GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF DABIGATRAN-INDUCED ESOPHAGITIS OBSERVABLE FOR FOUR YEARS, UNTIL SUDDEN DETRIORATION
Yasurou YAMAZAKI Tomoyuki YADANaomi UEMURANobuyuki HIRUTA
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2018 Volume 60 Issue 8 Pages 1464-1471

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要旨

77歳女性,心房細動にダビガトラン開始半年後の上部消化管内視鏡検査(以下EGD)で中部食道に軽度のびらんを認め,時に喉のつまり感があった.2年後のEGDで中部食道のびらんがやや増悪しプロトンポンプ阻害薬を追加した.4年後のEGD所見も同様だったが生検で異型上皮が疑われ,3カ月後のEGDで中部食道に縦走帯状の厚い白色膜様物付着が出現し,更に3カ月後のEGDで改善なく,ダビガトランをアピキサバンに変更後症状は2-3日で消失し2カ月後のEGD所見は正常化した.ダビガトラン投与例では,投与期間や症状の有無によらず定期的EGDを施行し,食道炎を認めた際にはダビガトランの中止変更が望ましいと考える.

Ⅰ 緒  言

近年非弁膜症性心房細動の脳梗塞予防のために,ワルファリンより効果が優れ副作用の少ない直接作用型抗凝固薬(以下DOAC)が頻用されている 1),2.ダビガトランはDOACで最初に承認された薬剤で使用頻度が高いが,食道粘膜障害を来すことがあり,近年ダビガトラン起因食道炎(dabigatran-induced esophagitis,以下DIE)の報告が増加している 3)~18.今回,ダビガトラン開始後4年3カ月後に食道炎が急激に悪化するまでの経過を観察しえた症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:77歳,女性.

主訴:喉のつまり感.

既往歴:2005年膵胆管合流異常分流手術施行.

家族歴:特記すべきことなし.

臨床経過(Figure 1):当院にて高血圧,心房細動,逆流性食道炎(以下RE)を加療中2008年5月より左心房拡大ありワルファリン開始,併用薬を図に示す.2010年11月のEGDではロサンゼルス(以下LA)分類gradeMのREを認めたが中部食道は正常(Figure 2),胃粘膜は正常でHelicobacter pylori感染は陰性であった.2011年11月より胸焼けありファモチジン20mg朝夕を追加し症状は消失した.2012年4月ワルファリンをダビガトラン110mg×2/日に変更した.朝は約300ml,夕は約200mlの白湯で内服する習慣で内服後横臥することはなかった.

Figure 1 

臨床経過図.

Figure 2 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与1年半前).

中部~下部食道に異常は認めなかった.

2012年10月(ダビガトラン開始6カ月)のEGDではLA分類gradeAのREと中部食道に縦走ではない軽度のびらんを認めた(Figure 3).この1カ月後より,時に喉のつまり感,口腔内の荒れた感じを覚え,耳鼻科受診するも異常はなかった.2014年5月のEGDではREはLA分類gradeMだったが中部食道のびらんがやや増悪したため(Figure 4),ファモチジンをエソメプラゾールマグネシウム水和物20mg/日に変更した.この頃も症状は同様で悪化はなかった.

Figure 3 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与6カ月).

ロサンゼルス分類grade AのGERD所見と中部食道に軽度のびらんを認めた(黒矢印).

Figure 4 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与2年1カ月).

食道胃接合部の炎症は軽度であったが,中部食道のびらんがやや増強していた(黒矢印).

2016年5月のEGDでは中部食道には2年前同様のびらんを認め(Figure 5),生検にて再生異型もしくは上皮内腫瘍が疑われた.同年8月のEGDでは,中下部食道の2/3周に縦走する帯状の白色膜様物の付着を認め(Figure 6),鉗子により剝離すると発赤びらんを認めた.生検では炎症細胞浸潤を示すも腫瘍病変は認めず,この時も症状は同様であった.同年11月の再EGDでも中部食道の全周に厚い白色膜様物を認め(Figure 7)生検では凝固壊死に陥った重層扁平上皮と考えられ,再生性変化も伴い,上皮下には好中球を主体とした高度の炎症細胞浸潤を認めた(Figure 8).

Figure 5 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与4年).

食道粘膜はやや白濁し,中部食道に2年前とほぼ同様のびらんを認め(黒矢印),生検にて再生異型もしくは上皮内腫瘍が疑われた.

Figure 6 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与4年3カ月後).

中部食道3/4周に縦走する帯状の白色膜様物の付着を認めた.

Figure 7 

上部消化管内視鏡所見(ダビガトラン投与4年6カ月後).

中部食道全周に縦走する帯状(一部塊状)の厚い白色膜様物の付着を認め,3カ月前とほぼ同様であった.

Figure 8 

食道粘膜生検の病理組織所見.

白色膜様物は変性・壊死をきたした重層扁平上皮であり,好酸性変化や核の陰影化を示し,一部には再生性変化もみられた.上皮下には高度の炎症細胞浸潤を伴っていた(H.E.×10).

2016年11月時の身体所見:身長163cm,体重52kg,体温36.3℃,血圧130/72,脈拍62/分不整,胸腹部に異常所見なし.

同時期の臨床検査成績:Hb 10.5g/dlの正球性貧血と総蛋白6.5g/dl,アルブミン3.5g/dlと軽度低蛋白血症を認め,脳ナトリウム利尿ポリペプチドは214pg/mlと上昇,他に異常所見はなく,胸部レントゲンでは心胸郭比が66.8%と心拡大を認めたが以前と同様であった.

食道の精査目的にて国立国際医療研究センター国府台病院消化器・肝臓内科に紹介した.エソメプラゾールマグネシウム水和物20mg/日をボノプラザンフマル酸塩20mg/日に変更したが1週間後も自覚症状は改善せず,DIEを疑いアピキサバンに変更したところ,自覚症状は2-3日で消失,2カ月後のEGDでは食道病変は劇的な改善を認めた(Figure 9).その後は再発していない.

Figure 9 

上部消化管内視鏡所見.

食道粘膜はダビガトランをアピキサバンに変更後2カ月で劇的に改善し,ほぼ正常化していた.

Ⅲ 考  察

近年,非弁膜症性心房細動患者の心原性脳梗塞の予防薬として,効果のモニターが不要で,食事や併用薬の影響を受けにくい 1),2DOACが使われるようになった.ダビガトランは,RE-LY試験 2においてワルファリン投与群に対し脳卒中/全身性塞栓症を同等以上に抑制し,頭蓋内出血と脳内出血は有意に少ないことが示されたが,Bytzerら 19はこの試験におけるダビガトラン投与群の有害事象としての上部消化管症状の出現がワルファリン投与群より有意に多く,特に胃食道逆流関連症状が3.7倍で,投与中止が5倍多いことを報告している.

EGDで確認されたDIEは2012年に初めて報告され 3,医学中央雑誌にて「ダビガトラン」と「食道潰瘍/薬剤性食道炎」,PubMedにて「dabigatran」と「esophagitis/esophageal ulcer」をキーワードで検索したところ16編の論文 3)~18を認めた.これらの報告の中で臨床症状が記載されていた22例と自験例を表に示し(Table 1)比較検討した.これら22例中17例(77%)が有症状で,4例 9),13),17が無症状,1例 10はほぼ無症状であった.症状発現までの期間は,1週以内が7例(41%) 3)~5),7)~9),11と最も多く,他は2週 7,1カ月 8,3カ月 5,6カ月 6,数カ月 13,1年 13),16,1年1カ月 12,1年7カ月 15,2年 13であり,これらは発症後にEGDで診断されていた.症状の内容は(重複あり)嚥下痛・嚥下障害7例(50%) 3),6),7),11),12),15,胸痛5例(36%) 6)~8),12,胸焼け9例(43%) 3),5),8),9),11)~13,食道閉塞感1例(7%) 5,心窩部痛3例(21%) 4),8),16,珈琲残渣様嘔吐下痢1例(7%) 4,喉のつまり感1例(7%) 11であり,15例(88%)が明らかに食道病変を疑う症状で発症していた.自験例ではダビガトラン投与開始6カ月後から時に喉のつまり感と口腔内違和感のみを訴えていたが,Woodら 11の報告例でも喉のつまり感を訴えており,これもDIEと関連する症状の可能性があると思われた.

Table 1 

臨床症状の記載があったダビガトラン起因食道炎報告例.

原田ら 13はEGDを施行したダビガトラン内服患者30例中5例(16.7%)にDIEを認めたと報告し,Toyaら 18は,同様の91例中19例にDIEを認め,このうち有症状例は13例で無症状例が6例いたことから,無症状で内視鏡検査をされずに食道炎が見逃されている可能性を述べている.これらからDIEは比較的多い可能性が示唆される.

内視鏡所見に関しては検討した報告22例中18例に中部食道を主体に縦走する白色膜様物の付着を認めていた.原田ら 13はDIE全例に白色膜様物の付着を認めたと報告し,Toyaら 18は,DIE19例のうち,18例(94.7%)に食道中部か下部に縦走する剥離上皮を認め,DIEの特徴的内視鏡所見であろうと考察している.内視鏡所見で食道粘膜が剥離を呈する疾患としては,尋常性天疱瘡や類天疱瘡の剥離性食道炎 20と物理的原因による食道粘膜剥離症 21が挙げられるが,自験例に皮膚疾患や物理的要因はなく,内視鏡所見も異なっていた.薬剤性食道炎に関しては,原因としてテトラサイクリン系他の抗生物質,カリウム製剤,非ステロイド系抗炎症剤,鉄剤,ビスホスホネート,抗癌剤が知られ 22),23,内視鏡所見ではびらんや潰瘍を認めるも薬剤に特徴的なものはない 22とされるが,自験例ではダビガトラン以外に原因と思われる薬剤はなく,食道の白色膜様物付着所見は他には見られないものでDIEの特異的所見と考えられた.

自験例ではダビガトラン投与6カ月に中部食道に軽度のびらんを認め,2年後にやや悪化したが,自覚症状に乏しく,悪性所見を認めず,またこの時点では筆者はDIEを認識しておらず経過観察とした.後から考えればこれらも軽度とはいえダビガトランによる粘膜障害だった可能性がある.その後,4年3カ月後に急激に悪化し典型的DIEのEGD所見を呈したが,このような経過を観察しえた報告例はなかった.なお,食道炎が急激に悪化した際に,心拡大増悪を含む引き金になるような病態の変化はなく,また,この時点でも自覚症状が軽度の喉のつまり感と口腔内違和感のみだったことは極めて興味深い点であった.

DIEの原因としてダビガトランに含有される強酸の酒石酸によると推測する論文 2),8もあるが今のところは証明されてはいない.自験例の食道病変も酒石酸の腐食よる凝固壊死の可能性があると考えるが,今後発生機序の解明が必要と思われる.

DIEの対処法に関しては,報告例22例中7例 5),8),13),16はダビガトランを継続し,うちプロトンポンプ阻害薬(以下PPI)未投与の3例 5),13はPPI追加により症状は改善し3例(PPI有2例 8),16となし1例 8)は服薬指導で改善している.一方,14例 3)~7),9)~13),15),17はダビガトランを中止し(3例は他剤に変更),うちPPI未投与8例 3),6),7),11)~13),15にPPIが追加され,投与例4例中1例 10は増量し,記載のある10例は症状が消失,特に3例 3),7),10は1週間以内に消失していた.ダビガトラン中止例のEGD所見は2例 6),7が5日以内に改善し,4例 3),10),12),17が12日~1カ月後にほぼ正常化を確認されており,中止により極めて迅速に治癒に向かうことが示されている.薬剤性食道炎は,原因薬剤の中止により数日以内に回復するとされ,しばしば併用されるH2受容体拮抗薬やPPIの効果に関しては一定の見解が得られていない 22),23.検討したDIE報告例22例においては8例 5),8)~10),13),16がPPIを併用,奈良坂ら 14のDIE12例においては8例がPPI,1例がH2受容体拮抗薬を併用していたが発症していた.

薬剤性食道炎の危険要因として,不十分な飲水,服薬後の横臥,食道の蠕動低下や狭窄などが挙げられ,予防のためには服薬指導が重要とされる 22),23.ダビガトラン内服患者は,高齢者が多く,心房細動による左心房拡大により中部下部食道が圧排され薬剤が停滞しやすくなるため,より厳格な服薬指導が必要 3),4と思われる.自験例ではダビガトラン開始から典型的DIEの内視鏡所見を呈すまでに4年経過していたが,服薬方法が理想的で,ダビガトラン開始前からH2受容体拮抗薬,途中から高容量PPIを併用していたことが食道炎悪化の抑制に寄与していた可能性が考えられる.DIEはPPI併用や内服方法で確実に予防できるとは言えず,診断した際にはダビガトランの中止あるいは変更が最良の策と思われる.

Ⅳ 結  論

ダビガトラン投与症例においては投与期間の長さや自覚症状の有無によらずDIEの存在を念頭に定期的にEGDをすべきと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:上村直実(タケダ薬品,アストラゼネカ)

文 献
 
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