GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ADVANCES IN ENDOSCOPIC DIAGNOSIS OF GASTRIC INTESTINAL METAPLASIA BY IMAGE-ENHANCED ENDOSCOPY
Takao KANEMITSU Kenshi YAOAkihiro KOGA
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2019 Volume 61 Issue 11 Pages 2445-2454

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要旨

胃の腸上皮化生は分化型胃癌発生のリスクと関連している.近年の狭帯域光観察(narrow band imaging;NBI)を中心とした画像強調内視鏡(Imaged enhanced endoscopy;IEE)の目覚ましい発達により,胃の腸上皮化生の診断について,さまざまな知見が報告されてきた.NBI併用拡大内視鏡(以下,M-NBI)により腸上皮化生を診断するポイントは,第一に腸上皮化生に特有な所見〔light blue crest(LBC),白色不透明物質(white opaque substance;WOS),marginal turbid band(MTB)〕の有無を評価すること,第二に表面微細構造について,畝状・絨毛状の腺窩辺縁上皮(marginal crypt epthelium;MCE)の有無を判定することである.これらを内視鏡検査時にリアルタイムで行うことで,生検をすることなく多巣性・多中心性に広がる腸上皮化生粘膜の局在を正確に診断可能となり,胃癌のリスク層別化を適切に行うことができると考える.

Ⅰ 緒  言

最近の報告によると,胃癌は全世界で癌による死亡の第3位を占めており,死亡率の高い癌の一つである 1Helicobacter pylori感染は胃粘膜に炎症細胞浸潤を惹起し,長期間かけて固有腺の萎縮,腸上皮化生などの粘膜変化を来す.胃の腸上皮化生は,分化型胃癌発生のリスクと関連しているため 2)~4,腸上皮化生を内視鏡的に診断することは重要である.近年,画像強調内視鏡(Image Enhanced Endoscopy:IEE)の目覚ましい発達により,IEEによる腸上皮化生の診断に対する有用性が報告されている.IEEを用いて腸上皮化生を正確に診断することで,内視鏡検査後に胃癌発生リスクの層別化が可能となり,それぞれの症例に適したサーベイランスを行うことが期待できる.本稿ではIEEにおける腸上皮化生の内視鏡診断についての知見を概説する.

Ⅱ NBI

NBIは照射光を415nmと540nmを中心波長とした狭帯域光に変更することで粘膜表層の表面構造と微小血管を強調して描出するIEEであり,拡大内視鏡を併用した診断に関する知見が多く報告されている.NBIにおける胃の腸上皮化生の診断に関する報告は大きく2つに大別され,第一に腸上皮化生特有の内視鏡所見に関するもの,第二に胃粘膜の表面微細構造に着目したものである.以下に各報告をまとめる.

●腸上皮化生特有の指標

Light blue crest;LBC(Figure 1-a,b

Figure 1 

a:腸上皮化生(前庭部)のNBI併用拡大内視鏡像.MCEの辺縁に沿って,LBC(黄矢印)を認める.

b:腸上皮化生(前庭部)の組織像(HE染色).腺管上皮内に杯細胞を認め,上皮表層に刷子縁(黒矢印)を認める.

(Kanemitsu T, et al. Extending magnifying NBI diagnosis of intestinal metaplasia in the stomach: the white opaque substance marker. Endoscopy 2017;49:529-35より転載).

Uedoら 5は,胃M-NBIにより,腸上皮化生の上皮辺縁を青白色調の線が縁取っている所見を発見し,light blue crest(LBC)と呼称し報告した.この所見は腸上皮化生の刷子縁が450nmを中心波長にもつ狭帯域光を強く反射することによると考えられている.LBCの組織学的腸上皮化生に対する診断能は感度89%,特異度93%,正診率91%であり,腸上皮化生を内視鏡により診断するための有用な所見として広く知られている.他研究 6やメタ解析 7においても,LBCの組織学的腸上皮化生における高い有効性が報告されており,広く認知されている腸上皮化生の内視鏡所見である.

1.White opaque substance;WOS(Figure 2-a,b

Figure 2 

a:腸上皮化生(前庭部)のNBI併用拡大内視鏡像.窩間部にWOS(黄矢印)を認める.

b:腸上皮化生(前庭部)の組織像(HE染色).大小の杯細胞を認めるが,刷子縁は認められない.

(Kanemitsu T, et al. Extending magnifying NBI diagnosis of intestinal metaplasia in the stomach: the white opaque substance marker. Endoscopy 2017;49:529-35より転載).

Yaoらは,NBI併用拡大内視鏡観察において,腫瘍や腸上皮化生の上皮内に観察光を透過させない白色の物質が存在し,上皮下の微小血管像が透見できない現象を発見し,白色不透明物質(white opaque substance,WOS)と命名し報告した 8),9.その後の病理組織学的研究 10から,本物質が胃腫瘍上皮や腸上皮化生の粘膜上皮内に集積した微小な脂肪滴であることを証明した.WOSが視覚化される機序は,胃粘膜・胃腫瘍の上皮内に集積した脂肪滴が,投射光を強く反射または多重散乱した結果白色に乳濁した所見を呈し,上皮下の血管を不透明にする現象であると考察している 11.胃前庭部の検討において,われわれはWOSの組織学的腸上皮化生に対する診断能は,感度50%,特異度100%,正診率70%であり,さらにWOSとLBCを組み合わせることで,感度87.5%,特異度93.8%,正診率90%と診断能の向上を認め,WOSは腸上皮化生の診断に有用な内視鏡所見であることを証明した 12.WOSを認めれば腸上皮化生は存在すると言えるが,胃内のpHに低下によりWOSの発現率は低下するとの報告 13もある.

2.Marginal turbid band;MTB(Figure 3-a~c

Figure 3 

a:腸上皮化生(前庭部)のNBI併用拡大内視鏡像.MCE辺縁にLBCを,窩間部にWOSを認める.背景粘膜と比較してMCE自体も若干白濁して観察される(MTB).

b:腸上皮化生(前庭部)のNBI併用拡大内視鏡像(Figure 5-aの拡大像).LBC(黄矢印),WOS(赤矢印),MTB(白矢印)のそれぞれの局在の違いが認識できる.

c:腸上皮化生(前庭部)の組織像.大小さまざまな杯細胞と,ごく一部に刷子縁を認める.

Anら 14は,M-NBI観察において,腸上皮化生の腺窩辺縁上皮は化生のない腺窩辺縁上皮と比較して,白濁して観察される所見に着目し,marginal turbid band(MTB)と命名し報告している.MTBの視覚化される機序として,腺管と腺管の間,すなわち窩間部が拡大・短縮するためと考察し,LBCを伴わない早期の腸上皮化生にも出現すると述べている.しかし,その成り立ちは明らかではない.MTBの組織学的腸上皮化生に対する診断能は感度100%,特異度66%,正診率82%であると報告されている.

●胃粘膜の表面微細構造

胃粘膜の表面微細構造に着目し,腸上皮化生の診断能を求めた報告は多数ある.正常胃粘膜の表面微細構造は,胃体部で規則的な類円形の腺開口部とそれを取り囲む類円形の腺窩辺縁上皮からなる胃小窩を反映した構造(Figure 4-a,b)を,前庭部では規則的な弧状または多角形の腺窩辺縁上皮に挟まれた胃小溝を反映した構造(Figure 5-a,b)を示す.このように体部と前庭部の上皮は正常であっても組織的構造に違いがあるため,各報告を検討部位ごとに整理して報告をまとめる.

Figure 4 

a:正常胃底腺粘膜(胃体部)のNBI併用拡大内視鏡像.規則的な類円形の腺開口部と類円形のMCEを認める.MCEを取り囲むように規則的な蜂の巣状の上皮下毛細血管網を認め,集合細静脈もみられる.

b:正常胃底腺粘膜(胃体部)の組織学的所見(HE染色).腺窩辺縁上皮と腺窩は垂直に走行している.

Figure 5 

a:正常幽門腺粘膜(前庭部)のNBI併用拡大内視鏡像.規則的な弧状または多角形のMCEを認め,規則的なコイル状の上皮下血管網を認める.集合細静脈は視認できない.

b:正常幽門腺粘膜(前庭部)の組織像(HE染色).腺窩辺縁上皮と腺窩は斜めに走行している.

(Kanemitsu T, et al. Extending magnifying NBI diagnosis of intestinal metaplasia in the stomach: the white opaque substance marker. Endoscopy 2017;49:529-35より転載).

・主に胃体部における検討

Bansalら 15は,NBI拡大内視鏡を用いて胃体部・前庭部の非癌粘膜を観察し,ridge/villous pattern(畝状・絨毛状パターン)を呈する粘膜には高率に腸上皮化生を認めると報告している(感度80%,特異度100%).また,Taharaら 16の行った胃体部粘膜の検討においても,コイル状や波状の伴った類円形・管状絨毛状の表面微細構造の組織学的腸上皮化生に対する診断能は,感度73.3%,特異度95.6%と良好であったとしている.Pimentel-Nunesら 17も,ridge/tubulovillous状のMCEを呈する粘膜の89%に腸上皮化生を認めたと報告している.しかしながら,これらの表面微細構造を指標にした場合,胃体部に認める多発性白色扁平隆起も腸上皮化生と診断されている論文 18),19が近年報告されており問題が残されている.多発白色扁平隆起のM-NBI像は,背景粘膜と明瞭な境界を有し,MCEの幅は広く,窩間部は類円形から楕円形の形態を呈する(Figure 6-a,b 20.これらの多発性白色扁平隆起は,拡大内視鏡によりBansalら 15が報告したridge/villous pattern(畝状・絨毛状パターン)に類似しているが,本来,組織学的に腸上皮化生を伴わない腺窩上皮の過形成から成り立っている 20),21.このようにNBIによる表面微細構造のみから腸上皮化生を定義して多発性白色扁平隆起を腸上皮化生と診断されると偽陽性の診断となり,実際には胃癌発生リスクのない症例が高リスク群と判定され不必要なサーベイランス内視鏡を行われる可能性があり注意が喚起されている 22

Figure 6 

a:多発白色扁平隆起のNBI併用拡大内視鏡像.幅の広いMCEに縁取られた窩間部が類円形に観察され,微小血管は不明瞭である.

b:多発白色扁平隆起の組織学的所見(HE染色).腺窩上皮の過形成性変化を認める.

Kanzakiら 23は胃体部背景粘膜の拡大内視鏡所見をfoveola type(腺窩型)とgroove type(腺溝型)とに大別した(Figure 7-a,b).病理組織学的にfoveola typeは萎縮・腸上皮化生のない固有腺の円型の腺開口部を,Groove typeは萎縮・腸上皮化生を認める腺管の溝状の腺開口部を反映していると推測され,前述したBansalらのridge/villous patternはKanzakiらのgroove typeとほぼ共通する所見と考えられる.胃体部に認めるgroove typeの表面微細構造をもつ粘膜はfoveola typeのそれと比較して,統計学的有意に組織学的腸上皮化生の頻度が高いと報告されている.

Figure 7 

a:腸上皮化生(胃体部)のNBI併用拡大内視鏡像.写真左側に上皮下毛細血管網がMCEを取り囲むfoveola typeと写真右側にMCEが上皮下毛細血管を取り囲むgroove typeを認め,MCE表層に一部LBC(黄矢印)を認める.集合細静脈は視認できない.

b:腸上皮化生(胃体部)の組織学的所見(HE染色).刷子縁(黒矢印)を伴う腸上皮化生粘膜を認める.

・前庭部における検討

Okuboら 24は前庭部粘膜をNBI併用拡大観察し,ridge/villous pattern(畝状・絨毛状パターン)とLBCとを指標とすると,組織学的腸上皮化生の診断能は,感度95.2%,特異度98.7%であると報告している.また,Yamasakiら 25は,前庭部粘膜の表面模様をgroove type(腺溝型)とwhite villiform type(白色絨毛型)に大別して検討し,white villiform typeは,groove typeと比較して,統計学的有意に組織学的腸上皮化生が高度であったと報告している.

以上をまとめると,M-NBIによる胃の腸上皮化生を診断する所見は,①LBC,WOS,MTB②畝状・絨毛状(いわゆるridge/villous pattern, groove type)の微細表面構造と要約されるが,前述した多発性白色扁平隆起の診断は考慮されておらず,また診断の再現性についての検討も十分でない.多施設前向き試験などで真の診断能を求めることで,これらの内視鏡所見の有用性が明らかになるであろう.

●NBI拡大内視鏡診断を用いた胃癌のリスク判定の試み

2010年Capelleら 26は胃粘膜から系統的に採取された生検組織の腸上皮化生の程度から胃癌のリスクを層別化する,OLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia assessment)分類を提唱した.これは先に提唱された生検組織の萎縮の程度を評価するOLGA(operative link for gastritis assessment)分類 27では萎縮の評価が病理医間でばらつきが大きいためである.具体的にOLGIM分類では噴門部〜前庭部にかけて計12カ所の生検を行い,腸上皮化生の程度・分布を評価し,胃癌リスクをStage ⅠからⅣまで分類する.ただ,胃炎の診断の目的に複数の生検標本を採取することは侵襲が高くかつ煩雑であり,医療経済性も考慮すると,日常臨床にそぐわない.2015年Sakaら 28は,NBI併用拡大内視鏡OLGA・OLGIM分類と同様のリスク評価がNBI併用拡大内視鏡で可能であるかを検討した.同研究で著者らは胃体部・前庭部のNBI併用拡大内視鏡所見を,LBCとWOSの有無,表面微細構造からスコア化し,4段階にstagingし,生検組織から4段階にstagingされたリスクスコアとの一致率を求めた.NBI併用拡大内視鏡所見と生検組織の一致率は,胃体部で72.7%,胃前庭部において69.1%であった.なかでも胃癌のハイリスク群とよばれるStage Ⅲ・Ⅳの一致率は89%と高かった.欧米においても,内視鏡的に胃癌のリスク層別を試みる報告がなされている.Espositoら 29は,LBCおよび表面微細構造を指標とするEGGIM(endoscopic grading of gastric intestinal metaplasia)分類とOLGIM分類との高い一致率を報告した.最新の欧州のガイドライン 30では胃炎の評価目的に胃体部・前庭部から1カ所ずつ生検(計2カ所)することを推奨しているが,IEEを併用した拡大内視鏡によるoptical biopsyが実用化できる可能性も示唆される.

Ⅲ その他のIEE

Linked Color Image;LCI

LCIとは,Blue Laser Imaging(BLI)brightと同じ波長の照射光で得られた画像を,画像処理によって色彩強調する機能であり,LASEREOシステム(FUJIFILM Co., Tokyo Japan)に搭載されている.LCIでは白色光用のレーザーによる明るさが保たれているため,非拡大観察が基本であり,手技が簡便であるという特徴がある.小野ら 31は,LCIで胃の腸上皮化生が特徴的なラベンダー色に観察されることを報告した.腸上皮化生に対する光学的な特性を反映した所見と考察し,前向き研究 32においてLCIは白色光観察(white light imaging;WLI)と比較して腸上皮化生の診断能が高いことを示している.また,Kanzakiら 33も,癌の周囲粘膜を観察し,腸上皮化生粘膜の診断におけるLCIの有用性を報告しており,今後多数例・多施設での検証が期待される.

Autofluorescence imaging;AFI 自家蛍光内視鏡

自家蛍光内視鏡は消化管粘膜に短波長の励起光を照射し,組織中の蛍光物質から生じる自家蛍光を観察し,診断する内視鏡装置である.AFIでは萎縮のない胃底腺粘膜は紫〜深緑色を呈し,萎縮や腸上皮化生のある粘膜は緑色に描出される.Inoueら 34は胃体部の自家蛍光内視鏡所見をAFIおよびWLIで比較し,AFI観察における組織学的腸上皮化生の診断能は,感度77%,特異度75%,正診率76%で,有意にWLIより高かったと報告している.さらにAFIはWLIと比較して,観察者間・観察者内ともに一致率が高いことについても言及している.また,Soら 35は,AFI観察後にNBI併用拡大観察を追加することで腸上皮化生の診断能が向上したと報告している.

Flexible spectral imaging color enhancement:FICE

FICEは白色光を照射光として得られた画像をコンピュータ処理することで,任意の波長の照射光画像を推測・画像化する装置である.NBI同様に微小血管や微細構造を強調させる波長を組み合わせた画像を作成することが可能で 36,Osawaら 37はFICEを用いた腸上皮化生の診断能は感度・特異度ともに88%であることを報告している.

Ⅳ 今後の課題

内視鏡による胃腸上皮化生の診断能はIEEを用いることにより向上したが,多施設による再現性や実臨床における有用性についての検証など,まだ探求すべき課題は残されている.

以前より,胃の腸上皮化生は完全型と不完全型の2つのサブタイプに分類されてきた.完全型腸上皮化生は刷子縁様の構造を伴う吸収上皮,杯細胞,Paneth細胞からなり,小腸粘膜と同じ形態を有する.一方,不完全型腸上皮化生は,Paneth細胞を欠き,胃型と腸型の細胞が混在する腸上皮化生とされている 38.不完全型腸上皮化生は完全型と比較して高い胃癌発生のリスクがあると報告され 39),40,欧州のガイドライン 30においても家族歴,広範囲の萎縮とともに重要な胃癌のリスクファクターとされている.NBI併用拡大内視鏡を用いて完全型・不完全型腸上皮化生を鑑別する検討 41はあるが,その有効性は未だ明らかにされていない.IEEにより不完全型腸上皮化生の診断が可能となれば,さらなる胃癌のリスク層別化に有用と考えられ,今後検討すべき重要な課題であると考える.

Ⅴ おわりに

IEEによる腸上皮化生の内視鏡診断に関する知見を概説した.IEEを用いることで,通常の上部消化管内視鏡検査時にリアルタイムで腸上皮化生の診断が可能である.胃癌のリスク層別化への適切な応用法の確立が期待される.

謝 辞

本稿の遂行にあたり,専門的なご指導,ご助言を頂きました大阪国際がんセンター消化管内科副部長上堂文也先生に心より深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:八尾建史(オリンパス株式会社,日本イーライリリー会社)

文 献
 
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