GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
A CASE OF PANCREATIC MUCINOUS CYSTADENOCARCINOMA WITH BACTERIAL INFECTION IN THE CYST
Keiichiro MATSUMURA Toshiharu UEKITohru MARUOMasamune DOIRintaro NAGAYAMAKatsuko HATAYAMARyo IHARAKenshi YAOTakahumi MAEKAWAAkinori IWASHITA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 60 Issue 5 Pages 1089-1094

Details
要旨

症例は76歳の女性.発熱と心窩部痛を主訴に受診し,高度の炎症反応を認めた.造影CT,MRI,EUSで膵尾部に70mm大の被膜を有する多房性嚢胞がみられた.病変はcyst-in-cystの形態を呈しており,嚢胞内に造影効果のある10mm大の壁在結節を認めた.ERPで膵管との交通を認め,嚢胞液では好中球が増加し,細菌培養で大腸菌(Escherichia coli)が検出された.以上から,細菌感染を伴った膵粘液性嚢胞腺癌と診断し,外科的切除術を施行した.病理学的に,嚢胞壁内に卵巣様間質を認め,壁在結節部は腺癌であった.

感染性膵嚢胞をみた場合には,腫瘍性嚢胞の可能性も念頭におき,治療法を検討する必要がある.

Ⅰ 緒  言

膵粘液性嚢胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN)は比較的稀な膵嚢胞性腫瘍で,嚢胞壁を覆う上皮は粘液産生能を有し,胃・腸・膵上皮への分化傾向を示す上皮より構成され,また間質には特徴的な卵巣様間質が存在する腫瘍である.以前は膵管との交通は比較的稀とされ,膵管との交通の有無が膵管内乳頭粘液性腫瘍(intra-papillaly mucinous neoplasm:IPMN)との鑑別に有用とされてきたが,最近,膵管との交通を有するMCNの報告が散見される.しかし,嚢胞内感染を伴ったMCNの本邦報告例はない.

今回われわれは,膵管と交通を有し,嚢胞内に細菌感染を伴った膵粘液性嚢胞腺癌(Mucinous cystic carcinoma:MCC)の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:76歳,女性.

主訴:発熱,心窩部痛.

既往歴:狭心症,高血圧症,2型糖尿病.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2011年1月,発熱と心窩部痛を主訴に近医を受診した.造影CTで膵尾部に径70mmの嚢胞性腫瘤を認め,精査目的に当科紹介入院となった.

入院時現症:身長152cm,体重52kg,血圧146/70mmHg,脈拍80/min,体温37.9℃,心窩部から左季肋部にかけて自発痛と圧痛を認めたが,腹膜刺激徴候はなかった.

臨床検査成績(Table 1):膵酵素(Amylase 41U/L,Lipase 28U/L,Elastase1 170ng/dL)の上昇はなく,腫瘍マーカー(CEA 3.3ng/mL,CA19-9 1U/mL)は陰性であったが,強い炎症反応(CRP 13.7mg/dL)を認めた.また,耐糖能異常(FPG 161mg/dL,HbA1c 7.1%)を認めた.

Table 1 

臨床検査成績.

腹部CT:Dynamic studyでは,膵尾部の70mm大の厚い被膜を有する多房性嚢胞性腫瘤は,嚢胞壁が漸増性濃染された.10mm大の壁在結節部は早期に濃染された.嚢胞内はほぼ全体が淡い低濃度で辺縁はやや濃度が上昇していた(Figure 1).膵頭部にも,20mm大の嚢胞性腫瘤があり,他にも小さな腫瘤を多数認めた.

Figure 1 

造影CT(動脈相):膵尾部の嚢胞内はほぼ全体が淡い低濃度で辺縁はやや濃度が上昇していた.嚢胞内に濃染される10mm大の壁在結節を認めた.

MRIとMRCP:膵尾部の隔壁を有する多房性嚢胞性腫瘤のT1強調画像(T1WI)は高信号域と低信号域が混在していた.T2強調画像(T2WI)は信号強度の異なる高信号域が混在していた.膵頭部の多房性嚢胞性腫瘤は,T1WIで低信号,T2WIで高信号を呈していた.MRCPで膵頭部と膵尾部の嚢胞性腫瘤は膵管との交通が示唆された(Figure 23).

Figure 2 

MRI(T1WI):膵尾部の嚢胞内は高信号域と低信号域が混在していた.

Figure 3 

MRCP:膵頭部と尾部の嚢胞性腫瘤は膵管との交通が示唆された.

EUS:膵尾部の嚢胞性腫瘤はcyst in cystの形態を呈し,嚢胞内に胆泥様エコーがあり,壁在結節には血流を認めた(Figure 4).膵頭部の嚢胞性腫瘤には壁在結節はなかった.

Figure 4 

EUS:膵尾部の嚢胞内は胆泥様エコーが充満し,cyst-in-cystの形態を呈していた.

ERP:十二指腸内視鏡検査では,主乳頭の腫大や開口部の開大はなかった.膵尾部の嚢胞性腫瘤は膵管と交通を認めた(Figure 5).尾部の嚢胞内に挿管すると,主乳頭開口部から白色の膿汁が噴出した(Figure 6).嚢胞内から採取した内容液は,細胞数(144,000 /µL)が著明に増加し,好中球が100%,エンドトキシンは強陽性で,細菌培養検査ではEscherichia coliを検出した.細胞診は陰性であった.膵頭部の嚢胞性腫瘤も膵管との交通を認めた.

Figure 5 

ERP:膵尾部の嚢胞性腫瘤は膵管と交通を有していた.

Figure 6 

十二指腸内視鏡:主乳頭開口部から膿汁が排出していた.

以上から膵尾部の嚢胞性腫瘤は主膵管と交通を有し,嚢胞内に細菌感染を伴ったMCCと診断した.膵頭部の嚢胞性腫瘤は狭心症や糖尿病の既往があること,悪性を示唆する所見がないことより経過観察とし,抗生剤(セフトリアキソンナトリウム)の投与を行い,炎症の改善後に,脾臓合併膵尾部切除術を行った.

切除固定標本と病理像(Figure 79):膵尾部の径80×75mmの厚い被膜で覆われた嚢胞性腫瘤の嚢胞壁は粘液産生性上皮からなり, Estrogen receptor陰性,Progesterone receptor陽性で,卵巣様間質を有していることよりMCNと診断した.嚢胞内の細菌感染を反映して,嚢胞壁内には好中球の浸潤を認めた.径10×10mmの壁在結節は,異型細胞が乳頭状構造を呈する高分化腺癌からなり,一部に低分化腺癌を認めた.

Figure 7 

ルーペ像:膵嚢胞性腫瘤は厚い線維性被膜を有していた.また,細菌感染を反映して嚢胞壁内に好中球の浸潤を認めた.

Figure 8 

病理像:壁在結節は,異型細胞が乳頭状構造を呈する高分化腺癌からなり,一部に低分化腺癌を認めた.

Figure 9 

病理像:嚢胞壁はProgesterone receptorが陽性で,卵巣様間質を有していた.

Ⅲ 考  察

WHOは粘液産生嚢胞性膵腫瘍をMCNとIPMNに分類している 1.IPMNは胃・腸上皮や神経内分泌細胞への分化傾向を示す粘液産生性上皮の膵管内増殖を特徴とする 2.一方,MCNはIPMNと同様に粘液産生性上皮で構成されるが,IPMNと異なり,特徴的な卵巣様間質という粘膜下組織を有し,通常はEstrogen receptorやProgesterone receptorが陽性である.自験例は,嚢胞壁は粘液産生性上皮からなり,間質部に特徴的な卵巣様間質を有し,Progesterone receptorが陽性であったことからMCNと診断した. 一般に,MCNの診断は,体外式超音波や造影CT,MRCP,EUS,ERPなどの画像検査でなされている.典型的な画像所見はいわゆる「夏みかん様」で,輪郭は平滑で厚い線維性被膜を有する単房性または多房性嚢胞性腫瘤である.被膜は線維成分を反映して造影CTで漸増性濃染され,MRIのT1強調画像で低信号を呈する.また,嚢胞液の性状は粘液のため,嚢胞内はT2強調画像で粘稠度に応じて低信号を呈してくる.嚢胞間に交通がない場合は,各嚢胞間で異なった信号強度を呈することが多い.嚢胞内部に小嚢胞が存在する“cyst-in-cyst appearance”も診断の一助となる 3.膵管との交通は基本的にないことが多いとされてきたが,近年膵管との交通を有する症例報告が散見され,約18%に膵管との交通を認めたとの報告もある 2.この交通の原因は,腫瘍が増大する過程で膵管を浸食し,瘻孔を形成することで生じるとする意見もあるが 4,十分に解明されていない.自験例は膵管との交通を有していたが,術後標本で瘻孔部は確認できず,瘻孔部に腫瘍の浸潤があったかどうか不明である.自験例の病理診断は腺癌であったが,良悪性の術前診断は困難であり,径40mm以上あるいは壁在結節を有する症例は手術適応とされている 5.嚢胞径40mm未満で壁在結節のないMCNは全例腺腫であったとの報告 6もあるが,嚢胞径40mm以上でも腺腫の場合もあり注意を要する.また,MCNは嚢胞内出血を伴うことがあるが,自験例は,嚢胞内に出血はなく,細菌感染を伴っていた.嚢胞内出血は,CTで嚢胞内に高吸収域を伴い,MRIで急性期にT1WIで低信号,T2WIで高信号を示し,慢性期にT1WIで高信号,T2WIで高信号の増強を呈する.一方,膵仮性嚢胞内の感染例は,CTで内部が不均一になり,血流増加を反映して嚢胞壁の造影効果が増強する.MRIでは粘稠度の上昇を反映して,T1WIで高信号の増強を示し,T2WIで低信号となる 7.自験例の嚢胞内部は,造影CTでは不均一な低濃度であったが,MRIのT1WIでは高信号域と低信号域があり,T2WIでは不均一な高信号であり,嚢胞内感染を強く示唆する所見ではなかった.膵仮性嚢胞内の感染例と異なる病理学的所見はなかったが,自験例は嚢胞内の粘液が細菌感染しているため,膵液が感染する感染性膵仮性嚢胞とMRIの信号強度が異なったと考えられる.

1983年から2017年5月までの期間で,医学中央雑誌を用いて「膵粘液性嚢胞性腫瘍」「細菌感染」で検索したが,合致する報告例はなかった.嚢胞内への細菌感染経路として,経乳頭的な逆行性感染,血行性感染や腸内細菌叢のBacterial translocationの可能性が考えられる.自験例は,膵臓以外の部位に細菌感染巣はなく,血行性感染は否定的であった.また,嚢胞内容液の細菌培養でEscherichia coliを検出し,腸内細菌叢が感染に関与していたと考える.急性膵炎では,腸管粘膜の血流障害や腸内細菌の過剰増殖が惹起された結果,腸管粘膜の透過性が亢進し,腸内細菌叢のBacterial translocationが生じることがある.自験例は,心窩部痛を認めたが,血液検査で膵酵素の上昇はなく,CT上急性膵炎を示唆する所見がないことより,急性膵炎による腸内細菌叢のBacterial translocationは否定的であった.耐糖能異常があり,易感染性の状態で,経乳頭的な腸内細菌叢の逆行性感染が生じ,膵管と嚢胞の交通を有することで,嚢胞内感染を惹起したと考えられる.

一方,感染性膵嚢胞のドレナージ術には,外科手術,経皮的ドレナージ術,経乳頭的内視鏡ドレナージ術,経消化管的内視鏡ドレナージ術がある.経消化管的内視鏡ドレナージ術は,適切な穿刺ルートを選択できると共に,介在する血管を避けながら穿刺でき,その確実性と安全性,及び本邦で保険収載されたことから,現在,感染性膵嚢胞に対して普及している 8.しかしながら,本例のような感染を伴った腫瘍性膵嚢胞に対して経消化管的内視鏡ドレナージ術を行った場合,消化管壁や腹膜に播種を来たす可能性がある.腫瘍性膵嚢胞と非腫瘍性膵嚢胞の鑑別診断が困難な症例も多く存在し,感染徴候を認める場合のドレナージ法の選択は慎重に検討することが肝要である.

Ⅳ 結  語

今回,膵管と交通を有し,細菌感染を伴ったMCCを経験したので報告した.感染性膵嚢胞の中には,本例のような腫瘍性膵嚢胞内の感染の可能性を念頭に置き,嚢胞ドレナージ術の選択は慎重に検討すべきであろう.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top