GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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INTENSITY-MODULATED RADIATION THERAPY FOR PANCREATIC CANCER USING A GOLD MARKER : APPLICATION OF EUS-GUIDED FINE NEEDLE ASPIRATION
Tsuyoshi SUDAJun ASAITomoki NISHIKAWAHajime TAKATORITakeshi URABE
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2017 Volume 59 Issue 9 Pages 2422-2427

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要旨

目的:局所進行切除不能膵癌に対し,化学放射線療法が推奨される.線量集中性増強のためIMRTが試みられ,その3次元的な照射野の確定に金マーカー留置が有用である.今回EUS-FNAを応用した膵癌への金マーカー留置後にIMRTを行ったのでその経験について報告をする.

方法:2013年12月~2014年12月に当院でEUS-FNA手技を応用した金マーカー留置を行ったStageⅠ~Ⅳaの膵癌6例を対象とした.

結果:6例全例で金マーカー留置は成功し,重篤な有害事象はなかった.IMRT中に金マーカーの脱落なく治療も完遂した.治療効果は,1例はPDで5例はSDであった.SD例はPET/CTでFDG集積低下を認めた.治療終了1年後,6例中4例で生存を確認した.

結語:IMRTを前提とし,膵癌に対してEUS-FNAを応用して金マーカー留置を行った.少数例での経験であるが安全性も確認され臨床応用が期待される.

Ⅰ 緒  言

近年,各種癌腫に対する放射線治療において,腫瘍内線量集中性を高め,周辺の正常組織への線量軽減を目的に強度変調放射線治療(intensity-modulated radiotherapy:IMRT)の有効性が報告されている 1.局所進行切除不能膵癌に対する化学放射線療法においてもIMRT法は試みられ,その有効性は海外を中心に報告されている 2),3

IMRTは腫瘍内に金マーカーを留置することにより,3次元的に照射野を特異的に腫瘤に集中させ,また呼吸性に移動する腫瘍の位置を追跡することが可能となる.金マーカーは前立腺癌,肺癌,肝癌などと同様に膵癌にも保険適応となっている.しかしながら保険適応となっている各種癌腫に対する金マーカーの留置方法はレントゲンやCTガイド下での経皮的な手技であり侵襲性が高く,重篤な合併症やマーカーが変位してしまうという問題点もあった 4.そのため海外では膵癌に対しEUS下のFine needle aspiration:FNA,以下EUS-FNAの手技を応用した金マーカー留置が試みられており,その安全性と有用性が報告されてきている 5)~9

今回,当院での膵癌に対するIMRTにおいて,EUS-FNA手技を応用した金マーカー留置の経験をしたのでその詳細について報告する.

Ⅱ 対象・方法

対象は2013年12月~2014年12月までに当院で金マーカー挿入を行ったStage Ⅰ~Stage Ⅳaと診断された膵癌6症例である.内訳は男性4例,女性2例で平均年齢は81.3歳(73歳~84歳)であった.そのうち4例は組織学的に膵癌またはその疑いと診断(3例はEUS-FNAにより膵癌と確定診断,1例はERCP施行時の細胞診で腺癌疑いであり膵癌疑いと診断)し,他2例は画像検査で膵癌と診断した.

病期はStage Ⅳaの局所進行膵癌が4例,Stage ⅢとStage Ⅰが1例ずつであった.Stage Ⅰの症例に関しては,患者本人に手術希望がなかったため本治療を行った.病変部位に関しては,頭部3例,体部3例であり尾部の症例はいなかった.

IMRT施行前の金マーカー留置方法は,EUS-FNA穿刺針として,全例でCook Medical’s Ultrasound Biopsy Needle 19G針を用いた.また,金マーカーは既存の金マーカー刺入キットであるVISICOIL(セティ・メデイカルラボ株式会社)から0.75mm×10mmの金コイルを取り出して使用した.

手順は,

① 金マーカー刺入キットより金マーカーを取り出す.

② 金マーカーを19GのEUS-FNA穿刺針内に挿入する.

③ Bone Waxで封入する.

④ 通常のEUS-FNAと同様の方法で膵癌へ穿刺を行い,金マーカーを押し出して埋め込む.

で行った(Figure 12).金マーカーは既存の報告にあるように腫瘍内またはその近傍への留置を目標とした 10),11.またIMRTの治療時の3次元的マーカーであるため,1個の場合は極力腫瘍内,2個の場合は腫瘍内で1個目とある程度距離をおいて留置することにした.ただし,1個の金マーカーでは体軸の回転などでマーカーと腫瘍の位置関係にずれが生じる可能性があるため,なるべく2個留置するようにした.

Figure 1 

金マーカー留置方法.

a:金マーカー刺入キット(VISICOIL)から金マーカーを取り出す.

b:EUS-FNA穿刺針内に金マーカーを挿入する.

c:Bone Waxで封入する.

d:準備完了.

Figure 2 

EUS-FNA手技を応用した金マーカー留置.

a:EUS-FNAの手技にて腫瘍を穿刺.

b:EUS-FNA穿刺針内の金マーカー(破線)を腫瘍内に留置する.

金マーカー挿入後はCTで腫瘤内あるいは近傍に留置されていることを確認し(Figure 3),当院の放射線治療科のプロトコールに従い照射を行った(Figure 4).また,化学療法が併用できる症例に関しては,化学放射線治療を施行した.

Figure 3 

金マーカー挿入後のCT.

a,b:金マーカー挿入後.腫瘍内に金マーカー(矢印)が確認される.

Figure 4 

IMRTの治療計画.

なお,これらの手技については,当院の倫理委員会の承認(倫理審査申請第25-16号)を得た上,患者本人に十分なインフォームド・コンセントをして同意が得られた症例に行った.

Ⅲ 結  果

EUS-FNA手技を応用した膵癌に対しての金マーカーの留置は,全例で可能であった(Table 1).金マーカーの留置個数は,3症例では1個の留置がされた.残りの3症例は2個の留置が可能であったが,症例②は挿入後すぐに1個が脱落した.他の2症例については,挿入後すぐの脱落はなく2個の金マーカー留置に成功した.穿刺回数についても,おおむね1回の穿刺で1個の金マーカー留置はできたが,症例⑥のみ穿刺針内から金マーカーをうまく押し出すことができず穿刺回数が多くなった.

Table 1 

金マーカー留置の結果.

有害事象としては軽度の出血を2例に認めたが,重篤なものはなかった.また,IMRTの照射中に金マーカー脱落を認めた症例もなく,全例が治療を完遂した.

治療内容については,Stage Ⅰの症例のみIMRT単独の治療となったが,他の5例はS-1の内服を併用した放射線化学療法で治療を行った.S-1の内服量については主治医の判断で患者の年齢や全身状態を加味して適時減量が行われた.

治療効果については,IMRT単独の症例1を含めた5症例でSDとなった.しかし1例はPDであり,その後死亡した.PET/CTによる治療効果は,SDと判断された5例で行われており,すべてでFDG集積低下を認めた.治療終了1年後,6例中4例で生存が確認できた.

Ⅳ 考  察

膵癌は,厚生労働省の「平成27年(2015)人口動態統計(確定数)の概況」の死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率によると,死亡数は31,866人(男性16,186人,女性15,680人) 12であり,近年は増加の一途をたどっている.膵癌は診断時に既に進行していることが多く,膵癌診療ガイドライン2016年版においては,切除不能局所進行切除不能膵癌に対しては化学放射線療法や化学療法が推奨されており 13,臨床でも行う機会が多い治療方法である.放射線治療の進歩は飛躍的で,今後さらにIMRTや陽子線治療などといった線量集中性の優れた放射線治療が化学療法と併用されていくことが期待されている 14

IMRTは日本放射線腫瘍学会(JASTRO)では「3次元原体照射(3DCRT)の進化形であり,逆方向治療計画(インバースプラン)に基づき,空間的,時間的に不均一な放射線強度を持つビームを多方向から照射することにより,病巣部に最適な線量分布を得る放射線治療法」と定義されている.IMRTでは腫瘍の形状に合わせて照射野を合わせ,さらに照射野内の線量強度を変化させながら照射することが可能な放射線治療であるといえる.そのため,腫瘍組織への高線量照射と周囲正常組織への低線量照射という,相反する条件を同時に満たすことが可能となっている 15

膵癌をはじめとする多くの腹部腫瘍では呼吸性移動対策が必要である.呼吸性移動対策を伴う放射線治療に関するガイドラインでは,「呼吸性移動対策を行わない場合に呼吸性移動による移動長が10mmを超える腫瘍」をその適応としている 16.そのため放射線治療の際には,金マーカーを含めた金属マーカーの留置は重要な役割を占めてきている.しかしながら,膵癌ではCTガイド下や腹部エコーガイド下での穿刺による金マーカー留置は,リスクを伴うため積極的に施行されていないのが現状である.

EUS-FNAは手技的に確立されており,EUS-FNAを応用した金マーカー挿入は海外での文献報告がある 5)~9.当院ではそれに着目し,膵癌の放射線治療のマーキングに用いることにした.

今回6例の当院での経験では,すべての症例で金マーカー挿入が可能であり,それを指標としたIMRTが可能で,海外で報告されている治療中の金マーカーの脱落もなかった.治療効果としてはCT上はSDの症例が多かったが,SD症例の5例全例でPET/CTでのFDG集積低下を認めており,切除不能局所進行膵癌に対しての治療効果についても期待できるのではないかと思われる.

金マーカー留置の際のEUS-FNA針については,当院では19Gを選択したが,22Gでの報告もある.19Gと22Gを比較して検討したものでは,19Gでは金マーカーをTraditional fiducials,22GではVisicoil fiducialsを用いたという違いはあるが,19Gと22Gで成功率や技術的な問題,合併症に有意差はなかったと報告している 8.他の報告でも22Gを使用した金マーカーの有用性等が述べられている 5),9

金マーカーの留置の際に技術的な問題が膵頭部や膵鉤部の腫瘍に対して経十二指腸的に留置した際に起こったとの報告もあるが 8,これについては通常のEUS-FNAの手技の際にでも同様の経験はされる.すなわち,十二指腸球部からの膵頭部の穿刺では,scopeがpush positionとなり,scope自体に捻りが加わることにより,穿刺針のハンドリングが,特に太径の針では困難となることが多い.また,描出できていた病変がFNA針をscope内に挿入することにより,描出できなくなることもある.同様に十二指腸鉤部の病変もscopeの安定が悪く,FNA針をscope内に挿入する際に,EUS scopeのアングルを解除した瞬間にscopeが胃内まで抜けることがあり,十二指腸球部同様にEUS-FNAの穿刺が困難な部位である 17

合併症については,過去の報告では0~5%で有害事象の発症があるが重篤なものはなく 5)~8,通常のEUS-FNA施行時と同等程度と考えられる.また,当院での症例においてもEUS-FNA手技による金マーカー留置の有害事象は重篤なものはなかった.

問題点としては既製品のキットがないためCT下穿刺針から金マーカーを取り出しFNA用穿刺針内に挿入しているのが現状であり,これに関連すると考えられる留置の際に金マーカーが上手く押し出せないという不具合も経験した.その原因については,以下のように考察をする.まず,金マーカーはごく細い金糸をコイル状にしたものであり,金マーカー刺入キットと同じ19Gの針を用いてもEUS用穿刺針内に微妙な隙間が生じている可能性がある.そのため,極細の金糸が外套とスタイレットの間に挟まって穿刺針から抜けず,針を腫瘍から抜いてくるときに逸脱を含む想定外の部位への留置となるということが起こりうると考えている.この点からも専用針の開発が待たれる.

現時点ではまだ症例数も少なく,金マーカーの有無で治療効果が違うかなどの不明な点が多いが,将来的な発展が期待される.

Ⅴ 結  語

膵癌に対してEUS-FNAを応用した金マーカー留置によるIMRT治療は,少数例での経験ではあるが安全な施行が可能で治療効果も期待できると考えられる.今後,多数の症例での検討が期待される.

 

本論文の要旨は,第89回日本消化器内視鏡学会総会にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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