2018 Volume 60 Issue 2 Pages 125-130
【背景・目的】小児の下部消化管内視鏡検査の前処置における負担軽減と良好な腸管洗浄を得る目的で,アスコルビン酸含有ポリエチレングリコール電解質製剤(以下PEG-Asc)の有効性,安全性を検討した.【方法】検査前日夜にPEG-Asc 20mL/kg,ピコスルファート内用液0.5mL/kg.検査日の朝に25%グリセリン浣腸4mL/kg,PEG-Asc 10mL/kg服用し検討した.【結果】服用できた19例において,全部位で残渣が存在するも検査には支障ない程度にとどまったが,11歳以下では洗浄度が有意に低下していた(p<0.015).また,PEG-Asc服用前後で,血清総蛋白,総ビリルビン,クレアチニンおよびCa値の有意な変動を示したが,服用後に異常値を示したものはなかった.【結論】PEG-Ascによる前処置は,小児においても十分な腸管洗浄効果を得ることができ,安全性においても問題ないと考えられた.
近年,小児に対する下部消化管内視鏡検査は増加傾向にあり,それに伴う前処置の改良も様々試みられてきた.現在,本邦では小児の前処置剤として,ナトリウム・カリウム配合剤散(ニフレック®)およびクエン酸マグネシウム(マグコロールP®)などの水溶液型腸管洗浄剤を含むポリエチレングリコール(PEG)電解質製剤による腸管洗浄液は,洗浄効果に優れ安全性が高いが,服用量が40~50mL/kgと多量であるため,小児患者への受容性は高くなかった.一方,クエン酸マグネシウムは受容性が高いものの,腸管洗浄効果がナトリウム・カリウム配合剤散と比較し若干低いとされている 1).
2013年6月から市販されたアスコルビン酸含有ポリエチレングリコール電解質製剤(モビプレップ®,味の素製薬株式会社,東京,日本)は,PEG,電解質,アスコルビン酸からなる製剤である.人体ではアスコルビン酸を過剰に経口摂取すると,一部しか吸収されないため,アスコルビン酸が腸管内に留まって高浸透圧となり,下剤として作用する.PEG-AscはPEGとアスコルビン酸を組み合わせることにより,服用量を減らすことが可能となった 2).
今回われわれは,全大腸内視鏡(以下TCS)あるいは経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡(以下DBE)を施行した小児患者20例に対し,PEG-Ascを用いた前処置を行い,本剤の腸管洗浄効果,安全性,服用後の症状,前処置前後の検査値,被験者(保護者)の評価について検討し,良好な結果を得たので報告する.
本研究は,当院でのこれまでの実績から実施可能性を考慮して目標例数を20例とした.対象は2014年3月から2014年9月までの7カ月間に当院でTCSおよびDBEを施行した小児患者20例.除外基準は既定の前処置プロトコールを少しでも施行できなかった場合とし,忍容性および安全性は全20例(Table 1)を解析対象として,服用できず脱落した1名(5歳女児)を除外した残りの19例を有効性解析対象とした.年齢は6~18歳(中央値11.0歳),体重は16.9~62.0kg(中央値31.6kg)で,13例にTCSを,7例に経肛門的DBEを施行した.

患者20例の臨床的特徴・背景.
検査の前処置として,前日食事制限をせず,検査前日夜20時にPEG-Asc 20mL/kgと水10mL/kg,ピコスルファート内用液0.5mL/kgを服用させた.さらに検査日朝8時に25%グリセリン浣腸4mL/kg,PEG-Asc 10mL/kgと水5mL/kgを服用させた(Table 2).

前処置法.
本研究は当院倫理委員会で承認され,全例文書で保護者の同意を得たうえで施行した.
評価方法としては内視鏡検査時に,直腸,S状結腸,下行結腸,横行結腸,上行結腸,盲腸の各部位における腸管洗浄度について,残便の有無,残便の性状(固形,泥状,水様),残液量,泡の程度を判定し,検査施行直後に検査総合判定を①残渣が見られず良好,②残渣が存在するが支障なし,③残渣により支障あり,④残便が多く観察不可,⑤判定不能の5段階に分けて,検査に立ち会った3人以上の医師が,検査後に洗浄度評価を行い,評価が異なった場合は協議の上一つの値に集約させた.主要評価項目は各6部位の腸管洗浄度をもとに算出した全般改善度とした.全般改善度は各6部位のすべてが①または②である場合に「有効」,それ以外の場合を「無効」として,有効割合を算出した.副次評価項目は,PEG-Ascの忍容性および安全性(副作用),検査前後の臨床検査値(血算,血清生化学,体温)の変動とした 3).統計学的検討については,年齢により洗浄度が変わりうることも想定されたため,中央値である11歳で集団を2つに分けて,腸管洗浄が有効か無効かの2群で比較することとした.その上で,データの性質や種類に準じて,検査前後の臨床検査値(血算,血清生化学,体温)の変動はt検定を行い,年齢別の腸管洗浄度はWilcoxon検定を行い,p<0.05で統計学的有意差ありと判定した.
小児へのPEG-Asc投与の安全性に関しては,海外の小児使用症例を参考に,本試験においても安全性検討を行った.また,2日の分割法に関しては,日本での用法容量取得はないが,海外では適応があるため施行した 4).
1.腸管洗浄度
部位別の腸管洗浄度評価をFigure 1に示す.主要評価項目での各6部位の腸管洗浄度をもとに算出した全般改善度では,服用できた19例において,全部位で残渣が存在するが支障はなかった.また,軽度残渣が残存していたのはすべて右半結腸であった.どの部位においても洗浄度は良好で,観察に問題はなかった.11歳以下と12歳以上に分けた場合,11歳以下では洗浄度が有意に低下していた(p<0.015).年齢と各部位における泡の程度・残液量との関連については,有意な相関は見いだせなかった(Figure 2).

大腸内の洗浄度.

大腸内の残液量と泡の程度.
2.忍容性(Table 3)

PEG-Asc服用の忍容性.
患児への聞き取り調査では,酸味が強く飲みにくいと訴える患児が20例中3例(15%)いたが,残りの16例(80%)は問題なく服用できた.次回もPEG-Ascでの前処置を希望する患児が20例中8例(40%)であった.その理由としては,他の下剤や浣腸を併用することで,内服量を減量できたことが挙げられた 5).
3.安全性(有害事象)
20例中2例(10%)で嘔気を認め,うち1例は服用できなかった.その他に重篤な有害事象は認められなかった.検査前後の臨床検査値をTable 4に示す.PEG-Asc服用前後で,血清総蛋白,総ビリルビン,クレアチニンおよびCa値の有意な変動を示したが,服用後に異常値を示したものはなかった.

検査前後の臨床検査値.
バルーン内視鏡やカプセル内視鏡など新たなデバイスの登場により,小児に対する内視鏡検査件数が増加傾向にある 6).安全で苦痛の少ない大腸内視鏡検査を行うためには,小児でも適切な腸管洗浄が必要である.近年,大腸内視鏡挿入技術,内視鏡や周辺機器(二酸化炭素送気など)の改良により,大腸内視鏡検査自体による苦痛は以前と比べ大分改善されている.小児の大腸内視鏡前処置においても,苦痛や負担を軽減するために種々の試みがなされてきた.
ナトリウム・カリウム配合剤散を含むPEG製剤は,大腸内視鏡検査前処置薬として,本邦で最も多く使用されている.高い洗浄効果と安全性を持つが,一方,服用量が40~50mL/kgと多量であること,特有のにおいや味を有することにより,患児の受容性は必ずしも高くない.服用量を減らすため,モサプリドなどの腸管運動作動薬との併用なども試みられている 7).
本邦では,2013年6月にPEG-Ascが,従来のナトリウム・カリウム配合剤散の改良版として市販された.PEGの濃度を濃く調整し,溶解液を高張性にすることで,飲みにくいPEG製剤の服用量を減らすことを可能にした.ただし,PEG-Asc服用の際には,浸透圧により体内から腸管に引きこまれた水分を補充する必要がある.補充する水分量を含めると,腸管洗浄のために服用する総液体量は従来製剤と変わらないと推測されるが,PEG製剤の服用量を減らすことにより,患者の受容性を高めることが期待される.海外では,現在日本で発売されているものとは若干異なるが,以前から使用され,多くの患者で有効性と安全性が確認されている.
成人ではStefanoら 8)が,高用量PEGによる前処置に対して,低用量のPEG+アスコルビン酸でも十分代用できると報告している.Giovanniら 4)は,299例の小児患者で無作為比較試験を行い,高用量PEGによる前処置より,低用量のPEG+アスコルビン酸の方が忍容性や腸洗浄効果で優れており,小児においてはピコスルファートや酸化マグネシウムを組み合わせると有用であったと報告している.
われわれの検討でも同様に,PEG-Ascは小児において,既存のPEG製剤と同等以上の腸管洗浄効果を示した.今回11歳以下では洗浄度が有意に低下しており,その理由として,発達途上の消化管の吸収・排泄機能の未熟性が影響している可能性が考えられた.味や忍容性については,今回の検討では従来の方法より良好との確認はできなかったが,本剤の腸管洗浄効果は良好で,安全性に関して問題は認められなかった.味に関して酸味が強く飲みにくいと訴える患児がいたが,他の下剤・浣腸の併用や,検査前日への分配法により,本剤の服用量を減量することが可能であった.この方法は腸管洗浄効果に優れているうえ,小児でも問題なく施行できる有用な前処置法であると考えられた.今回の服用量で腸管洗浄が良好だったことから,PEG-Ascの服用量をさらに減量できる可能性があり,今後の検討課題としたい.
小児の大腸内視鏡用腸管洗浄剤PEG-Ascと従来の腸管洗浄剤で,効果,安全性,忍容性を検討した.PEG-Ascは,小児においても成人と同様,従来の前処置と比較して,少ない服用量で同等以上の腸管洗浄効果を得ることができた.小児に対しても受容性が高い大腸内視鏡用腸管洗浄剤であり,かつ安全性においても問題はないと考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし