GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PREVENTION OF ESOPHAGEAL STRICTURE AFTER ENDOSCOPIC RESECTION
Ryu ISHIHARA
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2019 Volume 61 Issue 11 Pages 2518-2530

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要旨

食道の内視鏡切除後に発生する狭窄は,嚥下障害を来したりバルーン拡張が必要となるため,患者のQOLを低下させる.この狭窄を予防するため,各種方法が開発されている.これらの中では,ステロイド局注法が最も多く用いられており,非全周切除例に対する標準的な狭窄予防法である.しかし,全周切除例では,ステロイド局注法で十分な効果が得られないため,より強い効果が見込めるステロイド経口法が行われている.これらのステロイド治療,即ちステロイド局注法と経口法は,低コストで有効な方法ではあるが,食道壁が脆弱となり,バルーン拡張時に穿孔のリスクが高まるなどの問題点もある.そのため様々な革新的方法,例えばポリグリコール酸を用いた組織被覆法,自己口腔粘膜シート移植などの再生医療的アプローチ,ステント留置などが開発されている.これらの新しい方法は有望であるが,現時点では有用性に関するデータが不足しているため,今後さらなる検討が必要である.

Ⅰ 序  論

食道癌は,全世界における癌死の第6位に位置する疾患である 1.進行した食道癌の予後は不良であるが,早期に発見されると良好な予後が期待できる 2)~4.内視鏡切除(ER:endoscopic resection)は,その低侵襲性と良好な臨床成績から早期食道癌に広く用いられている 2.内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)はER法の一つで2000年前後に開発された 5.ESDは大きな病変の一括切除と正確な病理診断を可能にする.ESDの進歩とともに,以前は外科切除されていたような大きな病変に対してもESDが適用されるようになってきた.

ERは有効な治療法であるが,広範なERを行うと食道狭窄を来しうる.過去の研究では,食道ER後の3/4周以上に及ぶ粘膜欠損は,食道狭窄の危険因子と報告されている 6)~8.また,食道の全周切除,非全周切除後の狭窄率はそれぞれ,100%と56%-76% 9)~14とされ,必要拡張回数はそれぞれ13-23回と6-9回であった 9)~12.全周切除と非全周切除の成績には違いがみられるが,この違いの一部は,潰瘍の治癒過程の違いに起因すると考えられる.全周切除後に上皮は潰瘍の口側と肛門側のみから再生するが,非全周切除後には潰瘍の口側と肛門側に加えて筋状に残存した粘膜からも再生し(Figure 1),より速やかに上皮化する.速やかな上皮化を考え,非全周性の食道癌に対する全周切除は避けるべきと考えられている.

Figure 1 

a:粘膜下層剝離直後の食道潰瘍.

b:口側と肛門側に加えて筋状に残存した粘膜からも上皮再生がみられる.

c:口側と肛門側に加えて筋状に残存した粘膜からも上皮再生がみられる.

食道のER後に発生する狭窄は,嚥下障害を来したり,バルーン拡張が必要となるため,患者のQOLを低下させる 15.Ezoeらは,予防的なバルーン拡張(EBD:endoscopic balloon dilatation)が,狭窄を予防する対策の一つであることを報告している.しかしこの報告では,平均6回の予防的EBDを行っても59%の方に狭窄が発生し,狭窄が発生した患者には追加で平均8回のEBDが必要であった 16.この成績は満足行くものではなく,さらなる改善を期してこれ以降に様々な方法が開発されている.

Ⅱ ステロイド治療

ステロイド投与による狭窄抑制

瘢痕形成は炎症,増殖,リモデリングの過程からなり,創傷治癒において不可欠な部分であると考えられている.また,膠原線維であるコラーゲンは,瘢痕の形成に関与している 17.炎症や膠原線維の形成,線維芽細胞の増殖を抑えるステロイドは,理論的に瘢痕化抑制に有効な治療法である 18),19.そのため,これまでの食道ESD後の狭窄予防に関する報告は,主に局注や経口的にステロイドを用いる方法が使われていた 9)~11),14),20)~27.過去のシステマティックレビューでは,ステロイド療法は狭窄率の低下とEBD回数の減少に有効で,偶発症も増加させないことが報告されている 28),29

ステロイド経口法

Yamaguchiら 14),20は,ステロイド経口法が食道ESD後の狭窄を抑制することを報告している.彼らはプレドニゾロン30mg/日をESD術後3日目から経口で開始し,1週ごとに(30,30,25,25,20,15,10,5mg)と減量し8週後に投与終了した.Kataokaら 23の報告でもプレドニゾロン30mg/日で開始し,その後1週ごとに10mgずつ減量し,3週間後に投与終了した結果,ステロイド経口法の狭窄率は,非全周性病変で10-14%,全周性病変で27-33%であった.これらの狭窄率は,ステロイドを投与しないコントロール群に比べて明らかに低い値であり,ステロイド経口法は有効な方法ではあるが,ステロイドを高用量で全身投与した場合には様々な有害事象の発生が懸念される.全身投与量を減少すれば有害事象を減らせるだろうが,これは効果の減弱に繋がる可能性が高いため,今後はステロイド経口法の至適投与量を決定する検討が必要である.

ステロイド局注法

ステロイド局注法は,ステロイドを食道ESD後の潰瘍に直接注入することにより,全身投与よりも少ないステロイド量で炎症と線維化を抑制できるとのコンセプトで用いられている 9)~11),24)~27.最近の報告におけるステロイド局注法には,注射部位において2-3週かけて緩徐に吸収される性質があるトリアムシノロンアセトニド(TA:triamcinolone acetonide)が用いられている.この薬は食道の狭窄予防のみでなく,皮膚病や口腔内アフタ,アレルギー性鼻炎,関節炎など様々な疾患にも用いられている.Hashimotoら 24は,TAを潰瘍部に注入するとESD後の食道狭窄が抑制できることを報告した.彼らの報告では,TA局注を受けた患者における狭窄率は19%(4/21人)であった.Hanaokaら 25は,TA 100mgをESD直後の潰瘍に局注する方法が,ESD後の食道狭窄抑制に有効であったことを報告している.

非全周病変に対するTA局注法はいくつかの報告において良好な成績であったが 20),26),27,他の報告ではやや高い狭窄率が報告されていた(Table 1 9)~11.治療効果を評価する上で,粘膜欠損の広さは狭窄率に影響を与えるため重要である.通常は粘膜欠損が広くなると狭窄率は高くなり,粘膜欠損が狭くなると狭窄率は低くなるため,Table 1では各方法の有効性を粘膜欠損の広さとともに示した.また局注量と狭窄率との関連をみると,局注量が少ないと狭窄率が高くなっており,十分な効果を得るためには80mg以上のTA注入が推奨される.TA局注法の非全周性病変に対する効果は良好であったが,全周性病変に対する効果は十分でなく,特に1回のTA局注では全周切除後の狭窄を予防することはほぼ不可能であった.従って全周性病変に対しては,ステロイド経口法やステロイド局注法と他の方法との組み合わせを考慮する必要がある.

Table 1 

非全周性病変における各種狭窄予防法の効果.

ステロイド療法に関連する有害事象

ステロイド投与に伴う有害事象には,免疫抑制や糖尿病,精神異常,骨粗鬆症,眼障害,消化性潰瘍などがある.免疫抑制は,カンジダ食道炎やニューモシスチス肺炎 36,稀ではあるが播種性ノカルジア症 37の原因にもなる.文献的には,ステロイド>20mgを1カ月以上使用する場合には,ニューモシスチス肺炎や細菌感染に対する予防薬投与が推奨されている 38.ステロイド投与による食道壁の脆弱化も問題である.動物実験では,ステロイド局注後には,食道の粘膜下層の強い線維化と筋層の萎縮がみられることが報告されている 39),40.また臨床でも,TA局注を行った後の軽度瘢痕狭窄部をスコープが通過した際,深い食道裂創が起きたことや 25,ステロイド療法後にはバルーン拡張時の穿孔リスクが高いことが報告されている 26),41.ステロイド療法後にバルーン拡張を行う場合には,細い径のバルーンを用いたり,拡張圧を低くするなどの注意が必要である.

ステロイド経口法と局注法の併用

過去の報告では,全周切除後の狭窄をTA局注法では十分に予防できていなかったため,全周切除例にはステロイド経口法が推奨される(Table 2 9)~11),20),26.また,いくつかの施設では全周切除例に対して,ステロイド経口法と局注法の併用法が評価されている 9),44

Table 2 

全周性病変における各種狭窄予防法の効果.

一方,非全周性病変に対しては,ステロイド経口法と局注法のいずれもが良好な狭窄予防効果を示した(Table 1 9)~11),20),23),26),27.ステロイド局注法には高い技術を要するとの意見もあるが,大きな病変のESDが行える術者にとって局注法は難しい手技ではない.また,ステロイド局注法は,ESD施行日に狭窄予防処置が完結する簡潔な予防法である.ステロイド経口法は,ステロイドと細菌感染予防薬の服用が最低8週間必要になるため,患者と管理を行う医師にとって多少負担のある治療である.治療中にはステロイド投与量と糖尿病や精神症状などの副作用の管理も必要である.治療効果と簡便性を考えると,現時点ではステロイド局注法が非全周病変の最も標準的な治療といえる.

現在,非全周病変を対象にステロイド経口法と局注法を比較する,多施設共同無作為化比較試験(JCOG 1217)が行われている 45.もし,ステロイド経口法の局注法に対する優越性がこの試験で確認されれば,経口法が食道ESD後の狭窄予防における標準治療と位置づけられることとなる.しかし,ステロイド局注法の簡便性を考えると,局注法で十分な効果が見込める状況では,経口法が標準治療となっても,引き続き施行されると予想される.今後は,ステロイド経口法と局注法の使い分けのため,局注法の正確な効果予測が重要となる.

他のステロイド療法

ステロイド経口法や局注法を少し応用した治療法(以下応用ステロイド法)が,ステロイド局注法やステロイド経口法の問題点を克服するため開発されてきた 33),46),47.最近報告されたTA充填法は,TAの生食溶解液を食道に注入しESD後潰瘍に浸透させる方法である.この方法を,ESD後1日目,7日目,以後はフォローアップ検査時に軽度の狭窄がみられた際に行ったところ,狭窄の発生率は4.5%(1/22例)(Table 2)であった.これはステロイド療法の中でもかなり良い成績であった.TA充填法は有望であるが,単施設での成績が示されたのみなので,今後多施設での検証が必要である.

Ⅲ ポリグリコール酸シート

ポリグリコール酸(PGA)シートは生体吸収性組織補強材であり,移植手術における縫合部の補強,粘膜欠損の補強,瘢痕拘縮の予防,術後疼痛の軽減などに用いられている 48)~51.食道ESD後にはPGAで傷を被覆することにより,外来物質の直接接触を避け,肉芽組織の形成を抑制し,狭窄を防ぐことが期待されている.本邦において,非全周性切除例を対象とした2つの研究 30),31が行われた(Table 1).これら研究でPGAシートは,ESD終了直後にフィブリン糊を用いて潰瘍を覆うように留置された(Figure 2).1/2周以上の切除例では7.7%(1/13例) 30,3/4周以上の切除例では37.5%(3/8例) 31に食道狭窄が発生したが,重篤な有害事象はみられなかった.この方法は全周例では有効性が低く,コストが高く手技もやや複雑であることを考えると,これらの成績は満足行くものではなかった.

Figure 2 

a:粘膜下層剝離直後の食道潰瘍.

b:ポリグリコール酸で覆われた食道潰瘍部.

c:有意狭窄なく上皮の再生がみられる.

(写真を御提供いただいた虎の門病院飯塚敏郎先生に感謝いたします)

さらなる成績の向上を目指して,TA局注法とPGAシート法の併用療法に関する研究が行われた 34),35.これらの研究では,TAがESD直後の潰瘍に局注され,その後潰瘍がPGAシートとフィブリン糊により被覆された.狭窄率は非全周病変で11%-25%,全周性病変で50%-67%であった.比較的良好な成績ではあるが対象者が少ないため,その有用性に関しては多数例の研究で確認する必要がある.

Ⅳ 食道ステント

食道ステントは元々,食道瘻孔と切除不能な食道の悪性狭窄に対して用いられていた 52)~54.最近いくつかの研究では 55),56,食道良性疾患に対してメタリックステントを一時的に使用し,狭窄及び狭窄症状が改善したと報告されている.その一方で,ステントを用いると肉芽組織の過形成や,胸部痛,ステント逸脱などの偶発症が比較的高頻度で発生することも報告されている 57),58

食道ESD後の狭窄を予防するため,Wenら 59がESD後の粘膜欠損が3/4周以上の患者に対し,ESD直後にステントを留置し8週後に抜去したところ,狭窄率は18%(2/11人)であった.Yeら 42は,全周性のESDを施行した患者に対し,ESD直後にステントを留置し3カ月後に抜去したところ,狭窄率は17%(4/23人)と有望な結果が得られた.しかし,Holtら 43が食道の全周切除を施行した患者に対しESDの10日後にステントを留置し8週後に抜去したところ,狭窄率は57%(8/14人)と高く期待した効果は得られなかった.

金属ステントを食道の良性狭窄に適応することの妥当性に関しては,出血や穿孔,ステント逸脱,再狭窄などの有害事象があるため,結論が得られていない 54),60.食道の非全周切除例に関しては,ステロイド療法などでもある程度の狭窄予防ができるため,治療の複雑さや高い有害事象発生率を考えると食道ステント法は推奨されない.しかし,食道の全周切除例に対しては,ステロイド局注法や経口法,PGAシート法では十分な効果が得られていないため,食道ステント法を治療の選択肢の一つとして考慮する必要がある.最近は,食道ステント法のさらなる成績向上を期して生体吸収性食道ステントが開発され 61)~63,難治性狭窄を始めとした様々な状況での有用性が検討されている.

Ⅴ 既存の薬剤や材質を用いた治療法

抗アレルギー剤のトラニラスト 64,抗がん剤のマイトマイシンCや5-フルオロウラシル 65),66などの様々な薬は,その炎症や膠原線維の合成抑制を介した狭窄予防効果について評価されてきた.トラニラストと5-フルオロウラシルは,以前の研究で狭窄予防効果を示したが,以後5年以上にわたり追加の報告はなされていない.ボツリヌス毒素タイプA(BTX-A)は,神経毒の一種で,膠原線維の沈着を抑制し過形成瘢痕を改善させる 67.Gassnerら 68は,BTX-Aを一度注入すると皮膚の瘢痕が美容上改善することを示した.食道ESD後の狭窄予防への有効性をみるため,Wenら 32は食道ESD後の粘膜欠損が1/2周以上の67人を対象に無作為化比較試験を行った.ESD後の狭窄率はBTX-A群では11%(4/35人)と,コントロール群の38%(14/37人)に比べて有意に低く(P<0.05),BTX-A使用による重篤な有害事象はみられなかった.しかしこの試験の対象の多くは,粘膜欠損が3/4周未満で,3/4周以上全周未満であったのは6人のみであった.従ってこの治療の有効性に関しては,3/4周以上の粘膜欠損例を主に含む,より大きな研究で確認する必要がある.

Ⅵ 再生医療的アプローチ

再生医療的アプローチのコンセプトは,移植された素材は障害組織を置換し,生体機能を保持するとともに瘢痕のない創傷治癒を可能にするというものである 69.再生医療を用いた食道狭窄予防には2つの方法がある.これらは細胞ベースの治療法と骨格ベースの治療法である(Table 3).

Table 3 

再生医療的アプローチ.

細胞ベースの治療法

細胞ベースの治療法では,移植された細胞はサイトカインや成長因子を放出し,他の宿主細胞と反応し宿主に対して栄養作用を来すことが期待されている.角化細胞や脂肪間質細胞を宿主臓器に直接注入する方法が当初は検討された.自己頬粘膜の角質細胞を注入することにより,ブタモデルでER後の狭窄形成が抑制された 78.また,脂肪組織由来の間質細胞は,イヌモデルでER後の狭窄形成を抑制した 79.いずれも有効な方法ではあるが,初代細胞を宿主臓器に直接注入する方法には2つの問題点,即ち生着性の低さと移植部位からの速やかな拡散がある.このような問題点を克服するため,Perrodらは脂肪組織由来の間質細胞シートをブタモデルの食道切除後潰瘍に移植し,ESD後の狭窄率が減ることを示した 71),80

Ohkiら 70は自家口腔粘膜上皮細胞シートを粘膜欠損が1/2周以上の対象に使用した場合の効果を検討した.彼らは上皮細胞シートを生体外で作成し,内視鏡を用いて食道潰瘍部に移植した.食道潰瘍部は中央値3.5週間程度で上皮化し,狭窄は全周切除を行った1例に発生したのみであった.恐らく有効な方法ではあるが,手術費用が高い(現状では1症例につき,20,000ドルから30,000ドルのコスト)のが問題である.本法の有効性と費用対効果に関する検討が必要である.

骨格ベースの治療法

細胞外基質(ECM:Extracellular matrix)骨格は,上皮細胞の発育を助け,創傷治癒過程を促進する 81.小腸の粘膜下層や膀胱の粘膜下層由来のECM骨格はイヌモデルにおいて食道の再構築に有効であったと報告されている 82.無細胞真皮基質(ADM:Acellular dermal matrix)はECM骨格の一種で,生物学的特性を維持しつつ免疫原性物質を除去する脱細胞処理により作成される.

Hanらはブタモデルを用いて,ADMパッチ植皮を非全周性ESD後の潰瘍に移植した.ADM群では有意狭窄が起きなかったのに対し,ESDのみを行ったコントロールグループでは42.8%(3/7匹)に有意狭窄が発生した(Table 3 72

臨床研究では,Badylakらが5人の男性患者において,ECM骨格が内視鏡的全周性内層切除後の狭窄を抑制したと報告している 83.またHoppoら 84は,ECM骨格を全周性ER後の潰瘍に適用し,3人の患者で狭窄が抑制できたと報告している.一方でSchomischらは,小腸粘膜下層,ADM,膀胱基質の3つのECM骨格を使用し,十分な狭窄抑制ができなかったことを報告している 85

ECM骨格の効果に関しては,十分な結論が得られていない.さらに,ECMは癌細胞や最近の生着に適した環境であり,骨格材料を使用すると局所再発や局所感染を来しやすくする可能性がある.そのため,日常臨床で広く使われる前にさらなる安全性評価が必要である.

Ⅶ 食道粘膜移植

Liaoら 77は,最近食道粘膜移植が全周性ESD後の狭窄を予防することを報告した.この方法では,EMRにより自己食道粘膜を数片摘出し,ESD後潰瘍にクリップ及び食道ステントで接着した.食道ステントは7日後に抜去した.9人中8人の患者で狭窄は発生したものの,狭窄を解除するために行ったEBDの平均回数は2.7回(0-6回)であった.拡張に要したEBDの回数はこれまでの報告 9)~12よりもかなり少なくなっていた.この方法のコンセプトは極めてユニークであり,結果は有望であった.しかし,手技は侵襲が大きく,複数の食道粘膜切除とステント留置が必要である.さらに重要な問題として,移植された食道粘膜からの発癌の可能性がある.Field cancerization理論によると,食道癌の周囲粘膜は発癌のリスクが高いことが懸念される 86

Ⅷ 狭窄のマネージメント

各種狭窄予防法を講じても,ER後に狭窄を生じることがある.TA局注法を行っても狭窄を来す危険因子として,(i)粘膜欠損が5/6周以上 27,食道癌の拡がりが3/4周以上 26であることが報告されている.またステロイド経口法を行っても狭窄を来す危険因子として,(i)粘膜欠損が11/12周以上,(ii)長径が50mm以上,(iii)頸部食道病変,(iv)化学放射線療法の既往 20があげられている.ER後の狭窄は,通常繰り返すバルーン拡張で治療される.バルーン拡張後の食道裂創にTA局注を行うと,その後に行うバルーン拡張の回数を減らせる可能性がある.また最近開発された生体吸収性のステントもER後の難治性狭窄に使用できる可能性がある.この生体吸収性ステントは,ステント留置後の除去が必要ない点や拡張力が強い点で,金属ステントやプラスチックステントに比べて優れている 61)~63.しかし,バルーン拡張後のTA局注や生体吸収性ステントの効果は十分に検証されておらず,さらなる検討が必要である.

Ⅸ 将来展望

最近の報告では,カルボキシメチルセルロースシートやコラーゲンビトリゲル(膠原線維で形成されるゲル),間葉系幹細胞から得られた調整培地,炭水化物硫酸転移酵素15標的低分子干渉RNA(siRNA targeting CHST15:small interfering RNA targeting carbohydrate sulfotransferase 15)などの狭窄予防効果が動物実験で評価されている(Table 3).

(i)カルボキシメチルセルロースシートは,ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースからなる生体再吸収性膜である.このシートは,腹部や硬膜外,婦人科手術などで,術後癒着予防のため用いられている.これまでの報告によると,このシートは組織を補強し,瘢痕収縮を抑え,上皮細胞の成長を促進するとされている 74

(ii)コラーゲンビトリゲルは,生体内の結合組織に似た高密度膠原線維からなる生体材料で,ガラス化処理により作成される.コラーゲンビトリゲル性の人工皮膚は再生皮膚の上皮化を促進し,瘢痕形成や炎症を抑制するとされている 75

(iii)間葉系幹細胞は再生医療における貴重な細胞源であり,間葉系幹細胞から得られた調整培地は炎症を抑制することが報告されている 76

(iv)CHST15はタイプⅡ膜透過性ゴルジ蛋白で,コンドロイチン硫酸の硫酸化二糖類ユニットであるECMを生合成する.siRNAでCHST15をブロックすることにより,繊維化が抑制される 73

これらの材料は動物モデルで狭窄を予防できることが明らかにされており,今後は人体での評価が望まれる.

Ⅹ 結  論

ER後の狭窄を予防するために,様々な方法が用いられるようになっている.これらの方法の中でもステロイド局注法は最もよく用いられており,現時点では非全周性切除後の狭窄予防における標準的な方法である.一方,全周性切除後には主にステロイド経口法が用いられている.また,各種の有望な方法が開発されており,これらの方法の有用性を評価する大規模前向き研究の実施が期待される.

謝 辞

英文原稿の英文校正をしていただいたEdanzグループ( https://www.edanzediting.com/ac)のAngela Morben, DVM, ELS,Figure 2を御提供いただいた飯塚敏郎先生(虎の門病院)に感謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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