GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TECHNIQUE OF ARGON PLASMA COAGULATION TREATMENT IN RADIATION PROCTITIS
Akiko CHINO
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2019 Volume 61 Issue 10 Pages 2379-2387

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要旨

放射線性腸炎の出血に対するアルゴンプラズマ凝固(APC治療)は,適応や治療のタイミング,焼灼方法のいずれも重要である.対象は易出血拡張血管主体の晩期障害で,治療のタイミングは最終照射より半年以上経過している症例とする.APC治療計画を考慮した分類を用いる(TypeA,B,Cが対象,本文中参照).焼灼方法のコツは,①正常粘膜部を残してまだらに焼灼する(まだら焼灼),②血液を洗浄して標的血管部位のみを焼灼する(洗浄焼灼),③反転観察および治療時には細径スコープを選択する(反転焼灼),④患者の治癒能力を判定しながら,数回に分けた計画治療をする(分割治療の計画)について説明した.治療対象となる病態別の分類を認識することから始まり,治療計画,凝固方法,効果判定までを踏まえた理解がより長期にわたる止血効果を得られる.

■アドバイス■

・ポイント1,正常粘膜部を残してまだらに焼灼する(まだら焼灼).

・ポイント2,血液を洗浄して標的血管部位のみを焼灼する(洗浄焼灼).

・ポイント3,反転観察および治療時には細径スコープを選択する(反転焼灼).

・ポイント4,患者の治癒能力を判定しながら,数回に分けた計画治療をする(分割治療の計画).

Ⅰ はじめに

放射線性腸炎は,放射線治療の照射範囲に隣接する腸管に生じる有害事象であり,数カ月以降に発症する晩期障害でみられる出血では,慢性貧血の原因となったり生活の質を低下させることがある.1997年に内視鏡を用いた熱凝固治療での数例の報告がなされ 1,2000年にアルゴンプラズマ凝固(APC)装置が汎用される様になってからは多くの内視鏡を用いた治療の有用性が報告されるようになった 2)~5.APCの原理は,粘膜浅層の広範囲な焼灼に適した非接触型の高周波電流装置であり,脆弱な放射線性腸炎の出血の治療に対し,安全で有用性が高い.一方,対象とする病態や治療のタイミング,焼灼方法によっては十分な治療効果が得られないだけでなく,時に不可逆性の潰瘍を形成することもある.放射線性腸炎に対するアルゴンプラズマ凝固(以下APC治療)のコツは,治療対象となる病態別の分類を認識することから始まり,治療計画,凝固方法,効果判定までを踏まえた理解がより長期にわたる止血効果を得られると考えている.

Ⅱ 放射線性腸炎の病態別分類

1)発症時期による分類

早期障害は,放射線照射中に発症する急性期の反応であり,腸管上皮細胞に生じる直接作用で,浮腫による局所還流障害である.また,浮腫と血流障害は細胞再生能力が追いつく限りでは可逆性である.臨床症状では,軟便,蠕動痛,少量の出血等があるが,経時変化がみられることが多い.一方,晩期障害は最終照射から数カ月以降に現れる慢性炎症による二次的な反応であり,動脈内膜炎による血管壁の肥厚により微小循環障害が生じ,線維化や動脈硬化性変化を起こしてくると重症化し,不可逆性となる 6),7.臨床症状では,血便が最も多く,肛門痛,排便時違和感があり,重症例では腸閉塞で発症することもある.既報での数カ月とは,臨床的な認識としては6カ月以上と考えている.当院での晩期障害による出血の好発時期は,放射線治療の最終照射から平均15カ月程度であった 8.晩期障害の診断には発症期間の情報が必要であり,侵襲ある対処方法を選択する際に重要である.

2)重症度による分類

放射線性腸炎の分類は,経過別・治療方法別・病理学的な観点や病態の所見からみた目的別の分類があるが,重症度別に分けられたSherman分類が知られている 9.近年,放射線性腸炎の診断が内視鏡検査で可能になり,さらに,出血に対する対処方法として内視鏡を用いたAPC治療を行う症例が多い.筆者は内視鏡所見を加えたAPC治療の適応を検討するための分類をTable 1の様に改変し,参考にしている 10.肛門部違和感および出血等の比較的軽い症状と発症期間より放射線性腸炎の晩期障害を疑った場合には,内視鏡検査を行うことになるが,Sherman分類Ⅰ度の出血を主体とした病態のうち,易出血を呈する拡張血管が限局性もしくは散在性である場合をType Aとし,広範囲でびまん性のものをType Bとする.Sherman分類Ⅱ度の潰瘍を伴う病態のうち,出血主体で潰瘍があっても浅く小範囲であるものをType C,潰瘍が主体で脆弱性が目立つ場合はType Dとして区別する.Table 1に示したType A~Dの分類の典型像をFigure 1に示す.APC治療の適応となるのは,Type A~Cまでの病態となり,Type Dの様に潰瘍が主体で多発の場合には,易出血の血管があっても直ぐにAPC治療は行わず,高圧酸素療法等の他の治療法を考慮し,進行性潰瘍を回避する必要がある.

Table 1 

Shermanの重症度別の分類(第Ⅰ~Ⅳ度)をもとに,内視鏡所見を加えたAPC治療の適応を検討するための分類.

Figure 1 

Table 1に示すType A〜Type Dの典型的な内視鏡像.

臨床症状で,腹痛が主体もしくは腸閉塞症状を伴い,Sherman分類Ⅲ度(狭窄)からⅣ度(瘻孔)を疑った場合には,ガストログラフィンを用いた注腸造影検査やCT画像を行うことになるが,近年,CO2送気を併用した極細径内視鏡を用いて狭窄や瘻孔を確認できる場合もある.Figure 2に内視鏡検査で観察したS状結腸の狭窄および腸管膀胱瘻の内視鏡像を示す.

Figure 2 

a:注腸造影によるS状結腸の狭窄像.

b:細径スコープによる内視鏡観察でのS状結腸の完全狭窄像.

c:CO2送気を併用した内視鏡検査による腸管膀胱瘻.

d:CT画像検査による小腸結腸瘻および小腸閉塞像.

Ⅲ APC治療計画

APC治療の適応は,①最終照射から少なくとも半年以上経過して発症した晩期障害でみられる出血であり,②慢性貧血もしくは,問診にて生活の質を低下させる原因となる出血と判断した場合,③内視鏡所見による分類でType A~Cまでの病態としている.Type別のAPC治療計画をFigure 3に示す 10.Type Aは標的となる拡張血管が限局性のため,1回の治療で済むことが多く,1カ月後の問診にて症状改善の聴取と3カ月後の内視鏡再検査にてAPC治療後瘢痕の確認をしている.Type Bでは,標的となる拡張血管の概ね1/2~2/3程度の焼灼にとどめ,3カ月後の内視鏡による再検にてAPC治療後の潰瘍瘢痕の形成を確認してから追加の治療を行うこととしている.Type Cでは,びらん部や潰瘍部近傍にAPC治療による炭化が及ばぬ様に数回に分けて焼灼を行い,患者の治癒能力を判定しながら時間をかけて追加治療を計画した方が,きれいな瘢痕となり長期経過もよい.

Figure 3 

APC治療計画の模式図.

Ⅳ APC装置の理解と設定

当院では,2000年よりAPC治療を行ってきており,時代とともに使用機種が変化してきている.最も注意していることは,正常の腸管粘膜に対するのとは異なり,脆弱な放射線性腸炎に対して必要最低限の低電力設定であることと,通電時間を短くすることである.従来からの使用機種とそれぞれの設定は,①AMCOのERBE ICC200を用いた場合,電力40W,ガス流量1.0ℓ/min,②PSD-60/ENDOPLASUMA(OLYMPUS Co.)を用いた場合,電力30W,ガス流量0.6ℓ/min,低深度設定,③現在主に使用しているERBE VIO300では,FORCED(フォースド)エフェクト1~2を選択し,電力30W,ガス流量1.0ℓ/minに設定している.エフェクトをあげる場合には,焼灼時間を1~2秒と短時間にすることを心がける.また,狙撃性のあるフォースドを選択した場合には,プローブは直射タイプを用いている.これは,先に述べる凝固方法の工夫がしやすい手段と思われる.Figure 4-aは,FiAPCプローブの直射タイプで,アルゴンガスを直方に噴射するので標的が捉えやすい.直腸粘膜の焼灼の場合には,長径2.3mmで推奨ガス流量も1.0ℓ/minである.アルゴンガスの均一で安全な噴射のため,再利用は禁止され2016年12月に改訂された.アルゴンプラズマ凝固は非接触性高周波電流であり,炭化した粘膜がプローブにつきにくく,アルゴンガスは障害部位以外の粘膜に拡散されるため,浅層のみの凝固が得られる.適切な使用位置は,プローブの先端を組織から1mm〜5mmの位置で通電する(Figure 4-b).アルゴンプラズマ凝固による組織障害の深度は,浅くて安全であると認識されているが,放射線性腸炎のような脆弱な粘膜においては,同一箇所への5秒を超える長時間の焼灼は組織障害が深くなることもあり,さらに被覆による修復がし得ないこともある.正常な腸管に対する治療や腫瘍焼灼とは異なる手技であることに留意する.

Figure 4 

a:FiAPCプローブの直射タイプ(ERBE社).

b:APC治療時のプローベと粘膜の距離.

Ⅴ APC治療時の4つのポイント

放射線性腸炎の出血に対するAPC治療の安全かつ効果的な治療時の工夫を下記の4つのポイントにまとめた.

・ポイント1,まだら焼灼

粘膜表層に認める異所性拡張血管のみを標的とし,正常粘膜部を残してまだらに焼灼する.Figure 5に示すドット状の炭化は,1~2秒程度の短時間の焼灼で,十分に得られる.まだらに炭化した粘膜はのちに脱落してびらんをつくり,周囲の正常粘膜で被覆されることにより瘢痕化され,血管消失(=止血)効果が得られると考えられる.

Figure 5 

ポイント1.

a:治療前の放射線性腸炎.

b:まだら焼灼.

・ポイント2,洗浄焼灼

観察時に活動性出血(湧出性出血)がみられる場合には,血液により血管部分が視認できない場合があるが,根気よく洗浄して焼灼すべき標的血管部位を確認してから,前述のまだら焼灼に努める(Figure 6).活動性出血が止まるまで同一箇所で圧迫焼灼すると過通電となり,のちに進行性の潰瘍を形成してしまう.

Figure 6 

ポイント2.

a:治療前の活動性の湧出出血像.

b:洗浄後には,血液の除去とともにわずかな標的血管.

c:標的血管のみのまだら焼灼後.

・ポイント3,反転焼灼

肛門管直上の視認できない部位は,放射線性腸炎の易出血の原因となる好発部位でもある.成人用のCFスコープしかない時には,内視鏡の先端に透明フードを装着する場合もあるが,細径スコープがある場合には,反転操作での観察および治療もしやすい.放射線性腸炎での直腸での反転操作には,あらかじめ細径スコープを選択する(Figure 7).

Figure 7 

ポイント3.

a:反転観察による肛門管直上の所見.

b:歯状線上の焼灼後.

c:治療3カ月後の瘢痕化.

・ポイント4,分割治療の計画

先述のとおり,患者の治癒能力を判定しながら,あえてまだらに未焼灼部位を残し,3カ月ごとに瘢痕形成を確認し,残存する血管を焼灼していくと,最終的にきれいな潰瘍化が得られ,同時に内視鏡による効果判定もできる(Figure 8).確認内視鏡の同意が得られた例において,最終的に易出血血管が消失するまで内視鏡観察にて瘢痕化を確認した場合,多くの例で長期にわたる血便消失を維持できる.

Figure 8 

ポイント4.

a:初回.

b:1回目治療直後.

c:治療3カ月後.

d:瘢痕化の間の遺残する易出血な血管の追加治療.

e:治療9カ月後.

Ⅵ APC治療の効果判定

放射線性腸炎のAPC治療後,2週間以内では炭化と刺激による血便の増加がみられることがある.創傷治癒過程にかかる時間が3週間(約1カ月)と想定して治療後の問診は,1カ月後に聴取する.問診での有用性が示唆された場合は,内視鏡観察での確認のみならず,追加の治療の可能性を考慮して3カ月あけて直腸のみの観察を行う.前処置の腸管洗浄液や浣腸は不要であり患者の負担を軽減する.放射線性腸炎の患者に浣腸をかけると,脆弱な直腸粘膜を刺激するばかりでなく,出血を誘発し,観察にも時間がかかってしまう.筆者は,3カ月後の直腸観察のみの場合,前日の食事制限と刺激性下剤で固形便の排泄のみを促している.効果判定の目安として参考にするスコアをTable 2に示す.

Table 2 

APC治療の効果判定方法.

Ⅶ APC治療の有用性と長期経過

当院で,2000年10月から2014年10月までに行ったAPC治療を施行した223例での有用性の検討では,血便の消失もしくは血便の頻度や量の減少を認め,有効と判定したのは207例(93%)であった.Type別では,Type A,B,Cでそれぞれ95%,90%,75%であった.著効例は158例(71%)であった.1年以上の追跡可能な194例において171例(88%)が明らかな血便の再発を認めていない.Figure 9に,初回Type Bの出血例で,2回の分割治療後,内視鏡による効果判定で瘢痕化を確認し,約3年後も瘢痕の不変を確認できた症例を示す.5年以上の効果判定例は27%であるが,大半の症例が再受診なく経過され,約8年から最長16年の経過例でスクリーニング目的での内視鏡検査にてAPC治療後の瘢痕化の維持を確認する例も経験する.適切なAPC凝固は一時的な止血にとどまらず,長期止血においても有用と考える.そのなかで,再出血での受診例は8例あり,未焼灼の血管の遺残と考えるものが5例で,そのすべてが,治療後の内視鏡検査で瘢痕等の最終判定を省略していた症例であった.瘢痕化からの新たな拡張血管の出現は3例であった.また,背景因子として,粘膜脱症候群の合併や抗凝固薬(エリキュースやワーファリン)の投薬があげられた.

Figure 9 

長期経過例.

a:初回.

b:6カ月後.

c:3年後.

Ⅷ おわりに

放射線性腸炎の出血に対するアルゴンプラズマ凝固のコツについて述べた.安全に効果を得られる手技の工夫のみならず,効果の得やすい適応症例および治療のタイミングにも留意し,必要最低限かつ長期効果の得られる治療が望ましい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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