GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
A CASE OF RIGHT-SIDED DIVERTICULAR DISEASE WITH ILEOCECAL OBSTRUCTION
Yosho FUKITA Michifumi TOYOMIZUHiroyuki ISHIBASHITsutoshi ASAKIIkuma YASUDATakefumi TAKEDAIkuya SATOSatoshi NOZAWANaomi SUEMATSU
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 60 Issue 9 Pages 1579-1584

Details
要旨

回腸終末部の狭窄を引き起こした右側結腸憩室症の1例を経験した.症例は66歳,女性.主訴は右側腹部痛.40歳頃より60歳代まで複数回の上行結腸憩室炎の既往があり,保存治療で軽快していた.およそ二カ月前に右側腹部痛が出現した.画像検査で回腸終末部の狭窄による腸閉塞と診断され,回盲部切除術が施行された.病理組織検査では,上行結腸および盲腸における憩室周囲の著明な線維化が認められ,これにより回腸終末部の狭窄が引き起こされていた.右側結腸憩室症が回腸終末部の狭窄を引き起こす病態について考察した.上行結腸および盲腸の憩室症に起因する回腸終末部の狭窄症例はまれであり報告した.

Ⅰ 緒  言

大腸憩室炎の合併症に関して,S状結腸憩室炎に伴う狭窄症例の報告は散見されるが,右側結腸憩室症に起因する狭窄症例はまれである.

今回,回腸終末部の狭窄を引き起こした右側結腸憩室症の1例を経験した.上行結腸および盲腸における憩室周囲の著明な線維化が回腸終末部の狭窄を引き起こしており,右側結腸憩室炎の既往のある症例では,回腸終末部の狭窄に留意する必要がある.

Ⅱ 症  例

患者:66歳,女性.

主訴:右側腹部痛.

既往歴:18歳,虫垂切除術.56歳,脳動脈瘤に対してコイル塞栓術.40歳頃より60歳代まで3回の上行結腸憩室炎の既往があり,いずれも保存治療で軽快していた.

現病歴:2014年頃より,2~3カ月に1回程度の頻度で腹部膨満を自覚していたが,食事量の調整などで改善していた.2015年2月初旬より右側腹部痛が出現した.近医を受診し内服薬が処方され経過観察していたが症状が改善せず,3月25日に当科を受診した.腹部造影CTにて回腸終末部の壁肥厚とそれに伴う腸閉塞が疑われ,精査治療のため入院とした.なお今回の症状が出現する前までの排便習慣は,普通便が2~3日に1回あり,ときどき硬便であったが下剤を内服する程ではなかった.

入院時現症:身長151cm,体重50kg,血圧117/66mmHg,脈拍77/min,体温36.7℃.腹部触診で右側腹部~右下腹部に圧痛を認めたが,筋性防御はなかった.

臨床検査成績:白血球8,730/μL,CRP 3.4mg/dLと炎症反応が軽度に亢進していたが,他には特記所見を認めなかった.

腹部造影CT検査:回腸終末部の壁肥厚と狭窄所見を認め,これより口側の小腸の著明な拡張および腸液貯留を伴っていた(Figure 1).

Figure 1 

腹部造影CT検査.

回腸終末部の壁肥厚と狭窄所見を認め(矢印),これより口側の小腸の著明な拡張および腸液貯留を伴っていた.

大腸内視鏡:浣腸のみの前処置で検査を施行した.上行結腸~盲腸に多発性の憩室を認め,また憩室の影響と思われる炎症性ポリープも観察された(Figure 2-a).回腸終末部にスコープの挿入を試みたが,狭窄のため挿入できなかった(Figure 2-b).同時に施行したガストログラフィンによる選択造影では回腸終末部におよそ3cmの長さに渡る狭窄所見を認めた(Figure 3).また盲腸に複数の憩室が観察された.回盲弁と盲腸・上行結腸の粘膜生検では,非特異的炎症所見のみであった.

Figure 2 

大腸内視鏡写真.

a:憩室の影響と思われる炎症性ポリープが観察された.

b:回腸終末部にスコープの挿入を試みたが,狭窄のため挿入できなかった.

Figure 3 

小腸造影検査.

回腸終末部におよそ3cmの長さに渡る狭窄所見を認めた(矢印).また盲腸に複数の憩室が観察された(矢頭).

画像診断や病理組織検査では確定診断に至らなかったが,回腸終末部の狭窄が高度であることや,悪性病変を完全には否定できないことより手術適応と判断した.術前検査にて胆嚢結石・総胆管結石を指摘されたため内視鏡的総胆管結石除去術を施行後,当院外科で回盲部切除術ならびに胆嚢摘出術が施行された.

術中所見:正中切開施行時に右下腹部に大網が癒着しており,これを剥離した.回盲弁近傍に限局した狭窄部位を固く触れた.活動性の炎症を示唆するような発赤は認めなかった.回盲弁から6cmまでの回腸と,20cmまでの上行結腸とを一塊で切除した.

術後切除標本:肉眼的には盲腸および上行結腸の粘膜は長さ6cmに渡って隆起や引き攣れを伴っていた(Figure 4-a).上行結腸では固有筋層の著明な肥厚と漿膜下層の線維化を認めた.回盲弁近傍では漿膜下層の広範囲な線維化を認め(Figure 4-b,c),これにより回盲弁から回腸終末部の部分は管腔の幅が1.5cmと強く狭窄していた.組織学的には,盲腸および上行結腸に憩室が多発しており,憩室周囲にはリンパ球・形質細胞を主体とする炎症細胞浸潤を認め,遷延した炎症の存在が示唆された.固有筋層および漿膜下層は浮腫と膠原線維の増生により著明に肥厚していた(Figure 4-d).

Figure 4 

病理標本.

a:術後切除標本.点線はFigure 4-bの切り出し線.

b:切り出し線での肉眼所見.

上行結腸では固有筋層の著明な肥厚と漿膜下層の線維化を認めた.

c:Figure 4-bの四角で囲まれた部分の拡大所見.回盲弁近傍では漿膜下層の広範囲な線維化を認めた.

d:病理組織像(×40倍).

固有筋層および漿膜下層は浮腫と膠原線維の増生により著明に肥厚していた.

術後経過:経過良好で退院し,術後3年経過しているが再発を認めていない.

Ⅲ 考  察

大腸憩室の発生頻度は欧米の30〜40%に比べ本邦では10〜20%と低く,発生部位は欧米では90%以上がS状結腸であるのに対し,本邦では70%が右側結腸に認められる 1.大腸憩室症の多くは無症状で経過するが,およそ10~25%で憩室炎を発症する 2.本邦における1,112例の大腸憩室炎の解析では 3,70歳未満では右側結腸優位に憩室炎が発症するのに対し,70歳以上では左側結腸が優位となる.これは若年者では右側結腸の憩室症の割合が多いが,加齢につれ左側結腸の憩室症が増加することに相関している.1,112例の大腸憩室炎症例において,179例(16.1%)で穿孔・膿瘍・狭窄・瘻孔などの重篤な合併症が出現し,そのうち狭窄症例は12例であった(1.0%).

本邦において,大腸憩室炎に伴う狭窄所見を呈した症例に関して,Shimamuraらは,「大腸憩室症」「狭窄」をキーワードとして1983〜2013年の期間で,医学中央雑誌で検索された28症例を集計しているが 4,部位としてはS状結腸が20例(71.4%)と多く,右側結腸由来の狭窄症例は3例(10.7%)のみであった(盲腸2例,上行結腸1例).28例全例で外科的治療がなされており,また10例(35.7%)では術前に悪性疾患が疑われていた.大腸憩室炎に伴う狭窄症例が右側結腸に比較して左側結腸に多い理由として,大腸憩室症では憩室炎がなくても膠原線維の増加に伴う固有筋層の肥厚がみられ,特に右側型に比べ左側型で肥厚の程度が強いためである 5.さらに憩室炎を発症し浮腫性壁肥厚が出現する場合に,右側結腸では管腔が広いため全周性狭窄が起こりにくいのに対し,S状結腸では管腔が狭いため容易に狭窄を来しやすいためと考えられる 6.しかしながら右側結腸憩室炎の影響が回盲部に達すれば,回腸終末部の狭窄症状が引き起こされる可能性がある.

谷口らは,右側型結腸憩室症における回腸終末部の狭窄機序に関して,「回盲弁近傍の憩室炎が同部位の壁肥厚をきたし,さらに浮腫変化にて腸閉塞症状をきたすため」と報告している 6.自験例では,上行結腸の固有筋層および漿膜下層は浮腫と膠原線維の増生により著明に肥厚していたが,これは再発性あるいは再燃性の憩室炎の結果と推察された.発症から時間が経過した憩室炎では漿膜下層において膠原線維の増生が見られるが 5),7,自験例では回盲弁近傍でも漿膜下層の広範囲な線維化を認め,これにより回腸終末部が強く狭窄していた.実際に健康成人では回盲弁の開口部は内径2.5cm前後であるが 8,自験例では断面径が1.5cmまで狭窄していた.

「憩室」「回盲部」「狭窄」をキーワードに1983年〜2017年の期間で医学中央雑誌を検索したところ,自験例のように右側結腸憩室症に伴う回腸終末部の狭窄症状を呈した症例はこれまで5例あり 6),9)~12,自験例を加えて考察した(Table 1).男女比は,自験例以外の5例は全例男性であった.平均年齢は52.1歳で,S状結腸の狭窄症例20例の平均年齢62.3歳に比し若年傾向にあった 4.病悩期間は1カ月前後が多かった.全例でCT・大腸内視鏡などの画像検査がなされていたが,術前に確定診断がついた症例は皆無であった.全例で外科的に狭窄部が切除されていた.海外における同様な症例を,PubMedで「diverticulitis」「stenosis」「stricture」「ileocecal valve」「terminal ileum」などのキーワードで検索したところ,右側結腸憩室炎に伴う回腸終末部の狭窄症例はCoeらの1例を認めるのみであった 13.これは欧米においては大腸憩室炎の中で,右側結腸由来のものは1.0〜3.6%と頻度が少ないことが関連しているものと推察された 14

Table 1 

右側結腸憩室症に伴う回腸終末部の狭窄症状を呈した本邦報告例(会議録は含まず).

小腸狭窄を引き起こす原因疾患は大きく炎症性疾患と腫瘍性疾患に大別される.自験例では病理組織学的に再発性あるいは再燃性の憩室炎により狭窄を来したものと推察したが,慢性炎症による小腸狭窄を呈する疾患の鑑別診断としては,腸結核,NSAIDs起因性小腸潰瘍症,狭窄型虚血性小腸炎,Crohn病,Behçet病,非特異性多発性小腸潰瘍症などがある 15.自験例ではこれらの疾患に特徴的な所見を認めなかった.これらのほか,回腸終末部の憩室炎による回腸狭窄の報告例もあるが 16,自験例では回腸に憩室を認めなかった.

右側結腸憩室症の症例において,憩室炎を繰り返しいる場合や,回盲弁近傍に憩室炎を発症している場合は,回腸終末部の狭窄が出現しうるということを念頭に置いて診療に当たることが肝要と思われた.

Ⅳ 結  語

回腸終末部の狭窄を引き起こした右側結腸憩室症の1例を報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2018 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top