2017 Volume 59 Issue 9 Pages 2449-2452
昭和25年,当時の調布町,狛江村,神代村に跨る兵器工場(東京重機)の跡地に,慈恵医大の三番目の附属病院として東京慈恵会医科大学附属第三病院(以下慈恵医大第三病院)は設立された.現在,病床数581床,23の診療科および11の中央診療部門を有する大学附属病院として,各種疾患に対する専門的医療を提供している.内視鏡部は,「安全で確実,苦しくない内視鏡」をモットーに関係各科(内科,外科,放射線部,病理部など)と緊密に連携しながら内視鏡診療を行っている.すべての内視鏡検査・治療は,鎮静剤・鎮痛剤を用いた意識下鎮静法を基本に施行しており,すべての消化器疾患に対してチームで対応しているのが当内視鏡部の大きな特徴である.平成28年にはがん診療連携拠点病院の指定を受け,『一人の患者を病院全体で診る』精神のもと,上部消化管,下部消化管,胆膵疾患それぞれ週1回のキャンサーボードを外科,消化器・肝臓内科,内視鏡科と合同で開催しており,内視鏡部もチーム医療の一員として消化器疾患の診療に深く携わっている.
組織慈恵医大病院の機構改革に伴い診療部制度が導入され,平成10年に内視鏡部が発足した.内視鏡部は外科,消化器・肝臓内科,呼吸器内科,内視鏡科を統括する部門であり,内視鏡科に所属する医師を中心に内視鏡診断,治療,教育を担い,消化器・肝臓内科,外科の各講座より数名の医師の協力を得るかたちで運営が成り立っている.現在では,慈恵医大の附属4病院すべてに中央診療部門として独立した内視鏡部が設置されており,本院を中心に,統一した考え方のもと,高度で専門的な内視鏡診療が行われている.
検査室レイアウト内視鏡部は病院2階に位置し,総面積は230m2,内視鏡室4室で運営している.これらに加え,他科と兼用ではあるが,1階に位置する放射線部のTV室を使用してERCPや消化管ステントなどの透視を使用する内視鏡治療を行っている.また透視を使用しない腎生検などを行うための処置室にも据え置きの内視鏡システムと内視鏡器材を常備できるよう整備して,ESDなどの長時間を要する内視鏡治療を行える環境も整った.昨年ようやくこれら6室すべてに内視鏡システムを常置させることができたため,人員配置に余裕のある曜日は6室同時稼働も可能になり,内視鏡件数の増加に大きく貢献している.ICUで緊急内視鏡を行う機会も増えているが,ICUには据え置きの内視鏡システムがないため,6室のいずれかの内視鏡を移動させることにより対応している.

平成26年,院内システムの電子化に伴い,内視鏡部も部門システムに富士フイルム社製NEXUSを導入,バーコードスキャンによる患者認証からタイムアウト,検体処理までの流れをミスなく完遂できるよう,環境を整備して新たなシステムを構築した.同時に内視鏡動画録画配信システムとしてNEXUS VT Browserを導入し,すべての内視鏡動画を録画すると同時にカンファレンスルームにライブ配信するシステムも構築した.LECSやハイリスクのESDを手術室で行う機会も増えてきたため,すべての手術室に内視鏡静止画・動画用LANを配線した.この工事が昨年度末に終了し,手術室でも内視鏡室と同じ環境で患者認証が行え,動画を録画できる環境が整った.今年度中には手術室やTV室の動画もカンファレンスルームにライブ配信されるよう整備が整う予定である.録画された内視鏡動画は一定期間保存された後に自動的に削除される運用とし,必要時には動画を保存し,見直して検証できることから医療安全,教育指導,研究の側面からも有効に活用できると各方面から期待されている.
(H29年5月現在)
医 師:指導医8名(内視鏡科3名,消化器・肝臓内科3名,外科2名),専門医6名,非常勤6名,研修医・レジデント2名(随時)
看 護 師:12名(うち内視鏡技師Ⅰ種:3名)
看護補助員:1名
(H29年4月現在)

(H28年1月~12月)
総内視鏡件数 8,297件

内視鏡科所属の3名の指導医を筆頭に,消化器・肝臓内科,外科,呼吸器内科に所属する内視鏡指導医および専門医を中心とした内視鏡指導体制を構築している.研修医とレジデントの教育カリキュラムは本院内視鏡部と共通であり,基礎技術を習得した後に実技試験に合格した医師には上部内視鏡,下部内視鏡それぞれに認定書を発行している.この認定書は慈恵関連の他機関へ異動した際も有効であり,これらの認定を経てアドバンストコースへ進むことが可能となる.アドバンストコースはESDコースとERCPコースに分かれ,早期消化管癌の診断・治療(ESDコース)は消化器・肝臓内科の消化管班スタッフを中心に指導している.食道癌,胃癌の術前診断はNBI拡大精査とEUSを用いて全例で範囲診断と深達度診断を行っており,大腸がんについても拡大精査を行い,適応病変には積極的にESDを施行している.これらの診断・治療は,内視鏡科所属指導医と消化器・肝臓内科の医師とがペアになって診断から治療まで責任をもって担当するシステムをとっている.胆膵内視鏡(ERCPコース)も同様に,内視鏡科所属指導医と消化器・肝臓内科の肝臓班スタッフを中心に,時に外科医も交えてチームで診断から治療までを行っている.ERCPの習熟度に応じて,胆膵EUSの指導も始めていく.ラジアルを用いての走査がある程度可能となった段階で,コンベックスも使用しながらEUS-FNAや膵仮性嚢胞に対する超音波内視鏡下ドレナージなどのFNA関連手技も習得していけるよう指導している.分院という性格上,専門班に関係なく幅広く手技ができる人材が求められているため,これらのコースを専門班にとらわれることなく同時並行して学ぶことも可能であり,上部から胆膵まですべての内視鏡手技を習熟することも本人の意欲によっては可能なのが当内視鏡部の大きな特徴である.最終的に,すべての病棟担当主治医が内視鏡科所属指導医のもと,自分の担当患者に対する内視鏡診断・治療をすべて責任持って行えるよう育成することが指導の主眼と考えている.内視鏡学会認定指導施設,胆道学会認定指導施設として常に高いレベルの診療が行えるような指導体制を今後も維持していくことが当内視鏡部の責務と考えている.
現状での問題点は大きく分けて人的資源,施設整備,夜間救急体制の3点があげられる.まず人的資源であるが,当内視鏡部には開設当初よりメディカルクラークや臨床工学士などのスタッフが配置されておらず,すべての受付業務や内視鏡のアシスタント,物品管理を看護師が受け持っている.そのため,看護師の業務過多が以前より問題視されており,早急に解決することが喫緊の課題と考えている.また,内視鏡科医師が診療部長を含め3名しか配属されておらず,教育・指導面でも一部のスタッフに仕事が偏っていることが問題であり,さらなるスタッフ配属により教育・指導体制を充実させることも今後の課題である.次に施設整備についてだが,内視鏡室が現在の場所に設置されてから40年以上が経過しているにも関わらず,施設の拡充が一度もなされておらず,当時と比べ倍増している検査件数に見合うだけの前処置スペースやリカバリースペースがなくなってきているのが現状である.清潔区域と不潔区域の動線も混在しており,運用面でカバーせざるを得ない状況である.当院は平成34年に竣工予定の新病院設立が計画されているため,現時点での大規模な改修は難しいが,患者や被験者の安全性,快適性を鑑みて,できる限りの改修は行っていきたいと考えている.夜間緊急体制に関しては,消化器・肝臓内科,外科の協力のもと24時間365日のオンコール体制を敷くことが可能となってはいる.しかしながら,夜間緊急ERCPなどの複数スタッフを必要とする治療などの際は,マンパワー不足のため不慣れなスタッフと緊急治療を行わざるを得ない場面もあり,夜間に内視鏡洗浄を行うスタッフもいないことなども含め,今後の緊急体制の課題と考えている.来るべき新病院設立時には,地域の中核となる消化器センターを立ち上げられるよう,これらの課題を優先順位に従って解決していきたいと考えている.