2019 Volume 61 Issue 12 Pages 2656-2658
当院は1947年7月 原爆による惨禍がいまだ生々しく残る現在地に15坪の診療所として開設された.1948年 事業場の集団検診業務に着手.1953年8月 法人組織となり名称を「医療法人 愛人会 河村診療所」に改めた.「愛人会」の由来はクリスチャンである開設者・河村虎太郎が福音書にある「己を愛するが如く,汝の隣人を愛せよ」をもとに名付けたものである.1954年12月 28床の病棟を有する病院へ発展し,「医療法人 愛人会 河村病院」と改称した.1965年3月 特定医療法人に認定された.その後,増床を重ね,一時は107床を擁していたが,2011年4月 「河村内科消化器クリニック」へ医療施設を変更した.2018年9月 地上6階/地下1階のクリニックビルを新築,移転して今に至る.
当院の消化器内視鏡検査は,1954年 試作段階であった胃カメラに虎太郎が着目し,オリンパス光学工業へ胃カメラ改良案を持参したことを嚆矢とする.当時,関西以西で胃カメラを実施している医療機関はなく,広島から東京へ通い,東京大学田坂内科の崎田,芦沢両先生より胃カメラ撮影術の指導を受けた.当院の内視鏡検査第1例は,1956年2月13日 Ⅱ型胃カメラにより施行された男性の早期胃癌であった.現在,当院は日本消化器内視鏡学会の指導施設であり,年間約1万件の上・下部消化器内視鏡検査を行っている.
組織外来,検診の内視鏡検査と治療を消化器内科医3名が施行している.内視鏡室専任のスタッフは看護師11名である.
検査室レイアウト
当院の2階フロアが内視鏡検査室であり,2019年4月から光源を1台増設して,4台の内視鏡検査台(OLYMPUS EVIS LUCERA ELITE)が稼働している.検査室の向かい側に記録室があり,4台のコンピューターが備えられている.検査後,施行医は記録室へ移動し,コンピューター画面を確認しながら所見を記載する.
上部消化器内視鏡検査
咽頭麻酔室は同時に3名まで使用することができる.原則としてdeep sedation下で施行し,希望者は経鼻内視鏡も選択できる.鎮痙剤は使用しない.検査終了後は,患者は車椅子でリカバリールームへ移動し,意識清明となるまで1時間以上休息する.リカバリールームにはリクライニングシートが16台,ベッドが2台設置されている.
下部消化器内視鏡検査
禁忌のない限り鎮痙剤と鎮痛剤を使用し,CO2送気下で行う.全検査室に高周波装置が装備されており,検査中に指摘されたポリープは内視鏡的に切除する.
3階は下部消化器内視鏡検査の前処置室のフロアであり,個室12室と大部屋1室よりなる.大部屋には6名まで収容可能である.2階の検査室へはエレベーター,もしくは階段で移動する.各部屋のナースコールは2階の受付へ接続している.観便の呼び出し時などに部屋番号を視認しやすいよう立体的なプレートが取り付けられている.個室の広さはいずれも10-11m2でソファ,テレビ,机がしつらえてあり,従来,患者より好評であった1部屋につき1つのトイレ設置を新クリニックでも踏襲している.大部屋には男性用と女性用のトイレがそれぞれ3つずつ設置されている.
(2019年4月現在)
医 師:指導医2名,専門医2名
内視鏡技師:Ⅰ種5名
事 務 職:1名
(2019年4月現在)
(2018年1月~2018年12月まで)
外来,内視鏡検査,検診/人間ドックが当院の3つの柱であり,地域医療の枠組みの中で科学的で最良の医療を提供することがわれわれの使命である.
当院では消化器系の医療機関で後期研修の終了した内科医を毎年1名受け入れており,外来と検査を担当する.上・下部消化器内視鏡は検査,治療とも一通り可能な段階であるが,個人の習得度に応じて上級医が技術的な指導を行う.内視鏡治療は大腸ポリープに対するhot biopsy,ポリペクトミー,EMRが主である.ESDを要する早期食道癌,早期胃癌,大腸LSTなどの疾患は広島大学病院へ,進行癌は広島大学病院,および地域の連携病院へ紹介している.例年,およそ400例の除菌治療を行っており,ヘリコバクター・ピロリ感染症の疫学,除菌後の経過についての理解が必要である.消化器疾患のみならず,感冒,アレルギー,睡眠時無呼吸症候群,生活習慣病をはじめとする内科一般の疾患の治療にもあたるため,ジェネラリストとしての役割も期待される.知見を広げるため関連の学会や研究会への積極的な参加を奨励している.
2011年に筆者が現職に着任した当時は年間の内視鏡検査件数が7,800件であった.その後,順調に検査件数が伸び,2016年度に1万件に達した.対策型胃がん検診の開始,新クリニック移転による施設の一新などにより今後も件数の増加が見込まれるため,受け入れ態勢の強化が急がれる.また,内視鏡画像,超音波画像,レントゲン画像はファイリングシステムにより,直ちに内視鏡室や外来診察室で閲覧することができるが,2019年4月現在,当院の業務は依然として紙カルテにより運用されている.データ収集が煩雑であり,電子カルテへの移行とJED参加を準備中である.
かつて開設者・虎太郎が検診業務に着手した際は,周囲からの反対も多かったようであるが「検診所の運営をキリスト教精神で貫くこと」「検診業務は医学的に誤りのない,数年後にはその統計が学術資料となり得るような正確なものであること」の信条のもと事業を軌道に乗せ,現在に至っている.オリンパス光学工業へ胃カメラ改良案を持参したのも,交通の不便な時代に東京へ通い内視鏡技術を習得したのも,その信仰と実地医療の情熱に衝き動かされたがゆえである.患者本位に発想し,科学的な思考をよりどころに未知の分野へ踏み込む果敢な精神はこれからも引き継がれるべきと考える.