GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ENDOSCOPIC TREATMENT USING GRASPING-TYPE SCISSORS FORCEPS FOR BURIED BUMPER SYNDROME IN THE STOMACH WALL (WITH A VIDEO)
Toshiyuki ABE Kentaro YODOEKazuya AKAHOSHIMasaru KUBOKAWAJunya GIBOKayo TOKUMARUEriko YAMAGUCHIKazuaki MIYAMOTOShigeki OSADA
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2019 Volume 61 Issue 1 Pages 42-48

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要旨

78歳男性.7年前に内視鏡的経皮胃瘻造設術を施行した.患者の胃瘻からの栄養剤の投与が出来ず,栄養剤の漏出を認めるため当科紹介となった.EGD,EUS及びCT検査を行い胃瘻のバンパー部が胃粘膜下層内に埋没したバンパー埋没症候群と診断した.経皮的に胃瘻を抜去出来なかったため,把持型鋏鉗子を用いて埋没したバンパー直上の粘膜及び粘膜下層を切開しバンパー部を露出後,経口的に胃瘻チューブを抜去し,新しい胃瘻チューブを再留置する事が出来た.

Ⅰ 緒  言

バンパー埋没症候群は胃瘻のバンパー部が胃壁瘻孔内に埋没することで生じる合併症である.本邦における胃瘻造設術の件数は減少してきたとはいえ,臨床現場において一般的な手技であり,今後も胃瘻に関するトラブルに遭遇する場面は少なくないと予想される.われわれは胃壁内バンパー埋没症候群に対し,把持型鋏鉗子を用いて,埋没したバンパー直上の粘膜及び粘膜下層を切開することで,埋没した胃瘻を抜去し,再造設することが出来た.内視鏡的に安全に治療しえた症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

患者:78歳,男性.

主訴:胃瘻からの栄養剤投与困難.

既往歴:脳出血,脳硬塞,症候性てんかん,高血圧症.

内服薬:フロセミド40mg1T1×,スピロノラクトン25mg1T1×,フェニトイン錠25mg3T3×,ランソプラゾール15mg1T1×,モサプリドクエン酸5mg3T3×,ジメチコン80mg3T3×,ピコスルファートナトリウム頓用.

現病歴:脳出血,脳梗塞後遺症のため経口摂取困難となり,7年前に内視鏡的経皮胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:以下 PEG)を施行した(Figure 1).その後施設に入所となった後は,長期的留置型の胃瘻(フレンタEDカテーテル Freka PEG tube,バンパーチューブ型,フルゼニウスカービジャパン社製)であり,問題なく使用できていたため,内視鏡での胃内の観察や胃瘻の交換は行われていなかった.1年前から皮膚の発赤が目立ち,近医皮膚科で加療を行っていた.1カ月前より胃瘻からの栄養剤の漏れが目立つようになり,胃瘻からの栄養剤投与が困難となったため,当科紹介受診となった.

Figure 1 

7年前の胃瘻造設時の内視鏡像.

入院時現症:身長154cm,体重47.8kg.JCSⅠ-3,意思の疎通は困難である.脈拍:96/min,血圧129/87mmHg,体温35.7℃,腹部は平坦でやや硬い,腸蠕動音は正常.上腹部に胃瘻が造設されており,胃瘻挿入部の周囲に発赤を認めた(Figure 2).

Figure 2 

受診時の皮膚所見 胃瘻挿入部の周囲に発赤を認める.

検査所見:WBC 6,700/μL,CRP 3.35mg/dlと炎症反応の軽度上昇を認めた.RBC 342×106/μL,Hgb 10.2g/dl,Plt 14.2×104/μL,Alb 3.0g/dlと軽度の貧血を認めた.

画像所見:CTで胃壁内に胃瘻バンパー部を認めた(Figure 3).

Figure 3 

CT.

a・b:胃壁内に胃瘻のバンパー(黄色矢印)を認める.

c:bの拡大画像.

d:cのシェーマ.半球状になった肉芽組織(青),内部の胃瘻のバンパー部(赤),胃壁(白),腹直筋(オレンジ).

上部消化管内視鏡検査所見:胃体中部前壁に3cm大の山田Ⅲ型様の立ち上がりを有する粘膜下腫瘍様隆起を認めた(Figure 4).胃瘻は埋没しており,内視鏡上確認出来なかった.EUSでは胃壁の第3層内に音響陰影を伴う高エコーのバンパーを認め,粘膜面からバンパー頂部までの深さは8mmであった(Figure 5).

Figure 4 

受診時の内視鏡像.

胃瘻は完全に埋没しており,内視鏡上確認が出来ない.

Figure 5 

EUS.

胃壁第2層(青)と第4層(白)の間の第3層内に後方エコー減衰を伴う胃瘻バンパー部(赤)を認める.

上記のごとく胃粘膜下層内に胃瘻が埋没しているバンパー埋没症候群(buried bumper syndrome:以下BBS)と診断した.経皮的抜去を試みたが,抜去出来なかった.当院倫理委員会の承認と患者家族への十分なインフォームドコンセントを得た上で,ESDに用いる把持型鋏鉗子を用いバンパーを覆っている胃粘膜と粘膜下層を切開し,内視鏡的に胃瘻の回収と再造設を行う方針とした.バンパーを覆う胃粘膜と粘膜下層の切開には,切開と止血を1つのデバイスで完結出来るClutch Cutter(以下CC, FUJIFILM社製)を使用した.高周波発生装置はVIO300D(ERBE社製)を用い,出力は切開がENDOCUTQ(Effect 2,Duration 3,Interval 1)で止血がSOFT凝固(100W,Effect 5)に設定した.まず球状隆起の頂部からバンパー部が十分露出するまでCCを用いENDOCUTQで粘膜と粘膜下層の切開を繰り返す事で,胃瘻バンパー部を確認出来た(Figure 6).切開中の動脈性出血もCCのSOFT凝固を用い止血した.胃瘻を通して胃内にガイドワイヤーを挿入後,スネアを用いて胃瘻を抜去し経口的に回収した.引き続きガイドワイヤーを介し経皮的にバルーン型の胃瘻を再留置した(電子動画 1).術後に合併症は認めなかった.

Figure 6 

内視鏡治療時にバンパー部全体を確認することが出来たときの画像.

電子動画1

皮膚の発赤は抗菌薬を使用せずに胃瘻再造設後約10日で改善した.

Ⅲ 考  察

厚生労働省の第1,2回レセプト情報特定健診等情報データベース(NDB)オープンデータ 1),2によると,胃瘻造設術(経皮内視鏡的胃瘻造設術,腹腔鏡下胃瘻造設術を含む)の年度別施行件数は平成26年度が64,358件,平成27年度が60,550件と徐々に減少している.日本における胃瘻造設患者の予後は胃瘻造設後の1年生存率66-75.4%,生存中央値24.8-32.2カ月 3),4と報告されている.PEGの件数は減少したとはいえ,日常臨床現場において一般的な手技であり,今後も胃瘻トラブルに遭遇する場面は少なくないと予想される.

BBSの頻度は1.6-6.1%と報告 5されている.BBSを疑う所見は栄養剤が漏れてしまう,胃瘻を取り外せない,留置部の隆起,皮膚の発赤,浮腫などがある 5

BBSの治療法は状況によって対応が異なる.Usabaら 5によるボタン型の胃瘻におけるBBSの分類,治療法の分類の報告があり,同報告によるとまず,胃瘻の瘻孔に感染が伴っている場合は胃瘻を抜去し,新しい部位に胃瘻を再造設する.さらに胃瘻バンパー部が胃壁内に留まっているものを「partial burial」,胃壁外に脱落しているものを「total burial」と分類し,「partial burial」であった場合は造設キットを用いて同部位に再造設を行う.「total burial」であった場合はさらに「胃瘻を造設してから瘻孔自体が完成しているかどうか」でさらに分類し,瘻孔が完成している場合は同部位に再造設し,瘻孔が完成していない場合は別の場所に造設すると報告している.

本症例は,胃瘻バンパー部は胃壁内に留まっている「partial burial」であったものの,ボタン型ではなくチューブ型の胃瘻であり,胃瘻抜去用のキットはなく,胃瘻抜去は内視鏡を用いて経口的にしか抜去できないタイプの胃瘻であった.皮膚に発赤を認めていたものの,CTで蜂窩織炎や膿瘍形成等を疑う所見はなかったため,CCを用いて埋没バンパーを摘出後新しい胃瘻チューブと交換する方針となった.

今回抜去したフレンタEDカテーテルはBBSの発生率が4.8-5.8%と一般的な胃瘻と比べBBSの発生率より高く,またBBSの発生時期も大多数が2年以上経過してから発生している 6という報告がある.添付文書には交換時期に関する記載はなく,本症例では7年間内視鏡での胃内の観察は行っていなかったものの,少なくとも来院1年前までは問題なく使用できていた.

PubMed(1950-2017年),医学中央雑誌(1983-2017年)で『バンパー埋没症候群』『buried bumper syndrome』をキーワードに検索したところ,BBSの症例において内視鏡的に治療した症例は食道ブジー用のバルーンを用いてバンパー部を覆っている胃壁を拡張し治療を行った症例 7,ESD手技を応用しNeedle knife, Hybrid knife, Hook knifeを用いて胃壁を切開し,胃瘻を抜去した症例 8)~11,ERCP手技を応用しpapillotomeを用いて胃壁を切開し,胃瘻を抜去した症例 10,鮒田式胃壁固定術を応用し,胃瘻を抜去した症例 12が報告されていた(Table 1).いずれの報告でも最も多い合併症として出血が挙げられており,出血の頻度は9.8%-40% 8),10と高率であった.出血を来した症例のうち輸血を必要としたのは37.5%-50% 8),10であった.

Table 1 

内視鏡治療を行ったバンパー埋没症候群の症例.

バルーン型胃瘻チューブの使用例でのBBS報告例は認めず,BBS症例の再挿入時にバルーン型胃瘻チューブを留置することで再発症例は認めていないこと 13より,本症例でも再造設の際はバルーン型胃瘻チューブを使用した.1カ月後に胃瘻周囲の胃壁の肥厚が減少したこと(電子動画 1),皮膚の発赤が消失したことを確認してから,再度バンパー型胃瘻チューブに変更した.BBSの再発予防策は毎回の栄養剤投与時に胃瘻が1-1.5cm程度の遊びがあること,容易に用手的に回転する事を確認すること 14である.

今回治療に用いたCCとは,把持,固定,圧迫牽引しつつ直視下に通電切開,凝固可能な把持型鋏鉗子である.CCの最大の特徴は1本で生検の要領で切開・剥離や止血が行えることである 15.本病変は胃瘻が埋没した球状隆起で可動性があり表面平滑であり,呼吸性変動もあるため,ナイフ型処置具を用いると予期せぬ切開による穿孔や出血の危険性が高いと考えた.電子動画 1にもあるが,CCを用いることで目標組織をしっかりと把持固定し,ずれることなく正確に切開を行うことが出来た.また噴出性出血に対しても,凝固止血鉗子に交換する必要がなく,凝固止血を行うことができた.

Ⅳ 結  語

CCを用いて胃粘膜及び粘膜下層切開によりBBSを内視鏡的に安全に治療できた1例を経験した.栄養剤の投与が出来ないなどBBSを疑う所見があれば,早期に内視鏡での胃内の観察を行うことが重要と考えられた.

本症例は第109回日本消化器病学会九州支部例会で発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:赤星和也(富士フイルム㈱)

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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