GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF DUODENAL STENOSIS AFTER RUPTURE OF A POSTERIOR SUPERIOR PANCREATICODUODENAL ARTERY ANEURYSM DUE TO MEDIAN ARCUATE LIGAMENT SYNDROME
Takeshi YASUDA Masanobu KATAYAMAHiroki EGUCHIYoshiya TAKEDAKunihiro FUSHIKIYuriko ONOZAWAMotoo TANAKATadashi SHIGEMATSU
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2018 Volume 60 Issue 3 Pages 230-236

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要旨

症例は46歳男性.就寝中に突然腹痛が生じ,当院へ救急搬入された.来院後に出血性ショックに陥り,造影CTから正中弓状靱帯圧迫症候群(以下MALS)およびそれに合併した後上膵十二指腸動脈瘤破裂と診断した.緊急でTAEを行い止血を得たが,後日遅発性十二指腸狭窄が生じた.胃空腸吻合術なども考慮されたが,経腸栄養とTPNを併用して保存的に経過を追い,第45病日に退院した.一般的に膵十二指腸動脈瘤破裂後の十二指腸狭窄の原因としては,血腫による圧迫や塞栓術による血流障害,血腫からの炎症の波及が考えられている.今回,TAE後に十二指腸狭窄を来したものの,適切な栄養管理下に保存的治療により手術を回避し得た症例を経験したため報告する.

Ⅰ 緒  言

膵十二指腸動脈瘤は極めて稀な内臓動脈瘤のひとつである.破裂すると後腹膜や腹腔内への出血や,十二指腸穿破など死亡率の高い疾患である 1.今回,後上膵十二指腸動脈瘤破裂に対しTAEを施行後に遅発性十二指腸狭窄を来した1例を経験した.

Ⅱ 症  例

症 例:46歳 男性.

主 訴:心窩部痛.

現病歴:夜間就寝中に突然心窩部痛が生じた.冷汗を伴い,症状が増悪するため,当院へ救急搬送となった.

既往歴:胃潰瘍(11年前),高血圧(2年前),高脂血症(2年前).

内服歴:シンバスタチン,アロプリノール.

嗜好歴:喫煙:なし 飲酒:なし.

身体所見:身長174cm,体重70kg,BMI 23.1.

血圧92/53mmHg,脈拍56回/分,体温37.0℃,呼吸回数24回/分,SpO2 98%(室内気).

腹部は平坦,軟.心窩部に圧痛を認めたが反跳痛はなく,腸蠕動音は減弱していた.

来院時検査所見:〈血液生化学所見〉血算,生化学,凝固系に異常所見は認めなかった.また,血清ピロリ菌抗体<3.0U/mlでピロリ未感染であった.

〈腹部造影CT所見〉膵臓背側~右側の後腹膜にかけて最大13×7cmの血腫を認め,内部に著明なextravasationを認めた(Figure 1).腹部内臓動脈瘤の破綻による後腹膜出血と判断した.矢状断でみると腹腔動脈起始部は頭側からの圧排により狭窄し,側副路として発達した膵十二指腸アーケードの不均一な拡張所見を認め,正中弓状靱帯圧迫症候群と診断した(Figure 2).

Figure 1 

後腹膜血腫(腹部造影CT,動脈後期相).

Figure 2 

腹腔動脈起始部の狭窄(3DCT).

〈経動脈的塞栓術〉緊急でTAEを施行した.上腸間膜動脈造影で膵十二指腸動脈瘤を認め,そこからextravasationが確認できた.責任血管は後上膵十二指腸動脈と判断し,同部位の中枢側および末梢側にコイル塞栓術を施行.extravasationの残存がないことを確認し手技を終了した(Figure 3).その後合併症なく経過し,第9病日に退院となった.退院前日に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,十二指腸下降部は周囲の血腫によりやや色調の変化を認めたものの狭窄および粘膜の虚血性変化は認めなかった(Figure 4).

Figure 3 

上腸間膜動脈造影,コイル塞栓術.

Figure 4 

第8病日上部消化管内視鏡検査.

臨床経過:第16病日に持続する嘔吐,食事摂取不良を主訴に再度当院を受診した.来院時バイタルサインに乱れはなかったが,右側腹部を中心に圧痛を認めた.造影CTを施行したが再出血を疑うようなextravasationは認めず,後腹膜腔の血腫は前回より縮小していた.入院翌日に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃内に大量の残渣が貯留し,十二指腸下行部を中心に粘膜浮腫および内腔の狭窄を認めた(Figure 5).続けて十二指腸造影を施行したところ,下行部以遠は約7cmにわたり狭窄を認めた(Figure 6).

Figure 5 

第17病日上部消化管内視鏡検査.

Figure 6 

十二指腸狭窄(ガストログラフィンによる造影).

胃空腸吻合術や一時的腸瘻造設なども検討したが,腹部症状は軽度で水分摂取も可能であったことから,経鼻胃管を挿入の上,保存的に加療を継続した.食事摂取不良の時期が続いたが,徐々に経口摂取量は回復し,中心静脈栄養および経腸栄養剤を併用しながら少量ずつ食事を漸増した.第44病日に上部消化管内視鏡検査(Figure 7)および十二指腸造影を行い,内腔狭窄が入院時より著明に改善していることを確認し,第45病日に軽快退院となった.

Figure 7 

第44病日上部消化管内視鏡検査.

Ⅲ 考  察

腹部内臓動脈瘤は動脈瘤全体の1%程度で,そのうち膵十二指腸動脈瘤は2%とまれな疾患とされる 2.膵十二指腸動脈瘤の原因としては,正中弓状靱帯圧迫症候群(MALS)による上腸間膜動脈系の血流の増強(約30%),segmental arterial mediolysis(SAM),感染症,膵炎,外傷,動脈硬化などが考えられる 3),4.自験例では,画像上腹腔動脈起始部に狭窄を認め,飲酒歴や膵疾患の既往,外傷のエピソードもなく,MALSが原因と考えられた.正中弓状靱帯は左右の横隔膜脚が合わさり大動脈裂孔の腹側を形成しているが,10~24%で腹腔動脈にかかり起始部を狭窄することにより腸管虚血を来し,いわゆるMALSを呈することがある 5.MALSでは腹腔動脈の血流が低下し,上腸間膜動脈の血流が増加しており,膵十二指腸アーケードが発達することで,本症例のように動脈瘤が形成されやすい.

膵十二指腸動脈瘤の治療法としては経動脈的塞栓術や手術などが報告されている.1990年代までは手術が主流であったが,外科的治療での死亡率は13%と高値であり,近年では第一選択として塞栓術が選択されている 6.森田らによると,膵十二指腸動脈瘤に対する確実な塞栓術式は中枢および末梢の同時塞栓とされる 7.自験例においても,中枢・末梢同時塞栓にて良好な止血効果が得られた.なおHildebrandらによると,弓状靱帯を切離しなくても新たな動脈瘤の発生はほぼなく,腹腔動脈狭窄解除目的の正中弓状靱帯切離術は必ずしも必要ではないとされる 8

本症例では塞栓術にて止血に成功後数週間の経過を経て十二指腸狭窄が生じた.今回われわれが医学中央雑誌と関連文献より2000年~2017年までの期間で検索しえた,膵十二指腸動脈瘤破裂後に十二指腸狭窄を生じた報告は自験例を含め23例存在し,その一覧をTable 1 10),11),14)~32に示す(キーワード「膵十二指腸動脈瘤」「狭窄」).年齢中央値は59.5歳(46-86歳),男女比は14:9と男性にやや多かった.またTAE施行前からすでに十二指腸狭窄を認めていたものが8例(34.8%),TAE未施行例で十二指腸狭窄を認めていたものが4例(17.4%)と,約半数でTAEとは無関係に十二指腸狭窄を来していた.

Table 1 

本邦における膵十二指腸動脈瘤破裂後に十二指腸狭窄例(2000-2017年,会議録除く).

後腹膜血腫形成後の十二指腸狭窄の成因としては,①血腫による十二指腸の物理的圧排 9,②虚血による十二指腸粘膜障害が考えられる.虚血性変化を生じうる原因としては,塞栓術による十二指腸の血流障害 10や,血腫からの炎症波及によるもの 11が挙げられる.

一般的に後腹膜の右側に血腫が出現した場合,TAE未施行例でも十二指腸狭窄は遅発的に生じうるとされ 12,また本疾患は病態として膵十二指腸アーケードが発達し,塞栓術による虚血が生じにくいと考えられることから,TAEによる腸管の直接的な血流障害よりも,血腫による直接の圧排や血腫からの炎症波及が十二指腸狭窄の重要な要素であると考えられる.さらに,過去の狭窄例(Table 1)では血腫出現から数日から数週経過してから狭窄が出現している症例が多いこと,自験例でも血腫出現数日後の上部消化管内視鏡検査時には狭窄は認めず,狭窄出現時には血腫は縮小傾向であったことから,血腫による物理的圧迫よりも血腫からの炎症波及による二次性の要因が主な成因であると推測される.

後腹膜血腫出現後の十二指腸狭窄に対する治療としては,保存的療法,内視鏡的拡張術,外科的バイパス術などが挙げられるが,治療方針については一定のコンセンサスは得られていない.本症例でも内視鏡的拡張術が検討されたが,症状が日々改善傾向であったため,拡張による消化管穿孔のリスクも考慮し,保存的に経過を追い治癒を得た.保存的療法の継続期間については判断が難しいが,血腫の縮小および炎症の沈静化が得られれば狭窄が改善する可能性があることから,手術を急ぐ必要はない.また,虚血による粘膜障害が疑われる場合は,腸管壁の脆弱性の観点から早期の内視鏡的拡張術施行は危険との報告 13もあり,数週間たっても改善が得られない場合は内視鏡的拡張術を選択し,それでも改善が見込めない場合に限り,観血的治療を選択すべきと考えられる.

Ⅳ 結  語

保存的加療で軽快した後上膵十二指腸動脈瘤破裂後十二指腸狭窄の1例を経験した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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