GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ADULT-ONSET IgA VASCULITIS WITH FUNCTIONAL ILEUS: A CASE REPORT
Shunsuke TAKAHASHI Makoto TAKAHASHIChihoko ARATONORisa IWAOHirotaka TSURUKousuke MAEHARAMasanori HISAOKAEikichi IHARA
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2019 Volume 61 Issue 12 Pages 2617-2623

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要旨

78歳男性.腹痛を主訴に受診.上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行部に多数のびらんを伴う浮腫状変化を認めた.入院3日目,四肢に紫斑が出現し,十二指腸生検病理所見で壊死性血管炎を認め,IgA血管炎と診断した.入院6日目腹部所見が増悪し,閉塞起点を伴わないイレウスを認め,機能的イレウスと診断後にイレウスチューブを挿入した.その後プレドニゾロン投与で症状及び消化管・皮膚所見は改善した.消化管の内視鏡像及び内視鏡組織生検所見が本症の診断に有用となり,腸重積または腸穿孔を伴わないイレウスを合併したIgA血管炎の1例を経験したので報告する.

Ⅰ 緒  言

IgA血管炎は小血管を侵すIgA免疫複合体の沈着を有する全身性血管炎であり,紫斑に加えて関節症状,腹部症状,腎症など多彩な症状を呈することが知られている 1.本症は主に小児に好発し,成人発症は稀である.本症は小腸を中心に腸管壁内出血による浮腫を来し,腸重積症やイレウス,腸管出血性壊死・穿孔を合併することが知られており 2,消化管合併症の有無は患者の予後を左右する重要な因子である.今回,イレウスを合併し十二指腸粘膜の病理組織所見が診断根拠となったIgA血管炎の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:78歳,男性.

主訴:腹痛.

既往歴:慢性閉塞性肺疾患(55歳頃),前立腺肥大症(67歳).

生活歴:喫煙 40本/日(50年間),飲酒 ビール350ml,焼酎1合/日.アレルギー歴なし.

内服薬:タムスロシン塩酸塩0.2mg,ツムラ大柴胡湯2.5g.

現病歴:当院受診3日前,突然の心窩部痛に続き,数回の嘔吐と水様性下痢を認めたため,翌日近医受診.急性腸炎の診断にて整腸剤・抗生剤(PUFX)内服治療を開始された.しかし,心窩部痛は下腹部全体に拡がる腹痛へと変化,症状の増悪を認めたため,精査と加療目的にて当院紹介入院となった.

入院時現症:身長161cm,体重53kg,体温36.9℃,血圧136/96mmHg,脈拍98/分,SpO2 100%(room air).腹部は平坦,腸蠕動音は減弱.下腹部全体に軽度の圧痛あり.反跳痛なし.全身に皮疹なし.

臨床検査成績所見:(入院時)WBC 11,600/μl,Hb 15.1g/dl,Plt 35.1×104/μl,CRP 1.36mg/dl,BUN 48.3mg/dl,Cr 1.70mg/dl,K 5.0mEq/l,尿蛋白±,潜血-と白血球増多,軽度炎症所見,脱水,腎障害を認めた.(追加検査)血液凝固第13因子26%と低下,IgA 150mg/dlと基準値内(110-410)であった.抗核抗体,Anti-neutrophil cytoplasmic antibody(ANCA)は共に陰性であった.

入院時胸腹部単純CT:十二指腸及び空腸の腸管壁肥厚・浮腫状変化を認める(Figure 1).回腸末端と盲腸部の浮腫状変化もみられる.一方,胸部には異常所見は認められなかった.

Figure 1 

単純CT所見.

十二指腸球部から上行部(矢印),上部空腸(▲)に壁肥厚及び浮腫状変化を認める.

入院時上部消化管内視鏡検査:胃穹窿部から体下部にかけて発赤斑,体下部小彎に暗赤色の浅い潰瘍,前庭部に多数の発赤斑を認める.十二指腸球部に多数の発赤斑,下行部から水平部にかけて全周性の浮腫状変化及び発赤,横走するびらんを多数認めた(Figure 2).

Figure 2 

上部消化管内視鏡所見.

a:十二指腸下行部に全周性の浮腫状変化及び発赤・びらんが多数認められた(矢印:初回生検部).

b,c:十二指腸のびらんは軽度の白苔付着を認め,一部で横走傾向であった.

入院時下部消化管内視鏡検査:盲腸及び回盲弁に発赤斑が散見された.回腸末端には散在する発赤・びらんが少数認められた.一方,直腸から上行結腸には異常所見は認めなかった.

臨床経過:上部小腸を中心とした小腸炎の所見から,初期治療として絶食・補液及び抗菌薬(CMZ 2g/日)投与を行った.しかし,治療効果は認められず,腹痛は持続,腸蠕動音減弱し,腹部膨満が増悪してきた.入院第3日目,両側の手掌・下腿伸側・足底部に地図状の紫斑が出現した(Figure 3).紫斑は主に手掌及び足底部に認められ,点状紫斑がわずかに触知できた.入院5日目には腸蠕動音は消失,排ガスを認めなくなった.入院6日目に施行した腹部単純Xp検査(Figure 4)及び腹部単純CT検査では,十二指腸球部~上部空腸を中心とした腸管拡張,腹水を認めるものの,明らかな閉塞起点や腹痛の原因となる腸重積及び腸管壊死などの器質的疾患は認めなかった.機能的イレウスと診断し,腸管減圧目的にイレウスチューブを挿入すると共に中心静脈栄養を開始したが,イレウスの改善は認められなかった.入院時に施行した胃,十二指腸及び回腸の生検粘膜を用いた細菌培養及び病理組織検査では診断に結びつく特異的な所見は認められなかったが,血液検査にて第13因子の低下を認めた.身体所見及び内視鏡所見と併せてIgA血管炎を疑う所見であったため,入院8日目に再度上部消化管内視鏡検査を施行,十二指腸病変より生検を施行したところ,病理検査にて壊死性血管炎の組織所見を認めた(Figure 5).免疫組織化学的染色では,血管壁にIgA陽性所見を認めた.以上よりIgA血管炎と診断した.入院9日目よりプレドニゾロン50mg/日(1mg/体重1kg)による治療を開始したところ,投与3日目(入院12日)より腹部症状は改善,紫斑も消退傾向,排便を認めた.翌日,イレウスチューブを抜去,入院19日目より食事開始した.入院25日目に施行した上部内視鏡検査では,胃・十二指腸病変は改善を確認した.

Figure 3 

手掌及び足底部に内出血様の暗赤色斑が認められ,一部の点状斑で触知が可能であった.

Figure 4 

腹部単純Xp検査所見.

著明な小腸拡張が認められた.

Figure 5 

十二指腸びらんの生検組織像.

a:H&E染色組織所見(×200(左),×400(右)).粘膜下層の小血管壁内に多数の好中球浸潤を認めた.血管壁内にフィブリノイド変性,核破砕像,血管外への赤血球漏出(矢印)も認めた.

b:IgA免疫染色組織所見(×400).粘膜下の小血管周囲を取り囲むようにIgA染色陽性所見を認めた(矢印).(spot様陽性所見は形質細胞内の陽性所見).

Ⅲ 考  察

IgA血管炎(旧名;Henoch-Schönlein紫斑病)は,小血管を侵すIgA1優位の免疫沈着を有する血管炎と定義され 3,主に皮膚と消化管に症状を来すがその他にも関節痛や腎機能障害を合併する 2.好発年齢は2~7歳であり成人発症は稀(5%)とされてきたが,近年では以前考えられていたよりも成人例は多い(25%)との報告もある 1),4),5.病因については,糖鎖異常を来したIgA1がIgGを誘導し,IgA1-IgG免疫複合体を形成し血管局所で沈着することで血管炎を起こすため,と考えられている 3.本症の腹部症状は50~60%で認められ,腸管壁の血管炎に起因する腹痛や吐気,嘔吐,下痢,血便を生じる 2.消化管病変は食道から大腸に至る全消化管に生じるとされ 6,特に十二指腸を含む小腸は出現頻度が高い 7.さらに腹部症状の14~20%は皮膚症状に先行する 2ため,内視鏡による消化管検査は早期診断・治療のために重要である.江﨑らは消化管検索が行われた本症15例の検討において,横走傾向を呈する潰瘍,周囲に発赤浮腫が目立つ不整形潰瘍,潰瘍底の発赤・凹凸が目立つ不整形潰瘍が特徴的所見であったと報告している 7.また,Zhang Yらは本症の成人54例の内視鏡像の検討において,十二指腸の粘膜異常は2nd portionが好発部位であり,びまん性発赤,浮腫,多発不整潰瘍,結節状変化,血腫様隆起が認められたと述べている 8.本症例では十二指腸球部に多数の発赤斑,下行部から水平部にかけては多数の発赤斑やびらんに加えて,襞と並行し横走傾向を示すびらんが認められており,紫斑などの特徴的な身体所見を有さない時点において本症を疑う契機となった.本例は入院3日目より四肢に紫斑が発生し第ⅩⅢ因子の低下も認めたが初回の内視鏡下生検病理組織診断では主に粘膜固有層~粘膜筋板の組織のみ採取されており,確定診断に至らなかった.しかし身体所見や内視鏡所見より本症を強く疑い,2回目の上部内視鏡検査を施行した.IgA血管炎の病理診断には粘膜下層を走る血管の評価が必要であるため,2回目の生検時の留意点として,鉗子を腸管壁に垂直に当て,可能な限り深層の粘膜下組織を採取した.その結果,粘膜下層に壊死性血管炎の病理所見を認め,確定診断に至った.臨床経過や内視鏡所見より本症を疑う場合,本例のように消化管組織生検が診断に結びつくことがあるため,粘膜下層の血管を評価できるような生検組織を採取する工夫を行うことが重要である.その一方で,壁が薄くかつ炎症のために脆弱となった十二指腸粘膜は生検による穿孔や大出血を来すリスクもあり,決して鉗子を強く押しつけ過ぎないよう留意する必要がある.また,本疾患の診断においては消化管組織生検の有用性は留意しつつ,安全面を考慮して十二指腸生検ではなく皮膚生検が望ましいと思われた.しかしながら,当院では皮膚科医が常勤しておらず安全な皮膚生検が施行できないという医療体制の問題もあり,十二指腸生検を行うこととなった.

本症例は入院5日目より排ガス・排便が消失し,6日目に機能的イレウスの診断に至った.本症に伴う重篤な消化管合併症として,イレウス,梗塞,穿孔が報告されているが 9,腸重積,腸管壊死以外でイレウスを発症した報告例は稀である.われわれが医学中央雑誌(1984~2017年)で「Henoch-Schönlein紫斑病」「腸閉塞(イレウス)」のキーワードにて検索しえた範囲では,わずか2例を認めるのみであった.2例中1例は成人発症例であり,石川らは,造影CTにて小腸壁の著明な壁肥厚,内腔狭窄及び口側腸管拡張よりイレウスと診断,本症例と同様にステロイド治療により改善を認めたと報告している 10.もう1例は9歳女児で,イレウス,急性腎不全,急性呼吸不全を呈した紫斑病性腎炎(IgA血管炎に合併する糸球体腎炎 11)の1例であり,ECUM(限外濾過)とステロイドパルス療法にて改善している 12.本例は腹部CTで小腸を中心とした著明な腸管拡張を認めるも明らかな閉塞起点や腸管壊死は指摘できず,腸蠕動音が消失していたため機能的イレウスと診断し,その後ステロイド治療により腹部所見は著明に改善したことから,血管炎に起因するイレウスが強く疑われた症例であった.小腸の機能的イレウスは麻痺性,血管性,偽性腸閉塞症に分類されるが,大半が麻痺性イレウスである.原因は神経性,代謝性または薬物性などであるが 13,腸蠕動運動の麻痺を来す明らかな原因を同定できない場合もしばしば経験する.本症における症状や腸粘膜障害は,前述したように免疫複合体が血管周囲に沈着することにより生じるものと考えられるが,本例ではCTにて十二指腸から上部空腸,回腸末端から盲腸までの局所的な壁肥厚を認めるのみであり,イレウスに至った原因は特定できていない.その一方で,ステロイド治療によって劇的な改善を認めており,イレウスの病態に直接または間接的に血管炎が関与していたと考えられる.消化管運動は,壁内神経叢,ペースメーカーであるカハールの介在細胞そして実際に収縮弛緩反応を担う平滑筋の協調したネットワークによって制御されている.本症例においては,血管炎がこれらネットワーク内のいずれかを障害し,腸管運動機能障害を引き起こした可能性が示唆されるが,病態解明には今後症例の蓄積が必要と考えられる.

Ⅳ 結  語

腸重積及び腸管壊死を伴わないイレウスを合併し,ステロイド治療により著明に改善したIgA血管炎の症例を経験した.消化管内視鏡所見から本症を疑う場合は,病理診断のために粘膜下層を含めた生検組織を採取する工夫が重要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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