GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SAFETY OF DUODENAL STENT PLACEMENT FOR MALIGNANT GASTRIC OUTLET OBSTRUCTION WITH CHOLEDOCHODUODENAL FISTULA : TWO CASE REPORTS
Yoshitaka NAKAI Yoshio ITOKAWAYoko OIWATakeharu NAKAMURAKentarou AOKIMasahito KAWAMURAMari TERAMURAKiyonori KUSUMOTOToshihiro KUSAKAHiroyuki KOKURYU
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2018 Volume 60 Issue 1 Pages 27-33

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要旨

症例1は64歳男性,十二指腸癌StageⅣ(T4,N3,M1)の浸潤による胆管狭窄に対し内視鏡的に胆管金属ステント(Self-expandable Metal Stent:SEMS)を留置.その後胆管十二指腸瘻(Choledochoduodenal fistula:CDF)と十二指腸狭窄が上十二指腸角に出現した.症例2は68歳男性,膵頭部癌cStageⅣb(T3N2M1)に伴う胆管狭窄に対し,SEMSを留置.その後下行脚に腫瘍浸潤に伴う十二指腸狭窄と上十二指腸角にCDFを認めた.いずれの症例も穿孔や出血,胆管炎などのリスクを十分説明の上,内視鏡的十二指腸SEMS留置術を施行.十二指腸の狭窄は解除され,経口摂取可能となった.また,短・長期的な偶発症は認められず,安全に十二指腸SEMS留置が可能であった.

Ⅰ 緒  言

悪性腫瘍による胃排泄部や十二指腸の閉塞状態(gastric outlet obstruction:GOO)により経口摂取が不良となると,QOLの低下,治療開始の遅延や中断を招く恐れがあり,近年このような患者に対して,内視鏡的十二指腸ステント(Self-expandable Metal Stent:SEMS)留置術が行われるようになった 1.一方で出血や消化管穿孔等,致死的偶発症の発生も指摘され,治療方針の決定にあたっては十分な検討が必要である.

悪性腫瘍に伴う十二指腸胆管瘻(Choledochoduodenal fistula:CDF)の頻度は少なく 2,またこれまでCDFを伴ったGOOに対し内視鏡的十二指腸SEMS留置術の詳細な報告はない.

今回われわれはこれらに対し安全にSEMS留置が可能であった2症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例1

患者:64歳,男性.

主訴:黄疸.

既往歴:55歳時脳動脈瘤,63歳時舌癌.

現病歴:2013年10月,急性胆管炎,閉塞性黄疸にて近医より紹介受診.腹部造影CT画像にて十二指腸に壁肥厚を呈する30mm大の腫瘍性病変が認められ,また腫瘍による遠位胆管狭窄を伴っていた(Figure 1).初診時の上部消化管内視鏡検査(Esophagogastroduodenoscopy:EGD)では上十二指腸角(Superior Duodenal angle:SDA)に潰瘍性病変を認め(Figure 2),組織診にてAdenocarcinomaが検出された.以上より十二指腸癌(T4N3M1)StageⅣの診断となった.2013年11月,胆管狭窄に対しERCP下に胆管SEMS(ZEOSTENT uncovered 10×80mm XEMEX)を留置し,外来にて化学療法BV-FOLFOX6を開始した.2014年1月,吐血・下血のため緊急EGDを施行したところ,十二指腸腫瘍部から出血が認められ,後日,胆管SEMS留置部にCDFが確認された(Figure 3).今回2014年4月,腹部膨満感,閉塞性黄疸にて入院となった.

Figure 1 

初診時上部消化管内視鏡像.

十二指腸SDAに潰瘍浸潤型(3型)腫瘍を認めた.白矢印方向が消化管の肛門側を示す.

Figure 2 

初診時腹部造影CT像(冠状断).

十二指腸球部から下行脚に赤矢頭で囲まれた胆管浸潤を伴う潰瘍性病変を認めた.

Figure 3 

入院時上部消化管内視鏡像.

十二指腸SDAにCDFを認め,胆管ステントが露出し,総胆管が観察された.白矢印方向が消化管の肛門側を示す.

入院時現症:身長176.4cm,体重50.7kg,体温37.1℃,血圧89/63mmHg,脈拍105回/分.眼球結膜黄疸(+),腹部膨隆,腸蠕動音軽度低下,圧痛無し.

血液生化学検査:Hb 10.6g/dl,Ht 31.3%,TP 6.1g/dl,Alb 2.5g/dl,T-Bil 4.5mg/dl,ALP 1,034IU/L,AST 48IU/L,ALT 52IU/L,γGTP 294IU/L,CRP 16.5mg/dlで軽度貧血と栄養状態不良,閉塞性胆管炎の所見を認めた.

臨床経過:入院後,胆管SEMS閉塞に対し内視鏡治療を試みたが,下行脚に全周性狭窄を認め,乳頭へのアプローチは困難であった.十二指腸造影では下行脚に約2cmの狭窄と胆管への瘻孔が認められ,十二指腸癌浸潤に伴う狭窄とCDFと診断した(Figure 4).入院時のgastric outlet obstruction scoring system(GOOSS)は1点であった.CDFへの影響も懸念されたが,穿孔や出血,胆管炎などのリスクを十分説明の上,経内視鏡的十二指腸SEMS留置術を施行.スコープはThrough the scope(TTS)が可能な鉗子口径3.7mmのCF-H260AI(Olympus Medical System)を使用.MTW社製ERCPカテーテルを用いガイドワイヤーVisiglide2 0.035inch.(Olympus Medical System)を水平脚まで挿入.TTS法にて十二指腸SEMS(Niti-S Uncovered 22×100mm Century Medical)を乳頭の口側を肛門端とし,口側端が幽門部にかかるように留置した(Figure 5).留置後のEGDではSEMSの開存は良好で(Figure 6),Endoscopic bilially stent(EBS)留置(Double-Pig tail型7Fr. Gadelius Medical)も可能となり黄疸は改善.またGOOSSも3点に改善したため退院となった.退院後,化学療法としてFOLFIRIを継続.留置3カ月後,原疾患にて死亡された.経口摂取可能期間は80日間で,SEMS留置に伴う偶発症は認められなかった.

Figure 4 

内視鏡的十二指腸造影.

カテーテルを用いて十二指腸SDAの狭窄部より造影施行.約2cmに渡る十二指腸の狭窄と瘻孔から胆管への逆流が造影された.

Figure 5 

十二指腸ステント留置後腹部X線写真.

TTS法にて十二指腸ステントを乳頭の口側を肛門端とし,口側端が幽門部にかかるように留置した.

Figure 6 

十二指腸ステント留置後上部消化管内視鏡像.

留置後SDAの狭窄は改善されており,赤色破線部で囲まれた領域がCDF部を示す.

症例2

患者:68歳,男性.

主訴:頻回の嘔吐.

既往歴:特記事項無し.

現病歴:2015年2月,閉塞性黄疸にて前医入院.膵頭部癌(T3N2M1病理組織;Adenocarcinoma)cStageⅣbの診断となり,ERCP下にEBSが留置された.2015年3月,治療目的に当院紹介受診となった.初診時のEGDにてSDAに腫瘍浸潤による発赤とびらんが認められた.胆管狭窄に対しERCP下に胆管SEMS(Wallflex partial covered stent 10×80mm Boston Scientific)を留置後,化学療法としてGemcitabine+Nab-Paclitaxel併用療法を開始.3クール施行後Progressive diseaseとなり,S-1単剤療法に変更し治療継続.2015年5月,頻回の嘔吐にて救急外来受診.CT画像検査にて十二指腸狭窄が疑われ精査加療目的に入院となった.

入院時現症:身長168.0cm,体重49.2kg,体温36.8℃,血圧97/64mmHg,脈拍63回/分.腹部膨隆,腸蠕動音軽度低下,圧痛無し.

血液生化学検査:Hb 12.7g/dl,Ht 35.3%,TP 7.1g/dl,Alb 3.6g/dl,T-Bil 0.5mg/dl,ALP 409IU/L,AST 27IU/L,ALT 23IU/L,γGTP 58IU/L,CRP 0.58mg/dlと栄養状態は良好で,その他も大きな異常は認めなかった.

臨床経過:入院時,嘔吐症状有り,GOOSSは0点であった.入院後のEGDでは,SDA付近に胆管SEMSが露出し,CDFを形成していた.またその肛門側に全周性の狭窄を認め,スコープの通過は不可能であった(Figure 7).内視鏡的十二指腸造影では下行脚に約2cmに渡り狭窄が認められ,膵癌腫瘍浸潤に伴う十二指腸狭窄と診断した(Figure 8).症例1と同様に経内視鏡的十二指腸SEMS留置術(Niti-S Uncovered 22×120mm Century Medical)を施行した(Figure 9).留置後のEGDではSEMS開存は良好で,胆管SEMSからの胆汁流出も良好であった.またGOOSSも3点に改善し退院となった.退院後,胆管SEMS閉塞による急性胆管炎を起こしたが,内視鏡的にEBS留置(Double-Pig tail型7Fr. Gadelius Medical)が可能であった.留置2カ月後,原疾患にて死亡された.経口摂取可能期間は41日間で,SEMS留置に伴う偶発症は認められなかった.

Figure 7 

入院時上部消化管内視鏡像.

十二指腸SDAにCDFを認め,胆管ステントが露出していた.白矢印方向が消化管の肛門側を示す.

Figure 8 

十二指腸ステント留置後腹部X線写真.

TTS法にて十二指腸ステントを乳頭の口側を肛門端とし,口側端が幽門部にかかるように留置した.

Figure 9 

十二指腸ステント留置後上部消化管内視鏡像.

留置後SDAの狭窄は改善されており,赤色破線部で囲まれた領域がCDF部を示す.

Ⅲ 考  察

胆管十二指腸瘻(CDF)は比較的稀な病態であり,様々な病因により形成される 2.良性疾患では総胆管結石や十二指腸潰瘍,腹部結核 3,悪性疾患では膵癌,胆管癌,乳頭部癌,転移性腫瘍などの浸潤 4),5,また医原性として胆管SEMS留置 6)~10などが報告されている.癌浸潤や医原性に起因するものは非常に稀で 2,十二指腸癌に伴うCDFの報告は見られない.悪性疾患のCDF発生機序は,①腫瘍の胆管浸潤と胆管閉塞に伴う胆道内圧上昇 5),8,②胆管SEMS留置による胆管壁圧迫 3の影響と考えられている.さらに化学療法は腫瘍壊死に伴いCDF発生のリスク要因になるとされている 7.いずれの症例も①と②の機序によるものと考えられた.

CDFを伴う十二指腸狭窄症例では,症例1のように胆管との交通が存在する場合,胃内容物の胆管側への流入が惹起され,胆管SEMS閉塞や胆管炎の発症が危惧される.十二指腸ステント留置により狭窄が解除されると,腸管肛門側への胃内容物流出が改善するため,胆管への流入が減少し,胆管SEMS閉塞や胆管炎発症のリスクが低下すると考えられる.よって,胆管SEMS留置により乳頭側へのドレナージが良好であれば,敢えて瘻孔閉鎖は必要ないものと考えられた.一方で長期生存が見込まれ,短期間に胆管炎を繰り返す場合,胆管壁側より胆管covered metal stent(CMS)にて瘻孔閉鎖を考慮すべきであると考えられる 11.胆管SEMSは長期開存の点から胆嚢炎や膵炎のリスクがなければ可能な限りuncovered metal stent(UMS)よりもCMSが選択されるべきであるが,本症例からはcoverの有無に係わらずCDFへの短~中期的な影響は少ないと考えられた.

本邦では2010年4月より胃十二指腸SEMS留置術は認可され,その手技的成功率は92.9~100%,臨床的成功率は76.9~94.4%と高い成功率を示している 12)~21.一方,穿孔や出血などの致死的偶発症の発生率は0~5%と報告されている 12)~21.胃十二指腸SEMSによる消化管穿孔の原因として,ステント端の機械的刺激や物理的圧迫 17),22),23,また,屈曲部が直線化することでステントが消化管壁を圧迫するためと考えられている 24.2012年11月には厚生労働省の医薬品・医療機器等安全性情報「消化管用ステントに係る使用上の注意の改訂について」から,放射線療法や化学療法により,組織が脆弱な状態の患者に対し消化管SEMS留置を行った場合,消化管穿孔のリスクが増加する恐れがあるとし,患者の状態を慎重に確認して,適用の可否を検討することが必要とし,添付文書の改善が行われた.医学中央雑誌で「胆管十二指腸瘻,十二指腸狭窄,胃十二指腸ステント」,PubMedで「Choledochoduodenal fistula or Malignant gastroduodenal obstruction and Gastroduodenal stent」で検索した結果,これまでCDF合併のGOOに対し十二指腸SEMSを留置した症例は,遠位胆管癌に胆管SEMS留置4年後の1例のみで,穿孔や出血など短期偶発症は認めていない.しかし,SEMS留置の詳細や長期経過に関する記述はされていなかった 25.今回の2症例は,いずれも化学療法と癌浸潤により組織の脆弱な状態が予想されたが,偶発症は認められなかった.

現在国内では6種類の胃十二指腸SEMSが保険承認され,構造上大きくワイヤーがらせん状に巻かれたCross wire type(CW)とワイヤーが交互に編み込まれたHook wire type(HW)に分類される(Table 1).CWは強いRadial force(RF:拡張力)を有し,Axial force(AF:直線化力)も少し強い傾向にあり,留置の際にshorteningが生じる.一方,HWはRFがやや弱いが,AFも非常に弱くconformabilityが良好で,shorteningは少ない 26.本症例ではSEMSの選択に当たり,RFとAFの弱いNiti-Sステント 12)~15を選択した.Niti-Sステントはその弱いAFによりkinkも少なく,十二指腸の屈曲部でも十分になじんで開存性が高い 15.さらにconformabilityが良好で腸管壁や胆管SEMSに対する力の分散が期待できる.またステント長も乳頭直上から幽門部まで長く留置することで,瘻孔部や屈曲部での過拡張と物理的圧迫を予防し,偶発症のリスクを軽減したものと考えられた.現在Niti-SステントはCMSとUMSが使用可能である.SEMS閉塞に関してはCMSの方が有利であると考えられたが 27,瘻孔部での出血などのイベントが発症した場合,CMSでは病変部位が同定できず,対応が困難となると考えられたため,いずれの症例もUMSを選択した.また気道閉塞や呼吸器感染のリスクが高い進行食道癌に伴う食道気管支瘻ではCMSの有用性が報告されているが 28,CDFでは瘻孔閉鎖が必須ではなく 11,上記の理由により現時点ではUMSが適しているのではないかと考えられた.

Table 1 

本邦で使用可能な胃十二指腸ステントの一覧.

Ⅳ 結  語

悪性の十二指腸胆管瘻を伴う十二指腸狭窄に対し内視鏡的十二指腸ステント留置を安全に施行することが可能であった.患者の予後・全身状態に応じて治療法の選択,適切なステントの選択が重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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