GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF EARLY GASTRIC CANCER ABOVE A LIPOMA TREATED WITH THE ENDOSCOPIC UNROOFING METHOD USING CIRCUMFERENTIAL INCISION
Kuniaki MIYAZAWA Hidezumi KIKUCHIManabu SAWAYADaisuke CHINDATatsuya MIKAMITadashi SHIMOYAMAShinsaku FUKUDA
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2017 Volume 59 Issue 9 Pages 2410-2415

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要旨

症例は73歳,女性.胃体部小彎の脂肪腫を経過観察中.定期的な上部消化管内視鏡検査にて,増大傾向の脂肪腫上に0-Ⅱc型6mm大の高分化型腺癌を認めた.早期胃癌の治療および脂肪腫の縮小を目的に,全周切開を併用した内視鏡的開窓術(endoscopic unroofing法)を施行した.この方法により,比較的簡便に早期胃癌の治癒切除と胃脂肪腫の縮小が得られた.全周切開併用endoscopic unroofing法は脂肪腫上の粘膜内癌を比較的簡便に治癒切除することが可能な手技であり,文献的考察も加え報告する.

Ⅰ 緒  言

胃脂肪腫は胃良性腫瘍の中でも約3%と比較的稀な疾患である 1.さらに脂肪腫上に発生した早期胃癌は極めて稀である 2),3.今回,われわれは胃脂肪腫上に発生した陥凹型早期胃癌に対し,消化管脂肪腫の有効な内視鏡治療法として報告されている内視鏡的開窓術(endoscopic unroofing法) 4にESDの粘膜切開手技を併用し,早期胃癌を安全に治癒切除しかつ胃脂肪腫の縮小を得られた症例を経験した.全周切開併用endoscopic unroofing法は比較的簡便な内視鏡手技であり文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:73歳,女性.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:前医にて胃粘膜下腫瘍(submucosal tumor,以下SMT)を認めたため,平成25年に当科紹介となった.当科にて上部消化管内視鏡検査(Esophagogastroduodenoscopy,以下EGD)(Figure 1)や超音波内視鏡を施行.超音波内視鏡では第3層に主座を置く境界明瞭な高エコー腫瘤を認めた.加えて造影CT検査では,胃体部小彎側から後壁に表面平滑な50mm大の内部均一なlow density areaを認め,脂肪腫と診断.年1回のEGDによる定期検査にて経過観察することとなった.平成27年に施行したEGDで脂肪腫上の粘膜に6mm大の発赤した不整な陥凹領域を認め(Figure 2),生検にて高分化型腺癌の診断となり,内視鏡的治療を目的に入院となった.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査所見:胃体下部後壁に50mm大のSMTを認めた.

Figure 2 

上部消化管内視鏡検査所見.反転による早期胃癌観察.

a:通常光観察.

b:NBI観察所見.矢印に囲まれた病変部は,irregular microvascular patternとirregular microsurface paternがみられ,demarcation lineを認める.

現症:身長141.1cm,体重56.9kg,体温36.3℃,血圧126/82mmHg,脈拍70bpm,SpO2 99%,腹部理学所見に異常なし.

臨床検査成績:血液検査値に異常認めず.CEAおよびCA19-9の上昇なし.便中Helicobacter pylori抗原は陰性であった.

入院後経過:脂肪腫上の早期胃癌を確実に切除するため,病変周囲にマーキングし全周粘膜切開を行った.続いてendoscopic unroofing法に準じ,スネア(Boston Scientific社のCAPTIVATORⅡ® ループサイズ 33mm)で粘膜病変と粘膜下脂肪腫組織の一部を絞扼し,高周波発生装置(VIO300D(ERBE社,EndcutQ,エフェクト4,30W))を用いて摘除した.脂肪腫組織が開窓され実質が露出したことを確認し終了した(Figure 3).

Figure 3

a:早期胃癌に対してマーキングを行った.

b:粘膜全周切開後,スネアリング.早期胃癌と脂肪腫の一部を切除.

c:脂肪腫頂部を露出させ終了.

出血や穿孔などの偶発症は認めなかった.病理組織は,Type 0-Ⅱc,8×6mm,tub1,pT1a(M),UL(-),ly(-),v(-),pHM0,pVM0であり,一括治癒切除であった.また一部切除したSMTの組織はSudan3染色が陽性であり脂肪腫であった(Figure 4).術後経過は良好で,治療5日後に退院となった.

Figure 4

a:代表切片ルーペ像.切除粘膜と粘膜下腫瘍を認める.

b:HE染色 20倍.

粘膜内に限局した管状腺癌を認める.

c:粘膜下腫瘍のsudan3染色.陽性であり,脂肪腫の確定診断.

退院後経過:治療2カ月後のEGDにて瘢痕形成と脂肪腫の著明な縮小を確認した(Figure 5).

Figure 5 

治療2カ月後の上部消化管内視鏡所見:治療後瘢痕とSMTの著明な縮小を認めた.

早期胃癌の遺残は認めなかった.

Ⅲ 考  察

消化管の脂肪腫は,病理組織学的に,粘膜下層において成熟した脂肪細胞の増生がみられる良性腫瘍である.脂肪腫の胃良性腫瘍に占める割合は3%とされる.好発部位は幽門部,前庭部,ついで胃体部と続く 1.胃脂肪腫は小さいものでは大半が無症状で,X線検査や内視鏡検査の際に偶然発見されることが多いが,大きくなると,表面に出血性のびらんや潰瘍を形成し,消化管出血を来す場合もある.本症例においては50mm大と大きく軽度増大傾向がみられたが,自覚症状は認めなかった.

1997年,三村らは大腸のリンパ管腫に対して初めてendoscopic unroofing法の有用性を報告した 4.2003年には,著者らがendoscopic unroofing法にて治療し得た胃脂肪腫の1例を報告している 5.その方法は,腫瘍の上方を半分程度切除し開窓することで,残存する腫瘍成分が自然脱落することを期待するものであり,安全性が非常に高く偶発症の報告は無い.

本症例における治療法としては,①粘膜上の早期胃癌のみを切除,②早期胃癌病変と脂肪腫の一部を切除(全周切開併用unroofing法),③早期胃癌と脂肪腫のESD(Endoscopic submucosal dissection,以下ESD)による全切除,の3通りが検討された.

本症例の脂肪腫は50mm程度あり増大傾向を認めることから,治療介入が妥当であると考えた.しかしESDによる脂肪腫も含めた全切除では,脂肪組織へ通電された場合に融解した脂肪により,デバイスが焦げ付きやすく手技的難易度がやや高くなることや,早期胃癌の大きさに比して長時間の処置となり侵襲が大きくなると予想された.そこで,早期胃癌の確実な切除かつ増大傾向の脂肪腫の低侵襲治療を目的とし②の全周切開併用unroofing法を選択した.

この全周切開併用unroofing法とは,現在広く普及しているESD手技に基づいた新たなunroofing法である.まず拡大内視鏡による詳細な観察が必須であり,早期胃癌の深達度および範囲診断をすることが確実な切除のために重要である.その後,マーキングおよび局注は通常のESDの通りに行い,早期胃癌に対し全周を粘膜切開する.そして一部の脂肪腫組織を含めてスネアリングし摘除することで,粘膜下腫瘍が開窓される.これにより,早期胃癌を安全に一括治癒切除し,かつ脂肪腫の自然脱落による縮小効果が期待できる.

本症例においては治療前に画像診断より脂肪腫という良性疾患が考えられており,一括完全切除が不要と判断したことから,低侵襲な内視鏡治療を行うことができた.

しかし,粘膜下腫瘍が悪性であった場合についても念頭におく必要がある.粘膜下腫瘍の病理診断が悪性であった場合には,GIST診療のガイドラインに準じて追加の外科的治療を行う必要があり,unroofing法は開窓生検として治療決定に有用である.

一方,治療前の画像診断において悪性を疑う場合には,超音波内視鏡下穿刺吸引生検法などによる病理診断が望まれる.病理診断が不能な場合も,GIST診療のガイドラインに準じ治療方針を決定するが,本症例は50mm大で増大傾向を認めたことから手術も考慮される病変であった.外科治療の場合は外科的完全切除が基本となるが,臓器機能を温存するためLECS(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery)も検討される 6

endoscopic unroofing法は非常に安全性の高い,脂肪腫に対する治療法である.脂肪腫上の早期胃癌の合併は稀ではあるものの,脂肪腫が増大すると粘膜病変の観察は困難となる.拡大観察の進歩とESDに象徴される治療手技の技術向上が,全周切開併用unroofing法を可能とした.

この治療手技はESDやLECSと比べ比較的簡便で安全性も高く,患者にとって非常にメリットの大きな内視鏡治療である.新旧の内視鏡手技を組み合わせた本法が,同様の病変に対する選択肢の一つになり得ると考えられた.

Ⅳ 結  語

胃脂肪腫上の早期胃癌に対して全周切開併用内視鏡的開窓術(endoscopic unroofing)法を考案し,早期胃癌を安全に治癒切除し,かつ胃脂肪腫の縮小を得られた症例を報告した.

本症例の主旨は第156回日本消化器内視鏡学会東北支部例会(2016年2月仙台)にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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