GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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THE CHARACTERISTICS OF INTESTINAL LESIONS OF FAMILIAL MEDITERRANEAN FEVER GENE-RELATED ENTEROCOLITIS
Hiroshi NAKASE
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2019 Volume 61 Issue 11 Pages 2455-2465

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要旨

家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever:FMF)は遺伝性周期熱症候群の1つで,周期性発熱と漿膜炎を特徴とする.一般的に,FMFの主な発症機序は腹膜炎であるため,消化管粘膜病変はFMF患者では稀な状態であると考えられてきた.近年,FMF患者が炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)に似た消化管病変を有する報告例が増加傾向にある.しかしながら,FMF関連の腸管病変に関する情報は限られている.本総説ではFMF発症の機序ならびにFMF患者における腸管病変に焦点を当て,さらに内視鏡的特徴についても述べた.いままでの報告をまとめると,直腸病変を伴わない,全周性の発赤粘膜,浮腫,びらん,および潰瘍などのUC様病変がFMF患者で主に観察された.一方,クローン病で観察されるような縦走潰瘍性病変および狭窄も認められている.FMF関連腸炎の患者の罹患率は未だ不明である.従って,今後FMF関連腸病変の症例を蓄積することが,本疾患の臨床的特徴を解明するために必要である.

Ⅰ はじめに

潰瘍性大腸炎やクローン病をはじめとする炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:以下IBD)の本邦患者数は,増加の一途をたどっている.本疾患は,若年者に多く発症し,生涯治療の継続が必要とされる難治性疾患である.従って,原因解明,適切な診断・治療法確立が必須である.IBDの発症機序は,疾患感受性遺伝子ならびに環境因子が複雑に作用し,腸内細菌叢の乱れと共に,消化管粘膜免疫異常が引き起こされ発症するものと考えられている.現在までの研究結果から,腸管局所における炎症性サイトカインtumor necrosis factor(TNF)-ɑ,interleukin(IL)-12/23がUCおよびCDの病態に関与していることが明らかとなっている.その結果,これらのサイトカインに対する抗体製剤が開発されている.現在,IBD病態に関与するTNF-ɑ,IL-12/23p40に対する抗体治療ならびにJAK阻害剤による治療が行われているが,必ずしもすべてのIBD患者がこれらの治療に反応するわけではない 1.このことから,IBD患者の中にTNF-ɑ,IL-12/23p40,JAK pathwayが関与しない炎症性サイトカインが病態の主軸となる患者群の存在が示唆される.

インフラマソームは,炎症性サイトカインの1つであるIL-1β産生を制御する細胞内のタンパク質複合体である.インフラマソームの活性化異常は種々の疾患発症に関与し,その1つに家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever:以下FMF)が存在する 2.FMFは周期性発熱と漿膜炎を特徴とする遺伝性炎症性疾患(責任遺伝子はfamilial Mediterranean fever gene:以下MEFV)である.現在まで,本疾患に合併する腸管病変の検討は皆無に近い状況であった.

2012年,筆者は既存治療抵抗性の腸炎患者がMEFV遺伝子変異を有し,インフラマソーム活性化を抑制するコルヒチンの投与で寛解にいたった症例を報告した 3.従って,IBD患者群にはMEFV遺伝子変異を有し,コルヒチンのみで寛解するFMF関連腸炎群が存在すると筆者は考えている.本稿では,MEFV遺伝子変異に伴う消化管粘膜障害について,現在までの報告ならびにわれわれが得てきた知見を踏まえて論じる.

Ⅱ FMFとは

炎症を制御する生体内のシステムには様々な分子機序が存在する.中でも,インフラマソームは,炎症性サイトカインの1つであるIL-β産生を制御する細胞内のタンパク質複合体である.外的ならびに内的因子によるインフラマソームの活性化は,種々の炎症性疾患の発症に関与している.FMFは遺伝性周期熱症候群の1つで,周期性発熱(38℃を超える高熱)と漿膜炎(腹膜炎や胸膜炎,関節炎,筋肉痛,および睾丸痛など)を特徴とする.FMFは,地中海沿岸地方を起源とする民族,特に中東および北アフリカ系ユダヤ人,アルメニア人,トルコ人などに多くみられる常染色体劣性遺伝病であり遺伝性周期性発熱症の中で最も頻度の高い疾患である.日本では,1976年に最初の症例報告がなされ 4,2002年に遺伝子変異が報告された 5.2009年の全国調査では,本邦における患者数は約500名と推定されている 6

Ⅲ 地中海熱の原因遺伝子・遺伝形式

1997年にFMFの責任遺伝子として,16番染色体の短腕に位置するfamilial Mediterranean fever gene(MEFV)が同定された 7MEFV遺伝子は第16染色体上に存在し,10個のExonで構成されている.現在までに全世界で約50種類以上の変異が報告されており,このうちExon 10(M694V,V726A,M694I,M680I)とExon 2(E148Q)の5つの中のどれかに74%以上の変異が同定されている 8MEFV遺伝子がコードする蛋白はpyrinと呼ばれている.Pyrinは781アミノ酸からなり,顆粒球,好酸球,活性化単球,漿膜・滑膜の繊維芽細胞に発現している.生理的条件ではpyrinは炎症性サイトカインであるIL-βの活性化を制御する 9.Pyrinの機能障害による炎症の持続が,FMFの病態であるとされている.本症の遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり,患者は変異型MEFVホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体をとる疾患であるとされてきた.一方で,典型的なFMF患者においてもMEFV変異がヘテロでしか存在しない症例が報告されている.このことは,FMF症例の発症に未知の複雑なメカニズムが存在していることを意味している.

Ⅳ Inflammasome

Inflammasomeは,Nod-like receptor(NLR),Apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruitment domain(ASC),カスパーゼ1からなるのがプロトタイプである(Figure 1).インフラマソームは,ASCの近接によってカスパーゼ1を活性化し,IL-β前駆体を切断して活性化型のIL-βに変換する細胞内分子である.FMF発症に関与するpyrinはASCとカスパーゼ1の結合を阻害することで,インフラマソーム活性を負に制御する分子である.インフラマソームを形成するNLRにはNLRP1(Defcap-L/CARD7),NLRP2(Pypaf 2),NLRP3(Cryopyrin/pypaf1),NLR6(Pypaf5),NLRC4(Ipaf)が存在し,中でも最も研究されているのがNLRP3インフラマソームである 10.NLRP3は細胞自身のもつ細胞障害因子(ATP,痛風の原因である尿酸ナトリウム結晶,動脈硬化の原因であるコレステリン結晶,アミロイドーシスの原因であるβアミロイドなど)や細胞外からもたらされる傷害因子(石綿,病原微生物としては多数の細菌やウイルスなど)によって活性化される.慢性的にインフラマソーム活性化因子が細胞内に蓄積すると,自己炎症性疾患と同様に炎症が持続する.Misawaらは,NLRP3インフラマソーム活性化は,NLRP3が直接刺激される経路に加えて,NLRP3インフラマソーム形成を促進する微小管を介した経路が存在していることを報告した 11.また彼らは,FMF治療の第一選択薬であるコルヒチンが微小管を介してNLRP3とASCが接近することを阻害することによりNLRP3インフラマソームを介した炎症を緩和することを明らかにしている.

Figure 1 

Inflammasomeの構造.

PyrinはPYD同士の結合を介して,ASCと結合し,Inflammasomeの活性を負に制御している.

Ⅴ 地中海熱の診断基準:定型例と非定型例の存在

FMFは臨床的に診断される疾患単位である.1997年に発表されたTel-Hashomer criteriaに改訂が加えられた厚生労働省研究班のFMF診断基準をTable 1に示す 12.発症頻度の高い民族においては,Tel-Hashomer criteriaの診断基準の有効性が確認されている.しかしながら,sporadic caseが多く,発症頻度の低い民族では上述したMEFVの遺伝子検査を参考にする必要がある.加えて,近年典型例以外にも非定型例と言われる症例が多く発見されてきている.その臨床像を以下に記載する:(a)発熱の持続期間が12~72時間ではない.(b)発熱が必ずしも38℃以上とならない.(c)腹部発作が不完全(限局性,腹膜刺激症状がない).(d)漿膜炎の発作期間が短い・長い.(e)関節炎が非典型的な部位に発症する.などである(Figure 2 12.これら病像を呈する症例は非定型FMFである可能性があり,MEFV遺伝子解析が診断の補助となる.非定型FMFではMEFV遺伝子 Exon 10の変異は少なくExon 1(E84K),Exon 2(E148Q,L110P-E148Q,R202Q,G304R),Exon 3(P369S-R408Q),Exon 5(S503C)の変異を伴っていることが多くみられる.注目すべきは,地中海沿岸域のFMF症例が主として変異型MEFVホモ接合体もしくは複合ヘテロ接合体などを有するのに対して,日本人FMF症例はほとんどがヘテロ変異であるということである.さらに,重要な点は,非定型例においてもFMFの第一選択薬であるコルヒチン投与がFMF症状の改善に有効な点である.

Table 1 

厚生労働省研究班のFMF診断基準.

Figure 2 

家族性地中海熱(FMF)診断アルゴリズム.

Ⅵ 人種差・遺伝子変異部位の違いと症状の多様性

日本人FMF症例の多くが,E148QかM694Iの変異である.一方,好発民族(地中海沿岸域)FMF症例ではM694Vが最も多く報告されている 13.但し,E148Q変異の疾患発症への関与については未だ結論がでていないと言える.その理由として,(a)健常人におけるE148Q変異アレルの頻度は,多くの民族で10%を超え,日本人では16.4%に達する.(b)E148Qのホモ接合体は55%が無症状であるとの報告のためである.

次に,日本人FMF症例と好発民族FMF症例との臨床症状の違いについてTable 2にまとめる.おそらく,人種差やMEFVの多彩な変異アレルの違いにより,FMFの随伴症状が異なるものと推測される.FMFは腹痛が最も高頻度にみられる主症状であるが,その病態は漿膜炎が主体であると考えられてきた.従って,消化管病変を伴うことは稀であるとされてきた.しかしながら,筆者らがコルヒチンに反応するMEFV変異が関連した大腸病変を有する症例報告後 3,日本においてFMF関連腸炎症例報告は増加傾向にある.

Table 2 

好発民族FMF症例と日本人FMF症例との臨床的特徴の違い.

Ⅶ FMF関連消化管病変

FMF関連腸炎の臨床特徴を明らかにする目的で,札幌医大が中心となり,内視鏡所見を始めとした臨床情報・遺伝子解析データを集積している(UMIN登録ID 000022289).現在,われわれが登録している患者数は50症例を越えている.現在までの検討結果についての一部を提示する.平均年齢は38歳,男女比は2:3.厚生労働省研究班のFMF診断基準に合致する典型例は約30%.残りの約70%は非典型例,あるいはFMF症状を有さない症例であった.腹痛,下痢,下血といった腹部症状はほぼ有しており,関節炎症状は34%の患者に認められた.また,全消化管に消化管病変が存在することが確認された.その中でも,空腸(約60%)や大腸(約80%)に病変が多く同定されることが明らかとなってきた.

Ⅷ 消化管病変内視鏡所見の特徴

小腸病変

Takahashiらは,回腸末端に潰瘍病変を有する25歳発症のFMF患者(Exon 2 E148Qヘテロ変異)を報告している 14.病変は浅い潰瘍であり,縦走潰瘍ならびに打ち抜き様潰瘍など,クローン病や腸管ベーチェット病を示唆する所見は認められなかった.Kitadeらは,66歳発症のFMF患者(Exon 1(E84K)とExon 3(P369S)の複合ヘテロ接合体)に認められた小腸病変を報告している.カプセル内視鏡と小腸内視鏡の画像結果から,周囲に白い裾をまとった花びら模様を呈する粘膜発赤がFMF小腸病変に特徴的な所見であると考察している 15.Asakuraらは,抗TNFα抗体製剤無効,コルヒチン投与が奏効したFMF腸炎患者(MEFV遺伝子Exon 2 L110P/E148Q複合ヘテロ接合体変異)症例を報告している.終末回腸に,腸間膜付着対側に存在し,浅い潰瘍および瘢痕が認められた所見を報告している 16.また,Esakiらは,十二指腸空腸部位に偽ポリポーシス様の病変を有する39歳発症のFMF(Exon 2(R202Q)ホモ変異)の報告をしている 17.また,Komiyaらは,疾患活動性の高いFMF症例では,CT所見で全小腸の壁肥厚,腹部エコーにて小腸漿膜測の血流増加が特徴的所見であることを指摘している 18.海外からの報告について紹介する.Demirらは,大腸病変を有さない41人のFMF患者に対して,小腸カプセル内視鏡を行い小腸病変の検討を行っている.この研究の対象の76.5%がExon 10の変異を有しており,日本人の変異部位の大部分がExon 2であることと対照的である.カプセル内視鏡の結果では,44%にびらん(26.8%)や潰瘍病変(17.1%)がみられ,29.3%の患者に浮腫が観察された.びらんや潰瘍の大部分(64%)が空腸で観察され,回腸では24%にとどまった.この検討結果では,約半数の患者に小腸粘膜異常(mucosal defect)が観察されたと結論づけられていた.但し,対象患者はコルヒチンを内服している患者が含まれているため,コルヒチンの影響は完全には否定できないとのコメントが付け加えられている 19.一方で,Aginらは28人のFMF患者を対象としてその消化管病変について検討しており,その中で大腸内視鏡検査が施行された16人のうち2人(12.5%)の回腸末端に潰瘍形成が認められたことを報告している 20.われわれの施設においても,十二指腸や小腸に病変を有するFMF症例を経験している.若年発症のFMF患者(Exon 2(E148Qヘテロ変異),Exon 3(P369Sヘテロ変異),Exon 3(R408Qヘテロ変異))で抗TNFα抗体製剤による治療を継続中であるが,十二指腸潰瘍性病変は残存している(Figure 3).現在,イラリスの投与が検討されている.同様に若年発症のFMF患者(Exon 5(S503C)ヘテロ変異)で,以前から回腸末端に狭窄病変を指摘されていた.イラリスによる治療中,腹部症状悪化のため内視鏡検査を施行した.回腸末端の狭窄により,内視鏡が通過せず内視鏡的バルーン拡張術を施行した.その内視鏡所見を示す(Figure 4).このように,FMF患者は多彩な小腸病変を呈することが示すことがわかってきている.FMF患者における小腸病変形成には,発作時の血流障害,漿膜炎の影響が関与していると推測されている.

Figure 3 

20歳,FMF症例Exon 2(E148Qヘテロ変異),Exon 3(P369Sヘテロ変異),Exon 3(R408Qヘテロ変異).抗TNFα抗体製剤による.

a:治療前.十二指腸球部前壁に比較的深い潰瘍性病変を認める.

b:開始2カ月の内視鏡所見.幽門輪は変形し,十二指腸の球部前壁には潰瘍病変が残存している.

Figure 4 

23歳,FMF症例Exon 5(S503C)ヘテロ変異.イラリス治療中のFMF患者に認められた回腸末端の内視鏡所見.

a:広範な粘膜脱落が認められ,粘膜は島状に残存している.

b:Aの部位よりやや口側に,縦走傾向を有する潰瘍性病変が腸間膜側に認められた.

大腸病変

筆者らが経験した症例は,盲腸部位に潰瘍性大腸炎類似の粘膜所見,右側大腸には縦走傾向のあるびらんと偽ポリポーシス様の所見であった.患者は38℃以上の周期的発熱,非限局性の腹膜炎様症状,および関節炎を有した.これらの症状が,家族性地中海熱臨床診断基準(Tel Hashomer criteria)の少なくとも2つを満たすことから,われわれはFMFを疑い患者の同意を得て遺伝子解析を行った.その結果,MEFV遺伝子Exon 2にG304R(sequence change 910G>A)の変異を認め,FMFと診断した 3.コルヒチン開始後,患者の発熱と腹部症状は劇的に改善し,他の投与薬剤はすべて中断可能となった.2011年2月の大腸内視鏡検査では,大腸に認められた炎症はほぼ消失していた(Figure 5).

Figure 5 

43歳女性 FMF症例Exon 2(G304R)ヘテロ変異.

a:コルヒチン治療前.盲腸部位.ほぼ半周に粘膜発赤,びらんが認められ,活動期潰瘍性大腸炎に類似した粘膜像を呈している.

b:コルヒチン治療後.粘膜炎症は改善し,血管透見が回復している.

また,潰瘍性大腸炎として紹介されるも,Exon 2(E148Q)に変異を有し,コルヒチンで腹部症状が寛解した症例が存在する.内視鏡所見では,直腸に病変は認められず,非常に軽微な粘膜炎症のみが認められており,S状結腸には斑状の炎症所見を伴っていた(Figure 6).薬剤性,感染性腸炎の際にも認められるような所見であった.また,高齢(80歳)発症の潰瘍性大腸炎疑いで紹介された患者では,右側結腸とS状結腸のみに全周性の血管透見像の低下,びらん,浮腫を認めるも,直腸病変は認められなかった(Figure 7).単関節炎と発熱が認められたため,FMFを疑い遺伝子検査を施行した結果,Exon 2(R202Q)のヘテロ変異が認められた.コルヒチンの投与後は,腹部症状および内視鏡所見の改善が認められた.

Figure 6 

25歳女性FMF症例Exon 2(E148Q)ヘテロ変異.

a:横行結腸に軽微な全周性の粘膜発赤,血管透見性の低下を認める.活動期潰瘍性大腸炎に類似した内視鏡所見である.

b:S状結腸には,斑状の軽度の粘膜炎症が認められる.

c:直腸には炎症を認めない.

Figure 7 

80歳発症女性FMF症例Exon 2(R202Q)ヘテロ変異.

a:肝彎曲に縦走傾向のある潰瘍性病変と共に介在粘膜に炎症所見を認める.

b:下行結腸には全周性の血管透見像の低下,浮腫を認める.

FMF関連大腸病変の特徴的所見を次に述べる.(a)潰瘍性大腸炎様の全周性粘膜所見を呈する傾向が約半数以上(68%)に認められるが,しばしば直腸には病変が認められない.(b)偽ポリポーシス所見(Figure 8).(c)クローン病のような縦走潰瘍病変ならびに狭窄例も存在する.関節炎症状が強い症例,右側優位の潰瘍性大腸炎に遭遇した場合には,FMF関連腸炎を鑑別診断として考慮すべきかもしれない.

Figure 8 

肝彎曲に認められた偽ポリポーシス所見.

Ⅸ まとめ

FMFは漿膜炎が病態の主体であるため,消化管病変の検討についてはほとんど行われていなかった.2012年われわれは,既存治療抵抗性の腸炎患者がMEFV遺伝子変異を有し,コルヒチン投与のみで寛解にいたったFMF関連腸炎の症例を報告した 3.筆者は日本全国多施設の先生方の協力を得て,FMF関連腸炎患者群の内視鏡を含む臨床的特徴を検討している.FMF腸炎患者では,非定型例が約70%以上を占めており,内視鏡所見では,UCに類似した連続性病変が認められるものの,直腸病変を伴わないことが特徴的な所見の1つであった.一方で,CD患者にみられるような狭窄病変を有する症例も存在することがわかりつつある.

FMFは常染色体劣性遺伝形式をとるとされてきたが,その発症機序は未だ不明な点が多い.その理由として,ピリン欠損マウスでは全身炎症の誘導が認められない,さらにheterozygous変異での発症が多いことが挙げられる.また,地中海領域に住む患者ではExon 10の変異がほとんどであるが,日本ではExon 2変異を有する患者が大部分を占める(70%以上).Exon 10での変異は,C-terminal domainに存在するB30.2の機能に影響をおよぼし,その結果Caspase-1活性化が生じ,成熟型IL-1βの産生に繋がることが報告されている.一方で,Exon 2変異に伴うアミノ酸置換がFMF発症におよぼす機序は未だに明らかとなっていない.筆者は,Exon 2変異によるアミノ酸置換を伴うピリン蛋白が炎症性サイトカインならびにNLRP3発現を誘導し,さらに患者の腸内細菌叢変化がFMF関連腸炎発症に関与するのではないかと考え,さらなる発症機序解明に現在取り組んでいる.

日本におけるIBD患者数は増加の一途をたどっている.しかしながら,IBD患者の発症原因は,個々の患者により異なっているはずである.筆者は今本疾患をFMF関連腸炎患者というよりは,MEFV関連腸炎と表現すべきではないかと考えている.そして,FMF(MEFV)関連腸炎は,IBDと診断される患者群の中に予想以上に存在する可能性は高い.われわれのデータを基盤に,早急にFMF(MEFV)関連腸炎診断基準の作成に取り組む必要がある.近い将来,病態に関連するサイトカインによってIBDは分類され,FMF(MEFV)関連腸炎はIL-1β関連腸炎と分類される日がくるかもしれない.

謝 辞

本研究内容は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援を受け現在も継続中である.(研究開発課題名 家族性地中海熱関連腸炎の診断法確立と病態解明を目指す研究 課題番号 19188015)

共同研究者

飯田智哉,平山大輔(札幌医科大学),梁井俊一,松本主之(岩手医科大学消化器内科),齋藤大祐,松浦 稔,久松理一(杏林大学消化器内科),江﨑幹宏(佐賀大学医学部),小林 拓,日比紀文(北里大学大学院医療系研究科炎症性腸疾患先進治療センター),松野雄一,梅野淳嗣(九州大学病院消化管内科),小柏 剛,国崎玲子(横浜市立大学附属市民総合医療センター炎症性腸疾患センター),大宮美香(関西医科大学内科学第3講座),荒木寛司(岐阜大学医学部光学医療診療部),渡辺憲治(兵庫医科大学腸管病態解析学),那須野正尚,田中浩紀(札幌厚生病院IBDセンター),吉田雄一朗(松山赤十字病院胃腸センター),長未智寛(製鉄記念八幡病院消化器内科),竹内一朗,新井勝大(国立成育医療研究センター消化器内科),横山純二(新潟大学医歯学総合病院光学医療診療部),鈴木康夫(東邦大学医療センター佐倉病院消化器内科学).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:仲瀬裕志(田辺三菱製薬(株),ヤンセンファーマ(株),武田薬品工業(株),HOYA Pentax Medical,杏林製薬(株),EAファーマ(株),大鵬薬品工業(株),アッヴィ合同(株),大塚製薬(株),日本化薬(株))

文 献
 
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