GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SUCCESSFUL ENDOSCOPIC MANAGEMENT OF DUODENAL PERFORATION THAT OCCURRED DURING ENDOSCOPIC RETROGRADE CHOLANGIOPANCREATOGRAPHY
Tetsuya KAGAWAAtsushi JIKUHARA Keigo YOSHIDATakuya MIYAGI
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2019 Volume 61 Issue 10 Pages 2366-2371

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要旨

症例は78歳女性,嘔気・嘔吐を主訴に当院を受診し,総胆管結石による閉塞性胆管炎と診断された.内視鏡的乳頭括約筋切開術後総胆管結石採石術の際に,十二指腸下行部の穿孔を来した.内視鏡下にクリップ閉鎖を試み,7本のクリップで粘膜面に閉鎖に成功し,減圧・絶飲食・抗菌薬加療にて保存的加療が可能であった.ERCP関連の十二指腸穿孔に対して,内視鏡下クリップ閉鎖術を行った本法報告は少ない.しかし,患者の状態や技術面などの条件を満たせば侵襲の大きな外科的手術を回避出来る可能性がある.偶発症への対処法として自験例を共有する意義は深いと考え,文献的考察を加えて報告する.

Ⅰ 緒  言

ERCPは,膵胆道系疾患の検査・治療において欠かせない手技であるが,偶発症の発生頻度は診断的ERCP 0.322%,治療的ERCP 0.994%と,0.1%未満である上部消化管内視鏡や大腸内視鏡と比べて高率である 1),2.とりわけ十二指腸穿孔は重症化のリスクが高く,死亡率が8%にのぼるとの報告もある 3.そのため,外科的緊急手術の適応となる場合が多いが 4,術後経過に難渋することもまれではない 5)~7.一方で,穿孔の程度,腹膜炎所見の有無などの条件によっては,保存的加療が可能な場合もある 8

われわれは,ERCP時に発症した十二指腸下行脚の穿孔に対して,クリップによる内視鏡下粘膜閉鎖術(以下,本法)を行い,保存的に加療しえた1例を経験した.本法の手技の要点と適応における注意点について,文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:78歳,女性.

主訴:倦怠感,嘔気,嘔吐.

既往歴:58歳 糖尿病,慢性関節リウマチ.59歳 狭心症,高血圧症.60歳 胆石症,急性胆嚢炎,開腹胆嚢摘出術.70歳 Sjögren症候群.

現病歴:起床後に発症し持続する倦怠感,嘔気,嘔吐を主訴に当院を救急受診した.

来院時現症:腹部は平坦・軟で圧痛なし,血液検査にて炎症反応と,ビリルビン値上昇を認めた.一方,肝・胆道系酵素および膵酵素は基準範囲内であった.腹部CTにて軽度の胆管拡張,総胆管結石を認め,その後のMRCPにおいても同様の所見が確認された.総胆管結石による閉塞性胆管炎の診断にて緊急入院し,翌日ERCPを施行した.

経過:側視鏡を挿入し胆道造影で総胆管に透亮像を確認した.内視鏡的乳頭括約筋切開術を施行しバルーンカテーテルにて総胆管結石の採石を行ったが,この際に内視鏡が胃内まで抜去された.再度スコープを十二指腸へ挿入し直線化操作を行ったところ,スコープ先端の先進力により十二指腸下行脚後腹膜側に15mm大の粘膜損傷が生じ,損傷部から脂肪織が確認された(Figure 1).医原性十二指腸穿孔と診断したが,発症時点で患者の自覚症状は無く,全身状態にも変化を認めなかった.十二指腸管腔は虚脱せず,安定した視野が得られ,また術中透視においても明らかな腹腔内遊離ガスを認めなかった.さらに,早期吸収が期待されるCO2送気下であったため,内視鏡操作の継続が許容されると判断し,内視鏡下のクリップ閉鎖術を試みた.

Figure 1 

a:十二指腸下行部に粘膜の損傷を認めた.

b:穿孔部からは脂肪織が確認された.

内視鏡を直視鏡に変更し十二指腸穿孔部の観察を行った.穿孔部への安定したアプローチが可能であったため,辺縁よりクリップにて粘膜を閉鎖していった(Figure 2-a).両端からクリッピングしていくことで,効果的に穿孔部が縫縮されていき,最終的に7本のクリップで粘膜面は完全に閉鎖された(Figure 2-b).内視鏡下に造影剤を注入すると,穿孔部周囲にわずかに造影剤の貯留が確認されたものの,それ以上の拡がりは認めなかった(Figure 2-c).減圧目的に十二指腸内にNG tubeを留置して手技を終えた.

Figure 2 

a:穿孔部の両縁よりクリップ閉鎖を行った.

b:クリップ7本にて粘膜を閉鎖した.

c:造影検査ではクリップで閉鎖した穿孔部(○)の周囲にわずかな造影剤の貯留を認めた(△).

d:直後の単純CTで十二指腸周囲に造影剤の貯留とわずかなガス像を認めた(↑).

直後の腹部単純CTでは,穿孔部周囲の造影剤漏出とわずかなガス像を認めたが,腹腔への造影剤漏出や腹腔内遊離ガスは認められなかった(Figure 2-d).絶飲食,抗菌薬,膵酵素阻害剤投与にて厳重な経過観察を行った.第3病日に腹部CTを再検したところ,後腹膜の造影剤は消失し,ガス像も減少した.第12病日に造影検査を行ったところ,造影剤漏出は認めなかった.第14病日より経口摂取を再開し,その後の経過は良好であった.2カ月後に施行した内視鏡検査では,穿孔部は治癒しており,狭窄は認めなかった.処置後5年,特に問題なく経過している.

Ⅲ 考  察

ERCPに伴う偶発症のなかでも,十二指腸穿孔は重篤化する危険性があり,特に注意すべき病態である.一般に,十二指腸穿孔に対する治療は,緊急手術が適応となることが多い.特に,スコープによる穿孔は穿孔径が大きくなりやすいため,緊急手術が推奨される.末谷らは,ERCP時のスコープ操作に伴う偶発症の検討において,十二指腸穿孔が0.2%(3例/1,907例)に生じ,いずれもストレッチ操作に伴うスコープ先端の先進力による穿孔であったと報告している 9.また,高らはERCP 4,606例のなかで穿孔と診断され手術に至った7例(0.15%)を検討し,そのうち4例で穿孔部の縫合閉鎖が必要な状態であったと報告している 5.Stapferら 6はERCPに起因する穿孔を4つのタイプに分類しており,十二指腸穿孔はType Ⅰで,手術適応としている.十二指腸穿孔に対する基本術式は,開腹あるいは腹腔鏡下の穿孔部縫合閉鎖術とドレナージであるが,状況によっては侵襲がきわめて大きい膵頭十二指腸切除術といった術式までをも想定する必要がある.

一方で,保存的加療や内視鏡下の治療が可能となる場合もある.Avgerinosら 10が提唱したERCP時の穿孔に対する治療アルゴリズムでは,腹膜刺激徴候がある場合と,それが無い場合で,明らかな腹腔内遊離ガスを伴うか,造影剤の腹腔への漏出が認められる場合には手術療法としているが,それ以外の場合には保存的療法が可能となっている.これに従うと,自験例は腹膜炎所見および腹腔内遊離ガスを認めず,保存的加療が許容される条件であった.われわれは,内視鏡下に穿孔部をクリップで閉鎖し,消化液の流入と腸管内圧の上昇を防ぐためにNG tubeによるドレナージを併施し良好な結果を得た.

一般に,内視鏡下の穿孔部閉鎖術は,内視鏡のアライメントや技術的な問題から困難とされている 7),11.そこで,近年では内視鏡下の穿孔部閉鎖術における種々の工夫やデバイスの改善が報告されており,外科手術に比べてはるかに低侵襲であることから,その有用性が注目されている(Table 1 7),12.手技的な工夫の具体例として,①内視鏡先端のキャップ装着 8,②穿孔部およびクリップ装着部へのフィブリン糊の充填・散布 13,③エンドループを用いた縫縮術 14),15などが紹介されている.デバイスの進歩としては,全層縫合が可能なOver-The-Scope-Clip(OTSC)システムの出現がある 16)~19

Table 1 

ERCP時の十二指腸穿孔に対する内視鏡的閉鎖術の方法.

内視鏡下の穿孔部閉鎖術を選択する場合には,安全性と確実性について最も慎重な判断を下すべきである.前述の如く,十二指腸穿孔は初期治療を誤れば重症化を招き,致命的な状況に陥りかねない.本法を安全に施行するには,前述のAvgerinosらのアルゴリズム 10に従った保存的治療の要件,すなわち腹膜刺激徴候や明らかな画像的な穿孔所見が無いことに加え,患者個々の全身状態や併存症の有無などの患者側因子を充分に吟味する必要がある.さらに,術者の技量および術後管理体制・バックアップ体制が整っていることが肝要である.特に,技術面では,穿孔部位への正確なアプローチや,迅速なクリッピング操作といった高度な内視鏡技術が要求される.自験例では,穿孔後の処置はESDを含めて内視鏡手技に精通した消化器外科医が施行した.すなわち,充分な内視鏡技術が担保され,さらに入念な術後管理を行うという大前提のもとに本法を行った.

反省点としては,活性の高い消化液が直接損傷部に流入する部位であるため,それを防ぐ目的でENBD tube挿入による膵液・胆汁のドレナージも有用と考えられ,より万全を期すならば自験例でも考慮すべきであった.

技術やデバイスが進歩しても,医療において偶発症は一定の頻度で生じうる.そういったなかで,偶発症に対する低侵襲な治療法の開発・普及は重要であり,自験例のような臨床経験を共有する意義は深いと考え報告した.本法の安全な適応には技術面や管理体制などの制約があるものの,低侵襲で有用な対処法であり,積極的に考慮すべきである.

Ⅳ 結  語

安全性,確実性が担保される状況であれば,ERCP時の十二指腸穿孔に対する内視鏡下クリップ閉鎖術は有用である.

なお,本論文の要旨は,第84回日本消化器内視鏡学会にて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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