2018 Volume 60 Issue 4 Pages 981-990
【背景・目的】他疾患との内視鏡的鑑別診断を行うために,カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の内視鏡像の特徴を明らかにすることは意義があると考えられる.【方法】7年間に当院で経験した両疾患について,臨床像,罹患部位,内視鏡像を後方視的に検討し比較した.内視鏡像を検討できたのはカンピロバクター腸炎43例とサルモネラ腸炎7例であった.【結果】両疾患の臨床像は類似しており差はなかった.罹患部位は下行結腸~直腸についてはカンピロバクター腸炎で有意に高率であった.大腸の内視鏡所見は,両疾患とも粘膜内出血と浮腫が特徴であった.大腸の潰瘍出現率はサルモネラ腸炎が29%で有意に高かった.回盲弁の潰瘍出現率はカンピロバクター腸炎が45%で有意に高かった.【結論】両疾患における大腸内視鏡像の特徴は粘膜内出血と浮腫であり,両疾患の鑑別には回盲弁の潰瘍の有無と大腸の潰瘍の有無が有用である.
カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎は最も多い細菌性腸炎である.両疾患とも粘膜侵入型の細菌が原因であり,高頻度に大腸病変をきたすことが知られている.血便の頻度に関してはカンピロバクター腸炎では2~70% 1)~4),サルモネラ腸炎では7.6~20%と種々の報告がみられる 5),6).この両疾患は血便をきたす頻度が高く,他疾患との鑑別のため内視鏡検査が行われる機会が比較的多い.内視鏡像に関しても種々の報告がみられ,必ずしも一致していない 1)~6).両疾患の特徴的内視鏡像を知っておくことは,他疾患との内視鏡的鑑別診断を行う点で意義があると思われる.特に潰瘍性大腸炎との鑑別は治療が正反対となるため重要である.また,両疾患の内視鏡的鑑別診断は,効果のある抗菌薬を迅速に選択できる点で臨床的意義があると思われる.今回,両疾患の臨床像と内視鏡像の特徴と相違点および内視鏡的に両疾患を鑑別する所見を明らかにするため,同施設の同時期に経験した両疾患症例を対象として後方視的に検討した.
2010年4月~2017年3月の7年間に当院で診療し,便培養検査あるいは内視鏡下の便汁培養検査によりカンピロバクターあるいはサルモネラが検出された症例を対象とした.ただし,他の食中毒菌が同時に検出された,十分な問診が実施されていない,症状が不明,などの症例は除外した.症状が不明とは,患者に問診をしても感染性腸炎を疑う症状が不明な場合とした.これらの症例について,菌種,性別,年齢,臨床症状(下痢,発熱,血便,腹痛,嘔気または嘔吐),などを検討し,両疾患の比較を行った.臨床症状は初診時までに現れた症状とした.
7年間で155例にカンピロバクターが検出されたが,他の食中毒菌(サルモネラ,エロモナス,ウェルシュ菌)が同時に検出された11例,十分な問診が実施されていない2例,症状が不明な4例などを除外すると138例になった.一方,7年間で29例にサルモネラが検出されたが,他の食中毒菌(カンピロバクター,エロモナス)が同時に検出された3例と症状が不明な2例と十分な問診が実施されていない1例を除外すると23例になった.
つぎにこれらの中で内視鏡検査が実施された症例について,菌種,発症から内視鏡までの日数,罹患部位,部位ごとの内視鏡所見,などを検討し両疾患の比較を行った.ただし,内視鏡検査の当日から2日前までの検査で菌が検出された症例のみを対象とし,それ以外は除外した.また,基礎疾患に潰瘍性大腸炎がある症例は除外した.
7年間に大腸内視鏡が施行されたカンピロバクター腸炎は47例であったが,内視鏡検査当日から2日前までの検査で菌が検出されなかった3例と潰瘍性大腸炎1例を除外すると43例になった.一方,サルモネラ腸炎は7例であった.
罹患部位については,終末回腸,回盲弁,盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸,の8部位に分けて検討を行った.内視鏡所見については,大腸,終末回腸,回盲弁,の3領域に分けて検討した.大腸の所見については,潰瘍,びらん,粘膜内出血と浮腫,に分類しそれぞれの有無について検討した.潰瘍は白苔を伴う5mm以上の粘膜欠損,びらんは白苔を伴う5mm未満の粘膜欠損と定義した.粘膜内出血は,発赤があり近接すると赤味の中に正常ピットがみられる粘膜所見とした.浮腫は,血管透見がみられない粘膜所見とした.また,潰瘍とびらんに関しては,大腸の局在を検討した.終末回腸の所見については,潰瘍,びらん,発赤と浮腫,に分類しそれぞれの有無について検討した.回盲弁の所見については,潰瘍,びらん,発赤あるいは浮腫,に分類した.回盲弁については狭い範囲であるため,最も強い所見をその所見とした.具体的には,潰瘍とびらんがあるものは潰瘍と分類し,びらんと発赤あるいは浮腫の所見があるものはびらんと分類した.
統計学的解析にはFisher’s exact test あるいはMann-Whitney U-testを用いp値が0.05未満を有意差ありとした.
① 菌種
カンピロバクター腸炎ではCampylobacter jejuniが131例,Campylobacter coliが7例検出された.サルモネラ腸炎ではSalmonella Enteritidisが4例,Salmonella HadarとSalmonella Stanleyがそれぞれ3例ずつ,Salmonella BraenderupとSalmonella NewportとSalmonella Saintpaulがそれぞれ2例ずつ検出された.また,Salmonella Typhimurium,Salmonella Infantis,Salmonella Oslo,Salmonella Manhattan,Salmonella Thompson,Salmonella Hvittingfoss,Salmonella group 07がそれぞれ1例ずつ検出された.
② 性別と年齢
性別はカンピロバクター腸炎では男性80例,女性58例であり,男性が多かった.サルモネラ腸炎では男性17例,女性6例であり,男性が多かった.両疾患の性別を比較すると有意の差はなかった.
年齢はカンピロバクター腸炎では15~86歳で平均33.5歳,中央値26歳であった.15~19歳が28例,20歳代が51例,30歳代が18例,40歳代が13例,50歳代が11例,60歳代が10例,70歳代が5例,80歳代が1例みられた.一方,サルモネラ腸炎では15~53歳で平均30.1歳,中央値29歳であった.15~19歳が6例,20歳代が7例,30歳代が5例,40歳代が2例,50歳代が3例みられた.両疾患の年齢を比較すると有意差はなかった.
③ 臨床症状
カンピロバクター腸炎においては,下痢が93%(128/138),発熱が62%(86/138),血便が23%(32/138),腹痛が79%(109/138),嘔気または嘔吐が28%(39/138)であった.一方,サルモネラ腸炎においては下痢が100%(23/23),発熱が61%(14/23),血便が22%(5/23),腹痛が78%(18/23),嘔気または嘔吐が26%(6/23)であった.これらの臨床症状を両疾患で比較したがいずれも有意差はみられなかった(Table 1).

臨床症状の比較.
① 菌種
カンピロバクター腸炎ではすべてCampylobacter jejuniが検出された.サルモネラ腸炎ではSalmonella Enteritidis,Salmonella Braenderup,Salmonella Newport,Salmonella Stanley,Salmonella Infantis,Salmonella Oslo,Salmonella Manhattanがそれぞれ1例ずつ検出された.
② 発症から内視鏡までの日数
カンピロバクター腸炎では1~15日で平均5.0日であった.一方,サルモネラ腸炎では2~9日で平均3.9日であった.
③ 罹患部位
カンピロバクター腸炎においては,終末回腸が31%(11/35),回盲弁が93%(37/40),盲腸が73%(29/40),上行結腸が80%(32/40),横行結腸が88%(38/43),下行結腸が91%(39/43),S状結腸が98%(42/43),直腸が84%(36/43)であった.内視鏡的には全く病変がみられなかった症例が1例みられた.一方,サルモネラ腸炎においては,終末回腸が71%(5/7),回盲弁が86%(6/7),盲腸が71%(5/7),上行結腸が57%(4/7),横行結腸が86%(6/7),下行結腸が57%(4/7),S状結腸が57%(4/7),直腸が29%(2/7)であった.内視鏡的に終末回腸にのみ病変があり,回盲弁と大腸には病変がない症例が1例みられた.両疾患を比較すると,下行結腸,S状結腸,直腸に病変がある割合はサルモネラ腸炎に比べてカンピロバクター腸炎で有意に多かった(Table 2).

罹患部位の比較.
④ 大腸の内視鏡所見
カンピロバクター腸炎においては,潰瘍が0%(0/43),びらんが26%(11/43),粘膜内出血と浮腫が98%(42/43),所見なしが2%(1/43)であった.一方,サルモネラ腸炎においては,潰瘍が29%(2/7),びらんが43%(3/7),粘膜内出血と浮腫が86%(6/7),所見なしが14%(1/ 7)であった.粘膜内出血については,両疾患とも大小の発赤斑や比較的びまん性のものまで種々のものがみられた(Figure 1~3).サルモネラ腸炎で潰瘍がみられた2例はS状結腸に限局しており,浅い縦走潰瘍や不整形潰瘍であり,びらんも伴っていた(Figure 4).びらんの局在は,カンピロバクター腸炎の11例では盲腸のみが5例,盲腸と上行結腸が2例,盲腸とS状結腸が2例,上行結腸と横行結腸が1例,盲腸と上行結腸と直腸が1例であった.サルモネラ腸炎3例のびらんの局在は,盲腸~S状結腸が1例,上行結腸のみが1例,S状結腸のみが1例であった.サルモネラ腸炎の1例を除いては,びらんは比較的限局した範囲にみられた(Figure 5).両疾患を比較すると,大腸の潰瘍出現率はカンピロバクター腸炎に比べてサルモネラ腸炎で有意に多かった(Table 3).

a:大腸の粘膜内出血と浮腫.
大腸に斑状発赤が散在性にみられ,周囲粘膜に浮腫がみられる(カンピロバクター腸炎症例).
b:粘膜内出血の拡大像.
発赤斑を拡大観察すると,発赤の中に正常ピットがみられ,粘膜内出血と診断できる.

大腸の粘膜内出血と浮腫.
大腸にびまん性の粘膜内出血を認める.周囲粘膜には浮腫がみられる(カンピロバクター腸炎症例).

大腸の粘膜内出血と浮腫.
大腸にびまん性の粘膜内出血を認める.発赤の中に正常ピットがみえる(サルモネラ腸炎症例).周囲粘膜には浮腫がみられる.

大腸の潰瘍.
S状結腸に浅い縦走潰瘍と不整形潰瘍がみられる(サルモネラ腸炎症例).

大腸のびらん.
盲腸に点状びらんがみられる(カンピロバクター腸炎症例).

大腸の内視鏡所見の比較.
⑤ 終末回腸の内視鏡所見
カンピロバクター腸炎においては,潰瘍が6%(2/35),びらんが17%(6/35),発赤と浮腫が34%(12/35),所見なしが66%(23/35)であった.サルモネラ腸炎においては,潰瘍が0%(0/ 7),びらんが57%(4/7),発赤と浮腫が71%(5/7),所見なしが29%(2/7)であった.カンピロバクター腸炎でみられた潰瘍は2例ともPeyer板に一致すると思われる広く浅い潰瘍でびらんを伴っていた.両疾患ともびらんは散在性で少数であり,発赤は軽度で散在性であった.浮腫も軽度のものがほとんどであったが,重度のものもみられた(Figure 6).両疾患を比較すると,終末回腸のびらん出現率はカンピロバクター腸炎に比べてサルモネラ腸炎で有意に多かった(Table 4).

終末回腸の発赤と浮腫.
終末回腸に強い浮腫がみられ,散在性の軽い発赤もみられる(サルモネラ腸炎症例).

終末回腸の内視鏡所見の比較.
⑥ 回盲弁の内視鏡所見
カンピロバクター腸炎においては,潰瘍が45%(18/40),びらんが18%(7/40),発赤または浮腫が28%(1/40),所見なしが8%(3/40)であった.一方,サルモネラ腸炎においては,潰瘍が0%(0/7),びらんが29%(2/7),発赤または浮腫が57%(4/7),所見なしが14%(1/7)であった.カンピロバクター腸炎でみられた潰瘍は,浅く大きいものが多かった(Figure 7,8).びらんは,カンピロバクター腸炎では比較的大きいものがみられたが,サルモネラ腸炎では点状を示していた.発赤や浮腫は軽度のものが多かったが,重度のものもみられた(Figure 9).両疾患を比較すると,回盲弁の潰瘍出現率はサルモネラ腸炎に比べてカンピロバクター腸炎で有意に多かった(Table 5).

回盲弁の潰瘍と大腸のびらん.
回盲弁に浅く大きな潰瘍がみられる(カンピロバクター腸炎症例).その周囲と対側の盲腸に点状びらんがびまん性にみられる.

回盲弁の潰瘍.
回盲弁に浅く大きな潰瘍がみられる(カンピロバクター腸炎症例).

回盲弁の発赤と浮腫.
回盲弁は浮腫で大きく腫大し,著明な発赤がみられる(サルモネラ腸炎症例).

回盲弁の内視鏡所見の比較.
① 頻度
2013年度の食中毒統計ではカンピロバクター腸炎は年間1,551人に対してサルモネラ腸炎は861人であったが,全国データからの同年の全国推定患者数はカンピロバクター腸炎の約640万人に対してサルモネラ腸炎は約110万人であった 7).今回の検討で7年間に経験したカンピロバクター腸炎は138例,サルモネラ腸炎は23例であり,その比は6対1であり,全国推定患者数における両疾患の比とほぼ一致していた.
② 菌種
カンピロバクター腸炎ではCampylobacter jejuniが圧倒的に多くCampylobacter coliは少数のみに検出された.サルモネラ腸炎ではSalmonella Enteritidisが最も多かったがわずか4例であり,それ以外に多くの菌種が検出された.以前はSalmonella Enteritidisが圧倒的に多かったが 8),本菌は鶏卵と卵調理品が主な原因食品であり,近年は卵からの感染が減っていることが原因と考えられた.食中毒統計によるサルモネラ腸炎は減少傾向であり,鶏卵と卵調整品からの感染が減っていることにより,肉からの感染やペットからの感染などの他の原因による割合が相対的に増えている状況である.そのため,菌種に関してもSalmonella Enteritidis以外の菌種が相対的に増えている状況である.菌種の割合が変わったことにより臨床像や内視鏡像が以前と変化している可能性も考えられる.
③ 性別と年齢
カンピロバクター腸炎では,男女比は80:58,年齢は中央値26歳であり,20代にピークがみられた.一方,サルモネラ腸炎では,男女比17:6,年齢は中央値29歳であり,10~30歳代にピークがみられた.両疾患で性,年齢に有意の差はなく,男性優位で若い人に多くみられた.男性や若年者は,外食の機会が多く食中毒である両疾患にかかることが多いためと考えられた.
④ 臨床症状
両疾患の臨床症状を同施設の同時期に比較した検討は少ない.すべての症状で両疾患に有意差はみられず,発熱,血便,腹痛,嘔気または嘔吐などの割合は両疾患で1~2%の差しかなく極めて類似していた.今回の検討では,血便の割合はカンピロバクター腸炎では23%,サルモネラ腸炎では22%であり,ほぼ同じであった.下痢のみが少し異なり,サルモネラ腸炎では100%にみられたが,カンピロバクター腸炎では93%であり,初診時に下痢のない症例が9例みられた.
2.カンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の内視鏡像両疾患の内視鏡像について同施設の同時期に比較した検討はほとんどみられない.
① 罹患部位
カンピロバクター腸炎では,73~98%と大腸各部位で高率に病変を認めた.回盲弁を盲腸に含めると80~98%となり,すべての領域で80%以上に病変を認めることになり,カンピロバクター腸炎は全大腸に病変をきたす疾患であると言える.一方,終末回腸に病変が見られた割合は31%と低かった.大庭ら 1)はカンピロバクター腸炎24例の内視鏡所見を検討しているが,罹患部位については,盲腸が62.5%,上行結腸が28%,横行結腸が30.8%,下行結腸が46.4%,S状結腸が72.4%,直腸が31.0%,終末回腸が36.4%であった.今回の検討の結果に比べてほぼすべての領域で低い傾向があるが,大庭らは発症後平均第8病日に内視鏡を施行しており,今回の平均5.0病日に比べて遅い時期に内視鏡をしているためと思われ,本検討の結果が実態に近いと考えられた.一方,サルモネラ腸炎では横行結腸と回盲弁を含む盲腸では80%以上と高率であったが,上行結腸,下行結腸,S状結腸はいずれも57%であり,直腸は29%と低かった.サルモネラ腸炎は,下行結腸~直腸でカンピロバクター腸炎に比べて有意に病変が少なく,右側結腸優位に病変をきたす疾患と言える.中村ら 9)は自験例と既報告例を合わせた60例についてサルモネラ腸炎の罹患部位を検討している.S状結腸~上行結腸は60%前後であり,盲腸は39%,直腸は20%,終末回腸は82%であり,今回の検討結果とかなり近い値であった.しかし,われわれの検討では回盲弁を含む盲腸の病変が86%と高率である点が大きく異なっていた.
② 大腸の内視鏡像
われわれはカンピロバクター腸炎の大腸の特徴的な内視鏡像は粘膜内出血と浮腫であることをこれまで強調してきた 10).今回の検討では43例中42例で粘膜内出血と浮腫が認められたが,残りの1例は終末回腸~直腸にまったく病変を認めない症例であった.粘膜内出血のある部位にはほとんど浮腫の所見である血管透見低下がみられるため,別々には検討しなかったが,この組み合わせがカンピロバクター腸炎の特徴的な内視鏡像であることを証明できたと考えている.
カンピロバクター腸炎の大腸の内視鏡所見に関しては種々の報告がみられる.佐々木ら 4)は比較的びまん性の発赤と浮腫が主な所見であり,発赤は鮮明で粘膜出血を反映するとしており,今回とほぼ同様の検討結果である.大庭らは点状または斑状発赤,びらん,血管透見低下が特徴であり,小潰瘍も3例認めたとしている.この時点では内視鏡はファイバースコープであり,現在の高解像度電子スコープでは粘膜内出血と判断できるものができなかった可能性が高い.発赤は粘膜内出血と,小潰瘍はわれわれの定義によるびらんと推定できるため,本検討と明らかな相違は認められない.林ら 2)は発赤,出血,びらんが散在することが特徴と述べている.発赤と出血は粘膜内出血と推定できるため,やはり本検討と明らかな相違は認められない.
一方,サルモネラ腸炎の大腸の内視鏡所見に関しては,7例中6例で粘膜内出血と浮腫の組み合わせが認められ,残りの1例は終末回腸にのみ病変を認めた.粘膜内出血と浮腫は大腸に病変があるすべての症例にみられたことより,カンピロバクター腸炎と同様にこの組み合わせがサルモネラ腸炎でも特徴的な内視鏡像であると考えられた.林らは内視鏡像は発赤,出血,びらんなどが散在性にみられ,カンピロバクター腸炎とほぼ同様の所見としており,われわれの検討結果と同様である.潰瘍はみられなかったとしているが,今回の検討では2例にS状結腸に多発する浅い潰瘍を認めた.両症例とも縦走潰瘍がみられたが,いずれも深さは浅く,長さは短く,結腸ひもにも一致しておらず,近傍に不整形潰瘍やびらんが認められた.これらのことより,この縦走潰瘍は虚血性変化ではないと思われる.サルモネラ腸炎は縦走潰瘍を含む種々の形態の潰瘍を呈することがあるため,潰瘍を呈する他疾患との鑑別診断が必要である.今回のカンピロバクター腸炎43例の検討では大腸に潰瘍を認めた症例はなく,大腸の潰瘍の有無は,両疾患の鑑別に有用であると考えられる.文献的にも,サルモネラ腸炎で大腸に潰瘍がみられたという報告は比較的多くみられる 10)~12).一方,カンピロバクター腸炎で大腸に潰瘍がみられることは極めてまれである 13).しかし,大腸に潰瘍がない場合には,両疾患の鑑別は大腸の所見のみでは困難と考えられる.
中村らはサルモネラ腸炎の大腸内視鏡所見は浮腫,発赤,びらんがほとんどの症例にみられ,中等症以上になると粘膜内出血や不整形潰瘍がみられるとした.今回の検討では粘膜内出血はほとんどの例でみられたため,中等症以上にみられる所見とする意見には同意できない.林,中村とも直腸病変が少ないことがカンピロバクター腸炎との鑑別に役立つとしているが,個々の症例ではそれのみでの鑑別は困難と考えられる 14).
③ 終末回腸の内視鏡像
カンピロバクター腸炎の終末回腸の所見に言及している報告は少なく,大庭らは36.4%(4例)に発赤を認めたとしている.今回の検討では潰瘍を6%に,びらんを17%に,発赤と浮腫を34%に認めたが,潰瘍以外は軽い所見であった.
サルモネラ腸炎においては,潰瘍が0%,びらんが57%,発赤と浮腫が71%にみられた.両疾患の終末回腸の所見の比較では,びらん出現率がサルモネラ腸炎で有意に多いという結果が得られた.しかし,びらんの有無のみで両疾患を鑑別することは困難と思われる.今回の検討ではサルモネラ腸炎で終末回腸の潰瘍は認められなかったが,潰瘍がみられたという報告は散見される 15).
④ 回盲弁の内視鏡像
カンピロバクター腸炎における回盲弁の潰瘍出現率を,大庭らは42%,林らは77.7%,佐々木らは88.9%,小篠ら 3)は44.4%と報告している.今回の検討では回盲弁の潰瘍出現率は45%であり,大庭ら,小篠らとほぼ同率であったが,林ら,佐々木らの報告に比べて低かった.われわれは潰瘍を5mm以上,びらんを5mm未満と定義しており,林ら,佐々木らは大きさで区別しておらず,本検討ではびらんとしたものを潰瘍としている可能性が考えられた.
サルモネラ腸炎における回盲弁の潰瘍出現率は0%であり,カンピロバクター腸炎に比べて有意に低かった.一方,回盲弁の有所見率はサルモネラ腸炎では86%であり,カンピロバクター腸炎の92%とほぼ同じであった.
回盲弁の有所見率は両疾患で差がないが,潰瘍出現率には有意差があり鑑別に有用だが,サルモネラ腸炎でも回盲弁に潰瘍をきたした報告例があるので注意が必要である 16).
3.潰瘍性大腸炎との鑑別軽症から中等症の潰瘍性大腸炎では,黄白色点や小びらんが主な所見であり,びまん性病変を構成する要素は白色である.一方,カンピロバクター腸炎やサルモネラ腸炎では散在性あるいはびまん性病変を構成する要素は粘膜内出血による赤色である.この違いに注目すれば潰瘍性大腸炎と両感染性腸炎との鑑別はほぼ可能である.しかし,カンピロバクター腸炎やサルモネラ腸炎でも,びらんがそれぞれ26%,43%にみられており,その場合は潰瘍性大腸炎との鑑別が難しい可能性がある.しかし,今回の検討ではサルモネラ腸炎の1例を除いた13例(カンピロバクター腸炎11例,サルモネラ腸炎2例)において,びらんは限局した範囲に留まっており,他の広い範囲に粘膜内出血と浮腫がみられることにより鑑別は可能と考えられる.また,潰瘍性大腸炎でも粘膜内出血がめだち鑑別が難しいことがあるが,他部位を含めるとびらんが優位であることと,両感染性腸炎ではほとんどで病変が非連続性にみられることから,潰瘍性大腸炎との鑑別はほぼ可能である.
4.本研究の限界本研究は後方視的研究であるため,内視鏡検査を行う基準が一定していないという問題がある.また,内視鏡像の検討においてサルモネラ腸炎が7例と少ないことも問題である.しかし,感染性腸炎は積極的に内視鏡検査を行う疾患ではなく,血便の鑑別や他疾患との鑑別目的に多くは行われている.あらかじめ診断がついている症例に内視鏡検査を行うことはないため,発症数の少ないサルモネラ腸炎が少ないことはやむを得ないことと考えられる.
7年間に当科で経験したカンピロバクター腸炎とサルモネラ腸炎の臨床像と内視鏡像の検討を行い,特徴と相違点を明らかにした.臨床像は類似しており,大腸の内視鏡像の特徴も粘膜内出血と浮腫であり類似していた.両疾患の内視鏡的鑑別には回盲弁の潰瘍の有無と大腸の潰瘍の有無が有用であると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし