2019 Volume 61 Issue 12 Pages 2659
【背景と目的】Ⅰ期の食道扁平上皮癌(ESCC)の標準は外科的食道切除術である.内視鏡的切除(ER)の結果に基づき,選択的化学放射線療法(CRT)を追加する治療法の有効性と安全性を確認する.
【方法】2006年12月から2012年7月にかけて,cT1b(SM1-2)N0M0胸部ESCC患者の単群前向き研究を実施した.ERを受けた176人をERの所見に基づいて3群に振り分けた.A群;切除断端陰性で脈管侵襲陰性pT1a(MMまで)患者は追加治療なし.B群;切除断端陰性pT1bまたは脈管侵襲陰性陽性pT1a患者は原発巣局所領域リンパ節に41.4 Gyの予防的CRTを実施.C群;垂直断端陽性患者はER局所の9 Gyブーストを含む予防的CRT(50.4 Gy)を実施.照射野の設定は,UtのESCCでは鎖骨上・上縦隔・気管分岐下リンパ節,Mt/LtのESCCでは縦隔・胃周囲リンパ節.化学療法は5-FU(700mg/m2/d,days 1-4 and 29-32)+シスプラチン(70mg/m2/d,days 1 and 29).主要評価項目はB群の3年全生存,副次評価項目は3群合計の3年全生存.主要・副次評価項目の90%信頼区間(CI)の下限が80%の閾値を超えた場合,ERと選択的CRTの組み合わせの有効性を確認とする.
【結果】登録患者176例はA群74人,B群87人,C群15人に分類された.1)3年間の全生存率は,B群90.7%(90%CI,84.0%-94.7%),全患者で92.6%(90%CI,88.5%-95.2%)2)B群C群全例でRTと化学療法1コースは完遂したが,B群15%,C群13%で化学療法2コース目が実施できなかった.CRTのgrade4有害事象なし.3)15例(A群1例,B群10例,C群4例)で転移再発が確認された.3例の食道局所再発のうち2例は追加ERが行われた.リンパ節転移は頸部2例・胸部8例・腹部6例(*重複あり).遠隔転移5例(肝2,肺1,胸膜1,骨1).リンパ節転移のみであった7例はサルベージ手術が実施された.4)期間中に11例が現病死(A群1,B群7,C群3),5例が他病死,2例は死因不明.
【結論】ER+選択的CRTは手術治療と有効性は同等であり,ER+選択的CRTはcT1b(SM1-2)N0M0胸部ESCCの標準的な低侵襲治療となる.
1)本研究はJCOG 0508として実施された単群(ER+選択的CRT)多施設前向き研究である.ER+選択的CRTがcT1b(SM1-2)N0M0胸部ESCCの標準的な低侵襲治療となることを証明した重要な臨床研究である.2)cT1b(SM1-2)として登録された症例の約半数はpT1aかつ脈管侵襲陰性であった.従って,cT1b(SM1-2)をすべて外科治療とするとover treatmentが半数発生することも証明された.しかしながら,本研究ではMPに近いcSM3は登録されておらず,その点は研究結果の解釈上注意を要する.3)本来であれば5年全生存が評価項目として設定されるべきであるが,速やかな研究成果の臨床への反映が重視され,3年全生存が評価項目となった.研究は継続されており,5年全生存の結果は今後報告される予定である.4)放射線照射野内のリンパ節再発例が認められており(実数が提示されていない),41.4 Gy・FP(700mg/70mg)2コースの予防的CRTの治療強度の妥当性は検討課題である.