2018 Volume 60 Issue 7 Pages 1317-1322
症例は99歳女性.糖尿病・高血圧・腎機能低下で近医通院中,下肢に紫斑出現し当院皮膚科に紹介来院.同時に軽度上腹部痛があったため腹部CTを撮影したところ,著明な十二指腸壁の肥厚を認めた.内視鏡では食道および胃体部から前庭部にわずかな隆起を伴う発赤粘膜の多発,十二指腸球部から下行部に発赤を伴うびらん面を認めた.消化管の生検では特異的な所見は得られなかったが,皮膚生検でleukocytoclastic vasculitisの所見を認め,消化管病変を伴うIgA血管炎と診断した.一般にIgA血管炎は若年者に多いが,超高齢者においてもその可能性を念頭に置く必要性がある.
IgA血管炎はかつてHenoch-Schönlein紫斑病,その後アレルギー性紫斑病と呼ばれていたが,現在は毛細血管から細動静脈に生じるIgAを介したアレルギー性血管炎として,IgA血管炎と呼ばれている.皮膚の特徴的な所見の他にさまざまな部位の消化管病変を伴うことが多い.発症は小児に多く75%は10歳未満とされていた 1).近年80歳台の症例が散見されるが 2)~4),90歳台の報告はなく,今回99歳と超高齢者の一例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.
患者:99歳,女性.
主訴:下肢の皮疹,上腹部痛.
既往歴:60歳台 糖尿病・高血圧.
現病歴:糖尿病・高血圧等で近医通院中,2016年両下肢・足背に紫斑を認め,2日後当院皮膚科紹介.同部に一部隆起伴う紫斑を認め,生検施行.同時に軽度の上腹部痛を認めたため,腹部CTを撮影したところ十二指腸下行部中心に著明な壁肥厚を認め,精査加療目的で入院となった(Figure 1).
腹部単純CT.
十二指腸下行部を中心に著明な壁肥厚を認めた.
入院時現症:身長144cm,体重43kg,血圧112/49mmHg,脈拍66/min,体温36.2℃.上腹部に軽度の圧痛を認めた.上述の紫斑を両膝より下方に認めた.関節病変は特に認めなかった.
臨床検査成績:WBC 6,200/μl,Hb 8.8g/dl,Plt 19.1×104/μl,CRP 2.4mg/dl,BUN 77.8mg/dl,Cr 2.65mg/dl,K 6.1mEq/l,尿蛋白3+(161.7mg/dl),FBS 232mg/dl,HbA1c 11.1%と貧血・腎機能障害・高血糖を認めた.血液凝固第13因子61%と低下,IgA 507mg/dlと高値であった.抗double stranded DNA(dsDNA)抗体,Anti-neutrophil cytoplasmic antibody(ANCA)は共に陰性であった.
皮膚生検所見:真皮表層から深層にかけての小血管に多型核白血球と核破砕片を含むleukocytoclastic vasculitisの所見を認め,肉芽腫性炎症所見は認めなかった(Figure 2).
皮膚生検所見.
a:弱拡大.
b:強拡大.
真皮表層から深層にかけての小血管に多型核白血球と核破砕片を含む炎症細胞浸潤と血管破壊像,すなわちleukocytoclastic vasculitisの所見を多数認めた.
上部消化管内視鏡所見:食道にわずかに隆起する発赤の多発を認め,粘膜下血腫様隆起と考えられた(Figure 3).胃体部から前庭部にわたり一部縦走状に多発発赤斑を認めた(Figure 4).十二指腸球部から下行部に全周性の粘膜発赤と浮腫性変化を認めた(Figure 5).これら消化管からの生検では,食道からは軽微な反応性異型を示す食道粘膜上皮,胃からは表層びらんと平滑筋繊維の立ち上がりを伴う再生腺窩上皮,十二指腸からは炎症細胞浸潤を示す十二指腸粘膜を認めるのみでangitisの所見は認められなかった.しかし皮膚の肉眼および組織所見と血液・尿検査所見より消化管病変を伴ったIgA血管炎と診断した.
食道内視鏡像.
a:中~下部食道に散在する発赤を認めた.
b:近接するとわずかに隆起を伴う粘膜下血腫様隆起であるとわかる.
胃内視鏡像.
a:胃体部前壁・小彎・後壁に地図状および縦走状に並ぶ斑状発赤,黒苔を伴う浅潰瘍を認めた.
b:体下部から前庭部にかけて縦走状に並ぶ発赤を認めた.
十二指腸内視鏡像.
a:十二指腸球部は発赤,びらんを伴う粗糙な粘膜を呈していた.
b:十二指腸下行部は発赤,浮腫を伴う粗糙な粘膜を認め,その肛門側には斑状発赤が散在していた.
経過:プレドニン30mgの内服を開始,高K血症に対しアーガメイトゼリー内服,インスリンによる血糖コントロールの強化も開始した.しかし背景に存在した糖尿病性腎症の影響もあると考えられたが,入院後より尿量低下,腎機能悪化あり,それによりうっ血性心不全を発症.一時呼吸状態悪化したが,その後水分コントロール,BiPAP使用による呼吸サポートにて心不全はいったん軽快した.しかし徐々に腎機能は悪化し,家族の希望で血液透析は行わず,第24病日永眠された.
プレドニン開始後皮疹・腹痛は改善したが,全身状態悪化のため消化管病変の経過は観察できなかった.
IgA血管炎は一般に若年者に多く発症し,高齢者では稀であるが,今回99歳という超高齢者での発症を経験した.
IgA血管炎はかつてHenoch-Schönlein紫斑病,その後アレルギー性紫斑病と呼ばれていたが,2012 CHCC(Chapel Hill Consensus Conference)によって血管炎分類が改定され,羅患血管の口径から大型血管炎(large vessel vasculitis:LVV),中型血管炎(middle vessel vasculitis:MVV),小型血管炎(small vessel vasculitis:SVV)の3つのカテゴリーに,さらにvariable vessel vasculitis:VVVなど4つのカテゴリーが追加され,計7つのカテゴリーに分類された.小型血管とは細動静脈から毛細血管に相当する.そしてSVVがさらにANCA関連小血管炎(AVV)と免疫複合体性血管炎(immune complex SVV)に亜分類され,IgA血管炎はこの免疫複合体血管炎に含まれる 5).組織学的には好中球の核破砕を特徴とするleukocytoclastic vasculitisが本態で,IgA免疫複合体の沈着を伴うことが多い.上記の多くの血管炎の中で消化管病変を併発する疾患としてはIgA血管炎によるものの頻度が高い.
IgA血管炎では紫斑・腹部症状・関節症状・腎障害など多彩な臨床症状を来すが,特に腹部症状は70~80%と高頻度に出現し,本症診断の契機になることも多い 6).
病変好発部位に関し,小腸100%,大腸88~96%,十二指腸58~78%,胃57~59%,食道2~4%との報告がある 7),8).内視鏡所見としては,粘膜浮腫・発赤・多発性のびらん・不整形潰瘍・著明な粘膜出血・血豆様変化など多彩な病変をびまん性に認める.大腸病変は一般に軽度でアフタのみのことも多いと言われている.本症例はIgA血管炎に特徴的とされるわずかな隆起を伴う斑状発赤を胃に,発赤を伴うびらんを十二指腸に認めた.さらに病変の出現が少ないとされる食道にも,本症に特徴的とされる粘膜下血腫様隆起(hemorrhagic blebs)を認めた 9).カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の臨床応用に伴い,小腸病変の検討も多くみられるが,本症例では上部内視鏡で所見がみられたため,小腸の観察は施行していない.
本症例のように食道・胃・十二指腸病変を伴うIgA血管炎の鑑別診断としては,1)他の血管炎起因性として,全消化管に病変を来しうる結節性多発動脈炎,顕微鏡的多発血管炎,多発血管炎性肉芽腫症(旧称Wegener肉芽腫症)などによるもの,2)血管炎を伴う全身疾患によるものとして慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)によるもの,3)サイトメガロウイルスなど感染症によるもの,4)アミロイドーシスなど変性疾患によるものなどが挙げられる.本症例では当初症例の年齢から消化管病変に関して他疾患の可能性も疑った.皮膚所見が同時に出現し,その後皮膚生検から診断につながる組織学的所見が得られたため,比較的容易に診断することができた.しかし皮膚・腹部所見が異時性に出現するなどすれば診断に苦慮したであろう症例と考えられた.
「Henoch-Schönlein紫斑病」「アレルギー性紫斑病」「IgA血管炎」および「消化管病変」をキーワードに医学中央雑誌にて誌上報告例(1982年~2017年)を検索し,臨床経過の記載のあった本邦での高齢者(80歳以上)症例を検討した.内視鏡所見等,特に高齢者に特徴的な傾向はみられなかったが,4例中3例で予後不良な経過であった(Table 1).死因は消化管出血もしくは腎不全であり,IgA腎症ではよくみられる合併症であった 2)~4).
80歳以上の消化管病変を伴うIgA血管炎症例(*下部消化管内視鏡で終末回腸に確認 **小腸内視鏡で確認,症例2と4では小腸は検索されていない).
若年者では腎障害の合併に注意は必要なものの,予後良好な疾患とされているが,高齢者では既存疾患や臓器予備能の低下の影響も加わり,高率な致命率を有する疾患であると考えられた.
今回われわれは,超高齢者(99歳)における消化管病変を伴うIgA血管炎の症例を経験した.
文献的考察により,超高齢者においても本疾患の可能性があり,その場合重篤化率が非常に高いことを念頭において臨床に臨むことが必要と考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし