GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF AFFERENT LOOP SYNDROME WITH SEVERE ANASTOMOSIS STRICTURE THAT WAS SUCCESSFULLY TREATED BY ENDOSCOPIC BALLOON DILATION
Tomonori MISHIMAYoichiro IBOSHINaohiko HARADA Ryoko NARUOMasafumi WADAHiroyuki FUJIIYorinobu SUMIDAEikichi IHARAKazuhiko NAKAMURA
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2018 Volume 60 Issue 2 Pages 131-137

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要旨

症例は73歳,女性.5年前に胃癌に対して胃全摘術,Roux-en-Y再建術を受けており,心窩部痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部造影CT検査でY脚全体の腸管拡張を認め,Y脚吻合部は盲端に終わっていた.輸入脚症候群と診断し緊急上部消化管内視鏡検査を行い,粘膜のわずかな引きつれと黄白色液漏出を手掛かりにpin hole状のY脚吻合部を同定しえた.同部に対し内視鏡的バルーン拡張術を施行すると大量の腸液流出を認めた.術後経過は良好で第6病日に退院となった.輸入脚症候群に対しては内視鏡的拡張術が極めて有効であり,CT検査による全体像把握に加え詳細な内視鏡観察によりY脚吻合部を同定することが有用である.

Ⅰ 緒  言

輸入脚症候群はBillroth Ⅱ法あるいはRoux-en-Y吻合による再建後,何らかの原因によって輸入脚が閉塞し,急激な腹痛や腹部腫瘤などで発症する合併症である.今回われわれは胃全摘,Roux-en-Y再建術後,Y脚吻合部の完全閉塞を疑う輸入脚症候群の症例において,pin-hole状のY脚吻合部を同定することにより内視鏡的バルーン拡張術で治療しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:73歳,女性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:68歳時,胃癌(Stage Ⅰa)に対して胃全摘術,Roux-en-Y再建術.71歳時と72歳時にサブイレウス.

生活歴及び家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:胃癌術後5年目より食後に増悪する心窩部痛を自覚し,近医を受診.腹部単純X線検査を施行されたが異常を指摘されなかった.症状が増悪したため当院に救急車で搬送された.

入院時現症:身長149cm,体重39.0kg,体温36.2度,血圧133/77mmHg,脈拍72/分,整.眼結膜に貧血,黄疸なし.胸部に特記所見なし.腹部は膨隆し,正中部に手術痕を認めた.腸蠕動音は低下していた.手術痕近傍に圧痛を認めたが,反跳痛や筋性防御は認めなかった.

臨床検査成績:胃切除後から持続する貧血(Hb 9.7g/dl)を認めた.血清アミラーゼとリパーゼは軽度上昇していたが,炎症反応,肝胆道系酵素及びビリルビンの上昇は認めなかった(Table 1).

Table 1 

臨床検査成績.

腹部造影CT所見:十二指腸盲端よりY脚吻合部にかけてY脚全体の著明な腸管拡張を認め(Figure 1-a,c),Y脚吻合部は盲端に終わっていた(Figure 1-b).その他の腸管に拡張を認めず,明らかな胆道拡張や膵炎の所見も認めなかった.以上の所見からY脚吻合部通過障害による輸入脚症候群と診断し,透視下で緊急上部消化管内視鏡検査を行った.

Figure 1 

腹部造影CT検査(入院時).

a:十二指腸は著明に拡張しており,十二指腸盲端部のstaples(矢印)を確認できる.

b:Y脚吻合部にstaples(矢印)を確認できる.吻合部は盲端に終わっていた.

c:冠状断.Y脚全体の著明な拡張を認めた(矢頭).

上部消化管内視鏡検査所見:透視下で,スコープ(オリンパス社製GIF-Q260J)に先端透明フードを装着し挿入した.食道空腸吻合部に狭窄はなく,空腸に拡張や腸液貯留を認めなかった.CT所見,透視所見を参考に吻合部付近と思われる腸管粘膜を繰り返し観察したところ,Figure 2-aのようにわずかな空腸粘膜の引きつれを認めた.近接しフードで接触すると黄白色液が少量流出したため(Figure 2-b),同部位が高度狭窄したY脚吻合部と考えられた.透視下にY脚吻合部中央にガイドワイヤーを挿入し,造影剤を注入して腸管が造影されることを確認した.引き続いてバルーンカテーテル(外径7.5 Fr,Boston Scientific社製)を用いてバルーン拡張術を施行したところ(Figure 2-c),直ちに胆汁混じりの腸液が多量に流出した(Figure 2-d).輸入脚の腸管粘膜を確認後(Figure 2-e),処置を終了した.

Figure 2 

上部消化管内視鏡検査.

a:わずかな空腸粘膜の引きつれを認めた(矢印).

b:近接しフードで接触すると黄白色液が少量流出した.

c:ガイドワイヤーでバルーンを誘導し,バルーン拡張術を施行した.

d:胆汁混じりの多量の腸液が流出した.

e:Y脚の腸管粘膜を確認した.

翌日に施行した腹部単純CTでは,輸入脚の拡張と腸液貯留は消失.自覚症状も改善したため,6日目に退院となった.退院4週間後に施行した上部消化管内視鏡検査にて,Y脚吻合部再狭窄を認めたため,再度内視鏡的バルーン拡張術を施行した.1年が経過したがY脚吻合部の再狭窄を認めていない.

Ⅲ 考  察

輸入脚症候群はBillroth Ⅱ法あるいはRoux-en-Y吻合による再建後,何らかの原因によって輸入脚が閉塞して発症する合併症である.閉塞した輸入脚内には胆汁,腸液,膵液が貯留して腸管内圧が上昇するため,早期に減圧処置が行われなければ腸管穿孔/壊死または重症膵炎を引き起こすことがあり,重篤である.胃切除後の発症頻度はBillroth Ⅱ法再建後で1.0%,Roux-en-Y再建後で0.68%と報告されている 1.原因として内ヘルニア,癒着,捻転,絞扼,腫瘍,腸重積などが報告されているが,本症例のようにY脚吻合部自体の狭窄により生じた輸入脚症候群は非常にまれである.

医学中央雑誌にて「輸入脚症候群」,「吻合部狭窄」と「胃切除」あるいは「胃全摘」をキーワードとして検索したところ,2007年から2015年までに13例の報告を認めた(Table 2,会議録を除く) 2)~13.年齢は中央値65歳(50~88歳),男女比は男:女=10:3,術式は胃全摘が10例,幽門側胃切除が3例で,再建術式は全例でRoux-en-Y再建であった.発症までの期間は5日後から16年後(中央値1.5年)とばらつきが大きく,治療法は内視鏡的バルーン拡張術が6例,内視鏡下でのドレナージチューブ留置による減圧が1例,内視鏡でY脚吻合部を同定できず手術に移行したのが3例,内視鏡を行わずに緊急手術を実施したのが3例であった.いずれの報告でも治療後の再狭窄は認めておらず,内視鏡的バルーン拡張術は手術と同等の治療成績が期待できるため,穿孔・壊死や循環障害の所見を認めない場合には,まずは低侵襲である内視鏡治療を試みるべきであると考えられる.

Table 2 

Y脚吻合部狭窄により輸入脚症候群を発症した報告例.

RY:Roux-en-Y.

輸入脚症候群に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行するためには,少なくともY脚吻合部への到達,Y脚吻合部の同定,Y脚と空腸をつなぐ開口部の確認の3段階をクリアーする必要がある.自験例も含め14例中11例で緊急内視鏡が実施され,そのうち9例でY脚吻合部が同定されていた.Y脚吻合部の位置について記載があったのは14例中6例であり,いずれも食道空腸吻合部より30-40cm肛門側であるため,通常は上部用あるいは下部用のスコープで十分に到達可能であると考えられる.Y脚吻合部へ到達するために,先端透明フードを装着し,透視下で内視鏡を実施している報告が多い.吻合部の縫合法は手縫い1例を除いていずれもstaplesを用いた器械吻合であり,CT所見や透視所見を参考にしながら吻合部に到達するための指標の一つとなりうる.北出ら 4や福居ら 13は内視鏡で空腸粘膜にstaplesを視認できたことでY脚吻合部の同定にいたっている.

内視鏡下に同定しえたY脚吻合部の粘膜所見や狭窄の程度は症例により大きく異なる.Y脚吻合部を観察しえた9例中2例で粘膜の発赤や浮腫を,3例で絨毛の変化を認めた.また9例中5例ではガイドワイヤーやカテーテルが辛うじて通過可能な程度のpin-hole状であり,1例では完全に閉塞していた.白井ら 6の報告ではY脚吻合部は狭窄しているものの直径数mm大の開口部として視認可能であり,豊川ら 11はpin-hole状に狭窄したY脚吻合部を同定している.安田ら 9は周囲の小腸襞が途絶し,発赤調で絨毛が平坦化した粘膜所見や,小顆粒状の結節が集中して絨毛が荒く変化した粘膜所見からY脚吻合部を同定した症例を報告している.自験例ではY脚吻合部の空腸粘膜には色調や粘膜模様の変化が乏しく,豊川ら 11のように通常観察ではpin-holeさえも認めず,福居ら 13のように吻合部のstaplesも視認できなかった.観察を繰り返しても正常粘膜のわずかな引きつれを認めるのみであり,透明フードによる接触刺激を行い黄白色液の流出を誘発することでなんとかY脚吻合部を同定することに成功した.自験例のようにY脚吻合部が高度に狭窄しており,なおかつ粘膜障害・血流障害が軽度な状態ではY脚吻合部の同定は極めて困難であると考えられ,CT所見,透視所見から吻合部が存在すると考えられる領域を繰り返し観察し,わずかな変化も見逃さないことが肝要である.

白井ら 6のようにY脚吻合部を類円形のholeとして視認可能である場合は,深部の腸管粘膜を確認したり透視下で造影したりすることでY脚と空腸をつなぐ開口部を確認でき,内視鏡治療が可能となる.しかし,Y脚吻合部を同定できても狭窄が高度で開口部を同定できない場合は,粘膜変化,周囲の炎症所見,胆汁漏出などを参考にして開口部を推定する必要がある.倉島ら 2の報告では内視鏡検査で吻合部を同定できず緊急手術でY脚吻合部周囲の追加切除・再吻合を行っているが,切除標本のY脚吻合部を観察するとほぼ閉塞していた.また諏訪ら 3の報告例では内視鏡検査で空腸粘膜に浮腫状変化と発赤を認めたが開口部を同定できず,緊急手術でY脚吻合部周囲の追加切除・再吻合に至っている.切除標本の観察により粘膜の浮腫上変化と発赤を認めた部位がY脚吻合部に合致することが判明し,Y脚吻合部は完全に閉塞していた.自験例ではY脚吻合部付近の粘膜変化はほとんど認めず狭窄も高度であったため開口部の同定は極めて困難であった.自験例,安田ら 9,福居ら 13の報告では内視鏡検査中にY脚吻合部から胆汁混じりの腸液の流出を認めており,腸管内圧が上昇したY脚と交通する開口部を同定する際に重要な所見と考えられる.

輸入脚症候群に対する非手術治療には,内視鏡的バルーン拡張術以外にも経皮的ドレナージ(経肝,経腸),内視鏡的ドレナージ(ENBD,ERBD)や金属ステント留置などの報告がある.内視鏡で治療しえた8例中5例では一期的にバルーン拡張術を施行されているが,2例では内視鏡的ドレナージによる減圧後にバルーン拡張術を施行されており 4),6,1例ではバルーン拡張術を施行せず内瘻化したドレナージチューブを長期留置されていた 12Table 2).Y脚吻合部に強い炎症所見を認めた症例や 4),12,急性膵炎を合併した症例 6でドレナージチューブを留置されていたことから,再狭窄のリスクを避けて確実に減圧する必要がある症例では有効な選択肢のひとつであろう.

一方,経皮的ドレナージについては悪性狭窄例 14),15,あるいは胆管炎を合併しPTCDを行った症例 16で報告がある.また,解剖学的に残胃と拡張した輸入脚が近接している場合には超音波内視鏡ガイド下経胃的ドレナージが,悪性狭窄例では金属ステント留置が実施されることもある.

Y脚吻合部狭窄の原因として吻合方法(器械,手縫い)やcircular staplerの口径について考察されているが,一定の見解は得られていない.また,胃癌術後から輸入脚症候群発症までの期間に5日から16年まで大きなばらつきがある(Table 2)ため,胃癌術後の患者に腹痛や嘔吐を認めた場合には,術後の経過年数にかかわらず本疾患も鑑別に挙げる必要がある.

Ⅳ 結  論

Y脚吻合部の完全閉塞が疑われた輸入脚症候群の症例において,粘膜のわずかな変化を見逃さないことでpin-hole状のY脚吻合部を同定し,内視鏡的バルーン拡張術で治療しえた1例を報告した.残存したstaples,少量の胆汁混じりの腸液流出,吻合部粘膜の色調変化や引きつれなどの微細な変化などがY脚吻合部同定に有用な所見と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:中村和彦(武田薬品工業株式会社)

文 献
 
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