GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TUMOR INVASION TO THE ARTERIES FEEDING THE GALLBLADDER AS A NOVEL RISK FACTOR FOR CHOLECYSTITIS AFTER METALLIC STENT PLACEMENT IN DISTAL MALIGNANT BILIARY OBSTRUCTION
Yuko SOGABEYuzo KODAMAHajime HONJOIkuo AOYAMAYuya MURAMOTOEri KOGATakafumi YANAIDANIMunenori KAWAITeppei YOSHIKAWAShimpei MATSUMOTOAstushi MATSUMOTOYoshiharu MORIChikage ONOMiyu NISHIDAYoshihiro NISHIDATakao MIKAMIYasuhiro MATSUNAGAYukiko MIYAMOTOMotoya KITAMIKoji NISHIKAWAMasahiko KONDONaoki MIYAKEChiharu KAWANAMI Hiroshi SENO
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2019 Volume 61 Issue 1 Pages 71-80

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要旨

【目的】 悪性胆道狭窄に対するself-expandable metallic stent(SEMS)留置後の主な合併症のひとつに胆嚢炎があげられる.虚血は胆嚢炎の危険因子のひとつであるが,SEMS留置後の胆嚢炎の発症における胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤の影響については知られていない.本研究はSEMS留置後胆嚢炎の危険因子を同定することを目的とした.

【方法】 対象は2012年1月から2016年6月までに京都大学医学部附属病院および大津赤十字病院で,切除不能遠位部悪性胆道狭窄に対しSEMS留置を行った107例について,胆嚢炎の発症率,9つの予測因子を後方視的に検討した.

【結果】 SEMS留置後胆嚢炎は107例中13例(12.1%)で発症し,観察中央期間は262日であった.単変量解析の結果,胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤(P=0.001)および胆嚢管合流部への腫瘍浸潤(P<0.001)が危険因子として同定された.多変量解析ではこれらふたつの因子が有意かつ独立した危険因子であることが示された(胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤:オッズ比 22.13;95% 信頼区間 3.57-137.18;P=0.001,胆嚢管合流部腫瘍浸潤:オッズ比 25.26;95% 信頼区間 4.12-154.98;P<0.001).

【結語】 胆嚢管合流部への腫瘍浸潤に加え,胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の危険因子であることをはじめて示した.

Ⅰ 背  景

Self-expandable metallic stent(SEMS)はplastic stentと比較した長期の開存期間や対費用効果の面から,切除不能悪性胆道狭窄(malignant biliary obstruction,MBO)の標準治療である 1)~3.しかし,遠位部MBOに対するSEMS留置後,約4.2~10.0%で胆嚢炎が発症し,大きな問題である 1),4.ひとたび合併症が生じると追加処置が必要となり,QOLが損なわれる上,予後にも悪影響を及ぼし得る.それゆえ,胆嚢炎の高危険群を同定することは安全なSEMS留置に重要である.

一般的に,急性胆嚢炎の原因の90~95%は胆嚢結石陥頓による胆嚢管閉塞が原因とされる 5.一方,急性無石性胆嚢炎の原因は胆汁鬱滞もしくは虚血と考えられている 6.このように,胆汁鬱滞および胆嚢虚血は胆嚢炎の主な原因である.実際,MBOに対するSEMS留置においても,これまでの研究で胆嚢管合流部(the orifice of the cystic duct,OCD)への腫瘍浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の危険因子として報告されている 7)~10.主な原因は腫瘍浸潤によるOCDの狭小化もしくは閉塞および弾性の消失,SEMSによる機械的圧迫と考えられている 10.われわれの経験では,SEMS留置後胆嚢炎は胆嚢栄養動脈(the feeding artery of the gallbladder,FA)浸潤を有する患者においても頻繁に発症し,虚血が胆嚢炎の原因である可能性が示唆された.しかしながら,腫瘍の動脈浸潤が危険因子となりうるかの検討はこれまでされていない.

本研究では,遠位部MBOに対するSEMS留置後胆嚢炎の発症率,危険因子について後方視的に解析を行い,胆嚢栄養動脈浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の独立した危険因子であることを示した.胆嚢栄養動脈浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の新規危険因子であることを示したはじめての報告である.

Ⅱ 方  法

対象

2012年1月から2016年6月までに京都大学医学部附属病院(144例)および大津赤十字病院(112例)においてMBOに対しSEMS留置を行った症例を内視鏡データベースで後方視的に検討した.そのうち,143例(京都大学医学部附属病院 70例,大津赤十字病院 73例)で初回経乳頭的SEMS留置が行われた.143例中,36例は対象から除外した(胆嚢摘出術後 18例,胆嚢癌 7例,経過観察期間30日未満 11例).最終的に,107例を対象に検討を行った.MBOの診断は病理学的所見および画像所見に基づいて行った.本検討は,京都大学医学部附属病院および大津赤十字病院の倫理委員会の承認を得て行った.患者は2017年3月もしくは死亡まで経過観察を行った.

ステント挿入

初回内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography)時にはPlastic stentもしくは経鼻ドレナージチューブを留置した.腫瘍が非切除であると判断した後,SEMS留置を行った.Vater乳頭に腫瘍浸潤がない場合は内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic biliary sphincterotomy)をSEMS留置前に行った.すべてのSEMSは10mm径のものを用いた.5種類のSEMSを使用した(WallFlex(Boston Scientific Corporation, Natick, MA, USA),fully covered 42例,partially covered in six, and uncovered 13例;X-Suit NIR covered(OLYMPUS, Tokyo, Japan)17例;ZEO STENT covered(ZEON Medical Corporation, Tokyo, Japan)13例;BONA STENT covered(Sewoon Medical Co., LTD, Seoul, Korea)12例;Niti-S(Taewoong Medical, Seoul, Korea),fully covered ComVi 2例,SPREMO 1例,and uncovered1例).

SEMSは既報に基づき,直線化力(axial force:AF)と拡張力(radial force:RF)について分類した 10),11.WallFelx covered stents は高AF,ZEO STENT covered,Niti-S fully covered ComViは低AFに分類された.これら3つのSEMSはすべて低RFに分類された.その他のSEMSについては公表されたデータがなく,検討から除外した.

胆嚢管合流部(the Orifice of the Cystic Duct,OCD)への腫瘍浸潤の診断

腫瘍のOCD浸潤の有無は,SEMS留置前に内視鏡的逆行性胆道造影(endoscopic retrograde cholangiography;ERC),multidetector-row computed tomography(MDCT),magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP),endoscopic ultrasonography(EUS)を含む画像検査で評価を行った.胆管癌症例についてはERCの際にintraductal ultrasonography(IDUS) 12での評価を行った.OCD浸潤は腫瘍がOCD周囲に存在する場合,もしくはERCの際に胆嚢管が胆道の不整な狭小化部位から造影された場合と定義した(Figure 1).これまでの報告で胆嚢管が開存していてもERCで認識できないことがあるとされている 12.そのため,ERCで胆嚢管が造影されないのみでは腫瘍浸潤とは定義しなかった.

Figure 1 

胆嚢管合流部(the orifice of the cystic duct,OCD)浸潤の代表的画像.

A:胆道造影.

B:CT(矢頭,OCD;アスタリスク,腫瘍).胆嚢栄養動脈(the feeding artery of the gallbladder,FA)浸潤の代表的画像.

C:CT(FA;本症例では右肝動脈)(矢頭,FA;アスタリスク,腫瘍).

胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤の評価

胆嚢動脈の解剖学的変異をMDCTで評価した.胆嚢動脈への腫瘍浸潤もしくは胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤は,SEMS留置前にMDCTにおいて腫瘍が動脈周囲に進展し動脈辺縁が不整な場合と定義した(Figure 1).画像所見の評価は著者のひとりが行った(Y.S.).

胆嚢炎の診断と治療

SEMS留置後,腹痛,発熱もしくは炎症反応上昇がみられた場合,超音波検査またはCT検査を行った.Tokyo Guidelines 2013 13に基づき,sonographic Murphy’s sign,胆嚢腫大,胆嚢壁肥厚,胆嚢周囲浸出液などの所見がみられた場合に胆嚢炎と診断した.Tokyo criteria 2014 14に基づき,SEMS留置後30日以内に発症した場合を早期胆嚢炎(early cholecystitis),31日以降に発症した場合を後期胆嚢炎(late cholecystitis)と定義した.合併症の発症時期は,胆嚢炎に関連する症状がはじめてみられた時点と定義した 14.胆嚢炎を発症した場合,抗菌薬投与および,必要に応じて経皮的胆嚢穿刺吸引術(percutaneous gallbladder aspiration,PTGBA),経皮的胆嚢ドレナージ術(percutaneous gallbladder drainage,PTGBD),超音波内視鏡ガイド下胆嚢ドレナージ術(endosonography-guided gallbladder drainage) 15),16,外科的手術を行った.

統計学的解析

単変量解析はFisher直接検定もしくはχ 2検定を用いて行った.胆嚢炎について以下の9項目に対し単変量解析を行った.1)原疾患;2)OCD腫瘍浸潤;3)胆嚢栄養動脈(FA)腫瘍浸潤;4)ステント上端位置(OCD肝側もしくは乳頭側);5)ステント下端位置;6)胆嚢結石;7)SEMS留置時の胆管炎の有無;8)予防的抗菌薬投与;9)SEMS a)ステント長,b)SEMS種類(coveredもしくはuncovered),c)SEMS構造(braidedもしくはlaser-cut).P<0.2の項目について多変量ロジスティック回帰分析を行い,調整オッズ比,95%信頼区間を評価した.すべての統計学的解析は両側検定で行い,P<0.05を有意とした.すべての解析はSPSS Statistics version 22(IBM,Tokyo,Japan)を用いて行った.

Ⅲ 結  果

患者背景

解析を行った107例の患者背景をTable 1に示した.年齢中央値は70歳であった.胆道閉塞の原因は膵癌93例(86.9%),胆管癌5例(4.7%),転移性腫瘍3例(2.8%),膵神経内分泌腫瘍3例(2.8%),乳頭部癌,膵管内乳頭粘液性腺癌,悪性リンパ腫がそれぞれ1例(0.9%)であった.胆嚢動脈の起源は右肝動脈(the right hepatic artery,RHA)83例(77.6%),replaced RHA 12例(11.2%),左肝動脈5例(4.7%),胃十二指腸動脈(the gastroduodenal artery,GDA)4例(3.7%),評価不能3例(2.8%)であった.胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤は24例(22.4%)でみられ,すべて胆嚢栄養動脈への浸潤であり胆嚢動脈への直接浸潤はみられなかった.胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられた24例のうち,胆嚢動脈は22例でRHAから分岐しており,2例でreplaced RHAから分岐していた.

Table 1 

切除不能遠位部悪性胆道狭窄に対しSEMS留置を行った107例の患者背景.

胆嚢炎の発症率

観察期間中央値は262日(34~1,387日)であった.胆嚢炎は13例(12.1%)で発症し,SEMS留置後中央値21日(0~380日)後にみられた.早期胆嚢炎は9例(8.4%)で中央値14日(0~26日)後に,後期胆嚢炎は4例(3.7%)で中央値92.5日(43~380日)後にみられた.

本研究では,SEMS留置後胆嚢炎は特異的な初期症状に乏しかった.13例中5例(38.5%)に腹痛がみられ,8例(6.15%)で発熱がみられた.2例は無症状であった.腹痛がなかった8例のうち,2例のみが原疾患に対し鎮痛剤を使用していた.残りの6例は鎮痛剤を使用していないにもかかわらず,腹痛がみられなかった.

胆嚢炎の臨床経過

早期胆嚢炎を発症した9例のうち,1例で処置翌日に壊疽性胆嚢炎および穿孔性胆汁性腹膜炎をきたし,外科的切除を行った.4例で胆嚢周囲に膿瘍形成がみられ,うち2例はPTGBD,1例は超音波内視鏡ガイド下胆嚢ドレナージ術を行い,1例は原疾患の予後不良のため抗菌薬治療のみを行った.膿瘍形成を伴わなかった残りの4例では,2例は抗菌薬投与のみ,2例はPTGBAで治癒した.後期胆嚢炎の4例では,全例で胆嚢周囲に膿瘍形成をきたし,2例でPTGBA,2例でPTGBDを行った.1例で処置7カ月後に再発性の胆嚢炎,膿瘍形成がみられ,PTGBDを行った.後期および再発性胆嚢炎の5例において,4例で腫瘍増大がみられ,うち2例は胆嚢栄養動脈への腫瘍浸潤の増悪がみられた(Figure 2).OCD腫瘍浸潤の増悪については炎症性変化およびSEMSの影響により判断困難であった.

Figure 2 

後期胆嚢炎症例.

CTで腫瘍浸潤による胆嚢栄養動脈の狭小化がみられる.

A:self-expandable metallic stent(SEMS)留置前.

B:SEMS留置7カ月後(矢頭,胆嚢栄養動脈;本症例では右肝動脈).

外科的切除を要した症例では,膵癌による閉塞性黄疸および高度なOCD腫瘍浸潤(Figure 3-A),肝動脈浸潤(Figure 3-B)がみられた.SEMS留置翌日,壊疽性胆嚢炎および穿孔性胆汁性腹膜炎をきたし(Figure 3-C),胆嚢摘出術の適応と判断した.切除胆嚢の病理学的所見では,胆嚢壁の全層性炎症性変化および虚血壊死がみられた(Figure 4).

Figure 3 

CTで膵癌による閉塞性黄疸,胆嚢管合流部(the orifice of the cystic duct,OCD).

A:肝動脈浸潤(矢頭,OCD;矢印,胆嚢動脈).

B:高度な腫瘍浸潤がみられる(矢頭,肝動脈;アスタリスク,膵癌).

C:壊疽性胆嚢炎および穿孔性胆汁性腹膜炎をSEMS留置後に発症した.

Figure 4 

切除標本の病理学的所見.

胆嚢の貫壁性虚血性壊死(A)および炎症細胞浸潤(B)がみられる.

胆嚢炎の危険因子

単変量解析でOCD腫瘍浸潤,胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の有意な危険因子であった(Table 2).胆嚢炎はOCD腫瘍浸潤がみられた17例中9例(52.9%)で発症し,胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられた24例中10例(41.7%)で発症した.両因子が陽性であった8例中7例(87.5%)で胆嚢炎が発症した.胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられた10例全例で,胆嚢動脈はRHAから分岐していた.

Table 2 

胆嚢炎の危険因子についての単変量解析.

一方,原疾患,ステント上端位置,ステント下端位置,胆嚢結石,SEMS留置時の胆管炎,予防的抗菌薬投与,SEMS(ステント長,ステント種類,AF)は胆嚢炎の危険因子ではなく,SEMS構造(P=0.105)以外はさらなる解析から除外した.上記2因子およびSEMS構造について多変量解析を行った.胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤(オッズ比 22.13;95%信頼区 3.57-137.18;P=0.001)がOCD腫瘍浸潤(オッズ比 25.26;95%信頼区間 4.12-154.98; P<0.001)とともに,胆嚢炎の独立した危険因子として同定された(Table 3).

Table 3 

胆嚢炎の危険因子についての多変量解析.

Ⅳ 考  察

本研究では,遠位部MBOに対するSEMS留置後胆嚢炎の発症率,危険因子について後方視的な解析を行った.胆嚢炎は107例中13例(12.1%)で発症し,胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がSEMS留置後胆嚢炎の有意な独立した予測因子として新たに同定された.

これまでの報告によると,遠位部MBOに対するSEMS留置後胆嚢炎の発症率は4.2から10.0%と報告されている 1)~3.本研究においては12.1%と既報よりやや発症率が高かった.これはおそらく本研究の観察期間が長期間にわたることによるものと考える.SEMS留置後30日以内に発症した胆嚢炎のみを評価すると,発症率は8.4%でありこれまでの報告とおおよそ同程度である.危険因子に関して,これまでの報告ではOCD腫瘍浸潤,胆嚢結石,Axial forceの高いSEMS 11がSEMS留置後胆嚢炎の予測因子として同定されている 7)~10.これらは胆汁流出路の閉塞により胆嚢炎を引き起こすと考えられている.今回のコホートにおいても,胆嚢炎はOCD腫瘍浸潤がみられた17例中9例(52.9%)で発症しており,独立した危険因子であった(オッズ比 25.26;95%信頼区間 4.12-154.98;P<0.001).

胆嚢炎の他の原因として虚血があげられる.本研究での胆嚢炎13例において,1例で壊疽性胆嚢炎,胆汁性腹膜炎が,8例で胆嚢周囲膿瘍形成がみられた.これらの胆嚢炎の重篤な合併症は胆嚢壁の穿孔によるものであり,胆嚢の虚血および壊死の結果として最も頻繁に起こる 5.胆嚢摘出術を行った症例において,外科的切除された胆嚢は全層性炎症性変化および虚血による胆嚢壁の壊死がみられた.われわれは腫瘍の胆嚢栄養動脈浸潤が虚血の主な原因のひとつであると考える.実際,本コホートにおいて,胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられた24例中10例(41.7%)で胆嚢炎を発症し,これは独立した危険因子であった(オッズ比 22.13;95%信頼区間 3.57-137.18;P=0.001).一般的に,総肝動脈(common hepatic artery,CHA)は総胆管の左側を走行する.RHA,replaced RHA,GDAは総胆管を横切る.胆嚢動脈は一般的にRHAから分岐し(72.02%),replaced RHA,GDAから分岐することもある 17.このように,総胆管へのSEMS留置は胆嚢栄養動脈を圧迫する可能性がある(Figure 5).腫瘍の栄養動脈浸潤は胆嚢血流に影響するため,われわれはSEMS留置による栄養動脈の圧迫はさらなる胆嚢虚血を引き起こし,胆嚢炎の誘因となると推測した.この考えに基づくと,大口径のSEMSは胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がある症例では胆嚢炎のリスクとなり得,細径のSEMSやAxial forceの低いSEMSがよりよい選択となる可能性がある.これらのSEMSについて,さらなる検討が望まれる.さらに,後期胆嚢炎において,4例で腫瘍増大,2例で胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤の増悪がみられた.後期胆嚢炎は腫瘍増大によるOCD,胆嚢栄養動脈の圧迫増悪が原因である可能性が考えられる.

Figure 5 

胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤,胆嚢管合流部腫瘍浸潤のある症例でのself-expandable metallic stent(SEMS)留置による影響についての体軸断面,冠状断面のイラスト.

A:SEMS留置前.

B:SEMS留置後.総胆管(the common bile duct, CBD)へのSEMS留置は胆嚢栄養動脈を圧迫し胆嚢血流低下をきたす可能性があることに留意する.

CA, cystic artery; CHA, common hepatic artery; FA, the feeding artery of the gallbladder; GB, gallbladder. GDA, gastroduodenal artery; RHA, right hepatic artery; rRHA, replaced RHA; SMA, superior mesenteric artery; T, tumor.

本研究において,SEMS留置後胆嚢炎13例中8例で腹痛がみられなかった.理由は明らかではないが,OCD腫瘍浸潤や胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられる症例ではSEMS留置後,注意深い観察と正確な評価の必要性が示唆される.

本研究にはいくつかの限界がある.はじめに,後方視的検討であり技術的な限界や選択バイアスが避けられない.次に,画像所見を単独の消化器内科医が評価しており,観察バイアスが避けられない.3つ目に,SEMS種類のような胆嚢炎に関する他の因子の評価を行うには症例数が少ない.多施設,前向きのさらなる検討が望まれる.

結論として,胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤はSEMS留置後胆嚢炎の独立した危険因子である.胆嚢栄養動脈腫瘍浸潤がみられる症例では,OCD腫瘍浸潤がみられる患者と同様,SEMS留置にさらなる注意が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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