2018 Volume 60 Issue 11 Pages 2393-2400
症例は92歳男性.入院前9カ月間にS状結腸軸捻転症で6回の緊急入院を繰り返した.重度の認知症で手術は困難であり,毎回内視鏡的整復術,減圧術で治療していた.7回目の入院時に重度の粘膜虚血性変化を認めたが,保存的治療で改善した.家族と十分に相談した上で再発予防目的に経皮的内視鏡的結腸瘻造設術(PEC)を施行した.合併症はなく,術後は他病死するまでの3年間無再発であった.合併症を有する高齢者に多いS状結腸軸捻転症は根治的手術が困難なため内視鏡的治療が行われることが多いが,その再発率が高いことが課題である.繰り返すS状結腸軸捻転症に対してPECは有用な治療選択肢となりうると考えられた.
非壊死性S状結腸軸捻転症に対し,保存的治療として内視鏡的減圧・整復・直腸チューブ留置が行われるが 1),2),既存の内視鏡治療では再発率が40-90%と高い 3),4).また根治的治療として手術が行われるが,本疾患は全身状態の低下した高齢者に起こりやすく手術による死亡率も約10%と高い 5).近年,手術リスクが高く,再発を繰り返す症例に対する経皮的内視鏡的結腸瘻造設術(percutaneous endoscopic colostomy:PEC)の良好な成績が海外を中心に報告され,2016年にはシステマティックレビューも報告された 6).しかし本邦からの既報告は1報にとどまっており 7),本稿執筆時点では健康保険適応外治療である.今回,同治療が奏効した症例について,文献的考察を加えて報告する.
患者:92歳 男性.
主訴:腹痛,腹部膨満感.
既往歴・合併症:高血圧症,前立腺肥大症,アルツハイマー型認知症.
内服薬:フロセミド,アスピリン,バルサルタン,乳酸菌製剤,酸化マグネシウム,ドネペジル,タムスロシン.
現病歴:2012年11月から2013年7月にかけての9カ月間にS状結腸軸捻転症の診断で6回の緊急入院を繰り返していた.高度のアルツハイマー型認知症があり,入院の度に家族の付き添いが必要なほどのせん妄状態となるため,外科的根治術は困難と判断,その都度内視鏡的減圧術,整復術,直腸チューブ留置術を施行した.2013年9月に腹痛,腹部膨満感を訴えて救急外来を受診した.腹部単純X線でcoffee bean signを伴う腸管拡張所見を認め(Figure 1-a),7回目のS状結腸軸捻転症と診断し緊急入院した.臨床検査成績ではデータの大きな変動を認めなかったが(Table 1),同日下部消化管内視鏡を施行したところ,S状結腸粘膜は暗紫色に変化し粘膜出血を伴っており高度の虚血性変化が示唆された(Figure 1-b).内視鏡的減圧術を行い経過観察したところ,腹痛,血便などの症状は徐々に改善した.内視鏡的治療を繰り返すことによる身体的リスクや家族の負担などを考え,十分なインフォームドコンセントと紙面による同意を得た上で,再発予防目的のPECを施行する方針とした.
来院時の画像所見.
a:腹部単純X線検査.S状結腸を主として,大腸の著明な拡張所見を認めた.
b:内視鏡的整復術を試みた際の内視鏡画像.狭窄部は粘膜が黒色変化を来たしており,高度の粘膜障害が示唆された.
臨床検査成績.
全身状態の安定した第20病日にPECを施行した.腸管洗浄剤の内服に夜S状結腸軸捻転症の再発が危惧されたこと,認知症が高度で患者の十分な協力が得られないことを考慮し,前処置は治療当日のグリセリン浣腸(120ml)のみとした.瘻孔は便汁に暴露されるため,創部感染予防目的で術前から術1週間後まで抗菌薬(セフメタゾール)を投与した.
拡張したS状結腸まで内視鏡を進め,腹壁との間に小腸が介在しないよう送気を十分に行い,指押しと透過光により造設部位を決定した.造設部位は手技の容易さと安全性を考慮し,S状結腸遠位捻転部からS状結腸頭側端(S-top)までの中間点付近に1カ所造設する方針とした.便汁漏出に伴う腹膜炎のリスクを最小限にするため,造設予定部位に鮒田式腹壁固定具による4点腹壁固定を行った.腹壁固定完了後,胃瘻造設と同じ手順でpull法のバンパーボタン型胃瘻用カテーテルを留置した(Figure 2).カテーテルは,自己抜去のリスクを低減させるためバンパーボタン型,腹膜炎発症のリスクを低減させるため細めのカテーテル(One Step ButtonⓇ,18Fr. 2.4cm,ボストンサイエンティフィック社)を選択した.造設直後に腹壁固定糸を1カ所抜糸し,残りの3カ所は1カ月後に抜糸した.術中,術後ともに合併症なく,創部の感染,出血,肉芽形成も認めなかった.
内視鏡的結腸瘻造設術の術中画像.
a:腹壁固定を行った際の内視鏡画像.
b:カテーテルをS状結腸内に挿入した時点の内視鏡画像.
c:カテーテルをS状結腸内に挿入した時点のX線透視画像.
造設後は腸管の脱気目的で1日6時間ほどカテーテルを開放し,捻転再発がないことを確認しながら徐々に開放時間を減らし,最終的には有症状時にのみ開放する方針とした.カテーテル交換は半年に1回,交換時のリスク低減のため内視鏡直視下の経皮的交換とした.造設後は膀胱癌で死亡するまでの3年間,S状結腸軸捻転症の再発を認めなかった.
S状結腸軸捻転症は拡張したS状結腸が腸間膜ごと捻転することによって生じる疾患であり,180度の捻れで通過障害が,360度の捻れで血流障害が起こるとされる 8).腸管壊死が疑われる場合は緊急手術が選択されるが,腸管壊死の徴候がなければ一般的に内視鏡治療が行われる.内視鏡治療としては減圧術(スコープを捻転部以深に挿入し,拡張腸管で内容物を吸引することにより内視鏡的に減圧する),整復術(スコープを深部大腸に挿入した後でストレッチして捻転を整復する) 9),または直腸チューブ留置術(減圧術または整復術後,直腸にスライディングチューブなどのチューブを留置する) 10)が主に施行されており,高い確率で改善するものの前述のとおり再発率が高いことが指摘されている.PECは拡張したS状結腸に胃瘻用カテーテルを経皮的内視鏡補助下に造設するものであり,報告によってはPES(percutaneous endoscopic sigmoidostomy;経皮的内視鏡的S状結腸瘻造設術)とも表現される.カテーテル開放によるS状結腸の脱気・減圧,S状結腸の腹壁への固定,という二つの機序により捻転の再発を防ぐ.繰り返すS状結腸軸捻転症に対するPEC以外の内視鏡的治療として,胃瘻用カテーテル留置は行わずに腹壁固定のみを行う内視鏡的S状結腸固定術(percutaneous endoscopic sigmoidopexy)の有用性を示す報告もある 11),12).ただしS状結腸固定術はカテーテル開放による脱気・減圧が出来ないため,結腸瘻造設術に比べてS状結腸軸捻転症の再発率は高い 13).またPECはS状結腸軸捻転症以外に高度の便秘,偽性腸閉塞に対しても有用性が報告されている 14),15).なお,本法は現時点で健康保険適応外治療であるため,施行に当たっては治療リスクを含めた十分なインフォームドコンセントが必要である.
医学中央雑誌で「S状結腸軸捻転」,「結腸瘻」,PubMedで「sigmoid colon volvulus」,「percutaneous endoscopic colostomy」,「percutaneous endoscopic sigmoidostomy」をそれぞれキーワードとして,過去20年で検索したところ,海外から10報告57症例 4),14),16)~24),本邦からの1報告2症例 7)の報告を認めた.これらに今回の1例を加えた計60例のまとめをTable 2に示した.造設前の前処置の方法は報告によって異なるが,ポリエチレングリコールなどの腸管洗浄剤を用いた通常の前処置を行った症例が60例中42例であった.本症例では高度の認知症のため協力が得られないこと,腸管洗浄剤内服に起因するS状結腸捻転症再発を危惧したことを根拠に,治療直前のグリセリン浣腸のみの前処置とした.既報告では腸管洗浄剤内服に起因する合併症は報告されていないこと,術後創感染が一定の確率で起こる 6)ことから,患者の状態が許す限り腸管洗浄剤を用いた通常の前処置を行うことが望ましいと考えられる.
S状結腸軸捻転症に対してPECを施行した既報告と本症例のまとめ.
PECの造設部位は,安全を考慮し内視鏡による透過光を用いて決定する.CowlamらはPECを試みた31例中4例(13%)において適切な造設部位を確保できず処置を断念したと報告しており 17),PECが施行できない症例も一定の割合で存在することに留意すべきである.造設時の腹壁固定の方法については前述のとおり,今回は瘻孔周囲に4点の腹壁固定を行った.胃瘻造設時の腹壁固定は慣例的に2点で行われることが多いが,3点で行うことにより強固な瘻孔を形成し,瘻孔周囲炎や交換時の合併症が少なくなることが報告されている 25),26).PECは大腸に瘻孔を形成する処置であり感染合併症に特に留意する必要があることから,より強固な腹壁固定が望ましいと考え,4点固定を行った.4点固定については報告が少なく術後の皮膚阻血が危惧されたため,術直後に1カ所抜糸を行った.PECの造設個数については1カ所に造設する場合と,より強固に腹壁へ固定するため2カ所に造設する場合がある.既報告60例のPECの造設個数は18例が1カ所,40例が2カ所に造設しており,2例は不明であった.1カ所に造設する場合はS状結腸の遠位に,2カ所に造設する場合はS状結腸の頭側端(S-top)を挟んで遠位と近位に1カ所ずつ造設した報告が多い.PECは2つの機序,すなわちカテーテル開放による腸管内減圧と,カテーテル留置による腹壁固定により捻転を予防するが,1カ所に造設する場合は腹壁固定が不十分になる可能性がある.再発と継続カテーテル数の関連を見ると,PEC後S状結腸軸捻転症再発例9例のうち5例がカテーテルの全抜去後,4例がカテーテルの1カ所継続症例であり,カテーテルの2カ所継続症例では再発例はない.S状結腸捻転再発時のカテーテル開放のタイミング,開放時間について言及しているものは少なく,1カ所のPECで再発した4例についても,再発が判明した時点でカテーテル開放を試みたかどうかの記載はなく,現時点において再発時にいかに対応するかについては明確ではない.本症例では腹痛発生時に腹痛が治まるまで持続的にカテーテルを開放するよう家族に指示することにより,救急受診を回避することができた.本症例での経験は適切なカテーテル開放による脱気・減圧が内視鏡的脱気・減圧に匹敵する可能性を期待するものであり,再発時のカテーテル開放による症例を集積し,その方法,症状の寛解率をPEC造設数または継続使用カテーテル数ごとに検討する必要がある.われわれはPEC造設時のリスク,術後管理の煩雑さ,カテーテル自己抜去のリスクなどを考慮し,PEC造設は1カ所に行い,再発例に対して2カ所目の追加造設を行う方略を検討している.カテーテル挿入部位の詳細については記載されている文献が少なく,コンセンサスも得られていない.われわれは手技の容易さと安全性を考慮し,S状結腸遠位捻転部からS状結腸頭側端(S-top)までの中間点付近に造設した(Figure 3-c).また,カテーテルを挿入する前に腸管捻転を内視鏡的に整復するかどうかについてもコンセンサスは得られていない.実臨床においては拡張した腸管内に内視鏡を挿入し,深部腸管まで進めて整復するのは時に困難であり,同時にリスクを伴う.われわれはPECにより腸管内を脱気することが捻転解除の機序として重要と考えており(Figure 3),あえて整復を行わないままカテーテルを挿入した.挿入するカテーテルのサイズは報告により様々であるが,18Fr.以下の細めのカテーテルを選択しているものが比較的多い.またpull型・バンパー型のカテーテルを使用した報告が多いが,術後感染リスクを下げる目的でintroducer法のカテーテルを選択して安全に造設し得た報告もあり 7),症例集積による造設時,造設後の合併症の発生率の検討も必要である.
内視鏡結腸瘻のイメージ.
a:S状結腸軸捻転症の腸管のイラストイメージ.S状結腸の捻転に伴う通過障害により腸管は著明に拡張しており,これにより捻転部の狭窄が助長される.
b:S状結腸捻転症の状態を風船を用いて再現したもの.S状結腸が拡張することにより狭窄が助長されている(黒矢印).
c:内視鏡結腸瘻造設術後のイラストイメージ.円は1カ所に造設する場合のカテーテル位置.S状結腸を腹壁に固定し,適宜脱気・減圧することによって拡張した腸管が縮小し,これに伴い捻転部の狭窄は改善し,腸閉塞の状態が解除される.
d:内視鏡結腸瘻造設術後の状態を風船を用いて再現したもの.S状結腸の脱気が適切に行われると,捻転は解除されていなくても狭窄は解除され(白矢印),腸閉塞の状態から脱することが出来ると考える.
造設後は胃瘻カテーテルと同様,約半年に1度のカテーテル交換を行う.既報告では病状安定後に患者の希望などでカテーテルを抜去した症例が60例中20例あったが,前述のとおり抜去後の再発が一定の確率で報告されているため,症例蓄積による再発要因が分析されるまでは慎重な対応が望まれる.合併症に関しては死亡例が5例報告されている.そのうち明らかな周術期合併症によるものが1例あり,術後4日目のカテーテル埋没に起因する腹膜炎による死亡例である 14).また1例はS状結腸軸捻転症再発時に施行した内視鏡的整復術後の穿孔性腹膜炎による死亡例である.再発時に内視鏡的整復術を成功させた報告もあるが 21),カテーテル留置によりS状結腸の一部が腹壁に固定されていることを考えると内視鏡的整復術により瘻孔損傷を来す可能性があるため,内視鏡的治療を行う際は減圧術と直腸チューブ留置術にとどめる方が安全と考えられる.重篤でない合併症として創部感染,創部からの一時出血,カテーテル埋没(保存的治療),創部の疼痛などが報告されている.中でも創部感染の報告は多く,CowlamらはPECを施行した27例中21例で創部感染を起こしたと報告している 17).胃瘻とは異なり瘻孔が便汁に暴露されるため創部感染のリスクは高く,周術期の抗菌薬投与が必要であり,投与期間も今後検討されるべきである.
患者のQOL,家族(介護者)の負担,医療費の抑制などの観点から,S状結腸軸捻転症に対する治療としての本法は今後普及しうる治療選択肢であることが示唆された.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし