GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CASE REPORT : A SINGLE PIG-TAILED PLASTIC STENT INDUCED PANCREATIC FISTULA AND RETROPERITONEAL ABSCESS
Yuji NAKAMURA Tatsuhito MIZUNOKoki OKUBOHiroshi MINOHitomi IKEGAYARyoji HAYASHI
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2018 Volume 60 Issue 1 Pages 42-47

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要旨

膵管拡張を指摘された65歳女性.膵頭部癌を疑い膵管ブラシ細胞診を施行,膵炎予防のため自然脱落型片側ピッグテイル膵管ステントを留置した.ERCP後17日目に腹痛と血圧低下で緊急入院となった.ステント迷入による膵液瘻と後腹膜膿瘍と診断し,膵液瘻に対し内視鏡的膵管ステント,後腹膜膿瘍に対し経皮経肝ドレナージと内視鏡的経鼻経乳頭的ドレナージを行い保存的に軽快した.膵管ステントの重篤合併症は稀であり,示唆に富む症例として報告する.

Ⅰ 緒  言

ERCPは急性膵炎の原因として重要であり,重症急性膵炎が診断的ERCPで0.07%,治療的ERCPで0.1%の頻度で発生し,急性膵炎診療ガイドライン2015はERCP後膵炎高危険群の膵炎予防として予防的膵管ステント留置術を推奨度Aで勧めている 1.膵がんや胆道がんの増加に伴い細胞診やステント留置など経乳頭的内視鏡処置が増加しており,2012年4月より内視鏡的膵管ステント留置術が保険診療で承認され多く行われるようになった.しかし合併症報告は少なく重篤化した症例は稀である.

後腹膜膿瘍は比較的稀な疾患で,発熱・腹痛・腰背部痛・下肢疼痛など様々な症状を呈する.病因別に感染原因が不明な原発性と後腹膜に近接する臓器の感染が波及する続発性に分類される.原発性はコントロール不良糖尿病やステロイド投与など易感染性の基礎疾患が挙げられ,続発性は憩室炎・虫垂炎・大腸癌・クローン病・十二指腸潰瘍穿孔・膵炎などの報告があり 2,膵液瘻も続発性後腹膜膿瘍の原因疾患となる.

今回われわれはERCP後膵炎予防のため自然脱落型膵管ステントを留置したが17日後に膵液瘻と後腹膜膿瘍から敗血症性ショックをきたした重篤な膵管ステント合併症を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:60歳代,女性.

主訴:腹痛.

既往歴:腰部脊柱管狭窄症.

家族歴:特記すべきことなし.

生活歴・嗜好歴:飲酒なし,喫煙なし.

現病歴:近医に腹痛で受診した際の腹部エコー検査で膵管拡張を指摘された.腹痛は胃腸薬で軽快したがMRI検査で膵頭部膵管狭窄が疑われ,精査のため当院に紹介された.造影CTを施行したところ膵管拡張は軽微で膵実質に明らかな異常は認めなかった.小膵癌の可能性を否定できないためERCPを施行した.ERCPは膵頸部主膵管の一部に造影不良を認め,加圧造影で屈曲と屈曲部頭側に軽度拡張不良を認めた(Figure 1-a).小膵癌の可能性を疑い膵管ブラシ細胞診を施行後,膵炎予防のため5Fr5cm自然脱落型膵管ステント(片側ピッグテイル:ガデリウス・メディカル社)を主膵管内ガイドワイヤーに沿わせて留置し終了した(Figure 1-b).細胞診はClassⅡであった.ERCP後に心窩部痛を訴え,翌日アミラーゼ1,368IU/lを認めたためERCP後膵炎と診断した.3日間禁食・点滴で加療した後に食事を開始し10日後に退院した(退院前アミラーゼ70IU/l).退院後7日目に前日から生じた腹痛と体動困難のため,当院に夜間救急搬送された.

Figure 1 

初回ERCP.

a:初回のERCPは頸部主膵管の矢頭部位に屈曲とその十二指腸側に軽度拡張不良を認め膵管ブラシ細胞診を施行した.

b:主膵管内のガイドワイヤーに沿わして脱落型ステントを留置して終了した.

入院時現症:身長148cm,体重45kg.意識清明,体温38.5℃,血圧70/39mmHg,脈拍129/分,整.腹部は平坦,上腹部を中心とした圧痛あり,反跳痛はなし.

臨床検査成績:高度の炎症反応を認め,肝・腎障害も認めた(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

入院後経過:救急外来の腹部CTで肝門部に7.4cmのガス像を伴う低吸収域を認め(Figure 2-a),膵体部背側にも同様の変化を認めた(Figure 2-b).膵臓周囲に炎症を認めるが,膵辺縁は比較的明瞭で急性膵炎に認められる膵腫大や膵実質不均一所見は認めなかった.後腹膜膿瘍による敗血症を疑い入院,大量補液とノルアドレナリンに抗生剤メロペネムを投与したが入院後徐々に血圧が低下したため深夜に緊急でエコーガイド下経皮経肝膿瘍ドレナージを施行した.ドレーンから黄白色の膿汁が排出され,血圧は徐々に安定した.ドレナージ液検査でアミラーゼが58,464U/Lと高値であり,CTの画像所見と膵管ステントが残存していることからステント迷入による膵液瘻を疑った.膵液瘻の評価と治療のために内視鏡的膵管ステント留置を勧め,入院翌日夕方に2回目のERCPを施行した.脱落型膵管ステントは残存しており(Figure 3-a),ステントを抜去せずに膵管造影を行ったところステント尾側は主膵管から分枝に迷入しており,造影剤が末梢から後腹膜に漏出した(Figure 3-b).さらに漏出した造影剤は頭側に拡がり経皮経肝ドレーンへ連続した.以上から膵管ステントが分枝膵管から後腹膜腔へ穿通し膵液瘻を生じ,感染を伴った後腹膜膿瘍が肝十二指腸間膜を介して肝門部に拡がったと診断した.後日後腹膜膿瘍培養からEnterococcusが検出された.造影検査に引き続いて原因となった自然脱落型膵管ステントを抜去し,ガイドワイヤーを主膵管に慎重に挿入し膵液瘻部位を橋渡しするように5Fr12cm(クック・メディカル社)の両側フラップ膵管ステントを留置した.さらに膵頭部周囲膿瘍を効果的に洗浄・ドレナージするため膵液瘻を介した経鼻経乳頭的後腹膜ドレーン5Frを留置した(Figure 3-c).2本のドレーンを使用して朝夕2回の洗浄を行ったところ炎症は速やかに改善した.長期間の膵液瘻を介した経鼻経乳頭的後腹膜ドレーン留置は瘻孔閉鎖に支障をきたすことから5日目に抜去した.経乳頭的後腹膜ドレーン抜去2日後に発熱と腹部鈍痛を訴えたため,膵管ステントを5Frから7Frへサイズアップしたところ軽快した(Figure 4).その後経皮経肝ドレナージチューブは19日後に抜去,40日後に退院となった.退院4カ月後のERCPで膵液瘻閉鎖を確認(Figure 5),半年後に膵管ステントは抜去した.1年経過した現在特記する症状はなく,その他に追加する異常は認めていない.

Figure 2 

緊急入院時CT.

a:単純CT,肝門部付近にガス像を有する低吸収量を認め膿瘍が疑われる.

b:膵体部背側の後腹膜にも同様の膿瘍病変が疑われる.

Figure 3 

2回目ERCP.

a:造影直前,前回留置した脱落型膵管ステントは残存している.

b:膵管造影,膵管ステントは頸部主膵管から外れ,造影剤は膵管ステント尾側から膵外へ漏出し経皮経肝ドレーンまで造影された.

c:ガイドワイヤーを主膵管内に膵尾部まで挿入,加えて膵液瘻部から後腹膜腔へ1本追加し,2本のガイドワイヤーに沿わして両端フラップ膵管ステントと膵液瘻を介した経鼻経乳頭的後腹膜膿瘍ドレーンを挿入した.

Figure 4 

入院後経過.

Figure 5 

退院後4カ月のERCP.

加圧した膵管造影で末梢膵管や総胆管が造影されるが膵管外漏出は認めず,膵液瘻は閉鎖したと診断した.

Ⅲ 考  察

本例はERCP後膵炎予防の膵管ステントが重篤な合併症を生じた症例である.ERCP後膵炎の発症頻度は3.1-5.4%,重症例は0.2-0.4%,死亡率は0-0.04%と報告され,危険因子としてOddi括約筋機能不全や膵炎既往などが挙げられている 1.ERCP後膵炎の高危険群に対して予防的一時ステントを留置する有効性については,4つのRCTを含む5つの前向き研究とメタ分析で証明されている 1.ERCP後膵炎ガイドライン2015で経乳頭的膵管ブラシ細胞診施行は高危険群に相当するため,本例はガイドラインに準じて自然脱落型膵管ステントを挿入した 3.自然脱落型膵管ステントに伴う合併症はステント逸脱4.9%やステント閉塞7.9%などが報告されているが,本例のような膵液瘻は稀である.

本例で膵液瘻を起こした原因はステント尾側が分枝膵管へ迷入したためで,ERCPで認めた主膵管頸部屈曲が原因と推察している.屈曲部にステントが留置され,曲がったステントの復元力が乳頭から直線方向にある分枝方向へ作用したと考え,自然脱落型ステントはステント尾側が固定されないことも迷入原因の一つと考えている.膵頸部主膵管は胎生6週から8週にかけて腹側膵と背側膵が癒合して形成され,頸部膵管屈曲も同時期に起きるものと考えられている 4)~6

膵管ステントは膵液の粘稠が少ないため5Frの太さのものが通常用いられるが,長さに関しては一定の決まりはなく術者の判断に任されている.過去のステント長に関する報告では,3cmの長さでは挿入直後に脱落してしまい十分な効果を期待できなく,一方5cmの長さでは自然脱落しないことが増えるため,4cmが好ましいとする報告がある 7.本例で4cmのステントを用いていた場合にどのような経過を経たかについては興味があるが,長めの両端フラップステントを用いれば合併症が避けられたと考える.実際に膵液瘻治療で用いた12cm膵管ステントは迷入せず長期留置で膵液瘻が治癒した.今後,頸部主膵管屈曲例ではステント留置に関して注意が必要である.また,ガイドラインは自然脱落型膵管ステントがERCP後5-10日経過しても脱落していない場合は膵炎を惹起する可能性があるため内視鏡的抜去を推奨している 8.今回の症例はERCP後膵炎を発症したため,膵管ステントの膵炎予防効果を期待して抜去せず経過観察をしたが,逆に重篤な合併症へつながったと考えられ早期に抜去すべきであった.

膵液瘻は膵臓手術や膵炎で生じることが多く,不幸な転帰をたどることが少なくない.以前は経皮的ドレナージで治療し改善不良の場合に開腹手術を行っていたが,2012年から内視鏡的膵管ステント留置術が保険診療で承認され開腹手術を回避できる患者が増えている 9),10.本例もERCPで膵液瘻を確認すると同時に内視鏡的膵管ステントを留置することで膵液瘻は保存的に治癒した.脱落型膵管ステントが膵液瘻を来した症例を検索するため医中誌Webで検索用語「脱落型膵管ステント」と「膵液瘻」で1970年から2017年3月まで検索したところ,2013年に会議録が1例報告されていた 11.膵管ステント留置術が保険認可される前の症例であり,開腹手術で膵部分切除が行われた症例であった.手術に比べて侵襲性や治療後の膵機能温存に優位性がある内視鏡的膵管ステント治療は膵液瘻に対する効果的な手技である.

後腹膜膿瘍は比較的稀な疾患で治療は適切な抗菌薬投与とドレナージが基本である.ドレナージ法としては低侵襲かつ安全に施行可能なCT・超音波ガイド下の経皮的ドレナージが第一選択となっている.急性膵炎後の後腹膜膿瘍(walled-off necrosis:WON)に対して超音波内視鏡下の経鼻経胃ドレナージの報告は少なくないが 12,膵液瘻を介した内視鏡的経鼻経乳頭的ドレナージは過去に報告がない.本例は,経皮経肝ドレナージに加えて経鼻経乳頭的ドレーンを追加したことも炎症改善に効果があった可能性があると考えているが,瘻孔閉塞機転の障害となる可能性や,抜去2日後に腹痛や発熱を認めたことなどから,その有用性については今後検討の必要がある.

Ⅳ 結  語

ERCP後膵炎予防のための自然脱落型膵管ステントが分枝膵管に迷入し膵液瘻から後腹膜膿瘍に至った一例を経験した.脱落型ステントを留置するうえで留置位置に加えてステントの長さや形状などを検討すべきと考えられた.

謝 辞

本症例を研修医として受け持ちした前田康介医師に深謝します.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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