GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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FECAL MICROBIOTA TRANSPLANTATION FOR THE TREATMENT OF GASTROINTESTINAL DISEASE : PRESENT AND FUTURE PROSPECTS
Dai ISHIKAWA
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2018 Volume 60 Issue 4 Pages 969-980

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要旨

腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)と様々な疾患との関連が明らかになり,腸内環境の改善を目的とした便移植療法(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)に注目が集まっている.本邦においても,近年急増する潰瘍性大腸炎(UC)患者への新しい治療選択肢として期待が高まっている状況である.FMTは難治性Clostridium difficile感染性腸炎に対して高い治療効果を示し,欧米では既に実用化されているが,他疾患に対する治療効果については不明瞭であった.2017年2月に報告されたランダム化比較試験でUCに対するFMTの有効性が証明されたが,凍結ドナー便を40回自己浣腸する方法であり,治療手技の煩雑さや不確実性を考慮すると,現実的な治療選択肢になりうるかは疑問が残る.われわれも,UCに対して抗菌剤療法をFMT前に行い,大腸内視鏡下で新鮮便を投与する抗菌剤併用療法(Antibiotics-FMT:A-FMT)について報告してきた.特にUCについてはドナー便の選択,投与法など様々な手法が試されているが,未だ標準化されておらず,疾患に応じた安全で有効,かつ効率的なFMTプロトコールの確立が望まれている.

Ⅰ はじめに

ヒトの腸管には約1,000種,数100兆個以上の腸内細菌が生息し,腸内細菌叢を構成している.近年の腸内細菌分析法の発展により,腸内細菌叢全体の遺伝子組成や機能特性が解明されつつあり,腸内細菌の研究は著しい発展を遂げている.

腸内細菌研究が進む中で,腸内フローラの乱れ(dysbiosis)が炎症性腸疾患(IBD)や過敏性腸症候群といった消化器疾患だけでなく,肥満や糖尿病などの代謝性疾患,関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫疾患,自閉症やうつなどの精神疾患といった様々な疾患に関与していることが明らかになってきた 1),2.dysbiosisの改善を目的とした便移植療法(FMT:Fecal Microbiota Transplantation)が副作用の少ない細菌学的治療として注目が集まっている.2013年にFMTが抗菌剤を長期服用することに起因するClostridium difficile感染性腸炎(CDI)に対して非常に高い奏効率を示したことが報告され 3,IBDだけでなく,糖尿病やメタボリックシンドロームなど代謝疾患に関しても実用化に向けて幅広く臨床研究が行われている 4.本邦においても,近年急増する潰瘍性大腸炎(UC)患者への新しい治療選択肢として期待が高まっている状況である.本稿では最近のFMTの研究報告と当施設で進行中の臨床研究である「抗菌剤併用FMT」の研究結果も含めて,FMTの現状と展望について概説する.

Ⅱ CDIに対するFMT

主に抗菌剤の長期投与が原因で生じるCDIは典型的なdysbiosisが原因の疾患といえる.本邦においては主にバンコマイシンやメトロニダゾールが治療として使用されるが,臨床上では治療抵抗性の症例を多く経験する.特に抗菌薬の長期投与,長期入院,65歳以上の高齢者や他疾患を併発している患者では再発しやすく難治性CDIとなりやすい.この治療抵抗性のCDIに対して,論文での報告を辿ると1958年にEisemanらが4例の再発性偽膜性腸炎の症例に対して1~3回の注腸で糞便移植療法(FMT)を行うことにより副作用なく全例で症状の改善を認めたと初めて報告した 5.そして2013年にvan NoodらFMTで高い治療効果を得たという内容が報告され,一躍注目を浴びることとなった.FMTとCDIの標準治療であるバンコマイシンとのRCTにおいて,FMT群(バンコマイシン2,000mgを4日間投与後十二指腸チューブを用いてドナー便投与),バンコマイシン単独投与群(2,000mgを14日間投与),またバンコマイシンおよび腸洗浄群とそれぞれ比較したところ,FMT群では1回のFMTで81%(16人中13人)が治癒し,不応例も別のドナー便を投与することにより67%(3人中2人)が治癒し,合計で94%という驚異的な治癒率を認めた.CDI症例に対するFMT前後の腸内細菌叢の解析では,FMT後には腸内細菌叢の多様性が回復し,健常ドナーと近似してくるという結果であった.2013年に発表されたCDIのアメリカでの治療ガイドラインでは,バンコマイシン不能性の再発性CDIの補助療法としてFMTが推奨されており,臨床的にFMTが応用できている代表例といえる.

その後,投与経路や回数に関係なく高率にCDIが治癒していることが報告されている 6.欧米では,抗菌剤耐性のNAP1(North American Pulsed-field gel electrophoresis type 1)株の院内感染が問題になっており,NAP1株が院内感染の30%に認められたとの報告がある 7.このような薬剤耐性のある難治性CDIの増加と重症化に連れて,薬剤に頼らない腸内細菌療法としてFMTの必要性がますます高まっていくといえる.本邦においてはまだ,CDI院内感染は深刻化していないが,国際化が進む中で,FMTが施行できる体制を整えていくべきかもしれない.

Ⅲ UCに対するFMTのランダム化比較試験(RCT)

UCに対してのFMTは1989年にBennetらが1例報告したのが最初であり 8,抗菌薬投与後,注腸による1回のFMTで寛解に至ったことが報告された.その後もFMTの有効例の報告があるが,1例から数例の症例報告がほとんどであり,その治療効果についてはばらつきがあり信頼度の低いものであった.

1)同時に掲載されたUCに対するFMTの2つのRCT

UCに対する腸内細菌療法に注目が集まる中,その治療効果を明らかにすべく2015年5月にアメリカ学術誌Gastroenterologyに同時に2つのUCに対するFMTのRCTが報告された.カナダのMoayyediらの報告 9ではFMT群に1回50mlの健常ドナー便を週1回,注腸で6週間連続投与し,プラセボ群には生理食塩水を投与した.FMT群は38人中9人(24%)が,プラセボ群は37人中2人(5%)が寛解導入され,FMT群が有意に寛解率が高い結果であった.一方,アムステルダム大学のRossenらの報告 10では50人のUCを2群に分け,FMT群は経鼻十二指腸チューブからドナー便,コントロール群には自家便移植を0週と3週目に投与した.寛解率はFMT群はITT解析で30.4%,PPT解析で41.2%,コントロール群ではそれぞれ20.0%,25.0%であり,FMTのUC寛解に対する有効性は認められなかった.UCに対しての初めてのRCTということで,非常に興味深い結果であるが,この2つの臨床研究の結果は異なったものであるが,FMTの投与経路や回数などの方法が大きく異なっているため結果を直接比較することはできない.ただ,重要な点としてはCDIへの治療効果とは大きく異なり,寛解率は20~40%程度と今までに報告されたものに比べて低いものであった.FMT単独ではUCに対する治療効果は不透明であり,他薬剤と比較しても十分ではないといえる.また,腸内細菌の解析では,主に多様性の回復やドナーとレシピエントの類似性が言及され,Rossenらの論文では寛解例では酪酸産生菌であるClostridium clustersⅣやXIVaとの関与が示唆されているが,プラセボ群の効果があった症例でも同様に腸内細菌の変化が生じており,治療効果発現のメカニズムというより,改善した結果の腸内細菌叢の変化とも考えられる所見であり,十分な治療効果メカニズムの解明には至っていなかった.この2編の論文発表後,国内外の学会ではUCに対するFMTの治療効果については否定的に捉えられていた.

2)UCに対するFMTの最新のRCT

UCに対するFMTの治療効果が懐疑的な中で,2017年2月に3番目のRCTがオーストラリアのParamsothyらにより報告された 11.多人数のドナー便を使用した頻回FMT(intensive multi donor FMT)のUCに対する治療効果を明らかにしたものであった.3人から7人のドナー便を混ぜ合わせて,ドナー便の腸内細菌の多様性を高めることにより人為的にGolden donor便を作成し,さらに週に5回8週間,合計41回FMTを施行した.ステロイドを減量していきながらの臨床的寛解かつ内視鏡的寛解もしくは奏効を効果判定に設定し,FMT群では27%の達成率を示し,FMTの治療効果が証明された.ステロイド減量しながら寛解導入に成功しており,ステロイド離脱の面でも素晴らしい結果であったが,凍結ドナー便を40回自己浣腸する方法であり,治療方法の煩雑さや不確実さを考慮すると,現実的な治療選択肢になりうるかは疑問が残る.裏を返せばCDIはシンプルなFMTで十分治療効果が得られるのに対し,UCに対してはかなり煩雑な手法をとらない限り,腸内環境を改善し,治療効果が得られないことを示唆するものであった.以上の3つのUCに対するFMTのRCTを提示する(Table 1).

Table 1 

潰瘍性大腸炎(UC)に対するFMTのRCT.

Ⅳ ドナーの選択,ドナー便作成・保存方法

今までの学会,論文の報告 12では厳格な感染症の除外は必須であり,さらにドナーの抗生剤内服歴やdysbiosisと結びつくようなアレルギー,メタボリックシンドローム,悪性疾患を避けることも常識となっている 13.後述するが当科においてもAmsterdam protocol 6に基づき厳重にドナーの選択を行っており,腸内細菌と疾患との関わりが報告されたものについては,さらに注意深く問診をとるようにしている.最新の報告を確認することも非常に重要である.また,ドナー便中には腸内細菌だけではなく代謝産物,食物も含まれており,患者が食物アレルギーや症状が増悪してしまう特定の食物がある場合は,ドナーには少なくても3日間はその食物を避けるように指導している.むしろ和食中心の低アレルゲン食を摂取するように指導している.それは,便内の食物抗原に対するアレルギー反応によるUC増悪を最大限避けるよう工夫が必要と考えるためである.

移植である以上,生菌が定着することが重要であり,細菌学的には冷凍保存では新鮮便に比べて生着率は低下すると想定されるが,CDIに対して凍結便と新鮮便を用いたFMTでは有意差がなく高い治療効果が出ることが報告された 14.これは,CDIがクロストリジウム属のdysbiosisが起因するものであり,芽胞形成するクロストリジウム属は凍結に強く,凍結便であってもクロストリジウム属の多様度を回復させたことが予想される.一方,UCについてはコンセンサスはないが,われわれの注目しているバクテロイデス門は凍結保存では生着活性が落ちる可能性があり,われわれのプロトコールにおいては新鮮便が奏効した可能性がある.前述のmultiple donor intensive FMTにおいて凍結便で高い治療効果が示されたが,3~7人の糞便を混ぜて投与しており,複数のドナーの糞便を混ぜることで腸内細菌の多様性を上げるメリットはあるが,実際,生体的に受け入れられる腸内細菌は,個人で決まっているというcolonization resistanceという概念もある 15.そのため,混ぜて人為的につくったものがヒトに投与したときにそのまま生着するかどうかは不明である.また,便中に含まれるアレルゲンの点では,他人ドナーとレシピエントでは食性が違うので複数のドナー便を投与することはアレルギーの誘因になるリスクを上げることをしっかり留意すべきであろう.取り扱いの簡便さと汎用性を考えれば凍結処理,保存は避けて通れないところであり,凍結方法についての技術革新,フリーズドライ法 16や瞬間凍結法などで新鮮便に近いメソッドが望まれる.

CDIについては従来の凍結方法で十分に治療効果が出ているため 14,アメリカではOpenBiome 17や香港ではCivet Bioscienceというバイオベンチャー企業がカプセルでのFMTを既に実用化しており,最も取り扱い易い形でFMTが提供できている.一方で,ネット販売等でプロバイオティクスのように気軽に使用されることが問題化しており,十分なエビデンスに基づいた使用が望まれる.

Ⅴ 投与方法,有害事象について

FMTの投与方法は統一されておらず,その施設や対象疾患によっても異なっている.これまで報告された方法として凍結検体のカプセル内服投与,経鼻胃チューブ,経鼻十二指腸チューブ,上部内視鏡,小腸バルーン内視鏡,大腸内視鏡,浣腸による注腸が用いられている.CDIに対するFMT投与経路別の有効性に関しては,投与法による有効性の違いは認められていない 18.しかし注腸での投与は,繰り返し投与は容易であるが深部大腸までは到達せず,深部大腸まで繰り返し投与が可能であれば移植効率が上がることが期待される.

有害事象について注目してみると,投与法によって有害事象の種類が異なることがわかる 19Table 2).十二指腸チューブによる投与では,消化管出血や腸管穿孔による腹膜炎重篤な合併症の報告はある.内視鏡の投与においては約20%程度の有害事象の報告はあるが,重篤な合併症はなく,腹部膨満や下痢,便秘を訴えが多い.ほとんどの症状が軽微で数日で改善することが多い.もっともCDIやIBDの場合は治療効果の有無により,下痢,便秘が生じることもあることからどこまでを有害事象と判断するかは難しい.感染症の発生は投与方法というより,感染症スクリーニング影響する有害事象といえる.

Table 2 

FMTの有害事象の報告.

大腸内視鏡を用いることは,レシピエントへの負担を考慮すると投与回数に制限が加わることは避けられない.しかし,UCに対してはFMTと同時に内視鏡評価や病理検査ができることは合理的ではあるが,頻回のFMTでは負担度が上がる.一方CDI患者の場合は長期臥床で全身状態が悪いケースもあり,その場合は浣腸での簡易投与がより良い選択かもしれない.また,腸管洗浄を行うことにより腸管粘膜付着腸内細菌の組成が変化することが報告されているが 20,このことがFMTの有効性にどのように影響するかは明らかにされていない.クローン病,特に小腸型クローン病に対しては小腸バルーン内視鏡が最良と思われ,疾患や患者の状況に合わせて投与方法を選択できることが望ましい.本邦のように内視鏡技術が高い医療環境においては,全身状態が許すのであれば,深部大腸まで確実に投与が可能な大腸内視鏡投与が選択されるべきだと思われる.当科の大腸内視鏡を用いた投与法について説明する.①検査前日にプルゼニド2T,ガスモチン3T内服し,当日早朝からモビプレップ内服で一般的な大腸内視鏡検査と同様の前処置を行う.②排便から6時間以内にドナー便を採便容器(Figure 1)で提供していただき,できる限り嫌気下(CO2使用)で,便150gに対して生理食塩水(Totalの便溶液を350ml)を加え,マッシャーを使って溶かし(Figure 2),ガーゼフィルターを通して余分な残渣などを除去して,500mlストレージボトルに入れる(Figure 3).③その便溶液を30mlシリンジに小分けし,通常の内視鏡の鉗子口から盲腸に注入する(Figure 4).④治療後,約2時間右側臥位を保持する.

Figure 1 

ドナー便採取用容器.

Figure 2 

ドナー便溶解用マッシャー.

Figure 3 

ガーゼフィルターとストレージボトル.

Figure 4 

盲腸:便溶液注入後.

Ⅵ 進化するFMTメソッド

もともと腸内細菌叢は数100兆個ともいわれる莫大な量の腸内細菌からなっており,単純にFMTするだけでは満員のスタジアムに無理やり観客を押し込むような作業であり,効率的な定着は望めないと考え,抗菌剤を前投与するコンビネーションセラピーが試されていた.Borodyらはバンコマイシン,リファンピシリン,メトロニダゾールを前投与し5回のFMTで高い治療効果を報告した 21.一方Angelbergerらは,メトロニダゾールの前投与をFMTと組み合わせたが十分な治療効果が得られなかったことを報告している 22.詳しくは後述するが,われわれも同様の発想で抗菌剤療法(AFM療法)をFMT前に投与し,レシピエントの腸内細菌叢を減らしてFMTを施行する併用療法を考案した.AFM療法はアモキシシリン,ホスホマイシン,メトロニダゾールを2週間内服するものであり,この抗菌剤療法自身,多施設共同RCTで治療有効性が報告されており 23,治療の相乗効果と,乱れた腸内細菌叢の環境をFMT前にリセットすることで移植する腸内細菌の効率的な定着を狙ったものであった.われわれはこのコンビネーションセラピーをAntibiotics-FMTの意味と,AFM+FMTの重なるアルファベット(FM)を短縮し,A-FMTと名付けた(Figure 5:A-FMTの概念図).

Figure 5 

A-FMTの概念図.

そもそも,抗菌剤の前投与は,腸内細菌の減少とdysbiosisを引き起こす.つまり疑似的CDIの腸内環境を作っているともいえるわけであり,CDIに対する高い治療効果がUCにも再現できているのかもしれない.メトロニダゾール単剤では十分に腸内菌量を減らすことはできず,感受性のある菌種のみが減少し,結果として重度のdysbiosisを引き起こしてしまったとも考えられる.クローン病にはメトロニダゾールの治療効果が証明されており,クローン病とUCは各々,疾患特異性のある腸内細菌叢を持つことが予想される.

Ⅶ 当施設でのFMT臨床研究の概要

2014年6月に学内倫理委員会の承認を得て,同年7月に臨床研究(UMIN ID000014152)『UCに対する抗菌薬療法併用FMTの有効性の検討』を開始した.本研究の目的は,①UC患者に対するA-FMTの有効性,安全性の検討,②UCに対するFMTの治療効果に関与する腸内細菌の同定とFMTの治療効果発現メカニズムの解明であり,対象は活動性のあるUCの20歳以上の患者とした.ドナーの選択については,欧米ではボランティアや広告を出して有料で提供されたり,便バンクなるものまで登場し多岐にわたってドナー便の提供を受けているが,本邦においてFMTは黎明期であったため,安全性と患者の精神的安心度を考慮した結果,ドナーは20歳以上の配偶者または,2親等以内の家族とした.患者と同席の上,健康状態や既往歴,生活歴を問診し,正確に回答して頂き,健康状態に問題がないと医師が判断した方についてはさらに,血液検査:HAV IgM,HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体,HCV抗体,HIV抗体,HTLV抗体,梅毒検査(RPR/TP),EB抗体,サイトメガロウイルス抗体(現在はC7HARP),アメーバ抗体,T-spot,便検査:C. difficile toxin,一般便培養,検鏡寄生虫卵検査,便潜血検査を行い,異常を認めない場合に,ドナーとして採用し便を提供していただくこととした.本研究においては家族内での移植を基本とすることで,「顔の見える移植」が可能となり,健康不良なドナーは参加しないと想定され,感染症のリスクや患者の不安も最小限に抑えることを目指したものであり,さらに上記検査を施行することで感染予防を最大限配慮したものである.尚,30症例以上の経験から安全性が確認されたため,2015年8月からドナー対象を家族に限定せず,20歳以上の健康な方とした.

また,以下の患者もしくはドナーは安全性確保の立場から除外した.①肝疾患,腎疾患,心疾患,その他の重篤な合併症を有し,担当医師が不適当と判断したすべての症例,②他の自己免疫疾患を合併した症例,③授乳婦,妊婦または妊娠している可能性のあるすべての症例,④糞便提供者(ドナー)への問診と採血,糞便検査のスクリーニングにて感染症を疑う場合,または除外すべき既往疾患を有する場合.⑤抗菌剤内服が便提供の3カ月以内にあるもの.除外疾患:過敏性腸症候群,慢性下痢症,重度の便秘症,大腸がん,自己免疫性疾患,アトピー性皮膚炎,重度の肥満,慢性疲労症候群,⑥その他医師が不適と判断した症例.

次に,A-FMTのプロトコールについて説明する(Figure 6).①治療前に外来にて問診による症状スコアの確認と便検体提出,採血を施行する.②FMTに先行してアモキシシリン1,500mg分3,ホスホマイシン3,000mg分3,メトロニダゾール750mg分3を2週間内服する.③抗菌薬の血中濃度を考慮して,内服後1日間隔(40時間)をあけてFMTを施行する.④治療後定期的に外来を受診し,問診による症状スコアの確認と便検体提出,採血を施行する.

Figure 6 

A-FMTのプロトコール.

Ⅷ 当施設における研究成果

当施設の臨床研究では,2014年7月から2016年3月にかけて41例のUC患者を対象にそれぞれA-FMT(21例),AFM単独(20例)の治療を実施し,治療経過中の腸内細菌叢の変化について次世代シーケンサーを用いて解析し,その臨床データとの関連について報告した 24

A-FMT群21人中17人が治療を完遂し,14人(82.4%)に有効性を認めた.一方,AFM療法単独群では20人中19人が治療を完遂し,有効性が認められたのは13人(68.3%)であり,治療後4週間の経過においては,有意差は認めないもののA-FMTの治療効果が高いこと示された.副作用はAFM療法により41人中の8人(19.5%)に悪心および水溶性下痢を認め,またFMTにより21人中10人(47.6%)に一時的な腹部膨満感,張りの症状を認めたが,重大な有害事象は認めなかった.

腸内細菌叢の分析では,AFM療法後にはバクテロイデス門の割合(赤色)が著明に減少した.有効例ではFMT後4週間にバクテロイデス門の割合が有意に回復し,無効例ではバクテロイデス門の回復を認めなかった(Figure 7-a,b).また,バクテロイデス門の回復は,UCの重症度を表す内視鏡スコアと負の相関関係を認めた(Figure 8).つまり,重症例(炎症が強く,病変が広範囲に及んでいる症例)ではA-FMTは有効でない可能性がある.一方,AFM単独群では,治療後4週間経過してもバクテロイデス門の割合は十分に回復せず,また治療効果と関連性も認めなかった(Figure 9).以上からバクテロイデス門がA-FMTにおけるFMTの治療効果に強く関与していることが示唆された.そこで,keyであるバクテロイデス門の種分類の解析を行ったところ,治療効果のあった14例ではバクテロイデス門の種レベルでの多様性と均等度がA-FMT後に改善していることが明らかになった.これはAFM療法による前処置治療が,ドナーからの腸内細菌(主にバクテロイデス門)の効率的な移植に寄与している可能性を示すものであり,ダイナミックなバクテロイデス門の変化がFMTの治療効果に強く関与していることを示唆するものであった.dysbiosisが起きている状態では,細菌同士がホメオスタシスを保とうとするcommensal colonization factor 25や,バクテリオシンの産生 26などの腸内細菌ネットワークにも異常が起きていることが考えられ,いったんそれらをすべて外して,外部からの腸内細菌が定着しやすくするという意味では,抗菌剤の投与は理にかなっていると思われる.

Figure 7

a:A-FMTによる腸内細菌叢の変化.

b:FMT有効例,無効例におけるBacteroidetesの変化.

Figure 8 

Bacteroidetesの変化量と内視鏡総和スコアの関係.

Figure 9 

Bacteroidetesの回復と治療効果との関係.

Ⅸ FMTメカニズムの解明

腸内細菌の研究においては,疾患と関連する腸内細菌の変化が結果として起きている事象であるのか,原因としてとらえるのか,いわゆる卵が先かニワトリが先かという問題が付きまとう.疾患と腸内細菌の研究のほとんどはその関連性のみを明らかにするだけでメカニズムまでには言及できない.しかし,FMT研究の場合は,さらに踏み込んでdysbiosisが疾患の発症,増悪因子と考え,治療を行う先駆者的臨床研究といえる.つまり,FMTの治療効果のメカニズムを追求することは疾患の病因を明らかにすることになり,根本的な治療確立につながると考えられる.

CDIのFMT治療については,抗菌剤投与によって引き起こされたdysbiosis(特にクロストリジウム属)に対して,クロストリジウム属の他の菌種を補い多様性を回復させることが治療効果につながることが多数報告されている 27.しかしCDIに対するFMTで細菌が通過できないフィルターを通して糞便を注入したところ,治療効果があったという報告がされている 28.つまり,腸内細菌の代謝産物がClostridium difficileを抑えてバランスを整えている可能性を示唆したものであり,腸内細菌そのものではなく,その代謝産物が効果を発揮しているということになる.IBDに対するFMTにおいても腸内細菌の代謝産物,例えば酪酸は抗炎症作用に関して,HDACの阻害作用や,NF-κB活性化の抑制,制御性リンパ球の誘導といった,さまざまな機序をもつことが報告されており 29),30,腸内細菌の定着以外にも,健常者の糞便そのものが抗炎症効果や免疫是正できる代謝産物を多く含みこれが治療効果を高めている可能性がある.

これまでのFMTの治療効果と腸内細菌分析のデータを踏まえると,患者のdysbiosisが是正されることが示されている.つまり多様度の回復などが指標となるわけであるが,細菌種レベルで証明されたことはない.また,ドナーとの近似もその細菌学的評価で示されるが,あくまでも治療前と比較して近似した程度であった.

われわれのA-FMT研究においては,抗菌剤療法後の移植後,効果の出た症例ではドナーとレシピエントでは構成する細菌のspeciesレベルまでかなり近似しており,健常ドナーとの腸内細菌叢の近似が治療効果の主なメカニズムのとして考えられる.しかし,患者それぞれに固有の腸内細菌叢バランスがあり,食性も違うことからドナーそのものの腸内細菌バランスを長期間維持できているわけではない.AFM療法により,腸内細菌バランスをリセットすることは免疫的に大きく影響しており,FMTで自己と異なる腸内細菌を生着させることは,さらに振り幅の大きい変化を生じさせることになり,FMTは免疫を賦活化させるショック療法のような作用も考えられる.

Ⅹ 終わりに

われわれの施設では約130名の潰瘍性大腸炎患者と,70名のドナーに参加して頂き,その蓄積したデータを多角的に分析することにより治療メカニズムの解明と,より効果の高い手法について検討中である.A-FMTの治療効果については,長期間の観察およびRCTによる検討が必要であり,前述のintensive FMTについても最終形の治療になりうるかは冷静に判断しなければならない.副作用が少ない治療方法であるため,薬剤治療にアレルギーや抵抗性のある患者については福音になりうるが,UCに対しては生物製剤や免疫抑制剤が高い奏効率を示しており,正しい比較がなされたうえで,治療法が選択されるべきであると考える.また,FMTが美容や痩身,難病に対して効果が証明されたように喧伝し,高額な医療として行われている事実があるが,国内外で行われている臨床研究の結果を踏まえ,しかるべき環境を整えて行うべきであり,根拠のない疾患に対する安易な施行は避けるべきである.そして,このような細菌学的治療の研究を通して,治療効果に関連する有効な細菌種の同定や,腸内細菌-粘膜免疫応答のメカニズムを解明することで,プロバイオティクスや他の治療法とも組み合わせた総合的な細菌学的治療法の確立が目指すところかもしれない.FMTについては治療効果の評価だけでなく,腸内フローラとUCの関係性および治癒に至るメカニズムの解明が根本的治療の確立に大きく寄与できるものと思われる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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