2018 Volume 60 Issue 7 Pages 1360-1369
【背景】抗凝固薬は血栓塞栓性イベントを予防するために使われる.直接経口抗凝固薬(DOAC:Direct Oral Anticoagulant)は新しい選択肢だが,内視鏡治療における出血性リスクに及ぼす影響については報告がない.DOACが胃腫瘍に対する粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic submucosal dissection)に及ぼす臨床的影響についてワルファリンと比較して評価することを目的とした.
【方法】3施設の高度医療施設で胃腫瘍に対してESDを施行した抗凝固薬を内服している97症例108病変について後方視的に検討した.24症例がDOACを内服しており,その内訳はダビガトラン12例,リバーロキサバン11例,アピキサバン1例,ワルファリン73例であった.
【結果】DOAC群ではリバーロキサバン内服例がダビガトラン内服例より有意に後出血率が高く(45% vs 0%,p<0.05),ヘパリン置換の有無とは無関係だった.ワルファリン群では78%の症例でヘパリン置換が施行されており,後出血率はヘパリン置換施行例がヘパリン置換非施行例と比べて有意に高かった(36% vs 0%,p<0.05).内服する抗血栓薬の数が増えるほど後出血率は高かった(p<0.05).DOACではより早く最大効果に達するためワルファリンと比べヘパリン置換の期間が短く(p<0.05),入院期間も短かった(p<0.05).多変量解析ではヘパリン置換(OR 10.7),リバーロキサバン(OR 6.00)と複数の抗血栓薬内服(OR 4.35)が独立した後出血の危険因子であった.
【結論】DOACの影響は薬剤ごとに異なった.ダビガトランは入院期間の短縮に寄与し後出血率も低いためワルファリンに代わりえる良い選択肢となるが,リバーロキサバンは有意に後出血率が高かった.
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)はリンパ節転移のない早期胃癌に対する低侵襲治療として広く受け入れられている 1),2).ESD後の長期成績も非常に良く,外科的手術と同等である 3),4).しかしながら,ESDには3.1-6.5% 3),5),6)に発生する後出血の問題があり,この10年間で出血率は下がっていない.
高齢化社会が進むにつれて,高齢者や併存疾患があり抗血栓療法を受けている患者にESDを施行する機会が増えている.抗血栓療法は心臓,脳血管疾患の予防のために抗凝固薬,抗血小板薬を内服する治療で,これらの抗血栓薬を内服する患者が世界的にも増加している 7),8).抗血栓療法はESDの後出血を増加させると報告されるが 9),10),周術期に薬剤を中断するか継続するか,どの種類の薬剤を何剤使用するかによって後出血リスクはそれぞれ違っている.
通常,血栓症の低リスク患者は抗血栓薬を周術期に中止しており,適切な中止をすれば後出血率は増加しないと報告されている 11),12).血栓症の高リスク患者では複数種類の抗血栓薬を内服していることもあり,薬の中止は困難である.それでも,抗血小板薬の後出血リスクは多くの症例では対処ができる.一番多く使われる抗血小板薬のアスピリンは,ESDの周術期に継続していても後出血のリスクは増加しないと報告される 13),14).しかしながら,抗凝固薬の後出血リスクに対処するのは困難である 11),15).ワルファリンを中止するとき,通常は塞栓性イベントを予防するためにヘパリン置換が必要とされる 16).しかしわれわれが以前に報告した通り,ヘパリン置換は胃ESDにおいて非常に大きい後出血リスクとなる 11).
直接経口抗凝固薬(DOAC:Direct Oral Anticoagulants)には直接トロンビン阻害薬のダビガトランと直接第Xa阻害薬のリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンが含まれる.DOACはワルファリンの代わりに非弁膜症性心房細動患者における塞栓性疾患を予防する新しい選択肢である.これらの薬はすべて薬剤効果のモニタリングをする必要がなく,脳血管性イベントを予防する効果に優れていることから歓迎されている 17)~20).DOACを内服する患者は徐々に増加しているにもかかわらず,内視鏡処置におけるDOACの影響についてはまだ報告がない.
この研究ではわれわれは胃ESDにおけるDOACの臨床的影響について従来のワルファリンと比較しヘパリン置換の関与を含めて検討した.
この後ろ向き研究はがん研有明病院(CIH:Cancer Institute Hospital),愛媛県立中央病院(EPCH:Ehime Prefectural Central Hospital),大阪医療センター(ONH:Osaka National Hospital)の3施設で行った.2008年6月から2016年2月までにワルファリン,DOACを含む抗凝固薬を内服しており,胃腫瘍に対するESDを上記の3施設で施行した連続症例を登録した.すべての症例は術前に腺癌または腺癌疑いと診断されている.この研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿って行われており,施設の倫理委員会で承認されている(2016-1038).またすべての患者から書面による同意を得ている.
(2)ESDの手順ESDは原則的にGotodaらが報告したリンパ節転移がないと考えられる早期胃癌 1)に適応される.ESDの手技は前述の様に施行された 6),11).後出血を減らすためにESD終了後にESD後の潰瘍底に認める視認可能な血管を焼灼し 16),時にはクリップ(HX-610-090S;Olympus, Tokyo, Japan)を施行した.それぞれの内視鏡医は必要に応じITナイフ(KD-610L or KD-611L;Olympus, Tokyo, Japan),フックナイフ (KD-620LR;Olympus, Tokyo, Japan),フレックスナイフ(KD-630L;Olympus, Tokyo, Japan),フラッシュナイフ(DK-2618;Fujifilm, Tokyo, Japan)などの高周波ナイフを使用し,VIO 300D(ERBE, Tübingen, Germany)またはESG 100(Olympus, Tokyo, Japan)を高周波凝固装置として使用した.
(3)抗凝固薬,抗血小板薬のマネージメント抗凝固剤としてワルファリンとDOACの内,ダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバンが使用された.この研究ではアスピリン,チクロピジン,クロピドグレル,シロスタゾールを抗血小板薬に含めた.ESD前後の休薬期間は日本消化器内視鏡学会(JGES:Japan Gastroenterological Endoscopy Society)のガイドライン 16),21)に沿って決められ,ワルファリンは4-5日,ダビガトランは1-2日,アスピリンは3-5日,チクロピジンとクロピドグレルは5-7日,シロスタゾールは1日をESD前に休薬し,ESDの翌日に再開した.またリバーロキサバン,アピキサバンについてはJGESガイドラインには記載がないが,薬剤の半減期を考慮して 18),19),22)基本的にはESDの2日前に休薬した.JGESガイドラインで抗凝固薬を使用する患者はヘパリン置換が推奨されていたが,CHADS2スコアやCHA2DS2-VASc スコアを考慮して 23)処方医に血栓塞栓症のリスクが低いと判断された場合はヘパリン置換を施行しなかった.
(4)ヘパリン置換の方法ワルファリンに対するヘパリン置換は前述の様に行われた 11).ESDの4-5日前からワルファリンを中止し未分画ヘパリンの持続投与を開始し,ESDの4-6時間前にヘパリンを中止した.ワルファリンとヘパリンはESD翌日に消化管出血がないことを確認して再開した.PT-INR(Prothrombin Time International Normalized Ratio)が効果範囲(1.50-2.50)に達した時にヘパリン投与を中止した.DOACの場合は2日前にDOACを中止し同時にヘパリンを開始した.ESDの翌日にDOACを再開したが,DOACは再開後すみやかに治療域に達するため(1-4時間)ヘパリンは再開しなかった 23),24).
(5)有害事象後出血はESD後に吐下血や2g/dL以上のヘモグロビンの低下を来たした際に緊急内視鏡を施行し内視鏡的止血術または輸血が必要であったイベントと定義した.通常,輸血は後出血によりヘモグロビンが8g/dL未満となる高度の貧血を来たした際,出血性ショックを来たした際に患者の全身状態を考慮して行った.
(6)統計学的事項すべての連続変数は中央値と範囲で示した.統計的解析はMann-Whitney U-test,フィッシャーの正確度確率検定,χ二乗検定をもちいて行い,GraphPad PRISM (GraphPad Software, Inc., La Jolla, CA, USA)を使用した.ロジスティック回帰解析を用いた多変量解析にはSPSS(SPSS Inc., Chicago, USA)を使用した.P値が0.05未満の際に統計学的に有意と判断した.
抗凝固薬を内服していた97症例に認めた108病変の胃腫瘍をESDにて切除した.抗凝固薬の内服患者の内,73例はワルファリンを内服しており,24例はDOACを内服していた.DOACの内訳はダビガトラン12例,リバーロキサバン11例,アピキサバン1例であった(Table 1).年齢の中央値は76歳(57-88歳)で93%は男性であった.最も頻度の高い併存疾患は心房細動(79.4%)であり,高血圧(30.0%),虚血性心疾患(20.6%),糖尿病(18.6%)と続いた(Table 1).24%の患者が抗血小板薬を内服していた.
抗血栓薬の内服者数と併存疾患.
DOACは主に非弁膜症性心房細動に使用されるため,心房細動の頻度はDOAC群でワルファリン群より高かった(Table 2).更にDOAC群ではワルファリン群と比べて虚血性心疾患や慢性腎臓病や洞不全症候群などの重度の併存疾患の頻度が低かった.そのためDOAC群では抗血小板剤の使用頻度が低かった.CHADS2スコアやCHA2DS2-VASc スコアは2群で差を認めなかった(Table 2).2群で病変の特徴の差も認めなかった.JGESガイドラインではワルファリンを内服するすべての患者にヘパリン置換を推奨しているが,16例にヘパリン置換を行わずにワルファリンを中止してESDを施行した.その内8例はCHADS2スコアが0-1点の心房細動,2例は深部静脈塞栓症など,それらはすべて処方医が塞栓症のリスクが低いと判断して決定した 15).
DOAC群とワルファリン群を比較した患者と病変の特徴.
DOAC群の後出血率,輸血率はワルファリン群と差がなかった(Table 3).しかしながら,DOAC群の入院期間はワルファリン群と比べ有意に短かった(中央値,9日vs 15日;p<0.01).それはESD前後のヘパリン置換の期間がDOAC群でより短いからと考えられた(p<0.01).ワルファリン群では抗凝固作用が消失するまでESD前に5日間,ESD後にワルファリンが治療域に達するまで6日間,ヘパリン置換を行ってワルファリンの効果が安定するのを待たなくてはならないが,DOAC群ではESD前に2日間だけヘパリン置換を行うが,ESD後には行う必要がない(Table 3).どちらの群でも術中に出血をコントロールすることは困難ではなく,術中出血のために手術も輸血も必要なかった.
DOAC群とワルファリン群を比較した胃ESDの治療成績.
塞栓性イベントはワルファリンを内服しヘパリン置換を行った1例に認めた.72歳の男性で心房細動と脳梗塞の既往を認めていた.ESDが著変なく完遂され,術後1日目にワルファリンとヘパリンが再開された.しかし術後2日目に脳梗塞を発症した.早期治療を受けたが,軽度の片麻痺を伴う状態で術後56日目に退院された.
(3)抗凝固薬別の出血率と抗血小板薬の影響DOAC群では薬剤ごとに後出血率が異なっていた.ダビガトランを内服していた12例では後出血は認めなかったが,リバーロキサバンを内服していた11例では5例が後出血を認め有意に高率だった(0% vs 45%,p<0.05)(Figure 1-a).ワルファリンの内服例では後出血率はダビガトランより高く(25% vs 0%,p=0.06),リバーロキサバンより低かった(p=0.16)(Figure 1-a).ダビガトランとリバーロキサバンを比較してみると,症例と病変の特徴には特に差を認めず(Table 4),ヘパリン置換の比率も同様であったが,後出血率だけが有意に異なっていた(Table 4).ワルファリン群ではヘパリン置換の施行例が非施行例と比べて,有意に後出血率が高かったが(36% vs 0%,p<0.05),DOAC群ではヘパリン置換施行の有無では差を認めなかった(Figure 1-b).抗血小板薬を内服しない患者と比較すると,後出血率は抗血小板薬1剤内服例の方が高く,2剤内服例の方がより高かった(17.3% vs 41.2% vs 60%,p<0.05)(Figure 1-c).
各々の抗血栓療法における後出血率の違い.
a)後出血はリバーロキサバンでダビガトランと比較して有意に高頻度であった(p<0.05).
b)ワルファリン内服者では後出血率はヘパリン置換施行群がヘパリン置換非施行群より有意に高かったが(p<0.05),DOAC内服者では差がなかった.
c)内服する抗血小板薬数が多いほど後出血率は高かった(p<0.05).
ダビガトランとリバーロキサバンの比較.
後出血を認めた症例群と認めなかった症例群に分けて,患者とその抗血栓療法の特徴について比較した.70歳以上の症例は後出血群では少なかった(Table 5).抗血栓療法としては抗凝固薬に加えて抗血小板薬を内服している症例が後出血群で多く,抗血栓薬を多く内服していた症例も後出血群により多かった(Table 5).ヘパリン置換施行例は後出血群に有意に多かった(Table 5).
後出血例の患者因子と病変因子の特徴.
後出血の危険因子を評価するために多変量解析を行った.投入した因子は70歳以下,腫瘍径30mm以上,リバーロキサバン,複数の抗血栓薬内服,ヘパリン置換であった.最も有意な危険因子はヘパリン置換であり(OR,10.7;95%CI:1.20-95.2) (Table 6),リバーロキサバン(OR,6.00;95%CI:1.30-27.6),複数の抗血栓薬内服(OR,4.35;95%CI:1.33-14.3)も後出血に関する独立した危険因子であった(Table 6).
後出血と輸血に対する多変量解析.
輸血は7.2%(7/97)の症例に必要とされた.輸血を必要とする症例の危険因子を明らかにするためにTable 5で示した後出血の解析と同じ因子について単変量解析で評価したところ,複数の抗血栓薬内服(p<0.01),ヘパリン置換(p<0.05)が有意であった.この2つの因子について多変量解析を行ったところ,複数の抗血栓薬内服(OR,33.8;95%CI:3.13-365.3)が輸血の独立した危険因子であった(Table 6).
今回,われわれはDOAC内服例における胃ESD治療成績の特徴についてワルファリン内服例と比較検討した.DOAC群ではヘパリン置換が必要な期間が短いため,入院期間がワルファリン群より有意に短かった.DOAC群における後出血率はワルファリン群と同等であったが,ダビガトラン内服例は後出血を認めなかった.それに対してリバーロキサバン内服例では有意に後出血率が高かった.本論文はDOACの内視鏡治療への影響,胃ESDへの影響について特徴的な所見を明らかにした最初の報告である.
DOAC内服例ではESD後にヘパリン置換を施行する必要がなく,ヘパリンと経口抗凝固薬が重複する期間がなかったことが後出血のリスクを減らしたと考えられた.しかしながら,出血のリスクはダビガトランとリバーロキサバンで違っていた.リバーロキサバンは長期作用型であり,その血清濃度のピークが数時間後に極端に高くなることが1つの理由として考えられる 18),23).もう一つの重要な因子は消化管内での薬剤活性の違いである.
非消化管出血がすべてのDOACにおいて減少したのと対照的に,消化管出血の危険性はダビガトラン,リバーロキサバン,エドキサバンにおいてワルファリンと比べて増加していた 17),18),20).ワルファリンが肝臓の酵素であるビタミンKエポキシドレダクターゼを標的としていて消化管内では活性を持たないのに対して,DOACは消化管で完全には吸収されず,一部が消化管に残り,凝固因子を直接的に標的として局所の出血を引き起こす潜在力があることが報告されている 23),25).他のDOACと違いダビガトランは非活性型のプロドラッグとして投与され,血液中または消化管内で活性代謝物のダビガトランに変換される 26).さらに,ダビガトラン内服者には上部消化管出血と比べて下部消化管出血を高い頻度で認めている 23),27).これらの特徴からリバーロキサバンは活性体として投与され,胃内のESD後潰瘍内の凝固因子を直接的に標的として局所で抗凝固作用を発揮し得るのに対して,ダビガトランは非活性型のプロドラッグとして投与され胃内では局所的には抗凝固作用を持たないと考えられる.この違いはダビガトランとリバーロキサバンの後出血リスクの違いを説明しうる.
患者の特徴を比較するとワルファリン群はDOAC群と比べて,虚血性心疾患,慢性腎臓病などの重度の併存疾患をより多く有していた.これはDOACが日本の保健医療制度において,非弁膜症性心房細動による塞栓性疾患の予防だけに認可されていたことによる(後に深部静脈血栓症も追加).これらの併存疾患の内,慢性腎臓病を併存すると後出血を増加させる可能性があり 28),虚血性心疾患が併存すると内服する抗血小板薬の数が増えることから後出血を増加させる可能性がある.しかしながら,今回の検討では慢性腎臓病を併存する患者は少なく,その後出血率は20%(1/5)と今回の検討症例群の中ではそれほど高くなかった.更に虚血性心疾患による抗血栓薬多剤内服については多変量解析を行って検討している.すなわち,今回の3剤の後出血率の違いは併存疾患の頻度の違いとは無関係と考えられる.
最近報告された1,884例の外科手術例をヘパリン置換施行群とヘパリン置換非施行群に分けて行われたランダム化比較試験の結果では,ヘパリン置換は有意に出血性イベントを増加させたが,周術期の動脈性血栓塞栓症を減少させる効果がなかった 29).さらに別のランダム化比較試験によると発症した出血性イベントはヘパリン置換群よりワルファリン継続群で少なかった 30).これらの報告を考慮すると,内視鏡治療においてもワルファリン内服者は周術期にもずっとワルファリンを継続する方法が良いのではないかと考えられる.Tounouらがワルファリン継続下で胃ESDを安全に施行した症例を報告しており 31)有望な方法と考えられるが,更なる検討が必要である.
American Society for Gastrointestinal Endoscopyが最近発行したガイドライン 32)では内視鏡処置の前に腎障害がない症例では薬剤の半減期(8-15h)に基づいて 17)~20),1-3日間のDOACの休薬を推奨している.The British Society of GastroenterologyとEuropean Society of Gastrointestinal Endoscopyもガイドラインを発行しており,内視鏡処置の前に少なくとも2日間のDOACの休薬を推奨している 33).われわれは通常DOACを処置の2日前から休薬しその間はヘパリンで置換した.しかしながら,幾つかの症例では処方医に要請された通り,1日だけ休薬しヘパリン置換を施行しなかった.われわれの限定した経験では,ESDの術中出血をコントロールするには短い休薬期間でも十分であった.
多変量解析では(Table 6),われわれは確証的検討としてはイベント数23に対してやや多い5つの変量を投入した.しかしながら施設の統計学者とも検討して,有意な変数が3つと多くないこと,オッズ比が十分に高いことから,この結果は探索的検討として十分に信頼できる結果と考えている.
3施設の間で後出血率が異なるかについても検討した.ワルファリン内服者の後出血率はCIH26%,EPCH21%,ONH28%(P=0.87)と変わらなかった.しかしながら,ほとんどすべてのDOAC内服例はCIH(92%)で治療されておりEPCH,ONHで治療されたのは1例ずつであった,これは施設の特徴によると考えられた.これらの結果から,薬剤間の出血リスクは施設間差が原因ではないと確かめられた.
本検討にはいくつかのlimitationがある.第一に3施設に限られた後ろ向き研究である.第二にDOACを内服していた患者が少なかった.第三に新しく市場に出たアピキサバンとエドキサバンの2つのDOACを内服している患者数は十分でなかった.第四に発症率が低かったため,塞栓症のリスクについては検討することができなかった.
経口抗凝固薬を内服する患者は後出血のリスクが高いが,後出血率は薬剤によって違っていた.今回の研究ではダビガトランはリバーロキサバンと比べて後出血率が低かった.これらの結果は多数例の多施設研究によって確かめる必要があるが,ダビガトランは胃ESDの周術期管理においてワルファリンに代わりうる良い治療選択肢であると考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし