GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TWO CASES OF ESOPHAGEAL LEAKAGE AFTER ESOPHAGECTOMY THAT WERE SUCCESSFULLY TREATED BY COVERED STENT PLACEMENT
Ryota MATSUI Noriyuki INAKIKenichi TAKEMURAToshikatsu TSUJIHideki MORIYAMADaisuke YAMAMOTOHirotaka KITAMURANaohiro OTAMasaru KUROKAWAHisashi DOYAMA
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2018 Volume 60 Issue 2 Pages 138-144

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要旨

食道癌術後に縫合不全が生じると絶食期間が遷延し在院期間が長期化する.今回,食道癌術後の縫合不全で生じた瘻孔2例に対し,内視鏡的にカバー付き食道ステントを留置することで瘻孔閉鎖を試みた.いずれも瘻孔閉鎖に成功し,早期からの経口摂取再開が可能となり,瘻孔治癒が促進されたことで在院期間の短縮へと繋がった.食道癌術後の瘻孔閉鎖にカバー付きステント留置が有用であったので報告した.

Ⅰ 緒  言

食道癌術後の縫合不全は重大な合併症の一つであり,その頻度は5-30%とされているが 1)~3,日本のNational Clinical Database(NCD)を基にした国内データでは13.3%と報告されている 4.縫合不全によって消化管瘻孔を形成した場合,その治療に難渋し,在院期間の長期化が問題となるだけでなく,絶食期間の遷延化により患者のQOLが著しく低下する.欧米では食道癌術後の瘻孔閉鎖にカバー付きステントの有用性が報告されており,その効果は67-100%とされている 5)~10.今回,食道癌術後の縫合不全で生じた瘻孔に対し,内視鏡的にカバー付きステントを留置することで瘻孔閉鎖に成功した2症例を報告する.

Ⅱ 症  例

症例1

患者:54歳,男性.

主訴:食後のつかえ,胸痛.

既往歴:高血圧,緑内障,白内障.

現病歴:上記自覚あり前医受診.上部消化管内視鏡検査で胸部下部食道に半周性の2型腫瘍を認め,生検で扁平上皮癌と診断され手術加療目的に当科紹介となった.胸部中部食道癌(cT3N2M0,stage Ⅲ)の診断で術前化学療法(CDDP 140mg/body,5-FU 1,440mg/body)を1クール施行し,その後胸腔鏡補助下食道亜全摘術,後縦隔経路胃管再建,頸部三角吻合を施行した.術後8日目に38℃を超える発熱を認め,採血ではWBC 15,140/μL,CRP 15.2mg/dLと炎症反応の上昇を認め,食道透視にて縫合不全と診断した.頸部創を開放し,経鼻栄養チューブによる経腸栄養管理,高カロリー輸液,抗生剤投与を開始したが瘻孔治癒は遷延した.

上部消化管内視鏡検査:術後24日目に上切歯列より25cmの吻合部10時方向に5mm×5mmの欠損孔を確認した(Figure 1).採血でWBC 6,450/μL,CRP 2.5mg/dLと炎症の軽快を確認した上で,十分なインフォームドコンセント(IC)を行い,術後34日目に欠損孔を覆うようにカバー付き食道ステント(Niti-Sステント®,18mm径,有効長8cm)を留置したところ(Figure 2),ガストログラフィンの漏出は消失した(Figure 3).ステント挿入による偶発症は認めず,術後38日目に経口摂取を再開.ステント留置後は頸部開放創からの排液は消失し,開放創の治癒後,術後65日目に退院となった.退院後にステントのサイズと形状が維持されていることを内視鏡で確認し,術後100日目にステントを抜去した.瘻孔は自然閉鎖が得られたが,ステント抜去1カ月後に吻合部に狭窄を認め(Figure 4),内視鏡的バルーン拡張術にて軽快した.

Figure 1 

術後24日目の内視鏡所見:吻合部10時方向に5mmの欠損孔を確認した.

Figure 2 

術後34日目にステント留置:欠損孔を覆うようにカバー付き食道ステント(Niti-Sステント®,18mm径,有効長8cm)を留置した.

Figure 3 

カバー付き食道ステント留置直後:ガストログラフィンの漏出は消失した.

Figure 4 

術後100日目のステント抜去後の内視鏡所見:ステント抜去後に瘻孔の閉鎖が確認できたが,吻合部に狭窄を認めた.

症例2

患者:67歳,女性.

主訴:なし(健診異常).

既往歴:口蓋腫瘍摘出術.

現病歴:健診における上部消化管内視鏡検査にて胸部中部食道に半周性の不整な隆起病変を認め,生検で扁平上皮癌と診断.手術加療目的に当科紹介となった.胸部中部食道癌(c-T2N0M0,stage Ⅱ)と診断し,胸腔鏡補助下食道亜全摘術,後縦隔経路胃管再建,頸部三角吻合を施行した.術後9日目に38℃を超える発熱,呼吸困難を認め,採血ではWBC 13,270/μL,CRP 13.6mg/dLと炎症反応の上昇を認めた.食道透視および胸部CTにて縫合不全,右膿胸と診断し,頸部創の開放と右胸腔ドレナージを施行し,絶飲食,高カロリー輸液,抗生剤投与を開始した.

上部消化管内視鏡検査:術後22日目に上切歯列より23cmの吻合部2時方向に3mm×5mmの欠損孔を確認した(Figure 5).採血でWBC 6,840/μL,CRP 0.5mg/dLと炎症の軽快を確認した上で,術後28日目にOTSC®(Over the scope clip)システムによる瘻孔閉鎖を試みるも縫合困難であったため,十分なICを行い,術後30日目にカバー付き食道ステント(Niti-Sステント®,18mm径,有効長8cm)を留置したところ(Figure 6),ガストログラフィンの漏出は消失した(Figure 7).ステント挿入による偶発症は認めず,術後32日目に経口摂取を開始.ステント挿入後,ドレーン排液は消失し,術後36日目に右胸腔ドレーンを抜去し,術後60日目に退院となった.退院後にステントのサイズと形状が維持されていることを内視鏡で確認し,術後129日目にステントを抜去したが,瘻孔は閉鎖しており,吻合部の開存性は良好であった(Figure 8).

Figure 5 

術後22日目の内視鏡所見:吻合部2時方向に3mmの欠損孔を確認した.

Figure 6 

術後30日目にステント留置:欠損孔を覆うようにカバー付き食道ステント(Niti-Sステント®,18mm径,有効長8cm)を留置した.

Figure 7 

カバー付き食道ステント留置直後:ガストログラフィンの漏出は消失した.

Figure 8 

術後129日目のステント抜去後の内視鏡所見:ステント抜去後に瘻孔の閉鎖が確認でき,吻合部の開存性は良好であった.

Ⅲ 考  察

食道癌術後の縫合不全に対しては,保存的加療(絶飲食,抗生剤,高カロリー輸液),内視鏡下処置(クリップやOTSC®システムによる閉鎖,フィブリン散布),ドレナージ(胸腔ドレーン,経鼻胃管挿入),再手術(大網や大胸筋の充填術,バイパス術,追加切除再建術)などが行われるが 11)~14,消化管術後の瘻孔にて手術に至った場合,その死亡率は7%以上に及ぶと報告されている 13.クリッピングやフィブリン散布などの内視鏡下処置は侵襲も小さく,その有効性も報告されているが 14),15,内視鏡下処置は瘻孔が大きな場合には瘻孔閉鎖が困難であり,その問題点も指摘されている 12.症例2においても最初にOTSC®システムを選択したが,食道壁が硬く鉗子による牽引が十分に行えず,瘻孔閉鎖は困難であった.

消化管術後の瘻孔に対する内視鏡下処置として,欧米ではカバー付き食道ステント挿入による瘻孔閉鎖が多く報告されており,その有効性は67-100%とされている 5)~10.本邦では食道ステント挿入は食道癌,胃癌,肺癌などの非切除悪性食道狭窄と食道気管支瘻に対してのみ保険適応とされており,食道癌術後の縫合不全に対してカバー付き食道ステントを留置した報告はまだ少ない 15)~17.今回の2症例ではステント挿入における合併症を含めた十分なICを行った上でステントを留置したことで,瘻孔から胸腔内への漏出が消失し,早期より経口摂取再開が可能となり,患者のQOL改善に繋がった.またステント抜去後には瘻孔の閉鎖を認めており,手術を回避できた有効な治療選択肢であったと考えられる.当院では縫合不全に対し極力再手術を行わず,保存的加療を選択しているが,比較的治癒が早いminor leakageに比べ,major leakageでは絶食期間,入院期間ともに長期化し,再手術のリスクも上昇するため,本2症例のようにmajor leakageに対し内視鏡治療が成功した場合,非常に有効性が高いと考えられる.文献的にも食道癌術後の縫合不全に対しての内視鏡治療は,手術加療と比較し死亡率を低下できる可能性が指摘されている 18

食道ステント留置に伴う合併症として,頸部食道や胸腔内高位へのステント留置は嚥下痛を惹起し 14,またステントの長期留置では狭窄,逸脱,穿孔,瘻孔形成など種々の合併症を認めることがあり,その適応は今後症例を重ね慎重に考慮する必要がある 15.このうち,ステント逸脱は最も多い偶発症であり,ステント留置後の管腔の拡張に伴い自然逸脱が47-64%に生じるとされている 19.これに対し,Niti-Sステント®は両端のバレル形状フレア部が逸脱リスクを低減させる特徴を有し,口側の紐を鉗子で把持することで位置調整が可能なため,逸脱例についても再留置できるメリットがある.ステント長が長いほど内腔を食物が通過する際に働くずれの力のために逸脱を来す可能性があるため 19,必要最低限なステント長を選択している.今回,上記の利点に加え,縫合不全に対するステント留置として抜去可能であることを考慮してNiti-Sステント®の最も有効長が短い8cmを選択した.ステント留置に当たっては,本2症例は瘻孔部から食道入口部までの距離が2-3cm程度しかなく,ステントの口側端が食道入口部にかからないように注意し,かつ瘻孔位置がステントで覆われていることを透視下で確認しながら留置を行った.しかし吻合部はステント逸脱が最も起こりやすい場所の一つであり 20,逸脱リスクがあることを想定し,定期的なレントゲン検査が必要である.後縦隔経路におけるステント留置の至適期間についてはコンセンサスは得られていないが,国内の良性狭窄に対してのステント留置期間の検討では,ステント逸脱,ステント先端部の潰瘍形成や肉芽形成による通過障害が発生する懸念から4-8週間程度の短期間の留置を推奨している 21.縫合不全に対するステント留置期間は瘻孔の大きさに依存すると考えられ,その時期は慎重に検討する必要があるが,海外の論文では6-8週間でステントが抜去されている 22.本2症例はステント留置から2-3カ月と長めに留置したが,5カ月のステント留置で食道気管瘻を5%に併発したとの報告もあり 23,長期留置は避けるべきと考える.

胸部中部食道癌の再建として,食道と胃管の吻合には手技の簡便性と安定性からCircular stapler(CS)が用いられることが多いが,CSでは吻合部狭窄が起こりやすい 24.当院では変遷はあるものの,CSと比べて狭窄が少ないと報告されている 25Linear stapler(LS)を用いた頸部三角吻合を採用している.三角吻合は頸部食道と胃管の端々吻合であり,後壁を全層で内翻させた後にLSで縫合を行って一辺を作成し,次いで外翻した2辺をLSで縫合して三角形を作成する.食道口径に合わせて吻合口が取れるため,CSに比べ吻合口を大きくできる利点があるが,ステイプルラインが交差する部分が脆弱なため,三角形の頂点は漿膜筋層縫合を追加するなど工夫が必要である 26.一部の報告では,CSによる吻合と比べLSによる三角吻合は縫合不全率が低いとされているが 26,外翻部のステイプラーが気管膜様部に接する場合に気管と瘻孔ができる可能性があり注意を要する 26.瘻孔形成は組織の壊死と局所の炎症によって起こりやすくなるため 27,縫合不全が生じた際の後縦隔経路のステント留置は気管膜様部への直接刺激に加え,ステント圧力による組織壊死,局所炎症が強い時期でのステント挿入が瘻孔形成のリスクを上昇させる可能性がある.ステント挿入後の食道気管瘻は稀ながら重篤な合併症であることを念頭におき,入念な症状観察と定期的なレントゲン検査や内視鏡検査が必要と考えられる 28

縫合不全に対するステント留置については,過去の論文 15)~17と自験例から,保存的治療で瘻孔治癒が得られない症例,瘻孔サイズが大きい症例,全身状態不良で再手術の耐用能がないと判断される症例,OTSCをはじめとした他の内視鏡処置による瘻孔閉鎖が困難な症例で有用と考えられ,今回報告した.

Ⅳ 結  語

食道癌術後の縫合不全で生じた瘻孔に対するカバー付き食道ステントは低侵襲に瘻孔閉鎖を可能にする有効な治療法であると考えられた.今後更に症例の蓄積を重ね,適応基準,安全性,長期予後を検討したい.

本論文の要旨は第103回日本消化器内視鏡学会北陸支部例会・福井市で発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土山寿志(第一三共,協和発酵キリン)

文 献
 
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