GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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INVESTIGATION OF BACTEREMIA IN PATIENTS WITH CHOLANGITIS CAUSED BY COMMON BILE DUCT STONES
Masaru MIYAZATO Hisayoshi NATOMIYuuko SHIROMAKeisuke YONAMINEMaki NISHIZAWAHitoshi MABUCHIYuzuru KINJOUNoriya NAKACHIHiroto SHIMAJIRIRyousaku TOMIYAMA
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2018 Volume 60 Issue 11 Pages 2377-2386

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要旨

【方法】内視鏡的逆行性膵胆管造影法(ERCP)を施行した総胆管結石性胆管炎の症例で血液培養が採取されていた241例を対象に,菌血症の頻度や起因菌ならびに重症度との関連や菌血症群の特徴について検討した.【結果】対象群の35.2%が菌血症を合併した.菌血症の頻度は胆管炎の重症度に比例し重症例では65%に達した.起因菌はEscherichia ColiKlebsiella属等のグラム陰性菌が多くを占め,起因菌の中に耐性菌の一種であるextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌がみられた.菌血症合併例は非合併例と比較して,高齢で重症度が高く抗菌薬投与期間が長い結果となった.【結論】総胆管結石性胆管炎の重症例では菌血症を合併することが多く,速やかな胆道ドレナージと共に起因菌を想定した強力な抗菌薬治療が重要である.

Ⅰ 緒  言

胆管炎における菌血症の頻度に関しては第1版の「急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン 1」(以下旧胆管炎ガイドライン)で21~71% 2)~5とされており,第2版「急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2013 6」(以下胆管炎ガイドライン)でも踏襲されている.しかし,それらは主に欧米からの報告に基づいている.そこで今回われわれは過去にERCPを施行した総胆管結石性胆管炎の症例を基に菌血症の頻度や菌血症合併例の特徴,胆管炎の重症度と菌血症との関連について検討した.

Ⅱ 対象と方法

対象は2009年4月から2015年12月までの間に当院にて総胆管結石性胆管炎でERCPを施行した315例中で血液培養が採取されていた241例.性別は男性120例で女性が121例.年齢は13歳~100歳で平均で75.5歳,中央値で80歳と高齢者が多くみられた.胆管炎の診断は胆管炎ガイドライン 6の診断基準に準じて行った.また全例において胆管炎ガイドライン 6の急性胆管炎重症度判定基準(TG13基準)に基づいて重症度を判定した.総胆管結石の診断はCTやMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography),ERCPにて行った.

今回われわれは前述した241例を対象に血液培養と胆汁培養の陽性率,起因菌およびそれらに対する代表的な抗菌薬の感受性を調べた.また菌血症合併例の特徴を明らかにするために,血液培養の陽性群と陰性群に分けて,年齢や重症度,結石の数および結石径,ERCPまでの期間と抗菌薬投与期間,Clostridium difficile腸炎の有無,予後といった各項目について比較検討した.さらに胆管炎ガイドライン 6の重症および中等症の判定基準に用いられる各項目についても血液培養の陽性群と陰性群で比較検討を行った.

当院での血液培養検査実施の基準は,胆道感染が疑われ入院加療を要する場合に原則全例で採取している.血液培養の方法は,受診後より抗菌薬開始までの間に四肢の異なる2カ所の部位から血液を採取してそれぞれ10mlずつ嫌気性菌用ボトルと好気性菌用ボトル(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に分けて1セットとし,合計2セットを提出している.血液培養ボトルに採取した血液は,血液培養自動分析装置BACTECTMFX(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)にて培養され細菌が検出されれば陽性,7日間培養して検出されなければ陰性と判断している.検出された菌種の同定には,質量分析装置MALDI Bio-typer(ブルカー・ダルトニクス株式会社)を使用し,抗菌薬の感受性はMIC法でドライプレート‘栄研’(栄研化学株式会社)にて測定され,Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠して決定している.

胆汁培養はERCPの際に採取した胆汁をスピッツに入れて提出した.胆汁培養の方法については,まず採取した胆汁を遠沈した後にグラム染色による塗抹検査を施行して菌体を確認する.菌体が確認できれば好気培養にはヒツジ血液寒天培地やチョコレートⅡ寒天培地,BTB乳糖加寒天培地(いずれも日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を使用し2~3日で判定し,嫌気培養はアネロコロンビアRS血液寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)にてさらに数日間を要して培養し判定する.塗抹検査で菌体が確認できない場合は,極東HK半流動生培地(極東製薬工業株式会社)にて5日間培養して細菌が検出されなければ陰性と判断している.

抗菌薬の投与期間は,グラム陽性菌による菌血症の合併例は胆管炎ガイドライン 6に準じて2週間以上とし,グラム陰性菌の菌血症合併例や血液培養陰性例では症例毎の重症度や臨床経過に応じて投与期間を決定した.

統計解析はχ 2検定およびt検定,Mann-Whitney検定ならびにFisherの正確確率検定を使用し,p値<0.05を有意差ありと判断した.

Ⅲ 結  果

総胆管結石性胆管炎における血液培養の陽性率は35.2%であり(Figure 1),陽性の場合は通常24~48時間で菌が検出されていた.重症度別の菌血症の頻度は軽症で19.8%,中等症で42.3%,重症で65.0%となり重症になるに従い有意に菌血症の頻度が増加した(Figure 2).

Figure 1 

総胆管結石性胆管炎における菌血症の頻度.

Figure 2 

胆管炎の重症度別に分けた菌血症の頻度.

尚,今回血液培養が採取されていなかったのは主に軽症例であり,多くは入院時の診断名が胆石症や肝機能障害となっていた.

血液培養の陽性群と陰性群に分けて比較検討すると,陽性群では陰性群よりも高齢で重症度も高く,ERCPまでの期間が短く抗菌薬投与期間は長い結果となった(Table 1).さらに陽性群では胆管炎のTG13基準における重症項目中の循環障害と血液凝固異常が,中等症項目では白血球数異常と発熱および高齢者の割合が有意に高い結果となった(Table 2).

Table 1 

血液培養陽性群と陰性群の比較.

Table 2 

胆管炎の重症および中等症の各項目からみた血液培養陽性群と陰性群の比較.

次に血液培養の分離菌の内訳をみるとEscherichia ColiKlebsiella属,Enterococcus属,Enterobacter属の順に多い結果となった(Figure 3).また菌血症合併例のうち19%では血液培養から複数の菌が検出された.

Figure 3 

血液培養からの分離菌の内訳.

血液培養から分離された細菌における主な抗菌薬の薬剤感受性検査に関しては,菌種によって測定する薬剤が異なり以下に示す結果となった(Table 3).分離菌の86%を占めるグラム陰性菌に対する各抗菌薬の感受性率は,第2世代セフェム系抗菌薬のcefotiam hydrochlorideや第3世代セフェム系抗菌薬のceftazidime hydrateはどちらも70~80%台と概ね良好で,カルバペネム系抗菌薬のimipenem hydrate cilastatin sodiumでは100%となっており耐性はみられなかった.次に分離菌の11%でみられたグラム陽性菌に対する抗菌薬の感受性率は,前述のimipenem hydrate cilastatin sodiumとペニシリン系抗菌薬のampicillinが共に73%で,グリコペプチド系のvancomycin hydrochlorideは100%と良好であった.その他に嫌気性菌も分離菌の3%から検出され,抗菌薬の感受性率はimipenem hydrate cilastatin sodiumは100%であったが他は50%にとどまった.

Table 3 

血液培養の分離菌別にみた抗菌薬の感受性率.

血液培養からの分離菌の10%に耐性菌の一種であるextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌が検出され,それらに対してはペニシリン系やセフェム系抗菌薬の感受性検査は耐性であったが,カルバペネム系抗菌薬の感受性は良好で耐性はみられなかった.ESBL産生菌が検出された症例を胆管炎の重症度別でみると重症例で3例,中等症例で5例,軽症例で2例となり,それぞれ重症例の8%,中等症例の6%,軽症例の2%を占めていた.ESBL産生菌による菌血症の10例(1例は重複のため9名)は,ほとんどが80歳以上の高齢者であり介護施設入所者も多く基礎疾患を有しており,ESBL産生菌による菌血症の前にも抗菌薬を使用した感染症での入院歴が多くみられた(Table 4).ESBL産生菌が検出された症例の中で死亡例はみられず,抗菌薬は6例がカルバペネム系,4例はセフェム系抗菌薬にて治療されていた.

Table 4 

ESBL産生菌による菌血症患者(n=9)の概要.

胆汁培養は241例中38例で提出され68.4%にあたる26例が陽性で分離菌は多い順にEscherichia ColiEnterococcus属,Klebsiella属の結果となった(Figure 4).また,26例中の50%にあたる13例で複数の菌が検出された.胆汁を採取したERCPの施行時期については受診時より平均で3.6日,中央値2日であった.胆汁培養から菌が検出された26例のうち血液培養陽性例は20例あり,胆汁と血液の培養からの分離菌が一菌種以上一致した症例を15例認め,一致率は75%であった.

Figure 4 

胆汁培養からの分離菌の内訳.

Ⅳ 考  察

胆石症診療ガイドライン2016 7によると,急性胆管炎の多くは結石による胆管閉塞と胆汁中の細菌増殖により起こり,胆道内圧が20cmH2Oを超えるとcholangiovenous refluxが進行 8して循環血液内に細菌を含んだ胆汁が流入して菌血症となり,急性閉塞性化膿性胆管炎になるとされている.実際に胆管炎は菌血症を合併することが多く,胆管炎ガイドライン 6では菌血症の頻度は21~71%とされている.われわれの検討では35.2%となり,前述した範囲内に含まれていた.ただし,今回血液培養の採取率は全体の77%であり,全例では採取されておらず特に軽症患者では血液培養が採取されていない傾向にあった.山岸らは総胆管結石以外の原因も含めた急性胆管炎で緊急ERCPを施行した症例における血液培養の陽性率を30%(30例中9例)と報告し 9,吉村らもERCPを施行した急性胆管炎症例での血液培養の陽性率を48%(785例中380例)と報告している 10.今回は総胆管結石性胆管炎のみを対象としており,良性狭窄や悪性腫瘍による胆管炎を含めていないため直接の比較は困難である.重症例における菌血症の頻度は今回65%であったが,浅井らは旧胆管炎ガイドライン 1の重症度基準に基づいた総胆管結石性胆管炎の重症例における菌血症の頻度を68.4%(19例中13例)であったと報告しており 11,ほぼ同様の結果となった.

抗菌薬の投与期間に関して胆管炎ガイドライン 6では感染巣の制御後から4~7日とされているが,グラム陽性菌による菌血症では感染性心内膜炎のリスクを踏まえ2週間以上とされている.当院でも菌血症群の抗菌薬投与期間は平均で9日間と血液培養陰性群と比較して長い結果となったが,グラム陽性菌に関しては胆管炎ガイドライン 6に準じて最低2週間の投与としており心内膜炎の発症はみられなかった.胆管炎での抗菌薬の投与期間に関して小暮らは胆道ドレナージが成功した後に体温が37℃未満まで低下して24時間以上経過すれば抗菌薬中止が可能であったと報告している 12.菌血症群では高齢者が多い上に抗菌薬の投与期間も長い結果となったが,抗菌薬の使用と関連するClostridium difficile腸炎の発症に関しては,血液培養陰性群と差がなかった.これに関しては,胆道ドレナージ後に全身状態や臨床データが改善していれば速やかに抗菌薬を中止する方針であったことが影響したと考えている.

血液培養の分離菌に関しては,胆管炎ガイドライン 6にて挙げられている分離菌と比較してPseudomonas属の割合が低い以外は概ね一致した(Table 5).また,重症度別の分離菌の割合も大きな違いはみられなかった(Figure 5).今回の検討でわれわれは分離菌の中に耐性菌であるESBL産生菌が少数ながらも含まれていたことに着目した.ESBLとはKlebsiella属やEscherichia Coliで問題となる酵素であり,当初はペニシリン系を分解するペニシリナーゼであったものが基質特異性を広げセファロスポリン系も分解可能となり,第一から第三世代セフェム系抗菌薬を無効にするとされる 13.ESBL産生大腸菌に対する抗菌力はカルバペネム系が最も強く,セファマイシン系抗菌薬や,β-lactamase阻害剤との合剤の一部も抗菌力を有しており 14,実際に胆管炎以外も含めた敗血症患者の血液培養から分離されたESBL産生大腸菌はこれらの抗菌薬に感受性を示したと報告されている 15.また,ESBL産生菌は菌血症を合併した胆管炎において臓器障害のリスクファクターの一つであるとも指摘されている 16.吉村らは,急性胆管炎で血液培養および胆汁培養を施行した症例を介護施設入所者を含めた医療関連感染と市中感染に分けた結果,ESBL産生菌は医療関連感染で9.2%,市中感染で1.3%から検出され医療関連感染で有意に高かったと報告している 10.胆管炎ガイドライン 6では医療関連感染症として長期臥床,介護施設入所者,胃瘻造設,気管切開,繰り返す嚥下(誤嚥)性肺炎,褥瘡,尿路カテーテル留置,最近の術後感染症の既往,他疾患で抗菌薬療法を施行中において発症した感染症を挙げている.当院のESBL産生菌の症例も医療関連感染が多く,この様な背景をもつ症例においては耐性菌の存在に注意する必要がある.

Table 5 

胆道感染による菌血症の分離菌.

Figure 5 

胆管炎の重症度別にみた血液培養からの分離菌の内訳.

胆管炎ガイドライン 6では市中感染の重症例および医療関連感染に対する抗菌薬の選択に関してカルバペネム系抗菌薬をはじめ,第三世代セフェム系でも抗緑膿菌活性のあるceftazidime hydrateや第四世代セフェム系抗菌薬,モノバクタム系のaztreonamの単独およびmetronidazoleとの併用が推奨されている.今回全体での死亡例4例はすべて重症例で,入院時に使用された抗菌薬は3例がセフェム系で1例がカルバペネム系であり,セフェム系で治療が開始された3例中1例は途中でカルバペネム系に変更された.ESBL産生菌が血液培養から検出された10例のうち死亡例はなかったが重症例も含まれており,ESBL産生菌はすべてカルバペネム感受性であったことを踏まえると,重症例に関してはカルバペネム抗菌薬の使用を積極的に考慮してよいと考えられた.

胆汁培養に関しては,分離菌の割合は胆管炎ガイドライン 6に近い結果となったが,胆汁培養の提出が少なかったことは反省すべき点であった.胆汁培養の重要性は前述のガイドライン 6でも述べられており,現在は積極的に採取している.門倉らは,胆道感染症で血液培養と胆汁培養が共に陽性だった31例で一致率を検討し30例(96%)と高い一致率を報告している 17が,今回当院では75%と報告より低い結果となった.また今回の対象者には高齢者が多くみられたが,吉村らは胆汁培養に関して75歳以上の高齢者では75歳未満に比較してより多くの菌が検出されていると指摘しており 10,その理由として基礎疾患による免疫低下,ならびに認知機能の低下や疼痛への寛容による発症からの受診までの長さに加え,内視鏡的乳頭切開術等の乳頭処置後の腸液の胆管内への逆流による影響の可能性を挙げている.今回の症例を細菌培養にて複数菌と単一菌が検出された群に分けて,年齢や乳頭処置の有無および認知機能の低下について比較検討してみたが(Table 6),明らかな差は見い出せず,基礎疾患についても多岐にわたるため直接の比較は困難であった.

Table 6 

血液培養および胆汁培養からの複数菌検出者と単一菌検出者の比較.

胆管炎ガイドライン 6では,胆道感染における血液培養の有用性に関する臨床研究は乏しいとの記述がある.今回のわれわれの検討では中等症の胆管炎での菌血症の頻度は4割になるため,少なくとも中等症以上では血液培養の採取は必要と考えている.軽症例での血液培養の陽性率は2割であり,菌血症の起因菌としてグラム陰性菌が多く(Figure 5),抗菌薬の投与期間も胆道ドレナージ後に短期間で終了することが多いため,重症例や中等症例と比較して血液培養検査の重要性は低いことが示唆された.

ただし,胆管炎ガイドライン 6内でもグラム陽性菌の菌血症の場合には心内膜炎のリスクを考慮し抗菌薬投与期間は2週間以上が推奨されており,菌血症の診断においては血液培養が不可欠であるため施行可能な施設においては可能な限り血液培養を採取することが望ましいと考えられた.

最後に,本研究の問題点としては単一施設での後ろ向き研究であり血液培養検査が軽症例で少ないという偏りや胆汁培養検査の施行率が低いことが挙げられ,今後多施設での軽症例まで含めた前向き研究での検討が望まれる.

Ⅴ 結  語

総胆管結石性胆管炎における菌血症の頻度は35%であり,重症例では6割を超えていた.起因菌の中には耐性菌も検出され,速やかな胆道ドレナージと共に適切な抗菌薬の使用が重要と考えられたことから,血液培養の有用性が示唆された.

本論文の要旨は第90回日本消化器内視鏡学会総会にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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