GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CURRENT STATUS AND FUTURE PERSPECTIVE OF LAPAROSCOPIC AND ENDOSCOPIC COOPERATIVE SURGERY
Osamu GOTO Daisuke KAKINUMA
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2019 Volume 61 Issue 10 Pages 2327-2336

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要旨

腹腔鏡と内視鏡を用いて,過不足なく任意の部位を安全・確実に全層切除できる腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopic cooperative surgery:LECS)は,より低侵襲な局所切除法として2014年に保険適応となり,腹腔鏡下手術の適応となる胃粘膜下腫瘍を主な対象として国内外に普及している.LECSコンセプト誕生に紹介された管腔開放性術式であるClassical LECS以降,CLEAN-NET, NEWSなど管腔を開放させない方法も考案され,大きさや発育形式,潰瘍の有無など病変の特徴に応じて適切な術式を選択することが可能となった.また,胃癌や他臓器への応用,さらにはセンチネルリンパ節ナビゲーション手術との融合も試みられており,LECSのさらなる適応拡大が期待されている.

Ⅰ はじめに

腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopic and endoscopic cooperative surgery:LECS)は,腹腔鏡と内視鏡を用いたより低侵襲な局所切除手術法である.手術時の腹腔鏡処置と内視鏡処置の併用は以前より臨床的に試みられていたが,両者の併用手技を低侵襲手術のコンセプトとして確立させたのがHikiらであり,2008年の論文でLECSの名称が初めて使用された 1.以後,先進施設を中心とした症例の集積とその有用性が明らかにされ,2014年に腹腔鏡下胃局所切除術における「内視鏡処置を併施するもの」として保険収載されるに至った.

本総説では,まずLECSの適応と代表的な手技の実際を紹介する.その後,本コンセプトの適応拡大へ向けた取り組みと,LECSに代表されるcombination surgeryにおける海外の動向を概説する.

Ⅱ LECSの適応

LECSの本質は「腹腔鏡を用いたより低侵襲な臓器温存・局所切除術」であることから,適応病変としては元来腹腔鏡下局所切除術の適応となりうる疾患となる.したがって,系統的なリンパ節郭清を必要とする癌や,腹腔鏡下手術の安全性におけるコンセンサスが得られていない大型の腫瘍性病変は適応外となる.

技術面において,腹腔鏡サイドからみたLECSの最大のメリットは,過不足のない最小限の切除範囲で任意に局所全層切除を行える点にある.腹腔鏡単独での局所切除では,管腔外からの観察では範囲の視認が困難な病変の場合切除範囲を決定しにくく,確実なR0切除を得るために広範囲の切除を余儀なくされることがある.また,食道胃接合部や幽門部に近い病変の場合,病変が確認できたとしても,解剖学的にリニアステープラーを最適な角度で用いることができないこともあり,結果的に噴門や幽門の温存が不可能になることが考えられる.内視鏡を併用して管腔内から切除範囲を決定し,切除ラインを内視鏡的に確定させることで,必要最小限の範囲での切除が可能となる.

内視鏡サイドからのLECSのメリットとしては,確実な切除創の閉鎖が行える点が挙げられる.内視鏡単独で局所全層切除を行うとした場合,病変を切除しえたとしても,その後の全層欠損部を虚脱した管腔内からの操作のみで確実に閉鎖するには,相応の内視鏡技術と閉鎖デバイスが必要となる.確実な全層閉鎖デバイスが普及しておらず,現在使用可能な内視鏡デバイスによる閉鎖では安全性が担保できるとはいえない現状においては,確立された創閉鎖法としての腹腔鏡下縫合手技が必要不可欠である.

以上より,腹腔鏡下局所切除の適応となる,消化管間葉系腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:SMT)に代表される5cm以下の胃粘膜下腫瘍がLECSの最も良い適応と考えられている 2.特に,壁外からの病変部位が同定困難な腔内発育型病変や,食道胃接合部近傍の病変などにはLECSの利点が最大限に生かせると考えられる.

Ⅲ 胃SMTに対するLECSの実際

現在LECS手技として扱われる主な手法として,classical LECS,combined laparoscopic and endoscopic approach to neoplasia with a nonexposure technique(CLEAN-NET),nonexposed endoscopic wall-inversion surgery(NEWS)が挙げられる.これらの手技を含め,現在までLECSに関して多数のreview articleが執筆されている 3)~7.以下,各手技およびそれらの変法について概説する.

Classical LECS(Figure 1
Figure 1 

胃粘膜下腫瘍に対するClassical LECS.

a:胃角部前壁に45mm大の腔内発育型粘膜下腫瘍を認める.

b:漿膜側からでは病変の範囲がやや不明瞭である.

c:内視鏡下に粘膜下層局注と粘膜切開を行った後,漿膜筋層を意図的に穿孔させる.

d:腹腔鏡下に漿膜筋層切開を追加する.

e:手縫い縫合で全層閉鎖.

f:病変切除後.胃の変形は認めない.Low risk GISTであり,R0切除が得られた.

2008年にHikiらが初めてLECSのコンセプトを提唱した際に用いられた手法である 1.当初は狭義のLECSとしての意味を有していたが,それ以降以下に述べる様々な手法が考案された背景から,現在はclassical LECSと呼称し,コンセプト名としてのLECSと区別して用いられている.2008年に胃SMT 7例の治療成績が発表されて以降,同施設から2016年に100例での手術成績 8が,2017年には同施設を主幹とする126例の多施設データが報告されている 9.また,LECS先進施設からのcase seriesも散見される 10)~13

腹腔鏡にて大まかな術野を展開したのち,まず内視鏡で病変を確認し周囲に粘膜マーキングを行う.引き続いてマーキング下の粘膜下層に全周性に局注を行い,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)で用いられる高周波ナイフを用いて粘膜を全周切開し,病変の切除ラインを決定する.その後,露出した粘膜下層から漿膜筋層に向かって通電し意図的に穿孔させ,その小孔を広げるように粘膜切開ラインに沿って漿膜筋層切開を行う.穿孔後は胃が虚脱するため,適宜腹腔鏡にて外側からトラクションがかかるようアシストする.ある程度漿膜筋層切開が進んだところで外側から超音波凝固切開装置などの腹腔鏡デバイスを挿入し,粘膜切開ラインに沿って残りの漿膜筋層を全周性に切開する.病変を切離したのち,ステープラーで切除部を全層閉鎖する.漿膜筋層切開に関してはすべて内視鏡下に行う場合や,逆に意図的な穿孔後すぐに腹腔鏡下に行う場合もあり,状況に応じて,あるいは各施設の方針によって決められる.また,食道胃接合部など術野の確保が困難でステープラーが操作しにくい部位では,腹腔鏡下手縫い縫合で閉鎖を行うこともある.

本手技は各ステップが単純明快であり,技術的にも容易であるうえ,比較的短時間で手術を終えられるため,極めて効率的な手法であると考えられる.特にLECSの導入初期の段階では極めて有用であると思われる.また,病変を経腹壁的に回収するため,腫瘍の大きさに関する制限がないのもメリットの一つといえる.一方で,classical LECSに代表されるいわゆる開放性術式においては,術中に管腔内外が交通することから,腹腔内の清潔操作が維持できない点がデメリットとして挙げられる.さらに,潰瘍を伴うSMTなど腫瘍が管腔に露出している場合には,腫瘍細胞の腹腔内への播種が危惧されるため,後述する非開放性術式を選択するほうがより安全性が高いと考えられている.胃液の腹腔内漏出を防止する目的で考案されたinverted LECS 14は,複数の縫合糸で病変周囲を王冠状に吊り上げ,病変を胃内に落とし込む形で切除し経口的に回収する方法であり,腹腔内汚染や医原性播種のリスクを最小限にできると考えられる.ただし,管腔内外の交通は避けられず,腫瘍が管腔内に露出している病変の場合,腫瘍表面が直接あるいは腹腔鏡デバイスを通じて間接的に腹腔内に接触する可能性は否定できないことから,術中は細心の注意を払って病変を取り扱う必要がある.以上より,classical LECSは(腹腔鏡下手術の適応となる)5cm以下の潰瘍のない腔内/壁内発育型胃SMTが良い適応となる.

CLEAN-NET(Figure 2
Figure 2 

胃粘膜下腫瘍に対するCLEAN-NET.

a:前庭部小彎に25mm大の粘膜下腫瘍を認める.

b:壁外成分のほうが多く,腔外発育型である.

c:内視鏡的に粘膜下層に局注.

d:腹腔鏡下に漿膜筋層切開を行い,病変を外方に圧出させながらステープラーにて粘膜を挟み,病変を切離.

e:手縫いで漿膜筋層縫合を追加.

f:病変切除後の内視鏡像.変形・狭窄等を認めない.Low risk GISTであり,R0切除が得られた.

Inoueらにより考案され,2012年に臨床22症例のcase seriesが論文化された非開放式LECSである 15.腹腔鏡および内視鏡で病変を確認したのち,腹腔鏡デバイスを用いて病変周囲の漿膜側にマーキングを行う.次に内視鏡下に病変周囲の粘膜下層に十分に局注し,腹腔鏡下に漿膜筋層を全周性に切開する.引き続き粘膜下層を深切りし病変と周囲との距離を十分に確保したのち,病変を管腔外方向に牽引する.粘膜が伸展することで病変と胃との距離が十分に確保されたことを確認したのち,粘膜基部と切開した漿膜筋層辺縁を直線状に閉鎖するようにリニアステープラーにて切離,経腹壁的に回収する.粘膜面と漿膜面のずれを防止する目的で,マーキングの際にあらかじめ病変周囲を4カ所ほど全層縫合することがある.また,病変切離の際,リニアステープラーで全層を縫合する代わりに粘膜のみを機械縫合し,漿膜筋層を手縫いで追加縫合する場合もある.

本術式の最大の特徴は,管腔を開放させずに病変を切除できることにある.したがって,腹腔内汚染のリスクがないうえ,潰瘍を有するSMTや上皮性腫瘍であっても,腹腔内播種を危惧することなく適応とすることができる.また,通常の腹腔鏡下局所切除と異なり,先に漿膜筋層を切開し,粘膜を伸展させて病変を外方に牽引することで,より小さい範囲で局所切除を行うことができる.技術的難度もそれほど高くなく,内視鏡下局注後の腹腔鏡操作で,粘膜を穿孔させることなく確実に漿膜筋層を切開することができれば手技の成功率は高くなる.ステープラーを用いるうえ,内視鏡操作も粘膜マーキングと局注のみであるため,短時間で手技を終えることができることもメリットの一つである.また,回収はclassical LECS同様経腹壁的に行うため,腹腔鏡下手術の対象病変であれば大きさの制限もない.以上より,5cm以下の壁内/腔外発育型SMTが本法の最も良い適応であり,潰瘍の有無を問わずに治療対象とすることができる.また,局所切除の適応となる上皮性腫瘍に対しても切除対象となりうる 16

NEWS(Figure 3
Figure 3 

早期胃癌に対するNEWS.

a:胃体中下部小彎前壁に径40mmの0-Ⅱaを認める.SM深部浸潤が疑われたが86歳と高齢であったことなどから,十分なICのもとNEWSによる局所切除を施行.

b:内視鏡ガイド下に腹腔鏡的に漿膜面にもマーキング.

c:内視鏡下に粘膜下層へ局注した後,腹腔鏡的に漿膜筋層を切開する.

d:病変を内反させながら漿膜筋層を手縫い縫合する.

e:内視鏡的に粘膜・粘膜下層切開を行い病変を切離,経口的に回収する.

f:粘膜をクリッピングし終了.変形なく最大限胃を温存できた.最終病理診断は40×25mm,tub2>por1,pT1b2(SM2),INFa,Ly1a,V1a,pPM0,pDM0,pN0(0/2),pStage ⅠAであった.術後8カ月現在,経口摂取良好で体重減少なく無再発生存中である.

CLEAN-NET同様,完全非開放式LECSの一つであり,病変を管腔側に内反させ,内視鏡的に病変を切除し経口回収する方法である.Gotoらがまず動物の切除胃を用いた術式の紹介を2011年に 17,同じ研究グループのMitsuiらが生体ブタによる実行可能性評価を2013年に 18,臨床6例によるcase seriesを2014年に発表した 19.その後Gotoらにより別施設から2016年に臨床20例での短期治療成績が報告された 20

腹腔鏡で術野を展開し,内視鏡で病変の位置を把握したのち,まず内視鏡で病変周囲の粘膜面にマーキングを行う.続いて,内視鏡によるナビゲーション下に,腹腔鏡で病変周囲の漿膜面にマーキングを行う.内視鏡で全周性に粘膜下層局注を行ったのち,CLEAN-NET同様腹腔鏡的に漿膜筋層を切開する.穿孔させないように十分に注意しながら粘膜下層を深切りして病変と周囲との間隙を十分に広げる.引き続いて,病変が管腔側に内反するように腹腔鏡下に漿膜筋層を直線状に手縫いで連続縫合する.縫合の途中でスペーサーとなる外科用スポンジを縫合面と病変の漿膜面との間に挿入しつつ縫合を完了させる.最後に,内視鏡を用いて内反した病変周囲の粘膜を全周性に切開し,埋没させたスペーサーを摘出するように粘膜下層を切開して病変を切離,スペーサーと病変を経口的に回収する.切除創の粘膜はクリッピングその他の方法で閉鎖する 21.なお,粘膜下層の局注後,先に内視鏡で粘膜切開を行い,病変をスペーサーとともに内反させながら漿膜筋層を縫合,再び内視鏡で漿膜筋層を切開する方法(closed LECS)も紹介されている 22

本術式も管腔内外の交通が避けられるため,腹腔内汚染のリスクもなく,かつ腹膜播種の危惧も払拭できるため,潰瘍を有するSMTや上皮性腫瘍にも適応可能である.さらに,漿膜側,粘膜側ともにマーキングを視認しながら切開を行うため,腹腔鏡医,内視鏡医ともに最適な切除範囲を設定することが可能であり,必要最小限の切除で手技を終えることができる.さらに,漿膜筋層縫合を手縫いで行うことで,術後の変形も最低限におさえられることが期待できる.ただし,他のLECS手技に比し技術的に難度が高いとされており,完遂度を高めるにはある程度の習熟が必要となる.また,病変は経口的に摘出されるため,大型の病変は適応外となる.したがって,NEWSは短径3cm以下の腔内/壁内発育型SMTが良い適応となる.CLEAN-NET同様,潰瘍を有するSMTや上皮性腫瘍も適応病変とすることができる.

Ⅳ 胃癌に対するLECS

過不足のない局所切除が得られるLECSは,胃腫瘍のうち最も頻度の高い胃癌にもその適応が期待されている.しかし,SMTと異なり胃癌においては,上記の如く開放性術式を選択した場合に医原性の腹腔内播種を惹起する危惧がある.事実,癌を有する胃の中に貯留している胃液中には腫瘍細胞が浮遊していることが証明されている 23),24.また,その中には癌幹細胞マーカー陽性の細胞が含まれており,培養によってそのviabilityが確認されている 25.さらに,胃癌表面に接触することで腫瘍細胞が容易に剝離することも実証されている 26.臨床においては,早期胃癌に対するESD時に穿孔を来した84例では腹膜播種を来さなかった 27との既報がある一方で,22例中2例で腹膜播種再発を来したとの報告がある 28.管腔の開放と播種の因果関係を臨床的に証明するのは倫理的にも難しく,あくまで推定の域を出ないものの,現時点では胃癌のように管腔内に腫瘍が露出している腫瘍に対しては非開放性術式を選択すべきであるとのコンセンサスが得られつつある.

もう一つの課題として,リンパ節郭清の有無とその範囲の問題がある.リンパ節転移リスクが極めて低いと考えられる胃癌に対しては内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)に代表される内視鏡的局所切除で根治が得られることが期待できるため 29,LECSによる局所全層切除が必要となる病変は「ESDの適応となるが技術的に切除困難な症例」となる.一方,リンパ節転移リスクを有する胃癌に対しては予防的に系統的なリンパ節郭清が必要となる.その際,胃を栄養する主要な血管も切離するため,残胃に送られる血流以上に胃を温存した場合,相対的な血流不足となり壊死を来す可能性がある.したがって,系統的なリンパ節郭清に原発巣の局所切除を組み合わせることは避けるべきと考えられており,原発巣周囲の領域リンパ節のみを郭清し(legional lymph node dissection),主病巣をLECSにて局所切除する術式が国内外から報告されている 30),31.さらに,センチネルリンパ節理論を胃癌に応用し,センチネルリンパ節流域郭清(sentine node basin dissection)と非開放性LECSを融合させた低侵襲・機能温存手術の可能性が提案されている 32),33.センチネルリンパ節理論を用いることで,郭清すべきリンパ節の範囲を客観的に把握することができるため,本術式は理論的にもより根治性を担保できる術式であると考えられる.

Ⅴ LECSの他臓器への応用

十二指腸

現在その発見率が増加傾向にある十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療は,極めて薄い管腔壁,低い内視鏡操作性,胆汁や膵液の暴露による切除創の治癒遅延など,臓器の特性上極めて困難かつ危険な手技であるとされている.そこで,内視鏡単独切除のデメリットを腹腔鏡のアシストにて克服する手段として,LECSの十二指腸への適応拡大が注目されている.具体的には,内視鏡的に全層切除を行い腹腔鏡で切除層を縫合閉鎖する方法 34,全層切除ではなくESDにて病変を切除し,腹腔鏡で切除部の漿膜筋層を外側から縫合にて補強し遅発性穿孔を予防する方法 35,病変を全層性に吸引してO-ringをかけ,腹腔鏡下に病変裏の縫合を行ってから高周波スネアで内視鏡的に全層切除する方法 36など,様々な工夫が報告されている.しかし,胃と同様に十二指腸の場合も,上皮性腫瘍に対する術式の選択には慎重であるべきと考えられている.十二指腸腺腫と癌との鑑別は依然として極めて困難であり,未だに確立された内視鏡診断法がない状況においては,すべての上皮性腫瘍がmalignant potentialを有していると考えて対応するほうが安全であることから,やはり管腔を意図的に開放する術式は避けるべきであると思われる.とはいえ,膵頭十二指腸切除に代表される十二指腸に対する標準的な手術も相当な侵襲となることから,保険の取り扱いも含め手技的に確立してはいないものの,十二指腸病変に対するLECSは将来的に極めて安全かつ有用な手段の一つとなることが期待される.

大腸

高度な線維化を有する病変,内視鏡治療後遺残再発病変など,ESDによる切除が困難な症例に対してLECSによる局所全層切除を行う試みが報告されている 37.やはり大腸も十二指腸同様,対象となる疾患は上皮性腫瘍が主なものであり,良悪性の鑑別精度はかなり向上してきたものの依然として診断困難な病変もあることから,術式については慎重に検討する必要がある.また,臓器温存という視点において,胃や十二指腸と異なり,大腸ではLECSによる切除範囲縮小のメリットが腹腔鏡下局所切除と比較してそれほど大きくないと考えられる.症例集積および長期予後の評価によって大腸LECSの有用性が明らかになることが期待される.

Ⅵ 海外の動向

LECSというコンセプトは本邦から発信されたものであるが,海外においては2000年代に注目されたnatural orifice translumenal surgery(NOTES)の一環として,腹腔鏡補助下に内視鏡治療を完遂させる方法が試みられていた.本来のNOTESは自然孔(natural orifice)である口や肛門,膣から挿入された軟性内視鏡を用いて,意図的に作成された管腔の穿孔部を通じて管腔外に進ませ,胆嚢摘出術,虫垂切除術などの手術を硬性鏡の代わりに行う,というものであり,体表に傷をつけずに腹腔鏡下手術と同等の治療が行える超低侵襲内視鏡治療として注目された 38)~41.その中で内視鏡的全層切除(endoscopic full-thickness resection:EFTR)は,管腔の意図的な穿孔を伴うという視点からNOTES関連手技として扱われていた.様々な動物実験が行われ,NOTES用の軟性鏡デバイスも開発されたが,安全性・確実性担保の課題が最後までクリアできなかったこと,腹腔鏡下手術を超えるメリットが期待できるような適応疾患を選定するのが難しかったことなどの理由により,結果的にはごく一部の臨床導入の報告を残すのみに終わった.その中で,解決困難な課題の一つであった「安全で確実な管腔穿孔部の閉鎖」を腹腔鏡に肩代わりしてもらう形での合同手術が,いわゆるhybrid NOTESとして提案されていた.現在でも,LECSをhybrid NOTESととらえる考え方もある 42),43

NOTESコンセプトは下火になったものの,欧州の一部では腹腔鏡と内視鏡とのコラボレーション手術を独自に考案し,実際に臨床導入を行った施設もある 44.また,ESDをはじめとする本邦の内視鏡治療手技に注目する国々では,LECSのコンセプトを受け入れ,自国で施行し,成果報告を行っている先進施設が散見される 45)~47.一方で,海外の内視鏡先進国では依然として内視鏡単独手技であるEFTRの確立に非常に熱心であり,胃SMTを内視鏡的全層切除で治療している報告が多数紹介されている 48)~50.より確実な全層閉鎖が期待できるover-the-scope clip(OTSC)の開発・普及もあり,まず病変にOTSCを留置し,ポリープ様に内反された病変の基部をスネアリングで全層切除する方法が行われており 51,クリップと高周波スネアが一体化された専用デバイスも開発されている 52

米国では,腹腔鏡と内視鏡の併用手術はcombined endolaparoscopic surgery(CELS)と呼称されている 53),54.対象は主に大腸病変であり,腹腔鏡観察下のポリペクトミーからLECSと同様の手法までが包括されている.本邦に比しcost-effectivenessが優先される米国においては,ESDなど高難度で長時間を要する内視鏡治療の代替法としてCELSを導入し治療時間を短縮する,という考え方のもと対象病変を規定している向きもあるように思われる.

Ⅶ おわりに

腹腔鏡下手術の隆盛と内視鏡治療の発展により,低侵襲性と適応疾患において双方が接近しつつあった状況を鑑みると,LECSの出現がいわば必然の産物であったことは想像に難くない.しかし,腹腔鏡と内視鏡との併用手術が一つのコンセプトとして確立・普及し,結果的に保険収載に至ったという事実は,古来より高いとされていた「内科と外科の壁」が取り払われ,実臨床においてよりpatient-orientedな治療法が提案されるようになったという意味も含め,特筆すべきことであろう.「安全で確実な局所切除」は,今後の症例の高齢化に向けて極めてニーズの高い手術法であるといえる.今後さらなる適応拡大と症例集積が望まれるところである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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