GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ISOLATED CROHN’S DISEASE OF THE GASTRODUODENUM IN WHICH THE ENTIRE GASTROINTESTINAL TRACT WAS EXAMINED BY ENDOSCOPY
Megumi HAYAKAWA Noriko TANAKAJun NAKAJIMAHiroyuki YORIKIMasayasu JOKeika ZENRyusuke TAKADAAkira MASUZAWANaoyuki MATSUMOTONaoki WAKABAYASHI
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2018 Volume 60 Issue 4 Pages 991-996

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要旨

症例は18歳,男性.腹痛,黒色便にて当院に救急搬送された.上部消化管内視鏡検査にて十二指腸に多発する縦走潰瘍を,胃噴門部に竹の節状外観を認めた.下部消化管内視鏡検査,小腸造影,カプセル小腸内視鏡検査,ダブルバルーン小腸内視鏡検査を施行し,全消化管を観察しえたが胃十二指腸潰瘍以外には特記すべき異常所見を認めなかった.

十二指腸病変からの生検にて非乾酪性肉芽腫を認め,胃十二指腸に限局するクローン病と確定診断した.

Ⅰ 緒  言

クローン病は小腸,大腸を中心に全消化管に病変を来しうる炎症性腸疾患である 1),2.小腸や大腸に好発するが,胃においては竹の節状外観やたこいぼびらんが高率に見られることが報告されている 1),2.十二指腸にも潰瘍を含めた所見を認めるとされるが,胃十二指腸に限局したクローン病は極めてまれである.

今回筆者らは,内視鏡的に全消化管を観察し,罹患部位が胃十二指腸に限局すると診断したクローン病の1例を経験したため,文献的考察も加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:18歳,男性.

主訴:腹痛,ふらつき,黒色便.

既往歴:鼻炎.

内服歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:受診当日に嘔気,下腹部痛が出現し,その後黒色便,ふらつきを認め動作困難となったため当院に救急搬送された.

入院時現症:身長175cm,体重58kg,BMI 18.9.体温37.1度,血圧106/58mmHg,脈拍100回/分,整.顔面,眼瞼結膜はともに蒼白であった.腹部所見では明らかな圧痛は認めなかったが心窩部圧迫時に違和感を訴えた.直腸診で黒色便を認めた.

入院時検査所見:WBC 12,000/mm3,CRP 0.9mg/dl,RBC 3.50×106/mm3,Hb 7.0g/dl,Ht 23.1%,MCV 66.2μm3,MCH 20.1pg,MCHC 30.4%と炎症反応の軽度上昇と小球性低色素性貧血を認めた.またTP 6.1g/dl,Alb 3.7g/dl,TC 85mg/dlであった.

入院後経過:上部消化管出血が疑われ,緊急入院の上,同日上部消化管内視鏡検査を施行した.十二指腸球部から下行部にかけて潰瘍が多発しており,特に上十二指腸角から下行部にかけては縦走潰瘍を認めた.上十二指腸角の潰瘍底に露出血管を認め,出血源と考えてクリッピング止血術を施行した.胃噴門部では竹の節状外観 3を呈しており,内視鏡所見からはクローン病が疑われた(Figure 1).絶食,点滴,オメプラゾールの静注にて治療を開始し腹痛は消失したが,潰瘍の改善は認めなかった.また他の消化管における病変検索目的に腹部造影CT検査,下部消化管内視鏡検査,小腸カプセル内視鏡検査,経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡検査,小腸造影検査を行ったがびらん,潰瘍,肛門部の痔瘻を含め特記すべき所見を認めなかった.H.pylori感染は血清抗HP抗体IgGが3IU/ml未満であり否定的であった.生検組織診断では確定診断に至らず,PPIの内服を継続しつつ退院となった.その後も上部消化管内視鏡検査を施行したが,十二指腸潰瘍性病変に著明な変化を認めず,貧血や赤沈の高値は持続していた.初回から5回目の上部消化管内視鏡検査の際に,十二指腸潰瘍周囲の粘膜から採取した生検組織上,粘膜内の拡張したリンパ管内に非乾酪性肉芽腫を認め(Figure 2),クローン病と確定診断した.その後メサラジン1,500mgの粉砕内服を開始した.メサラジン内服開始12日目に再度黒色便,ふらつきを来し救急受診となり,緊急で施行した上部消化管内視鏡検査では,以前より認めている十二指腸潰瘍の改善を認めなかった.そのためアダリムマブによる治療を開始したところ,赤沈や貧血は著明に改善傾向を示した.アダリムマブ開始1カ月後での上部消化管内視鏡検査では縦走潰瘍はほぼ潰瘍面が消失し,下行部では狭窄を来していた.球部の地図状潰瘍はほとんど治癒が得られていた(Figure 3).現在もアダリムマブ皮下注射を継続し寛解が維持され経過良好である.

Figure 1 

初回の上部消化管内視鏡検査.

a:上十二指腸角の縦走潰瘍.露出血管を認めクリッピング止血を行った.

b:十二指腸下行脚は全周性に潰瘍があり,狭窄を来していた.

c:十二指腸下行脚には縦走潰瘍も認めた.

d:胃噴門部には竹の節様外観が認められた.

Figure 2 

十二指腸生検より認めた非乾酪性肉芽腫.

Figure 3 

アダリムマブ開始1カ月後の上部消化管内視鏡検査.

a:十二指腸上十二指腸角の潰瘍はほぼ治癒していた.

b:十二指腸下行脚の全周性潰瘍は治癒しさらに狭窄を生じていたが,通過障害は認めなかった.

c:十二指腸下行脚の縦走潰瘍は潰瘍底がわずかに残存するのみであった.

Ⅲ 考  察

クローン病は口腔から肛門までの全消化管に発症する可能性のある炎症性腸疾患である.一般的には小腸や大腸に好発するが,軽度の胃十二指腸病変は78~80%に認めるとの報告がある 1),2

治療を必要とする十二指腸に限局したクローン病は報告が少なく,「クローン病」「胃」「十二指腸」でPubMedでは1946年以降2017年3月の期間に20症例の報告があり,本邦では1975年以降2017年3月の期間に医学中央雑誌にて検索しえた限り9症例の報告があった(Table 1 4)~12.本邦報告例では自験例を含め男性が8例,女性が2例あり,年齢は10代から66歳であった.本症例では,胃に竹の節状外観が認められたが,正常胃に認められるとの報告もあり,治療対象となる明確な病変は十二指腸に限局していた.既報9症例のなかで,十二指腸に治療対象病変が限局した症例は,広利らの1例のみであり,敷石像,縦走潰瘍,狭窄といった所見を呈し,本症例に類似している.

Table 1 

胃十二指腸に限局したクローン病の本邦での報告例.

“十二指腸に限局”とした病変局在は,消化管内視鏡検査や消化管造影検査などで縦走潰瘍,敷石像といった所見を認めることで診断されている.外科切除された症例は全例で術後標本より非乾酪性肉芽腫を認め確定診断され,病理学的に診断されなかったのは1例のみであった.小腸病変の検索については,バルーン小腸内視鏡を施行された症例は1例のみで,その他の8例ではすべて腹部CTや小腸造影のみで,小腸病変が除外されている.本症例では,腹部造影CTや小腸造影検査に加えて,カプセル小腸内視鏡検査やバルーン小腸内視鏡検査も施行し,より高い精度で小腸病変を除外できている.

治療は5例で外科切除がなされていたが,近年の5例は保存的に治療されていた.抗TNFα製剤は3例で使用されていたが,アダリムマブを使用したのは本症例のみであった.

小腸や大腸に治療必要病変を有すクローン病に付随する上部消化管病変には5ASA製剤の粉砕投与が有効とされている 13.本症例でもメサラジンの粉砕投与による治療を試みたが,潰瘍はほぼ不変であったため,アダリムマブを導入し速やかに寛解が得られた.その後も再燃なく経過している.

十二指腸に治療必要病変が限局するクローン病は症例数が少なく,診断に難渋すると考えられる.十二指腸に小腸および大腸クローン病に類似した縦走潰瘍や狭窄等を認めた際にはクローン病を念頭に,他の消化管精査を必ず行うとともに,十二指腸病変に対して生検組織診断をつける必要がある.

Ⅳ 結  語

胃十二指腸に限局した非常にまれなクローン病の一例を経験したため文献的考察を含め報告した.

本症例の要旨は,第89回日本消化器内視鏡学会総会にて発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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