GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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THE INFLUENCE OF ENDOSCOPIC RESECTION PRIOR TO SURGICAL OPERATION ON THE PROGNOSIS OF PATIENTS WITH SUBMUCOSAL INVASIVE COLORECTAL CANCER
Arihito YOSHIZUMI Hidehiko UNOTakashi SHIDAKazuki KATOShin TSUCHIYATaro SHIMADATadashi SEKIMOTOTeisuke KOMATSU
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2019 Volume 61 Issue 10 Pages 2337-2345

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要旨

【背景・目的】大腸SM癌のリンパ節転移のリスク因子については様々な報告を認め,追加切除の適応については議論の余地がある.また,先行内視鏡的切除が予後に影響を与える可能性も報告されている.

【方法】当院でリンパ節郭清を伴う大腸切除術が施行された大腸SM癌118例を対象とし,リンパ節転移のリスク因子,無再発生存期間・全生存期間を調査し,先行内視鏡的切除が予後に与える影響を検討した.

【結果】リンパ節転移のリスク因子はリンパ管侵襲であり,リンパ管侵襲陰性例ではSM浸潤度が3,500μm未満ならばリンパ節転移を認めなかった.内視鏡的切除の有無で分けた2群間では,無再発生存期間・全生存期間共に有意差を認めなかった.

【結論】本検討からは先行内視鏡的切除が大腸SM癌の予後を増悪させる可能性は少なく,SM浸潤度が正確に診断できない病変に対してR0切除が可能であることを担保した上で慎重に内視鏡的切除を先行することは選択肢となり得ると考えられた.

Ⅰ 緒  言

近年内視鏡技術の進歩に伴い内視鏡的切除が積極的に行われるようになってきているが切除前に正確に深達度を診断することが困難な症例も存在する.大腸癌治療ガイドライン2016年版 1では内視鏡的切除の適応は内視鏡的一括切除が可能なM癌またはSM軽度浸潤癌となっているが,実際には意図せずにガイドラインの適応を超えてSM高度浸潤癌に対しても内視鏡的切除を施行していることが少なくない.また,内視鏡的切除後に短期間に進行した大腸癌や食道癌の症例報告 2),3を認め,外科的手術前に施行された内視鏡的切除がSM癌の予後に影響を与えている可能性も示唆されている.そこで今回われわれは大腸SM癌において,内視鏡的切除が予後に与える影響について検討を行った.

また,大腸癌治療ガイドラインではSM浸潤度1,000μm以深の大腸SM癌のリンパ節転移陽性率は12.5% 1で,SM浸潤度1,000μm以深浸潤例でも90%程度はリンパ節転移陰性のため,SM浸潤度以外のリンパ節転移のリスク因子や患者背景を考慮し追加切除の適応を決定することが重要であるとされている.そこで大腸SM癌の病理組織検査からリンパ節転移のリスク因子を推定した.

Ⅱ 対象・方法

2010年1月から2017年5月まで当院でリンパ節郭清を伴う外科的切除が施行された大腸SM癌症例133例を対象とした.そのうち重複癌症例(11例),術前化学療法症例(2例),経過観察期間が6カ月未満の症例(2例)は除外し最終的に118例が対象となった.最初にリンパ節転移のリスク因子を検討するためにリンパ節転移陽性例と陰性例に分けて検討を行った.次に内視鏡的切除を行った後に追加で外科的切除を行った群(以下,salvage surgery群)と外科的切除のみを行った群(以下,initial surgery群)に群分けした.Salvage surgery群ではEMRやESDなどの内視鏡的切除を施行し病理組織検査の結果が判明した後に,現在の大腸癌治療ガイドライン 1に基づき断端陽性・組織型が低分化・SM浸潤度1,000μm以深・脈管侵襲陽性・budding Grade2以上であった場合に追加切除について患者と相談しリンパ節郭清を伴う大腸切除術を施行した.検討項目は無再発生存期間・全生存期間とし,salvage surgery群とinitial surgery群で比較した.背景因子についても比較を行い,背景因子は患者因子(年齢,性別,腫瘍の部位,腫瘍最大径,組織型,SM浸潤度,脈管侵襲の有無,リンパ節転移の有無),手術因子(リンパ節郭清範囲・リンパ節郭清個数)とした.脈管侵襲の評価は1割面で行い,HE染色に加え,リンパ管侵襲はD2-40染色,静脈侵襲はElastica Van Gieson染色を併用して評価した.統計解析はT検定,Fisherの直接確率法またはχ 2検定,二項ロジスティクス回帰分析,Cox比例ハザードモデルを用いて行いp<0.05を有意差ありとした.無再発生存期間・全生存期間についてはLog-rank検定を用いて比較検討を行った.Tableの数値は中央値(最小値-最大値)で表記した.

Ⅲ 結  果

全体では男性81例,女性37例で年齢の中央値は69歳(34~90歳)であった.腫瘍部位は右側結腸が44例,左側結腸が41例,直腸が33例であった.リンパ節転移陽性例は12例であった.内視鏡的切除の有無については,initial surgery群が81例,salvage surgery群が37例であった.また,再発例は5例すべてinitial surgery群であり,そのうち2例が死亡の転帰となっていた(Table 1).

Table 1 

118例の臨床病理学的特徴.

1.リンパ節転移のリスク因子の検討

リンパ節転移の有無で分けた2群間の背景を検討すると単変量解析では性別とSM浸潤度とリンパ管侵襲において有意差を認めた.SM浸潤度については連続変数として解析した場合は有意差を認めたが,現行のガイドラインの基準である1,000μmで分けた場合には有意差を認めなかった.多変量解析では,性別とリンパ管侵襲において有意差を認めた(Table 2).次にリンパ管侵襲とSM浸潤度の関係についても検討を行った.リンパ管侵襲が陰性の場合はSM浸潤度が3,500μm未満ではリンパ節転移を認めなかったが,リンパ管侵襲が陽性の場合はSM浸潤度が1,000μm未満でもリンパ節転移を認めた(Table 3).

Table 2 

リンパ節転移のリスク因子の検討.

Table 3 

SM浸潤度とリンパ管侵襲の関係.

2.内視鏡的切除が予後に与える影響

Initial surgery群とSalvage surgery群の両群の患者背景を比較検討し,年齢と腫瘍部位において有意差を認めたがその他の因子においては有意差を認めなかった.有意差を認めた2つの因子についてCox比例ハザードモデルを用いて多変量解析を行った.多変量解析では年齢において有意差を認めた(Table 4).無再発生存期間はinitial surgery群で35カ月(6~82カ月),salvage surgery群で32カ月(6~81カ月)と有意差を認めなかった.全生存期間はinitial surgery群で38カ月(6~82カ月),salvage surgery群で34カ月(6~81カ月)と有意差を認めなかった(Figure 12).

Table 4 

initial surgery群とsalvage surgery群の背景の比較.

Figure 1 

initial surgery群とsalvage surgery群のRelapse-free Survivalの比較.

Figure 2 

initial surgery群とsalvage surgery群のOverall Survivalの比較.

3.再発例の検討

再発例は5例で,すべてinitial surgery群であり,うち2例が原病死していた.腫瘍部位としては右側結腸2例,左側結腸2例,直腸1例でSM浸潤度はすべて3,000μm以上であった.リンパ管侵襲はすべて陽性であったが,1例はリンパ節転移を認めなかった.再発時期は術後18カ月から46カ月で,再発形式は肝転移再発2例,リンパ節再発2例,吻合部再発1例であった(Table 5).

Table 5 

再発症例.

Ⅳ 考  察

現在,内視鏡的根治度判定基準のうち内視鏡的切除施行前に予測可能な因子はSM浸潤度のみであり,EUSや拡大観察によって深達度の正診率は76~90%と 4),5高くなってきているが,実臨床においてSM浸潤度の診断が困難であることも少なくない.実際にSM浸潤度の正確な診断ができない症例では,ガイドラインの適応を超えてSM高度浸潤癌に内視鏡的切除を意図せずに施行してしまうこともしばしばある.その一方で,SM浸潤度が正確に診断できないために外科的切除を施行し,病理組織検査ではSM軽度浸潤で結果的にはover surgeryとなってしまう症例も認める.そのような現状において,大腸SM癌に対する内視鏡的切除の施行が予後を増悪させることはないと判明すれば,正確にSM浸潤度が診断できない症例に対して内視鏡的切除を先行することにより,病理組織検査次第では外科的切除を回避できる可能性があり患者の利益につながると考えられる.

まずリンパ節転移のリスク因子について検討し,リスク因子は単変量解析では性別,SM浸潤度とリンパ管侵襲であり,静脈侵襲はリスク因子ではなかった.知花ら 6はリンパ節転移陽性群と陰性群でリンパ管侵襲の有無に有意差を認めたが,静脈侵襲の有無については有意差を認めなかったと報告している.静脈侵襲についてはOkanoら 7が早期大腸癌の外科切除例の検討で肝転移があった症例は,なかった症例と比較し有意に静脈侵襲が多かったと報告しており,静脈侵襲は肝転移と関連性があるとされている.原田ら 8は静脈侵襲陽性例に追加切除した後に肝転移再発した症例を経験し,追加切除は血行性転移再発を制御できない可能性があると報告している.つまり,追加切除がリンパ節転移を制御するための治療であることを考慮すると静脈侵襲のみが陽性の症例には追加の治療として外科的切除ではなく血行性転移再発予防の全身化学療法が有効な可能性があるのではないかと考えられた.リスク因子の多変量解析ではリンパ管侵襲がリンパ節転移のリスク因子であり,odds比が最も高くなっていた.リンパ管侵襲とSM浸潤度の関係について検討したところ,本検討ではリンパ管侵襲が陰性の場合はSM浸潤度が3,500μm未満ではリンパ節転移を認めなかった.Kitajimaら 9は大腸SM癌を有茎性・非有茎性に分類してリンパ節転移の有無を検討し,非有茎性病変ではSM浸潤度が1,000μm未満であればリンパ管侵襲の有無に関係なくリンパ節転移がないこと,有茎性病変ではリンパ管侵襲が陰性かつ浸潤度が3,000μm未満の症例にリンパ節転移がないと報告している.有茎・無茎の区別はないが本検討の結果でも浸潤度が3,500μm未満でリンパ管侵襲がない場合にリンパ節転移は認めておらず,リンパ管侵襲はリンパ節転移のリスク因子として非常に重要であり,リンパ管侵襲がない場合に浸潤度は現行のガイドラインの基準の1,000μmからもう少し緩和できる可能性が考えられた.しかしながら,脈管侵襲の正確な評価が困難な場合があることに留意しなければならない.本検討の再発例5例の中で2例は肝転移再発であったが2例のうち静脈侵襲陽性例は1例のみであった.津田ら 10は脈管侵襲がない症例でも転移再発を認めた症例が散見されることを報告しており,脈管侵襲の診断の困難さを指摘している.過去にはHE染色のみで評価していたこともあるが,昨今ではHE染色に加え,リンパ管侵襲はD2-40染色,静脈侵襲はElastica Van Gieson染色を併用して評価しており,本検討では全例D2-40染色を併用して評価したためその点においては過小評価の可能性は低いと考えられた.しかしながら通常の病理組織検査では脈管侵襲の判定は1割面のみで行われていることが多く,本検討も1割面のみでの評価であり,過小評価している可能性は否定できず,脈管侵襲陰性であることが転移再発の起きないことを保証するものではないことを念頭に置き追加治療について考慮する必要があると考えられた.

また,本検討では性別がリスク因子となったが,検索し得る限りでは同様の報告は認めなかった.過去の報告では 11),12右側大腸と左側大腸の比較で,有意差をもって右側大腸で女性の割合が高くなっており,右側大腸は左側大腸と比較してリンパ管侵襲が多いという報告 13も認め,これによりバイアスが生じた可能性がある.

本検討の再発例は5例で再発形式は肝転移再発が2例,リンパ節転移再発が2例,吻合部再発が1例であった.肝転移再発した2例のうち1例は静脈侵襲が陰性であり,前述した脈管侵襲の過小評価の可能性が疑われた.また,肝転移再発した2例ともに年齢や全身状態,患者の希望などを考慮して術後補助化学療法を施行しておらずこのような症例に今後どのように対応していくかは検討の余地があると考えられた.リンパ節転移再発した2例はともにリンパ管侵襲陽性でSM浸潤度も3,000μm以上であり,ともに経口薬での術後補助化学療法が行われていた.1例はリンパ節の郭清個数が6個と少なく郭清不十分だった可能性も考えられた.吻合部再発については吻合時の腸管内遊離癌細胞のimplantationやmarginの不足などの可能性が考えられた.再発時期は最短で18カ月で最長でも46カ月であった.大腸SM癌は進行癌と異なり再発時期が遅く5~6年で15%程度の再発が認められる 14とされているが,本検討では5例中4例が3年以内に再発していた.SM癌であってもリンパ節転移があればStageⅢ以上であり,進行癌と同じく3年以内の再発が多い可能性が考えられた.

外科領域では大腸癌に対する治療は開腹手術から腹腔鏡手術への移行が進んできている.腹腔鏡手術では,1967年にTurnbullら 15によって提唱されたnon-touch isolationの概念に基づき支配血管先行処理を行う内側アプローチ 16が多く用いられている.Non-touch isolation techniqueは癌病巣に手をつける前に,まず支配血管を遮断し癌の拡散を予防する手術操作である.従来の手術では術中に病巣を把持することにより組織内圧が高まり癌細胞が血管内やリンパ管内に撒布される危険があるとされていたが,Non-touch isolation techniqueでは血行遮断を先行することにより術中血中の癌細胞,癌関連遺伝子が明らかに低下する 17),18とされている.一方で,内視鏡的切除は局所治療であるため血管先行処理を行うことは困難であり,切除時の局注などにより組織内圧が高まり癌細胞の血管内やリンパ管内への撒布が起こりうる可能性がある.実際に,内視鏡的治癒切除後にもかかわらず,肝転移再発した症例報告 19を認める.また,内視鏡的切除時の電気刺激が癌細胞の増殖能の亢進を助長している可能性があるという報告 20もあり,内視鏡的切除後短期間に進行癌で再発した症例報告 2や急速にリンパ節が増大した症例報告 3を認める.このように内視鏡的切除により大腸SM癌の予後が悪化する可能性があり,そこで本検討を行った.先行内視鏡的切除の有無で分けた2群間の背景の比較ではCox比例ハザードモデルでの多変量解析で年齢のみ有意差を認め,ハザード比が1.2と高齢なほど再発しやすいという結果になっていた.initial surgery群の方がsalvage surgery群よりも年齢は高くなっておりinitial surgery群の方が予後が悪くなることが予想されたが,2群間で予後に有意差を認めず以前の報告 21)~24と一致していた.その理由としては内視鏡的切除から追加手術までのinterval期間が短いことが考えられる.本検討では全例3カ月以内に実施されており,同様の結果であったNozawaら 21の報告でもinterval期間は2カ月以内となっていた.interval期間については明確な基準はないが,内視鏡的切除後の大腸癌のダブリングタイムは98日とする報告 を認め,本検討でも3カ月以内の追加切除で良好な予後が得られていることから2~3カ月以内が望ましいと考えられる.

本検討から3カ月以内に追加切除が施行されれば,外科的切除前の先行内視鏡的切除が大腸SM癌の予後には影響しない可能性が示唆された.また,リンパ節転移のリスク因子であるリンパ管侵襲を内視鏡で評価することが困難である現状では,R0切除が可能であることを担保した上で患者の希望や全身状態を考慮しtotal biopsyの意味合いとして内視鏡的切除を先行し病理組織検査を加味してから追加切除について考慮するという治療をSM浸潤度が正確に診断できない病変に対しても選択し得ると考えられた.さらに一括切除が可能か否かを見極める診断学や切除病変の病理診断の精度の向上があれば大腸SM高度浸潤癌に対しても今後適応拡大する可能性があるとされている 25.しかしながら,大腸のESDは技術的難易度が高く合併症の危険性があり,特にSM高度浸潤癌では局注でliftingしない症例を認め,合併症の危険性が高まる場合があるので術者の技量を考慮して適応を決める必要がある.

また,本検討ではリンパ管侵襲陰性かつSM浸潤度3,500μm未満ならばリンパ節転移は認めなかったので,そのような症例では追加切除を必要としない可能性があり大腸SM癌においてover surgeryとなる症例を減少させることができる可能性がある.しかしながらこの基準値はガイドラインの性質上,転移再発する症例を限りなくなくすために設定された数値であり高感度となっているので,経過観察を行う場合は患者に病状を説明し理解・同意を得た上で慎重に行う必要がある.加えて,本検討では静脈侵襲はリンパ節転移のリスク因子ではなく過去の文献 8からも静脈侵襲に対する追加切除はリンパ節転移の制御効果は乏しいと考えられ,今後はガイドラインのように脈管侵襲とまとめて考慮するのではなく静脈とリンパ管を分けて考える方が妥当ではないかと考えられた.

本検討のlimitationとして,単一施設での後ろ向き研究であること,観察期間の中央値が3年であり,観察期間が短い症例も含まれていること,大腸SM癌は再発率が1.3%と低い 1ために再発や死亡といったイベント発生が少ないので統計学的に有意差がつきにくいことが挙げられ今後さらなる症例の蓄積,検討が必要であると考えられた.

Ⅴ 結  論

本検討からは先行内視鏡的切除は大腸SM癌の予後を増悪させる可能性は少なく,リンパ節転移のリスク因子であるリンパ管侵襲を内視鏡で評価できない現状では,R0切除が可能であることを担保した上で患者の希望や全身状態を考慮しtotal biopsyの意味合いとして,SM浸潤度が正確に診断できない病変に対しても内視鏡的切除を先行することは選択肢となり得ると考えられた.しかしながら,本検討では観察期間が短い症例も含まれており先行内視鏡的切除の適応については慎重に検討する必要があると共に,症例の蓄積・観察期間の延長が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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