2018 Volume 60 Issue 4 Pages 1027-1032
切除不能悪性肝門部胆管閉塞(malignant hilar biliary obstruction:MHBO)に対して,self-expandable metal stent(SEMS)やplastic stent(PS)を用いた低侵襲な内視鏡的胆管ドレナージ術が広く行われている.これまでMHBOに対して用いられてきたmetal stentは,uncovered SEMSであったが,近年,内視鏡的胆管covered SEMS(CSEMS)留置術の成績が報告され,注目されている.われわれの施設で行った切除不能MHBOに対するpartially CSEMSを用いた内視鏡的胆管side-by-side留置術の実際と治療成績について解説する.
切除不能悪性肝門部胆管閉塞(malignant hilar biliary obstruction:MHBO)の予後は不良であり,適切な胆管ドレナージ術が患者のQOLを向上させる.これまでself-expandable metal stent(SEMS)やplastic stent(PS)を用いた内視鏡的胆管ドレナージ術が低侵襲治療として広く普及してきた.悪性胆管閉塞に対するSEMSとPSを比較したメタアナリシスによれば,SEMSは,PSよりも閉塞率が低いと報告されているが 1),mortalityに関しては,どちらのstentが適しているのか一定の見解が得られていない.また,留置法に関して,片葉留置が良いのか両葉留置が良いのか,両葉にSEMSを留置する場合,side-by-side(SBS)が良いのか,stent-in-stent(SIS)が良いのかに関しても,いまだ明らかになっていない.
近年,MHBOに対する内視鏡的covered SEMS(CSEMS)留置術の治療成績が報告され 2),3),注目されている.われわれは,最近,切除不能MHBOに対するpartially CSEMSを用いた内視鏡的SBS留置術の治療成績を報告した 4).
本稿では,切除不能MHBOに対するpartially CSEMSによる内視鏡的SBS留置術の実際と治療成績について解説する.
内視鏡的経乳頭的アプローチが可能であり,胆管造影にて両葉胆管が造影されるBismuth分類type Ⅱ-Ⅳの切除不能(非切除)MHBO例を本手技の適応としている.片葉胆管が腫瘍により完全に閉塞し,造影されない例は,適応外としている.
われわれは,本手技に6mm径braided typeのpartially CSEMS(Taewoong Medical社製)を用いた.Stent上端(distal側)の10mm長がuncovered部分であり,その他の部分がインナーとアウターの2層構造からなるシリコン素材のcovered部分となっている.デリバリーシステムは,8Frであり,100mmまたは120mm長のstentを使用した(Figure 1).
6mm径braided typeのpartially CSEMS(Taewoong Medical社製).stent上端(distal側)10mm長がuncovered部分であり,その他の部分がシリコン素材のcovered部分である.stent下端(proximal側)には,lasso(紐)が付いている.100mmまたは120mm長のstentを使用した.
初回のERCPでは,肝門部胆管閉塞部の造影と管腔内超音波検査を行う.続いて内視鏡的乳頭括約筋切開術を行い,胆管閉塞部の擦過細胞診と生検を行う.初回は,通常5Frチューブによる両葉の内視鏡的経鼻胆管ドレナージ術(ENBD)を行っている.
われわれは,造影CTやMRCPなどで肝門部胆管閉塞部を評価した後にERCPを施行している.ENBD後は,減黄効果を確認し,チューブ造影にて肝門部胆管閉塞部の再評価を行う.初回のERCPによる病理結果にて悪性と診断され,胆管閉塞部位や他の画像検査より,切除不能(非切除)と判断した場合,2回目のERCPにて本手技を行う.通常,初回のERCPから本手技施行までの期間は1週間程度である.本手技における前処置と検査前投与は通常のERCPと同様である.
2.手順① JF260V(Olympus Medical Systems社製)を使用し,カニューラ(MTW cannula:MTW Endoscopy社製)とガイドワイヤーを用いて胆管挿管後に胆管造影を行う.肝門部の胆管閉塞が高度な場合,肝内胆管へのガイドワイヤー挿入に難渋することがあるため,われわれは,トルク伝達性とseeking性に優れた0.025インチのアングル型ガイドワイヤー(VisiGlide 2:Olympus社製)を主に用いている.
② 肝門部の胆管閉塞部をガイドワイヤーにて突破し,両葉の肝内胆管造影をする(Figure 2-a).
Partially CSEMSを用いた内視鏡的胆管SBS留置術.
a:0.025インチのガイドワイヤーにて肝門部胆管閉塞部を突破し,両葉肝内胆管を造影する.
b:stentを留置する胆管を選択し,0.035インチのガイドワイヤーに交換する.
c:屈曲が高度な片葉肝内胆管から,ガイドワイヤー下に8Frのデリバリーシステムを挿入する.
d:stent上端の留置部位を決めた後,ゆっくりとstentを展開していく.
e:stent上端が固定された後に下端stentマーカーをX線透視画像と内視鏡画像を確認しながら,完全に展開する.
f:片葉へstentを留置した内視鏡画像.stent下端を乳頭部から10~15mm出して留置する.
g:対側の片葉肝内胆管へガイドワイヤー下にデリバリーシステムを挿入する.
h:stent上端からゆっくりとstentを展開する.
i:stent留置後にstentの留置位置と拡張程度を確認する.
j:両葉へstentを留置した内視鏡画像.Across the papillaにて留置.
k:両葉へstentを留置したX線透視画像.両葉胆管を造影し,スコープの吸引により造影剤の排出を確認する.
③ 目的の肝内胆管にガイドワイヤーが挿入された場合,カニューラを挿入し,0.025インチのガイドワイヤーから0.035インチのガイドワイヤー(Hydra Jagwire:Boston Scientific社製)に交換する(Figure 2-b).
④ 肝門部の胆管閉塞が高度な場合,6~9Frの胆管拡張用ダイレーター(Soehendra Biliary Dilation Catheter:Cook Medical社製)を用いて狭窄部の拡張を行う.
⑤ 通常,屈曲が高度な片葉胆管からstentを留置する.胆管造影にて肝門部の胆管閉塞部から乳頭部までの距離を測定し,使用するstent長を決定する.肝内胆管へ挿入したガイドワイヤー下に8Frのデリバリーシステムを挿入し,肝門部の胆管閉塞を突破した後に留置する肝内胆管へ挿入する(Figure 2-c).X線透視下にstentのcovered部分が肝内胆管側枝を覆わない位置に先端を調整する.Stentのdistal側の上端stentマーカーから10mm長がuncovered部分であるため,その部分を上端留置部の指標にする.次に,stentのproximal側の下端stentマーカーをX線透視画像と内視鏡画像を確認し,乳頭部から10~15mmの位置に調整する.われわれは,reinterventionの容易さとstent抜去を考慮して,across the papilla留置としている.Stent留置部位が決定した場合,上端からゆっくりとstentを展開していく(Figure 2-d).すばやくstentを展開すると,末梢肝内胆管へstent上端がジャンピングし,上端のuncovered部分で固定されてしまい,位置調整が出来なくなるため,ゆっくりと慎重に外筒を引き始めることが望ましい.Stent上端が固定された後に下端stentマーカーをX線透視画像と内視鏡画像を確認しながら,完全に展開する(Figure 2-e,f).
⑥ 続いて,対側の片葉胆管へ⑤と同じ手順でstentデリバリーシステムを挿入し(Figure 2-g),stentを展開する(Figure 2-h).⑤と同様にstentのcovered部分が肝内胆管側枝を覆わない位置に先端を調整することが重要である.
⑦ Stent留置後に,stentの留置位置と拡張程度をX線透視画像で確認し(Figure 2-i),乳頭部から出したstent下端の位置を内視鏡画像にて確認する(Figure 2-j).最後に両葉胆管を造影し,スコープの吸引により造影剤の排出を確認する(Figure 2-k).
3.ReinterventionStent閉塞やmigration(逸脱や迷入)などを生じた場合,内視鏡的reinterventionを行う.造影にてstentのuncovered部分にtumor ingrowthを認めない場合,まず把持鉗子やスネア鉗子を用いてstent抜去を試みる(Figure 3-a~d).Stent抜去が困難な場合,USEMSやPSによるSIS留置術を行う(Figure 4-a,b).
Reintervention時におけるstent抜去.
a:stent下端のlasso(紐)を把持鉗子にて把持する.
b:内視鏡と把持したstentを十二指腸の肛門側に押し込み,stentの可動性を確認し,stentを抜去する.
c:同様に,もう一方のstentを把持鉗子にて抜去する.
d:stent抜去後の乳頭部の内視鏡画像.
Reintervention時におけるSIS留置.
a:stent上端のuncovered部分にtumor ingrowthを認めており,stent抜去が困難であった症例.
b:両葉のstent内に6mm径のUSEMSをSISにて留置した.
これまで,MHBOに対する内視鏡的胆管SEMS留置術は,uncovered SEMS(USEMS)が主に用いられてきた.しかし,USEMSは,tumor ingrowthを生じやすく,reintervention手技に難渋するなどの課題があった.
近年,MHBOに対してCSEMSを用いた内視鏡的治療の成績が報告されている.CSEMSには,fully covered typeとpartially covered typeがあり,切除不能MHBOに対して選択できる状況にある.
Inoueら 2)は,6mm径のfully CSEMSによる初回のSBS留置術17例(initial群)とUSEMS留置後のreinterventionとしてのSIS留置術13例(reintervention群)の成績を報告した.手技成功率は,initial群94%,reintervention群92%であり,recurrent biliary obstruction(RBO)までの期間(中央値)は,initial群210日,USEMS両葉留置後reintervention群112日,USEMS片葉留置後reintervention群152日であった.RBOに対する対処としてfully CSEMSの抜去を11例に試みており,全例で抜去に成功している.偶発症として,initial群の2例(7%)に肝膿瘍を認めており,fully CSEMSによる肝内胆管側枝の閉塞が原因であると述べている.
また,Yoshidaら 3)は,22例のMHBO患者に対し,6mm径のCSEMSによる内視鏡的胆管SBS留置術の成績を報告している.10例にfully CSEMS,12例にpartially CSEMSを留置した結果,手技成功率/臨床的奏効率は,全体で97%/94%,fully CSEMSで94%/100%,partially CSEMSで100%/ 88%であり,平均stent開存期間は,全体で95日,fully CSEMSで113日,partially CSEMSで68日であった.13例(fully CSEMS 7例,partially CSEMS 6例)にstent抜去を試み,抜去成功率は,全体で85%,fully CSEMSで100%,partially CSEMSで67%であった.Fully CSEMSの評価は,partially CSEMSと比較して高かったが,stent開存期間に関して一定の結論に至らず,多数例での検討が必要であると述べている.
われわれは,17例の切除不能MHBOに対する6mm径partially CSEMSを用いた内視鏡的胆管SBS留置術の成績を報告した.Bismuth分類は,type Ⅱが10例,type Ⅲが1例,type Ⅳが6例であった.Stent長は,両葉100mmが13例,両葉120mmが3例,100mmと120mmが1例であり,全例across the papilla留置であった.手技成功率は,100%であり,RBOを12例(71%)に認め,その内訳は,胆泥による閉塞が9例,migrationが3例(片葉stentの迷入が2例,両葉stentの逸脱が1例)であった.RBOまでの期間は,中央値で79日であり,Bismuth分類では,type Ⅱが87日,type Ⅲおよびtype Ⅳが54日であった(P=0.030).Reinterventionを13例(76%)に行い,10例にスネア鉗子や把持鉗子によるstent抜去を試み,6例で抜去に成功した(60%).抜去時の偶発症を認めず,抜去成功例は,stent distal側のuncovered部分に強固なtumor ingrowthを認めていない症例であった.RBO以外の偶発症として晩期の胆管炎を1例に認めた 4).
これらの結果から,切除不能MHBOに対する内視鏡的胆管CSEMS留置術の課題として,fully covered typeは,肝内胆管側枝を閉塞する場合があること,partially covered typeは,reinterventionの際にstent抜去が困難な場合があることが挙げられる.
切除不能MHBOに対する内視鏡的胆管CSEMS留置術の現状およびわれわれの施設で行ったpartially CSEMSを用いた内視鏡的胆管SBS留置術の実際と治療成績を解説した.MHBOに対するpartially CSEMSを用いたSBS留置術は,reinterventionにおけるstent抜去が可能な場合があり,PSと同様な対処法を期待することができる.Covered部分による肝内胆管側枝の閉塞を回避することが重要であり,末梢肝内胆管まで腫瘍進展をきたしていない肝門部胆管に限局した症例が,本手技に適していると考える.今後,CSEMSのstent径やpartially typeとfully typeの比較などを多数例で検討する必要がある.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし