2018 Volume 60 Issue 7 Pages 1295-1308
自己免疫性膵炎(AIP)は,膵腫大と主膵管の不整狭細像を特徴とし,しばしば胆管が狭窄するIgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)を合併する.内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)による膵管の不整狭細像はAIPに特徴的であるが,限局性のAIPと膵癌を膵管像から鑑別することは難しい.IgG4-SCにおける胆管狭窄は,胆管癌と比較して狭窄長が長いといった特徴を有するが,胆管像のみによる鑑別は困難である.ERCPに引き続いて行われる管腔内超音波検査による胆管壁の所見は,IgG4-SCと胆管癌の鑑別に有用とされている.超音波内視鏡検査(EUS)は,膵臓の低エコー腫大やIgG4-SCの胆管壁肥厚を描出可能で,Elastographyや造影EUSなどを用いた診断も試みられている.EUSガイド下穿刺吸引法を用いたAIPの組織学的診断の有用性も報告されており,AIPの診断能向上が期待される.AIPの治療は,ステロイドを用いた寛解導入ならびに維持療法が基本であるが,閉塞性黄疸時の胆道ドレナージや膵石治療の適応,さらに再燃時に用いられる免疫調節薬の使用法などについて更なる検討が必要である.
自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)は,Yoshidaら 1)によって1995年に初めて疾患概念が提唱された.その後,AIPの診断や治療に関する様々な報告が行われた.多くのAIP症例では硬化性胆管炎や唾液腺炎などの膵外病変(other organ involvement:OOI)を合併し,AIPは現在,全身性のIgG4関連疾患 2)の膵病変と考えられている.世界各国から診断基準が報告され,日本の診断基準は2002年 3)に作成後,2度改訂 4),5)が行われている.現行の診断基準が作成された過程をふまえて,AIPの診断における内視鏡検査の重要性を認識する必要がある.本稿では,その疾患概念の歴史的変遷と共にAIPの診断や治療における内視鏡の役割に関して概説する.
Sarlesら 6)が1961年に初めて自己免疫による機序が推測される慢性膵炎症例を報告した.1995年には,Yoshidaら 1)がステロイドにより膵腫大が改善した症例をAIPとして初めて報告し,その臨床的特徴として,(1)血清γグロブリンまたはIgG値の増加と自己抗体陽性,(2)びまん性の膵腫大と主膵管の不整狭細像,(3)下部胆管狭窄および他の自己免疫性疾患の合併,(4)急性膵炎を伴わない軽微な症状,(5)ステロイド療法が有効(6)lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)の組織学的所見 2)を有することを報告した.2002年に日本膵臓学会が世界で初めてAIPの臨床診断基準を提唱し(JPS2002) 3),(ⅰ)特徴的な主膵管狭細像を膵全体の1/3以上の範囲で認め,さらに膵腫大を認める,(ⅱ)血液検査で高γグロブリン血症,高IgG血症,自己抗体陽性のいずれかを認める,(ⅲ)病理組織学的所見として膵にリンパ球,形質細胞を主とする著明な細胞浸潤と線維化を認める,を診断基準の基本3項目とし,上記の(i)を含んだ2項目以上が認められた場合にAIPと診断した.JPS2002では,膵癌との鑑別の困難さから限局性を除き,内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)での膵管像による主膵管狭細長が全長の1/3以上という条件が加えられた.そのために,JPS2002では,限局的な膵腫大と膵全体の1/3未満の主膵管狭細像を呈するAIPの診断は不可能であった.2006年に,日本膵臓学会と厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班によって診断基準が改訂され(JPS2006) 4),「膵全体の1/3以上の膵管狭細像と膵腫大」という項目を外し,限局型のAIPも診断可能とする一方,膵癌や胆管癌などの悪性疾患の除外診断が注記された.更に血清IgG4値の上昇も診断基準に取り入れられた 7).この頃,世界各国でもさまざまなAIPの診断基準が作成された.2006年には韓国のAsan Medical Centerから,膵外病変とステロイドの診断的治療を取り入れた独自の診断基準が提唱され 8),米国Mayo Clinicからも膵組織像とIgG4を重視したHISORt基準が提唱された 9),10).このほか,イタリア 11)やスペイン 12)からも診断基準が公表され,種々の診断基準が乱立することとなったため,国際的な診断基準を作成する動きが始まった.
まず,2008年に日本と韓国の専門家により診断基準の統一が試みられ,Asian Criteriaが発表された 13).本診断基準を作成するにあたり,ステロイドの診断的治療に関する議論が重ねられ,ステロイド治療が診断のオプションとして加えられた.更に,欧米とアジアのコンセンサス形成が試みられたが,ERCPによる膵管像の必要性,組織像の診断基準における重要性,IgG4やIgG,抗核抗体など血清学的項目に関する意見の相違から合意には至らなかった.2009年,米国膵臓学会と日本膵臓学会のJoint meetingがHonoluluで開催され,AIPについても議論された 14).わが国におけるAIPの組織像の多くはlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP) 15)であるのに対し,欧米ではidiopathic duct-centric chronic pancreatitis(IDCP)/granulocytic epithelia lesion(GEL) 16)の症例も含まれることから,これらをAIPという同一疾患として扱うべきかが議論された.このHonolulu consensusをふまえて,2010年7月に福岡で開催された第14回国際膵臓学会-第41回日本膵臓学会のJoint Meetingにおいて,国際コンセンサス診断基準に関するシンポジウムが開催された.本シンポジウムでは,LPSPを1型 AIP ,IDCPを2型 AIPに分けて診断することが提案された.シンポジウムに参加した各国の専門家の意見をもとに修正されたのちに,2011年自己免疫性膵炎のInternational Consensus Diagnostic Criteria(ICDC) 17)として公表された.ICDCでは,AIPを(i)膵画像所見[実質(P)および膵管(D)],(ii)血清学所見(S),(iii)膵外病変(O),(iv)組織学所見(H),(v)ステロイド反応性(Rt)の5項目の所見の有無を組み合わせて診断する.ICDCにより,世界共通の診断基準を用いてAIPを診断することが出来るようになった.特にICDCは1型のみならず2型AIPを診断可能である.しかし,ICDCを一般臨床で用いるにはやや煩雑であることと,日本では2型AIPが極めて稀であるという難点があった.そこで,ICDCをもとに,1型AIPのみを対象とした日本膵臓学会自己免疫性膵炎臨床診断基準2011(AIP診断基準2011) 5)が作成された.現在,AIPは,ICDCまたはAIP診断基準2011を用いて診断されるが,内視鏡診断はその中で重要な役割を有する.
(2)IgG4関連疾患AIPは,様々な膵外病変を合併することが当初から報告されていた.Kamisawaらが一連の病変を「IgG4-related autoimmune disease」 18)や「IgG4-related sclerosing diseases」 19)など新たな疾患概念として報告した.その後,Yamamotoらが,Mikulicz病の研究にもとづき「IgG4-related plasmacytic syndrome(SIPS)」 20)を,Masakiらがリンパ増殖症の立場から「IgG4-multiorgan lymphoproliferative syndrome(MOLPS)」 21)を提唱した.これらの疾患は,罹患臓器の違いはあるものの病態は極めて類似しており,統一した疾患概念の確立が必要と考えられた.2009年に厚生労働省難治性疾患克服研究補助事業として「IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療法の開発に関する研究」班(研究代表者:岡崎和一 先生)と「新規疾患,IgG4関連多臓器リンパ増殖性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のための研究」班(研究代表者:梅原久範 先生)が設立され,この二つの組織が中心となり議論を重ねた結果,2010年に「IgG4関連疾患(IgG4-related disese:IgG4-RD)」 2)という名称に統一された.更に,2011年にIgG4-RD包括診断基準が作成された.この診断基準は,臨床所見,血液所見,病理組織所見の3項目からなり,各診断項目の組み合わせから確診(definite),準確診 (probable),疑診(possible)と診断する.IgG4RD包括的診断基準で診断できない症例は,各臓器のIgG4関連疾患の診断基準に立ち返り,その組み合わせで診断する.本診断基準は,組織学的所見が必須であること,さらにその基準が厳しく設定されていることから,組織採取が難しいAIPやIgG4-SC症例のほとんどが疑診に分類されてしまい,その診断感度が低いという難点がある.従って,AIPやIgG4-SCの場合には各々の診断基準を用いて適切に診断することが重要である.
(a)ERCP
膵管像
膵腫大とともに主膵管のびまん性不整狭細像を呈することが,AIPの典型的な画像所見である 1)(Figure 1).主膵管の狭細(narrowing)は,正常より細い膵管が不整な辺縁を伴いながら拡がりを示す所見と定義され 20),閉塞(obstruction)や狭窄(stenosis)とは区別される.ERCPは,主膵管の不整狭細像の診断に必須であり,主膵管の狭細長が膵管全長の1/3以上,もしくは尾側の拡張のない多発狭細の主膵管の造影所見がICDCにおけるレベル1と定義されている 17).ICDC 17)およびJPS2011 5)では,限局型AIPの確定診断の条件としてERP の所見をあげているが,限局型AIPの主膵管狭細と膵癌による主膵管狭窄を鑑別することは極めて難しい(Figure 2).AIPと膵癌のERP 所見に関する多くの報告がある 21)~23).Wakabayashiら 23)は,限局型AIP患者9例と膵癌患者80例の膵管像を比較し,主膵管閉塞の頻度は膵癌がAIPより高く(膵癌60%,AIP11%),主膵管の狭細長が3cm以上の症例(AIP100%,膵癌22%)と尾側の主膵管径4mm未満の症例の頻度(AIP67%,膵癌4%)はAIP の方が多いと報告した.Takumaら 24)は,主膵管の多発病変,主膵管狭細部における分枝の描出,3cm以上の主膵管狭細長,5mm未満の尾側主膵管拡張をAIPの膵管像の特徴としてあげている.このように,AIPのERP所見は,尾側の軽度な主膵管拡張を伴う長い主膵管狭細像を呈することが多く,膵癌との鑑別に有用である可能性が示された.一方,Sugumarら 25)は,主膵管全長の1/3以上の狭細像,狭窄部尾側の5mm未満の軽度の拡張,狭窄の多発,狭窄部からの分枝の描出がAIPの重要な膵管像の特徴であることを示しながらも,ERPを用いたAIP診断の感度,特異度,観察者間の一致率は,それぞれ44%,92%,0.23に過ぎず,ERP所見のみによるAIP診断の限界を報告した.以上から,ERPを用いた特徴のある膵管像を得ることは重要であるが,膵管像はあくまでも診断基準の一因子であることを認識し,他の所見も合わせてAIPを総合的に診断することが重要である.
ERCPによる膵管のびまん性不整狭細像(矢印).
ERCPによる膵体部に認めたERCPによる膵管の限局性不整狭細像(矢印).膵体部で膵管は狭細しているが,分枝が描出されている.
胆管像
AIPでは膵外病変を合併することが多く 18),現在AIPはIgG4関連疾患の膵病変と考えられている 2).AIPの膵外病変の一つである胆管病変は,IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4 related sclerosing cholangitis:IgG4-SC)と定義されている 26),27)(Figure 3,4).IgG4-SCは下部胆管に狭窄を来すことが多いが(Figure 5),肝門部胆管,肝内胆管などでも認められ,閉塞性黄疸を来すことが多い.また,IgG4-SCと原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis:PSC)や胆管癌との鑑別が極めて重要である.Nakazawaら 28)は,胆管造影の狭窄所見からIgG4-SCを4種類に分類した.下部胆管狭窄を呈する1型のERC所見は膵頭部癌,2型はPSC,3型と4型は胆管癌と鑑別を要する.
IgG4-SCの胆管像(参考文献29より引用).
Type1:下部胆管のみに狭窄を来す症例.膵癌との鑑別を要する.
Type2:下部胆管と肝内胆管に狭窄が多発する症例.PSCとの鑑別を要する.2aは狭窄より末梢の肝内胆管の拡張を認め,2bは末梢の肝内胆管が拡張する.
Type3:下部胆管と肝門部に狭窄を認める症例.胆管癌との鑑別を要する.
Type4:肝門部にのみ狭窄を認める症例.胆管癌との鑑別を要する.
PSCとIgG4-SCの胆管像の特徴(参考文献28より引用).
1-4はPSCに特異的な病変で5-7はIgG4-SCに特徴的な所見とされる.
下部胆管狭窄を認めたIgG4関連硬化性胆管炎症例.
a:ERCP 下部胆管に狭窄を認める(矢印②).
b:IDUS像(b 矢印①部)非狭窄部に壁肥厚を認めない.
c:IDUS像(b 矢印②部)狭窄部における対称性の壁肥厚を認める.
IgG4-SCとPSCの鑑別に有用な胆管造影所見が報告されている 28),29).PSCに特徴的な胆管像として,帯状狭窄(band-like stricture,1-2mmの短い帯状狭窄),数珠状所見(beaded appearance,短い狭窄と拡張を交互に繰り返す所見),剪定状所見(pruned-tree appearance,剪定したような肝内胆管の分枝が減少している所見),憩室様所見(diverticulum-like outpouching)が挙げられている.一方,IgG4-SCはsegmental stricture(3mm以上の長い狭窄),long stricture with prestenotic dilatation(10mm以上の長い狭窄,末梢胆管の拡張), stricture of lower CBD(下部胆管狭窄)などが特徴とされる.これらの胆管像をできるだけ正確に読影することが重要である.また,PSCの狭窄は極めて固く,造影剤が肝側へ流れてもガイドワイヤーが通過しないこともしばしば経験する一方,IgG4-SCは,造影所見上糸状の狭窄でもガイドワイヤーやドレナージチューブの挿入が容易である.このようなERCP施行時に直接感じる胆管狭窄の固さも診断上のヒントとなる.また,PSCは肝内外両方の胆管に狭窄を来し肝硬変に至るなど,その多くは進行性である一方,IgG4-SCはしばしば狭窄が自然に軽快し,ステロイド療法にもよく反応するなど臨床経過が異なることも鑑別診断に有用である 26).
IgG4-SCはPSC以外に胆管癌との鑑別が必要である.Nakazawaらの分類におけるType1と3は下部胆管癌と,Type3と4は肝門部胆管癌と適切に鑑別しなければならない 28),29)(Figure 6).IgG4-SCを診断する上で,胆管像だけでは診断出来ない場合も多く,膵所見や唾液腺腫脹の有無など他のIgG4-RDの合併の有無を含めて総合的に判断することが重要である.また,血清IgG4の測定も鑑別に有用である.Ghazaleらは,IgG4-SC 53例の74%の症例に血清IgG4の高値を認めたと報告している 26).Nakazawaらも自験例47例中41例の症例で血清IgG4の高値を認めたと報告している 30).しかし,Oharaらは,IgG4-SCと胆管癌の鑑別における血清IgG4のcut-off値は,207 mg/dlと報告しており 31),血清IgG4値がAIPやIgG4-SCの診断基準である135mg/dlを越える胆管癌もあることに注意が必要である.
肝門部胆管狭窄を認めたIgG4関連硬化性胆管炎症例.
a:ERCP 肝門部胆管に狭窄を認める(矢印①).
b:IDUS像(a 矢印①部)狭窄部における対称性の壁肥厚を認める.
c:IDUS像(a 矢印②部)非狭窄部の壁肥厚を認める.
胆管および十二指腸乳頭部の生検
IgG4-SCの診断と胆管狭窄の治療のためERCPを施行する際に,他疾患,特に胆管癌との鑑別のために胆管狭窄に対する胆管内生検が同時に施行される.IgG4-SCでは,胆管の粘膜から漿膜にかけてびまん性のリンパ球形質細胞浸潤,花筵状線維化,閉塞性静脈炎や好酸球浸潤を特徴とする病理像が認められ,胆管上皮は正常であることが多い.つまり,IgG4-SCを病理学的に確定診断するためには,生検で胆管の間質まで採取する必要がある.しかし,IgG4-SCを胆管生検で確定診断することは容易ではない.Ghazaleらは,16例中14例(88%)で胆管生検によりIgG4-SCの診断が可能であったことを報告した 26).Kawakamiら報告では29例中15例(52%) 32),Naitohらは17例中3例(18%) 33),Hiranoらは5例中0例(0%) 34)に過ぎす,その成績は決して良好とは言えない.生検によるIgG4-SCの診断能が低い原因として,内視鏡的な胆管生検の検体が小さいこと,生検鉗子を用いて胆管の間質まで採取することが困難であることなどが挙げられる.IgG4-SCの診断に用いる適切な胆管標本を採取するためには,生検鉗子の改良が必要である.また,肝生検 35)~37)の有用性の報告や,IgG4-SCと胆管癌の鑑別診断におけるCTの有用性の報告 38)も認められることから,様々なmodalityを合わせて診断することも重要である.
近年,十二指腸乳頭部から採取した生検標本のIgG4免疫染色がIgG4-SCの診断に有用であると報告されている 39)~42).IgG4-SCの診断目的には,十二指腸乳頭部の生検の方が胆管から組織学的標本を採取するより安全かつ簡便で正診率が高い.生検の際には,IgG4-SCとPSCまたは胆管癌の鑑別における感度および特異度は,それぞれ52%~80%,89%~100%である 39)~42). Kubotaら 40)は,ハチマキ襞が粘膜下腫瘤様に膨隆し,しばしばNBIで表面の蛇行した血管が強調される所見がIgG4-SC患者で観察される十二指腸乳頭部の特徴であり,IgG4-SCとPSCの鑑別に有用であると報告している.ICDCでは 17),十二指腸乳頭部からの内視鏡による生検がAIP診断における補助的方法として付記されている.乳頭部の生検の際には,胆管炎や膵炎を来すことがないように胆管口や膵管口の辺縁から組織採取を心掛けるべきである.
管腔内超音波検査
ERC時の経乳頭的管腔内超音波検査(Intraductal ultrasonography:IDUS)は,胆管壁の解像度の良好な画像を得ることができることから,胆管壁肥厚の評価に有用である 43),44).IgG4-SCのIDUS所見の特徴は,胆管狭窄部における円形の対称性の壁肥厚,滑らかな外層と内層,均一な内部エコー所見などである.一方,胆管癌のIDUS 所見は,狭窄部における非対称性の壁肥厚,凹んだ外層,硬い乳頭状内層,不均一な内部エコー所見とされる.Naitohら 45)は,胆管造影像における非狭窄領域の壁肥厚(カットオフ値0.8mm)がIgG4-SCと胆管癌の鑑別に有用であると報告した.しかし,Kuwataniらは,IgG4-SCと胆管癌の鑑別診断はIDUS像のみでは不十分であり,血清IgG値とIgG4値も合わせて診断すべきとしている 46).IDUSも,IgG4-SCを診断する上での一所見に過ぎないことを認識し,他の所見も合わせて総合的に診断すべきである.
経口胆道鏡
過去30年間に及ぶ経口胆道鏡の開発により,内視鏡による胆管病変の直接観察による診断と狙撃生検が可能となった 47),48).Itoiら 48)は,拡張・蛇行した血管や部分的に拡張した血管が,PSCや胆管癌では認められず,IgG4-SCに特徴的な所見であることを報告した.近年,挿入性,操作性に優れ,胆管生検にも有用な経口胆道鏡のシステムであり,観察のみならず胆管生検にも有用な経口胆道鏡が使用可能となっており,IgG4-SCの診断における経口胆道鏡の役割も変化する可能性がある.
(b)超音波内視鏡検査
通常観察
AIPの超音波内視鏡検査(Endoscopic ultrasonography:EUS)所見は,低エコー腫瘤として描出され 41),49)~51)(Figure 7),膵癌との鑑別が問題となる.また,IgG4-SCのEUS所見は,胆管壁肥厚として描出され(Figure 8),胆管癌やPSCとの鑑別が重要である.Hokiら 49)は,EUSの通常観察では,AIPは膵癌と比較しびまん性低エコー腫大,胆管壁の肥厚,周囲低エコー帯の頻度が高いと報告した.また,AIPはしばしばhyperechoic fociやhyperechoic strandなどの慢性膵炎様の所見を呈することが知られているが,Okabeら 51)はステロイドの加療を行ってもこれらの所見が残存することを報告した.AIPは時期により異なる超音波像を呈することを認識する必要がある.
EUS.
a:膵尾部の限局した膵腫大と不均一な低エコー像(矢印).
b:造影ハーモニックEUS.
capsuled-like rim(矢印)を認める.
EUS IgG4-SC.
肝外胆管の壁肥厚を認める.
造影EUS
近年,超音波造影法が開発され,造影ハーモニックEUS(contrast-enhanced harmonic EUS:CH-EUS)が可能となった 52)~55).CH-EUSによるAIPの所見は,膵癌などの腫瘍と比較し均一に造影され,正常膵と比較するとやや造影効果は弱いとされている.Imazuら 55)はCH-EUSがAIPと膵癌の鑑別に有用であることを報告した(Figure 7).超音波造影剤は,Doppler効果を強調することから造影剤を用いたカラードップラーの報告もある 56).AIPの造影CT所見では,膵辺縁を取り囲むような帯状の低吸収域を呈するcapsule-like rimを指摘される事があるが,CH-EUSでもしばしばcapsule-like rimが描出される.Capsule-like rimは膵周囲の線維化を反映していると考えられ,その頻度は報告により様々であるが,診断の一助になり得る.
Elastography
Meiら 57)は,メタ解析からSolidな膵腫瘤の良悪性の鑑別におけるElastographyの感度,特異度,オッズ比は,それぞれ0.95[95%信頼区間(CI):0.94~0.97],0.67(95%CI:0.61~0.73),42.28(95%CI:26.90~66.46)と報告した.Dietrichら 58)は,AIP診断におけるElastographyの有用性について検討し,AIPの腫瘤部位のみならず周囲の膵組織におけるElastographyの特徴的なパターンについて報告した.Elastographyは膵腫瘤の診断法として期待されているが,EUSの場合には超音波プローブの圧迫を心拍動に頼らざるを得ないなど,その精度に問題があり,更なる改善が必要である.
EUS-FNA
ICDCはAIP診断における組織学的診断の重要性を強調している 17).ICDCでは,core生検または切除で得られた組織標本のみが,AIPの病理組織学的診断に適するとされた 17),59).ICDCにおけるcore生検という用語の明確な定義はなく,文献上EUS-Trucut針で穿刺した検体を指し 59),EUS-FNA用穿刺針で採取した検体は,充分な検体があってもcore生検と明記することは困難であった.しかし,AIPの組織診断におけるEUS-FNAの有用性が多数報告された(Figure 9).19ゲージ(G)針を用いたEUS-FNAも有用であるが 60),技術的に難しく太い穿刺針による合併症も危惧される 61).近年,22G針を用いたEUS-FNAによるAIPの組織学的診断の有用性について報告されている 62)~65).Ishikawaら 62)は,22G針を用いたEUS-FNAにより1型AIPと2型AIP,特にIgG4陰性のAIPの診断の有用性を報告した.Kannoら 63)は,ICDCに基づいて患者25例中20例(80%)で組織学的AIP診断が可能であったと報告した.Morishimaら 64)やKannoら 65)は,多施設で前向きにAIPの組織学的診断をEUS-FNAで行い,その有用性を示した.EUS-FNAが普及し,様々なEUS-FNA針が開発されたことにより 66),67),組織学的標本の質と量が改善された.現在EUS-Trucut針が入手できなくなったこともあり,診断基準におけるEUS-FNAの位置づけがどのように変化していくか注目される.
EUS-FNA.
a:穿刺針にて腫大部を穿刺.
b:リンパ球形質細胞浸潤と花筵状線維化(200×).
c:閉塞性静脈炎(HE).
d:閉塞性静脈炎(Elastica-Masson(EM))染色.
EM染色により,閉塞性静脈炎所見が明瞭に描出される.
AIPやIgG4-SCと悪性疾患の鑑別診断に関して,自己免疫性膵炎臨床診断基準2011 5)では,欄外に「EUS-FNAで膵癌が除外され」と記載され,IgG4関連硬化性胆管炎臨床診断基準2012 27)では,下段に「胆管癌や膵癌などの悪性疾患を除外することが必要である」と記載されている.はたして,膵癌や胆管癌を完全に除外出来るのだろうか.
EUS-FNAによる膵癌の病理組織診断の正診率は極めて高い.Chenらは,膵癌に限定しEUS-FNAの病理組織学的診断能のメタ解析を行い,pooled sensitivity 0.89(95%信頼区間:0.88-0.90),pooled specificity 0.96(95%信頼区間:095-0.97)と極めて高い診断能を有していることを報告した 68).膵腫瘍全般に関するメタ解析でも良好な診断能を示しており 69),70),EUS-FNAが膵癌の病理組織学的診断における重要なmodalityであることは確立している.しかし,正診率は100%ではない.
胆管病変の病理組織学的診断はEUS-FNAを用いた組織採取法 71)や経皮経肝的アプローチは播種が危惧されることから 72),現在でもERCPに引き続き行われる経乳頭的アプローチが主流である.しかし,主腫瘍部からの良悪性診断の正診率は,56%〜86%程度と高くない 73)~78).つまり,EUS-FNAを用いた膵生検および経乳頭的アプローチによる胆管生検では,悪性疾患を完全に否定することは出来ない.診断過程でEUS-FNAや経乳頭的胆管生検は必須であるが,現時点での内視鏡を用いた病理学的診断の限界を理解しながらAIPやIgG4-SCの診断が行われるべきである.
AIPやIgG4-SCの治療の基本はステロイドの投与である.Kamisawaらによると,AIPの多施設共同研究において,ステロイド治療例の寛解率は無治療例と比較すると有意に高く,ステロイド治療がAIPの標準治療に位置づけられた 79).わが国における自己免疫性膵炎診療ガイドラインでは 80),寛解導入のための初期治療として経口プレドニゾロン(PSL)を0.6mg/kg/日で開始し,血液検査や画像所見を参考に減量し,2-3カ月を目安に維持療法へ移行するプロトコールを推奨している.ステロイド治療の適応は有症状例であり,特にIgG4-SCによる閉塞性黄疸例に対するステロイド治療が第一の適応である.自己免疫性膵炎診療ガイドラインによると,「黄疸を伴う自己免疫性膵炎例では,ステロイド治療前に胆道ドレナージを行うべきである」と記載されている 80).一方,Biらは,黄疸を有するAIP症例に対し胆道ドレナージを行わずステロイド治療のみで治療可能であることを報告した 81).現時点では,IgG4-SCによる閉塞性黄疸症例に対する胆道ドレナージの必要性は,黄疸の程度や感染の有無などと合わせて症例毎に判断することが必要である.
(2)維持療法わが国における自己免疫性膵炎診療ガイドラインでは 80),維持療法は再燃を予防するためにPSLを5mg/日で少なくとも3年間投与することを勧めている.Masamuneらは,維持療法の施行の有無について無作為ランダム化比較試験を行い,維持療法の有効性を証明した 82).今後は,維持療法3年以後の継続をどうするかを検討しなければならない.Hiranoらは,AIP症例を前向きに検討したところ,ステロイドの中止が再燃の危険因子であると報告し,3年以後も維持療法を継続する必要性を報告した 83).Kubotaらは,わが国における多施設共同研究により510例のAIP症例を集積し,長期予後を検討した.ステロイド治療群の再燃は3年以降にも認められ約7年でプラトーに達することから長期間の維持療法の必要性を説きつつも,副作用の観点から3年の維持療法を推奨している 84).今後,維持療法の継続期間についても検討が必要である.
さらに,再燃時の治療法について明確な指針はない.Ghazaleらは,寛解後の再燃例に対し免疫調節薬を投与したところ寛解の維持が可能であることを報告した 85).一方,Hartらは,AIPの再燃例に対してステロイド単独投与群とステロイド+免疫調節薬群に分けて後ろ向きに検討したところ,再燃の期間に差を認めず,免疫調節薬の効果に関して懐疑的な報告をした 86).AIPの治療に対するリツキシマブの有用性の報告も散見されるが 87),日本では薬価や保険適応の問題からAIPに対する使用報告はほとんどない.今後,ステロイドと免疫調節薬との併用に関する検討が必要である.AIPやIgG4-SCの再燃時には,安易な判断でステロイドの増量や免疫調節薬の投与を行わず,初診の寛解導入時と同様に,悪性腫瘍の可能性を念頭にERCPやEUSを行い正確な診断を行う必要がある.
(3)膵石治療AIPの長期の予後の検討から,AIPの中に膵石灰化を形成したり慢性膵炎へ移行する症例が報告された 86).膵石が形成される症例も4-40%に認められ,その危険因子として膵頭部腫大と膵体部主膵管非狭細所見があげられた 88).AIPの膵石症例の多くは無症状であるが,しばしば,内視鏡的治療や体外衝撃波結石破砕療法(Extracorporeal shock wave lithotripsy treatment:ESWL)を必要とする症例も存在する 89).AIPから慢性膵炎へ移行し膵石を治療した症例の報告は少なく,症例の蓄積が待たれる.
AIPの診断および治療に関して,内視鏡診療を中心に概説した.AIPやIgG4-SCは,悪性腫瘍との鑑別が必須であり,ERCPやEUSはその鑑別診断に極めて重要な役割を担う.しかし,内視鏡の診断には限界があり,血清学的所見や膵外病変の診断などと合わせて常に慎重に診断する必要がある.今後,新たなデバイスの開発により,AIPやIgG4-SCがより正確に診断されることが期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし