GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC DIAGNOSIS AND TREATMENT OF DUODENAL NEOPLASM
Toshihiro NISHIZAWA Satoshi KINOSHITAToshio URAOKA
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2018 Volume 60 Issue 5 Pages 1059-1067

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要旨

非乳頭部十二指腸腺腫は,全体的あるいは部分的に白色調を帯びた平坦隆起性病変として観察される.粘膜内癌の特徴としては白色化の消退,赤色調,腫瘍径大,凹凸不整およびNBI拡大における粘膜模様の不明瞭化などが挙げられている.しかしながら鑑別は容易ではなく,内視鏡もしくは生検による正診率は68-78%と報告されている.生検後に粘膜下層の線維化をきたして内視鏡治療の難易度を上げてしまうため,安易な生検は避けたほうがよい.十二指腸ESDは,完全切除が理論上可能だが,技術的に困難で穿孔率が高い.十二指腸内視鏡治療後の粘膜欠損部においては,膵液・胆汁・胃液の曝露により術後合併症のリスクが高く,積極的に内視鏡的閉鎖術を行うことが勧められる.

Ⅰ 緒  言

内視鏡による上部消化管スクリーニング検査の普及を背景に,近年,十二指腸腫瘍に遭遇する機会が増加している.それに伴い,十二指腸腺腫・癌の早期診断と低侵襲治療の必要性が高まりつつある.しかしながら,十二指腸腺腫・早期癌は,その頻度の低さから,食道・胃・大腸に比べて未解決の課題が多い.本稿では,非乳頭部十二指腸腺腫・早期癌に関する術前診断および内視鏡治療について概説する.

Ⅱ 十二指腸腫瘍の内視鏡診断

1 十二指腸腫瘍の鑑別診断

代表的な十二指腸の腫瘍・非腫瘍性病変をTable 1に示す.腫瘍様病変のうち異所性胃粘膜とBrunner腺過形成で全体の75%を占めるとされている 1

Table 1 

十二指腸腫瘍の鑑別診断.

異所性胃粘膜は最もよく遭遇する病変で褪色調~正色調の境界明瞭なⅡa型隆起の集簇あるいはIsp型隆起として観察され,一部に発赤を伴うこともある.腺腫との鑑別が問題になることがあるが,絨毛の白色化を認めないことが鑑別のポイントとなる.異所性胃粘膜を拡大観察すると,絨毛構造に乏しく胃腺窩上皮に酷似したドーナツ模様や胃小溝模様が観察され,診断に有用である 1

Brunner腺過形成は,球部に好発し粘膜下腫瘍様の形態をとることが多く,多発する傾向がある.約10%に腺開口部を認めBrunner腺の開口部として粘液が分泌されるのが観察される 1

2 十二指腸腺腫・早期癌の診断

十二指腸腺腫は,全体的あるいは部分的に白色調を帯びた平坦隆起性病変として観察される.白色化は腫瘍部の上皮細胞内に脂肪滴が蓄積することによる変化と考えられている.この白色化は極めて高率であり,十二指腸腺腫に特徴的な所見である.一方,早期癌を示唆する所見には,白色化の消退,赤色調,腫瘍径大,凹凸不整などが挙げられている 2.さらにNBI拡大では,粘膜模様の不明瞭化が癌を示唆する所見として提唱されている 2),3Figure 1に腺腫,Figure 2に粘膜内癌を示す.しかしながら,これらの原則に従わない症例も少なからずあり,内視鏡診断における粘膜癌の正診率は75-78%と報告されている(Table 2 4),5.更に,最近われわれは,生検による正診率も72%と低いことを報告した(Table 2 6.十二指腸で生検を行うと,腸壁が薄いことに加え,膵液・胆汁の直接曝露の影響により,容易に粘膜下層の線維化が生じ,内視鏡的切除の障害となる(Figure 3).生検診断は不確実であるだけでなく,生検後の粘膜下層線維化をきたして内視鏡治療の難易度を上げてしまうため,安易な生検は避けるべきと考える.生検によらない拡大内視鏡やNBIによる術前内視鏡診断精度の向上が望まれるが,報告はまだ少ない 3),7.超拡大内視鏡(endocytoscopy)や共焦点内視鏡(confocal laser endomicroscopy)による十二指腸腺腫・早期癌の観察も試みられているが,いずれも少数例での検討であり更なる検討が必要である 8)~10

Figure 1 

十二指腸腺腫.

a:通常観察:全体的に白色化し腫瘍径は小さい.

b:拡大NBI:粘膜模様は比較的均一である.

Figure 2 

十二指腸粘膜癌.

a:通常観察:白色化の消退,赤色調,凹凸不整を認め,腫瘍径も大きい.

b:拡大NBI:腫瘍辺縁から内側に向かって粘膜模様の不明瞭化を認める.

Table 2 

十二指腸粘膜内癌(切除標本による最終組織診断)に対する術前内視鏡診断および生検診断の精度.

Figure 3 

十二指腸生検による瘢痕.

a:生検瘢痕を伴う十二指腸腺腫.

b:粘膜下局注によりnon-lifting sign陽性を認めた.

Ⅲ 十二指腸腫瘍の内視鏡治療

1 十二指腸EMR

十二指腸EMRの治療成績と合併症に関する各施設からの報告をTable 3に示す 11)~17.内視鏡治療の適応に関する明確な基準はないが,リンパ節転移のない粘膜内病変に対して内視鏡治療が施行されている.腫瘍径が15mmを超えると一括切除率が低下する傾向にある.また後出血率は4-12%とする報告が多く,大腸と比較すると高い傾向にある.粘膜欠損部に対する膵液・胆汁・胃液の暴露があるため,可能な限りクリップ縫縮を行うべきと考えられる 18),19

Table 3 

十二指腸EMRの治療成績と合併症.

2 十二指腸ESD

当科における十二指腸ESDでは,スコープは送水機能付きのGIF-Q260J(オリンパス社)を用いSTフードを装着している.高周波ナイフは,1.5mmのDualナイフJおよびフックナイフ(オリンパス社)を用いている.十二指腸ESD症例の内視鏡画像をFigure 4に示す.筋層が非常に薄く,ナイフからの放電だけでも穿孔をきたしてしまうことがあるため,正確な内視鏡コントロールが必要である.治療中のわずかな体動も穿孔のリスクとなるため,安定した鎮静が必要である.当科では,全身麻酔あるいはデクスメデトミジン(プレセデックス)鎮静下に治療を行っている 20),21.特に腫瘍径が20mmを超えるものやスコープ操作性の不良症例は全身麻酔下としている.粘膜下局注剤としては濃厚グリセリン(グリセオール)とヒアルロン酸溶液(ムコアップ)を使用している 22),23.十二指腸では粘膜下層が薄く,粘膜下局注剤を注入しても良好な膨隆が得られにくい.グリセオールが拡散してしまう場合はムコアップを併用する.また粘膜切開しただけでは切開縁は開かないため,初期剥離には筋層を損傷しないように細心の注意が必要である.最近われわれは,内視鏡の送水機能とSTフードを併用して粘膜下層に入り込む,Water Pressure Methodを報告した(Figure 5 24.STフードでの視野は小さく遠いが,浸水下では屈折率の変化で視野は大きく近くなり,繊細な処置が可能となる.

Figure 4 

十二指腸ESD.

a:十二指腸粘膜内癌.

b:粘膜下局注後に粘膜切開を開始.

c:粘膜切開を拡張.

d:慎重に初期剥離を行い粘膜下層に入り込む.

e:一括完全切除.

f:留置スネアを用いた巾着縫合で完全閉鎖.

Figure 5 

十二指腸ESDにおけるWater Pressure Method.

a:Water Jetにて粘膜切開部へ送水.

b:STフードに水圧を併用して粘膜下層に入り込む.

c:STフードでの視野は小さく遠い.

d:浸水下では屈折率の変化で視野は大きく近くなり,繊細な処置が可能となる.

十二指腸ESDの治療成績と合併症に関する各施設からの報告をTable 4に示す 25)~31.腫瘍径が15mmを超えても,高い完全切除率が維持されるが,治療時間が長くなる.また,術中穿孔率が6.3-27%,手術移行率が3-14%と報告されており,非常に危険で難易度が高い手技といえる.現時点においては,外科医の十分なバックアップが得られる体制を準備した上で,ESDの十分な経験のある術者が行うべきであると考えられる.

Table 4 

十二指腸 ESDの治療実績と合併症.

3 粘膜欠損に対するクリップ閉鎖術

大きなEMR/ESD後潰瘍に対するクリップ閉鎖術としては,留置スネアを用いた巾着縫合が有用である 32.しかしながら,2チャンネル内視鏡に変更する必要がある.一方で,われわれは留置スネアの替わりに“引き解け結びループ”の糸を利用して,シングルチャンネル内視鏡で閉鎖可能な方法を考案した 33),34.糸とクリップ装置が鉗子孔を同時に通し,糸を引っ張ることで“引き解け結びループ”が引き締まる 35.この方法は閉鎖の確実性が高いもののやや煩雑であり,更に単純化して「糸付きクリップ縫縮法」を報告した(Figure 6 36),37.糸付きクリップを内視鏡の鉗子孔に通し,粘膜欠損の遠位側に留置する.2本目のクリップを粘膜欠損の近位側に留置する.糸を引っ張ることで,潰瘍の近位と遠位が引き寄せられ3本目のクリップを追加する.クリップを追加していくことで,完全閉鎖が可能となる.尚,糸は内視鏡用鋏鉗子(FS-3L-1,OLYMPUS)で容易に切断可能である 38

Figure 6 

糸付きクリップ縫縮法.

a:糸付きクリップをESD後潰瘍の遠位側に留置.

b:2個目のクリップをESD後潰瘍の近位側に留置.

c:糸を引いて1個目と2個目のクリップが引き寄せたところで,3個目のクリップを留置.

d:クリップを追加し完全閉鎖.

その他の内視鏡的閉鎖術として,OTSC(over-the scope clip)システム(Ovesco Endoscopy)がある.OTSCシステムは,内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)のように内視鏡キャップとして搭載する内視鏡クリップである.形状記憶型の4本歯が左右から噛みこむ機構を持ち,より強力で持続性の高い組織把持力を有する.補助デバイスのツイングラスパー把持鉗子は,両側の羽が独立して交互に開くことにより,病変両側の粘膜を把持可能である.定価としては,OTSCシステム 79,800円,OTSCツイングラスパー 92,000円と高価だが,十二指腸病変での有用性も報告されている 39

Ⅳ おわりに

非乳頭部十二指腸腺腫・癌の内視鏡診断と治療について概説した.近年,十二指腸腺腫・粘膜癌の内視鏡的切除例が増加傾向にある.生検によらない術前内視鏡診断精度の向上は不可欠であり,拡大IEE(image-enhanced endoscopy)が今後も臨床的重要性を増していくと考えられる.またデバイスの改良などに伴う内視鏡治療技術の向上とともに症例が集積され,内視鏡治療の長期予後を含めたさらなる検討が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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