GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF A SMALL INTESTINAL GASTROINTESTINAL STROMAL TUMOR (GIST) WITH GASTROINTESTINAL BLEEDING THAT COULD BE MANAGED BY ENDOSCOPIC HEMOSTASIS
Fumihiro HAYAKAWA Junichi HARUTAIppei NAKAMURA
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2018 Volume 60 Issue 6 Pages 1213-1218

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要旨

62歳男性.黒色便,一過性意識消失にて緊急搬送.緊急上部消化管内視鏡検査を行ったが出血源を特定できず,下部消化管用の内視鏡に変更し観察したところ,Treitz靭帯付着部の粘膜下隆起から噴出性の出血を認めたため内視鏡的止血術を行った.十二指腸水平部より遠位の小腸GISTに対して内視鏡的止血術を行った報告は少ない.われわれは空腸GISTに対して内視鏡的止血術を行った症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

Ⅰ 緒  言

Gastrointestinal stromal tumor;GISTは,消化管に発生する間葉系腫瘍の一亜型であり,好発部位は胃,小腸である.GISTに対する内視鏡的止血術は胃〜十二指腸を中心に報告されているが,小腸GISTに対する内視鏡的止血術の報告は少ない.今回,われわれは小腸GISTからの出血に対し,内視鏡的に止血し得た症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:62歳,男性.

主訴:黒色便,一過性意識消失.

既往:急性心筋梗塞,慢性腎不全.

現病歴:5年前に黒色便に対してO病院で精査を行った.上下部消化管内視鏡検査,小腸内視鏡検査(カプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡),腹部CTを施行されたが,出血源を特定できず,症状が改善したため経過観察となった.来院数日前から黒色便,ふらつきを自覚していた.来院当日に多量の黒色便,一過性意識消失が出現したため当院に緊急搬送され,精査目的に入院となった.

入院時現症:身長 162cm,体重 61kg,体温 36.0度,血圧 82/51mmHg,脈拍 75/分,意識清明,結膜貧血あり,腹部平坦,軟,圧痛なし,直腸診で黒色〜暗赤色の便あり.

臨床検査成績(Table 1):Hb 9.3g/dlと貧血の進行とBUNの上昇を認めた.

Table 1 

臨床検査成績.

入院時上部消化管内視鏡所見(Figure 1):上部消化管用の内視鏡GIS-Q260J(OLYMPUS社製)にて検査を施行したが,食道・胃・十二指腸に出血源と考えられる病変は認められなかった.十二指腸水平部で遠位側からの鮮血の逆流を認めたため,下部消化管用の内視鏡PCF-Q260AZI(OLYMPUS社製)に変更し観察したところ,Treitz靭帯付着部の屈曲を越えた部位に粘膜下隆起があり,その頂部から噴出性の出血を認めた.クリップを用いて内視鏡的止血術を行った.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査 粘膜下隆起から噴出性の出血を認め(a),クリップを用いて止血術を行った(b). 再検時(c).

腹部造影CT所見(Figure 2):空腸近位側に内腔に突出する長径25mm大の腫瘤を認めた.腫瘤は早期相で辺縁が有意に濃染し,後期相でも濃染が持続し周囲との境界は明瞭であった.

Figure 2 

腹部造影CT(a:早期相.b:後期相).空腸近位側に内腔に突出する腫瘤を認めた(三角印).早期相で辺縁有意に濃染し(a),後期相でも濃染が持続し周囲との境界は明瞭であった (b).

低緊張性十二指腸造影(Figure 3):十二指腸空腸移行部付近に充盈像で透瞭像,二重造影で表面平滑な腫瘤を認めた.充盈像ではBridging foldと考えられる所見を認めた.

Figure 3 

低緊張性十二指腸造影(充盈像) 十二指腸空腸移行部付近に表面平滑な腫瘤を認めた.Bridging fold(矢印).

入院後経過:入院後の経過は良好であったため,第3病日に食事を再開し,第8病日に退院となった.第40病日に待機的な手術を行い,Treitz靭帯付近の空腸に30mm大の腫瘤を認め小腸部分切除術を施行した.病理所見では,粘膜下に最大径30mmの白色結節を認め,紡錘形の核を有する細胞の増生がみられた.また,免疫染色にてc-kit・CD34が陽性であった(Figure 4).以上の所見よりGastrointestinal stromal tumor;GIST,low risk群と診断した.

Figure 4 

病理所見(a:切除標本,b:HE染色,c:c-kit).粘膜下に最大径30 mmの白色結節を認めた(a).HE染色で紡錘形の核を有する細胞の増生がみられた(b).c-kit陽性(c).

Ⅲ 考  察

GISTは消化管に発生する間葉系腫瘍の一亜型である.腸管の筋間神経叢に存在するCajalの介在細胞が由来とされ,その多くは,c-kit/PDGFRA遺伝子に変異を有する 1),2.GISTは消化管間葉系腫瘍の中では最も頻度が多く,消化管悪性腫瘍の1%程度,発症率は年100万人当たり10人前後と報告されている 2),3.GISTの好発部位は胃(60%),小腸(30%),十二指腸(5%)であり 2,症状は部位と大きさにより異なる.Chouらの報告では,消化管出血(40%),腹部腫瘤(40%),腹痛(20%)とされているが 4,無症候性のことも多い.

小腸内視鏡の進歩により,今まで原因が特定できなかった消化管出血の症例で,小腸病変が指摘されることが増えており,Okazakiらの報告では,1,044例の活動性消化管出血のうち小腸からの出血は13例,うちGISTは2例であった 5.また,Obscure gastrointestinal bleeding;OGIBに対する診断率は,カプセル内視鏡67.4%,ダブルバルーン内視鏡60.4%と報告されている 6.Nakataniらは,小腸GISTを対象とした検討を行い,病変の検出率はカプセル内視鏡で低く(カプセル内視鏡60%,ダブルバルーン内視鏡92%),特に管外発育型腫瘍でカプセル内視鏡の検出率が低かったと報告している 7.本例では5年前に他院で施行されたダブルバルーン内視鏡検査では上記の病変は指摘されておらず,検査には限界があることを知っておく必要がある.

GISTからの出血に対する内視鏡的止血術は胃・十二指腸での報告が多く,小腸GISTでの報告はまれである.本邦でのGISTに対する内視鏡的止血術の報告について,「GIST」,「内視鏡的止血術」をキーワードに医学中央雑誌にて検索した結果,1999年から2014年までに十二指腸以深のGISTに対して止血術を行った症例として,7例の報告があった 8)~13.部位は,下行部4例,水平部2例,術後の吻合部付近1例であり,十二指腸水平部より遠位の小腸GISTに対して緊急内視鏡的止血術を行った報告はなかった.止血方法については,記載があった6例のうち,4例でクリップによる止血術を選択しており 9)~11),13,1例でクリップと高張Na-Epinephrine液(HSE液)局注の併用 12,1例では留置スネアによる絞扼止血を行っていた 13.本例では,下部消化管用の内視鏡を使用していたため,まずはクリップによる止血術を試み,止血に成功したため,HSE液局注や止血鉗子等は使用しなかった.

Matsuiらは,2000年から2005年までにダブルバルーン内視鏡を施行された1,035名の患者のうち,45名に対して内視鏡治療を行い,5名はGISTに対する止血術であったと報告している 14.また,Teresaらは17例の活動性のOGIBの症例に対し,シングルバルーン内視鏡を用いて緊急内視鏡検査を行い,9例に対して止血術を行ったと報告している 15.一方で,小腸内視鏡検査を施行できる施設は限られており,血行動態の不安定な患者に対し緊急で検査を施行することは困難な場合も多い.中川らは,本邦で報告された大量出血を来した小腸GIST 10例のうち7例に緊急手術が必要であったと報告している 16

本例では,十二指腸水平部において鮮血の逆流を認めたため,病変が水平部〜Treitz靭帯付着部付近である可能性が高いと考えた.大腸検査用の内視鏡を用いて観察を行った結果,出血性病変を特定することができた.また,出血部位を同定できたことで内視鏡的止血処置が可能となり,輸血やリスクの高い緊急手術を避けることができた.

Ⅳ 結  語

われわれは小腸GISTからの活動性出血に対し,大腸内視鏡検査用の内視鏡を使用し緊急内視鏡的止血術に成功した症例を経験した.本例より,上部消化管出血を疑った際に下部消化管用の内視鏡を用い,Treitz靭帯付着部付近まで観察することで出血源を同定し,止血処置ができる可能性があることを学んだため,文献的考察を加えて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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