2018 Volume 60 Issue 4 Pages 1044-1047
大阪府立成人病センターは,大阪府成人病予防行政の一環として昭和34年9月高血圧,心臓疾患,がんなどのいわゆる成人病の予防,早期発見およびこれらの調査,研究等を行い,府内における成人病に関する医療水準の向上を図るための中核施設として設置された.更に,昭和52年9月には,従来の業務に加え,成人病治療の専門病院を開設し,昭和54年6月に全床(500床)を開床した.昭和58年3月には,本館整備工事のうち動物実験室が完成し,昭和59年3月には,本館(研究所および病院の一部)整備工事が完成した.また,平成13年3月には,研究所の新築工事が完成した.平成18年4月に独立法人化を行い,大阪府が直接設置する病院から,地方独立行政法人大阪府立病院機構の大阪府立成人病センターへ事業移行した.平成29年3月に病院を新築移転し,名称も大阪国際がんセンターと改めた.
患者の視点に立脚した高度ながん医療を提供・開発する事を理念とし,がん治療に関する調査,研究,検診,診断および治療等を行うため,がん対策センター,研究所,病院を3つの柱として業務を推進している.
組織当内視鏡センターは内視鏡診断・治療部門として教育研修センターに所属している.消化管の内視鏡は主に消化管内科の医師が担当し,肝胆道系の内視鏡は肝胆膵内科および消化器検診科の医師が担当している.
検査室レイアウト
平成29年3月の新病院移転に伴い設置された内視鏡センターの総面積は約620平方メートル,上部内視鏡検査室が5室(治療室2),下部内視鏡検査室が3室(治療室1,透視室1),胆膵治療室が2室,肝治療室が1室配置され,透視を必要とする手技も含め消化器診療に関わる手技の大部分が,同じフロア内で行う事が可能である.リカバリールームは最大14人まで対応可能となっており,外来患者に対する鎮静下検査も積極的にすすめている.また内視鏡専用の洗浄室を備え,検査や処置が終了したスコープは検査室の後方から直接洗浄室に運べる動線となっており,衛生的かつ効率的な内視鏡業務が可能となっている.
所見入力にはOlympus社のsolemio ENDOを使用しており,患者受付,問診から所見入力までを一元的に行っている.また合わせてENDO monitorも導入し,各検査室の俯瞰映像,内視鏡画面をリアルタイムで所見室に配信しており,診療のみならず教育や指導にも広く用いている.動画記録に関してはOPELIOを導入し,内視鏡画像のみでなく,超音波内視鏡画像や透視画像の同軸での記録が可能となっている.更に看護記録に関してはsolemio Nurseを導入しており,使用した薬剤や内視鏡中の血圧や脈拍などのデータが電子カルテに記録可能となっている.
当内視鏡センターは,連日多数の内視鏡処置を行っており,上部2列と下部1列のESDを基本に,多い日では10件を超える処置や治療を行っている.EUS・ERCP関連手技も並行して連日行っており,一日を通して緊急処置を含めた多くの診断や治療を行っている.
(平成29年11月10日現在)
医 師:指導医8名,専門医23名,その他スタッフ2名,レジデント12名
内視鏡技師:Ⅰ種9名,その他技師4名
看 護 師:常勤18名,非常勤3名
事 務 職:4名
そ の 他:4名
(平成29年11月10日現在)
(平成27年4月~平成28年3月まで)
当院はがん治療に関わる特定機能病院として日本でも有数のHigh volume centerであり各診療科においてエキスパートが日々診療・指導にあたっている.
消化管内科には8名のスタッフと9名のレジデントが在籍している.レジデントは後期研修を終えた卒後6年目から10年前後の医師で,大阪や近畿圏のみならず全国から集まり,専門的な技量を身につけた後は各施設で活躍している.また海外からの短期研修生もしばしば訪れる.
消化管内科は,消化管がんの早期診断と治療を専門としている.がんの早期発見と外科手術によらない根治をモットーとし,上下部消化管から小腸までの内視鏡検査・治療を担当している.食道がんに対しては進行がん症例の診療も行い,化学療法や放射線治療,PDTなどの専門的な加療を行っている.
当センターでは午前中に検査内視鏡を行い,午後から順次治療を開始する.検査は術前の精査と術後のフォローが多くを占め,治療後の症例は再発のハイリスク例も多く,早期診断のため継続的なサーベイランスが重要と考えている.治療に関しては食道・胃や大腸などの一般的な腫瘍だけでなく,咽頭,十二指腸の内視鏡治療も多数行っている.レジデントは,まず食道や大腸のEMR,胃のESDから治療を担当し,技量に合わせ徐々に食道や大腸のESDへとステップアップを図る.
週に1度科内での内視鏡カンファレンスを行い治療前後での症例検討を行っている.また外科・病理医との合同カンファレンスも定期的に行っており,手術前症例の検討や術後病理診断との対比を行う事で,早期がんのみならず進行がんまで含めた幅広い視点での臨床経験を積むことができる.
学会や研究会での発表,論文投稿など学術的な活動も積極的に推奨・指導しており,各人それぞれがテーマを持ち臨床と研究の両立を図っている.多施設共同研究や治験など,最先端の診療に触れる機会も少なくない.
肝胆膵領域のがん診療は,現在肝胆膵内科に所属する8名のスタッフ,2名のレジデントと消化器検診科に所属する2名のスタッフが担当している.当院の特徴は膵がん症例が非常に多いことである.がんセンターという背景から総胆管結石や急性膵炎などの良性疾患はほとんど見られない.しかし膵がん・胆管がん患者の増加および副作用の強い抗がん剤レジメンの導入に伴い,急性胆管炎の症例が増加してきており緊急対応も多くなっているのが現状である.レジデントや若手のスタッフは肝・胆膵の診療を一括して担当し,診断から高度進行がんまであらゆる症例に対応できる専門的人材になることを目指していると同時に,研究,学会・論文発表も積極的に行っている.肝胆膵領域がん診療においては集学的治療が不可欠となるため,外科,放射線診断科,放射線腫瘍科との多診療科カンファレンスが週に1回実施されている.
高齢化の進むわが国においては,がん患者は増加の一途を辿り,当センターの需要はますます大きくなると感じている.本年度の新病院移転も相まって,内視鏡精査・治療のため当院に紹介となるケースが増加しており,内視鏡センターは連日にわたって過密スケジュールでの運用が余儀なくされている.医師,看護師,臨床工学技士をはじめとする多職種の連携があって成り立っている現状であるが,高度な診療レベルを維持するためにはスタッフの増員や機器の拡充,業務の効率化といったハードとソフトの両面からの改善が求められている.また検査や治療までの待機時間改善も課題であり,定期的にワーキングを開催しより良い運用を目指している.
当院には特定機能病院として先進的な治療法や新たな臨床知見を世に発信するする責務があり,当科もその一翼を担っている.先人の先生方の多大な努力とご指導のもと,消化器内視鏡診療のフィールドで多くの成果を世に発信してきた.しかしながら近年の内視鏡診断・治療の進歩は目覚ましく,今後の更なる発展のためには内視鏡診療のみならず,他診療科や他領域さらには国内外の先進施設との共同研究も積極的にすすめていきたいと考えている.