門部,狭窄およびステントのメッシュの突破まで行う.
ガイドワイヤーが目的とする胆管に到達し,カテーテルを追従させることができたらleading用のガイドワイヤーに交換する.leadingに必要なガイドワイヤーの性質は剛性である.THSF(COOK社)は,最近のガイドワイヤーではほとんど使用されないスプリング構造をもつガイドワイヤーであり,折れやすいという欠点はあるが,処置具の追従性という点では非常に優れており,使いこなすことができれば有用性が高い.
また,近年,seekingとleadingの両方の性能を合わせもつことを意図したガイドワイヤーが各社から販売されており,ある程度これらの処置を1本のガイドワイヤーで行うことが可能になりつつある.しかし,前述したように1本で完全にseekingとleadingをこなせるまでには至っていないので,まず,これらのガイドワイヤーで処置を始めるのは問題ないが,困難な症例では前述したガイドワイヤーの使用を考慮するべきである.
c.カテーテルステント閉塞に対する対処のゴールとして,複数本のプラスチックステントの留置を想定した場合,カテーテルを目標の胆管に到達させたあと,プラスチックステントを確実に目標とする胆管に到達させるためにleadingの機能に優れる0.035インチのガイドワイヤーを留置することが望ましい.このため,カテーテルは0.035対応で,かつ,腫瘍による胆管狭窄と金属ステントのメッシュを通過させることのできる確率の高い先端taperedのものを使用する.当院ではオリンパス社のPR-230-Qや,アビス社の0.025対応のtapered tipカテーテルを使用することが多い.アビス社のカテーテルは0.025対応のものでも0.035のガイドワイヤーの通過が可能であることを憶えておくとよい.
d.プラスチックステントまず,使用するプラスチックステントの条件として,先端にフラップが付いているものは使用を避けるべきである.これはステント交換時の抜去の際にフラップがひっかかり抜去できない可能性や,抜去できたとしても金属メッシュのひっかかりを引っ張ることで内腔に金属ステントの一部がめくれあがる可能性があるからである.金属ステントの一部が内腔にめくれあがると,ステント交換の際のseekingや処置具の通過が非常に困難となる.そのため,当施設では以前からストレートタイプのプラスチックステントは留置に適さないと判断し,ピッグテールタイプのステントを使用している.しかし,ピッグテールタイプのステントは先端の曲がりが強いため,いくら剛性の高いleading用のガイドワイヤーを用いても,ステント先端のピッグテールの曲がり部分でわずかにガイドが曲がるため,金属ステントのメッシュにひっかかることがある.この短所を改善したのがTTMステント(ガデリウス・メディカル社)であり,先端の曲がりが浅いため,ガイドワイヤーへの影響が少なくメッシュを通過できる可能性が高い(Figure 2) 2).ただ,このステントはFigure 2に示す通り,フラップがなく,胆管へのひっかかりも緩い構造になっているため時に脱落することがあり,少なくとも2本以上の留置が必要である.
TTMステント.肝側の先端部分を短くして湾曲を緩くしているため,金属ステントのメッシュを通過させる際,メッシュにひっかかりにくい構造になっている.
ガイドワイヤーによる狭窄突破は胆道ドレナージのファーストステップであるが,肝門部胆管狭窄,さらに肝門部に複数留置した金属ステント閉塞時の狭窄突破は技術的難易度が高い.まず,ポイントとして挙げられるのが総胆管内での金属ステント内腔への侵入である.胆管挿管後,カテーテルの先端を金属ステントの中心の延長線上に位置させることができれば,ガイドワイヤーの先端は金属ステントの内腔を進んでくれる可能性が高い.しかし,腫瘍の影響などにより総胆管が変形した症例ではカテーテルが総胆管の壁に沿うようなポジションしか取れない場合がある.この際,ガイドワイヤーの先端で金属ステント内腔へ侵入しようとするとしばしば金属ステントの外側をガイドが進み,それにカテーテルを追従させると途中でカテーテルがひっかかるのみならず金属ステントがめくれあがってしまうこともある.そういった危険性を回避するために,胆管挿管後,ガイドワイヤーを金属ステント内へ侵入させる際は,ガイドの先端をJターンにするとよい.Jターンの状態でガイドを進めれば,ステントの外側に進入することはまず不可能であり,Jターンの状態で肝門部に近づいた場合は,まずステントの内腔を捉えていると判断できる(電子動画1).
電子動画1
肝門部の狭窄突破の際に理解しておくことが必要なのは,金属ステント内にin-growth,あるいはover-growthした腫瘍による狭窄のみを突破すればよいのか,あるいは金属のメッシュも通過する必要があるのかという点である.腫瘍による狭窄のみであれば突破は比較的容易であるが,さらに金属ステントのメッシュを通過する場合には難易度があがる.ガイドワイヤーを目的の胆管に留置するのは,あくまでそこにプラスチックステントを留置するためであるが,ガイドワイヤーが留置できてもステントが追従せずに,金属ステントのメッシュにひっかかって手技が失敗に終わるということをしばしば経験する.そのようなことがないように,ガイドワイヤーが狭窄部を突破したら,必ずカテーテルを追従させて狭窄部,および金属ステントのメッシュの通過を確認する.カテーテルが通過しなければ,ステントの留置はまず不可能である.その場合の対処として,まずは別のメッシュを探ることである.現実的にはひとつひとつのメッシュが目視で確認できるわけではないので,ガイドワイヤーでメッシュを通過する際にガイドの先端の位置を変えるつもりで探る.ただ,実際にはガイドワイヤーで再度メッシュを通過してはカテーテルの追従を試し,ひっかかれば再度探りなおすということを繰り返すことが多い.それでもプラスチックステントが通過するかどうか不安な場合は,7Frのダイレーションカテーテルを通してみて通過を確認する方法もある.
それでもカテーテルの追従が困難な場合も少なからず生じる.その場合に有効なのがCOOK社のSoehendra Stent Retriever(SSR)である.本処置具は,ストレートタイプのステントの抜去を意図して作られたものであるが,先端がねじ構造になっており,種々の狭窄突破にドリルとして使用されている 3)~7).実際には,ガイドワイヤーにSSRを追従させて狭窄部で7FrのSSRを回転させ,狭窄,およびステントのメッシュを通過させる.7FrのSSRが通過すれば,かなりの確率で7Frのプラスチックステントの留置が可能となる(電子動画2).ただし,SSRを使用することで金属ステントのメッシュが壊れるという認識が必要であり,SSRを使用した際はステント留置が可能でも,次の交換時にまったくガイドワイヤーを進めることができなくなることがある.SSRを使用して留置したステントの交換の際にはステントを抜去せずにガイドワイヤーでステントの脇から胆管を探り,その後ステントを抜去しステントを再留置するという方法をとる場合もある.また,金属ステントの種類によってはSSRが有効でないことも知っておくべきである.金属ステントは,その構造によりレーザーカットタイプとブレイディッドタイプの2種類にわかれる.肝門部に複数金属ステントを留置する際はレーザーカットを用いることが多く,このタイプのステントはSSRが有効なことが多い.一方,ブレイディッドタイプのものは,金属を編み込んで作っている.そのため,SSRを使用しても,メッシュの隙間を広げることができず,有用でないことがしばしば起こりうる.
電子動画2
ガイドワイヤーが金属ステントのメッシュを通過しない場合は,別の種類のガイドワイヤーを使用する,あるいは,0.035インチのものを使用しているのであれば,0.025インチのものを試してみる.ガイドの先端がステントのメッシュを通過する方向に向かわない場合は,手元のハンドルでカテーテルの先端の向きを変えることのできるSwingTip(オリンパス社)が有用な場合もある.
b.バルーンカテーテルによる胆管内掻把初回の閉塞ではカテーテルが通過することが確認できたら,バルーンカテーテルによる胆管内掻把を行う.造影のみではdebrisの付着による閉塞とin-growth,あるいはover-growthの区別がつかないことがあるからであり,バルーン掻把のみでステント閉塞が改善される症例も時として存在する(Figure 3)ので,初回の閉塞ではバルーン掻把による閉塞の改善の有無を確認する.また,いったんプラスチックステントを留置したあとは,3カ月前後を目途としてステント交換を行うがプラスチックステント留置後はさらにdebrisがたまりやすい.したがって,ステント交換の際,debrisの貯留がある場合には,念入りにバルーン掻把を行うことがプラスチックステントの閉塞を遅らせるコツとなる.
a:悪性肝門部胆管狭窄に対して金属ステントを両葉に留置後,閉塞が疑われた症例のERC像.肝門部,総胆管にdefectを認め,腫瘍のステント内腔への進展,あるいは,debrisの貯留が疑われる.
b:金属ステント内をバルーンカテーテルで掻把すると黄土色のdebrisと小結石が排出された.
c,d:バルーンによる掻把を繰り返すことで徐々にdefectは消失し,最終的には肝門部から肝内胆管までスムーズに造影されるようになった.
狭窄部のバルーン掻破で狭窄の改善,あるいは,狭窄の形態の変化がなければ,胆泥による閉塞よりも,in-growth,あるいはover-growthによる閉塞である可能性が高く,ステント留置の適応と判断する.ステント留置の際に重要なのは留置の順序である.stent-in-stent法で金属ステントを留置している場合は,ステントの重なりがあるため,まず先に留置した金属ステント内へのプラスチックステントの留置を行う.先に留置した金属ステント内にプラスチックステントを留置する際には狭窄に加えて金属ステントのメッシュを通過させる必要がある一方で,最後に留置した金属ステントの場合はステントのメッシュを通過させる必要がない.金属ステントのメッシュをいかに突破するかによって,この処置の成否が決まるので,まずは先に留置した金属ステント内へのプラスチックステント留置を優先して行わなければならない.具体的には金属ステントの3本留置の場合,当施設では左肝管,右後区域胆管,右前区域胆管の順に留置することが多い.したがって,プラスチックステントを留置する際にもメッシュの重なりの多い,左肝管,右後区域,右前区域の順番に留置する(Figure 4).
a:悪性肝門部胆管狭窄に対して金属ステントを3本留置後,閉塞が疑われた症例のERC像.肝門部金属ステント内の胆管は造影されず,狭窄を突破後造影すると,拡張した肝内胆管が造影された.
b:左肝管,右後区域胆管,右前区域胆管にガイドワイヤーを留置(左肝管と右後区域胆管にはTHSF(COOK社)を留置).左肝管に7Frのダイレーションカテーテルを通過させて,プラスチックステントの通過が可能かどうかを確認している.
c:本症例は金属ステントを左肝管,右後区域胆管,右前区域胆管の順番で留置したため,まず,左肝管にプラスチックステントを留置.
d:右後区域胆管に留置.
e:右前区域胆管に留置.
金属ステント内でプラスチックステントを進める際は,ステントの先端がどこにあるのか,とくに肝門部では注視しなければならない.前述したとおり,ステントの留置において最も難しいのは金属ステントのメッシュの通過である.メッシュを通過させる際,術者は急峻なアップアングルや鉗子起上装置は使わずに,介助者によるガイドワイヤーの引きの操作と協調してゆっくりステントを進める.ステントがメッシュにひっかかる感触があればそれ以上はステントを押さずにステントを少し引き戻す操作を行う.本処置で用いるステントはプッシュタイプのステントが多く引き戻しがきかないため,実際に引き戻す際には起上装置を上げてステントを鉗子口に固定し,少しスコープを肛門側に押し込む,あるいはダウンアングルで乳頭から離れるといった操作を行う.再度ステントを進める際は,最初にひっかかった操作とは違う操作でステントの軸を変えてステントを進めてみる.具体的にはスコープの左右アングルや左右トルクをかけながらステントを進めたりするが,とにかく大切なのはステントの先端がメッシュにひっかかった際に無理にステントを押し込まないことである.無理に押し込んでステントのメッシュが変形すると,ますます通過が困難となる.そういった工夫やSSRを使用してもステント留置が困難な場合は,6Fr,あるいは5Frのステントの留置も考慮する.
悪性肝門部胆管狭窄に対する金属ステント留置後の閉塞に対する処置について概説した.本処置は難易度の高い処置であり,成功のためには内視鏡を扱う技術のみならず,高度なガイドワイヤーテクニック,処置具の選択に対する知識も重要である.日頃から内視鏡を持つことだけでなく,介助者としての修練や処置具に関する知識の習得にも取り組まなければならない.
本論文内容に関連する著者の利益相反:加藤博也(ガデリウス・メディカル(株))