GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CURRENT STATUS AND ISSUES OF ENDOSCOPIC TREATMENT FOR ESOPHAGEAL ADENOCARCINOMA
Taro IWATSUBORyu ISHIHARA
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2019 Volume 61 Issue 2 Pages 123-132

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要旨

Long segment Barrettʼs esophagusからの発癌が多い欧米では,食道腺癌やHigh grade dysplasia症例に対して結節部分をEMRで切除し,Barrett食道を含めた周囲をラジオ波で焼灼するCombination therapyが主に用いられている.一方本邦では,術前に癌の広がりを診断し,癌の部分のみがESDで切除されている.食道腺癌に対するESDの一括切除率はほぼ100%であったが,治癒切除率は65%以下と低く,これは食道腺癌の側方及び深達度診断の困難さを反映しており,今後改善すべき課題である.内視鏡切除後の治癒判定に関し,欧米では脈管侵襲なし,低分化成分なし,3cm以下では転移再発のリスクが低いと考えられている.本邦の多施設共同研究でも同様の結果が得られており,この規準を本邦の治癒判定にも適応するか検討が必要である.

Ⅰ はじめに

食道癌はその発生率において大きな地域差がある 1.2012年の統計ではアジアや南ヨーロッパで食道扁平上皮癌全体の79%が発生しているのに対して,北欧,西ヨーロッパ,北アメリカ,オセアニアで食道腺癌全体の46%が発生している 1.Barrett食道腺癌が欧米で増加していることはよく知られているが 2)~5,本邦でも食道癌全体における腺癌の発生割合をみると1995年の1.7%から2011年の5.3%へと増加傾向にある 6.また本邦における,ピロリ感染率の減少や食の欧米化,それに伴う胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease;GERD)の増加などは,Barrett食道腺癌の発生をさらに助長する可能性が高い 7)~11

従来欧米では,食道腺癌に対してリンパ節郭清を伴った外科切除が主に行われていた.しかし,手術関連死亡や 12合併症が多く 13,術後QOLが低いことなどが問題であった 14.そのような背景から,リンパ節転移リスクの低い症例に対しては,より低侵襲な内視鏡治療が行われるようになってきた.内視鏡治療は大きくAblation therapyを中心とした組織破壊法と,内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection;EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)に代表される内視鏡的切除法(Endoscopic resection;ER)の2つに分けられ,様々な形で食道腺癌に用いられている.本稿では欧米と本邦で行われている内視鏡治療の現状を,文献のReview結果をもとに概説する.なお,本文中にDysplasia 15という表現を用いているが,High grade dysplasia(HGD)は日本の上皮内癌に相当し,Low grade dysplasia(LGD)は非浸潤性のLow grade neoplasiaで日本の腺腫や低異型度癌が含まれる 16),17

Ⅱ 食道腺癌およびBarrett食道に対する治療方針(欧米および本邦のガイドラインから)

Barrett食道の発癌ポテンシャルはBarrett食道の長さに比例する 18.欧米では発癌ポテンシャルの高いLong segment Barrettʼs esophagus(LSBE)から食道腺癌が発生することが多い.そのため欧米では,癌のみでなく異時性癌の発生母地であるBarrett食道も治療対象となる.ガイドラインを参考にすると 19)~23,食道腺癌に対する治療方針の概要は以下のようになる.

1)DysplasiaのないBarrett食道:多くはAblationを推奨していないが,American gastroenterological association(AGA)ガイドライン(2011) 19ではラジオ波焼灼療法(Radiofrequency ablation;RFA)は治療の選択肢となりうるとされている.

2)LGDを伴うBarrett食道:Ablation therapyを推奨するものと 20),21,サーベイランスを推奨するものがある 22),23

3)HGDや粘膜癌を伴うBarrett食道:HGD,粘膜内癌および周囲のBarrett食道には内視鏡治療が推奨される.粘膜に明らかな結節を伴う場合にはstaging目的でERが推奨され,その他の部分には主にAblation therapyが推奨される.

4)一方本邦のガイドライン 24では,リンパ節転移リスクの低い食道腺癌に対しては内視鏡切除単独が標準治療とされており,異時性癌予防のためのAblation therapyは推奨されていない.

Ⅲ 欧米における食道腺癌に対する内視鏡治療

欧米ではBarrett食道および食道腺癌に対して,根治性が高くStagingも可能なERと,より簡便で合併症が少ないAblation therapyなどの組織破壊法が行われている.組織破壊法として,以前は光線力学療法(Photodynamic therapy;PDT)やアルゴンプラズマ焼灼術(Algon plasma coaglation;APC)が主に行われていたが,最近はラジオ波焼灼療法(Radiofrequency ablation;RFA)が主流となっている.Barrett食道/腺癌に対する各治療法の特徴をTable 1に示す 25)~35

Table 1 

Barrett食道/腺癌に対する各治療法の特徴.

1)RFA

RFA はBarrett食道に対するAblation therapy で最も汎用されている(Figure 1).欧米を中心に局所焼灼用のTongue型(HALO60,HALO90,HALO-ultra,Channel catheter;Covidien)のRFAデバイスに加え,全周性の焼灼にはバルーン型のRFAデバイス(HALO360;Covidien)が発売されているが,本邦では発売されていない.

Figure 1 

Medtronic社提供.

a:RFAデバイス.左から内視鏡チャンネルに挿入可能なカテーテルデバイス(Channel RFA Endoscopic Catheter),内視鏡先端の外付け用Tongue型デバイス(真ん中の2つ),全周の焼灼が可能なバルーン型デバイス(HALO360 ablation balloon).

b:Channel RFA Endoscopic Catheter.内視鏡チャンネルから挿入が可能.

c:HALO360 ablation balloon.全周性にBarrett食道を焼灼できる.

RFAの治療成績に関しては,欧米から多数の報告が行われている.DysplasiaのあるBarrett食道症例を対象としたRCT(Randomized controlled trial)では,RFA群がコントロール群に対してDysplasia(91% vs 23%;p<0.001),腸上皮化生の消失率(77% vs 2%;p<0.001)とも高いことが示された 25.欧州からのLGDを伴うBarrett食道症例を対象としたRCTでは,RFA群がコントロール群に比べてHGDや腺癌の発生を抑制していた(1.5% vs 26.5%;p<0.001) 26.メタアナリシスでも,RFAの腸上皮化生消失および発癌抑制効果が示されている 36

2)ER

欧米では,簡便なER法としてEMRがESDより好まれる傾向にある.European Society of Gastrointestinal Endoscopy(ESGE)のガイドラインでも,EMRをゴールドスタンダードとし 37),38,15mm以上の病変やlifting不良,SM浸潤が疑われる病変などの場合にESDを考慮するとある.EMRの方法として欧米ではMultiband mucosectomy(MBM) 39),40が主流である.MBMは局注を必要とせずCAPの中に病変を吸引したのちBand ligationしてスネアで切除する方法である.6個までは備え付けのbandで結紮できるためスコープを引き抜くことなく,1つのスネアで連続的に複数回の切除が可能である.MBMとCap-EMR 41を比較するとMBMの方が治療時間は短くコストも安い事が利点だとしているが 42,Cap-EMRの方が切除標本径は大きく 40),42,15mm以下の病変に対する一括切除率も高いといわれている 43

EMRでBarrett食道全体を切除するComplete EMRが異時性癌抑制に有用な方法として報告されている 29),44.HGDか粘膜内癌の患者を対象として,Complete EMRとRFAを比較したSystematic Reviewでは 45,Barrett食道の根治率は同等だったが(EMR95%,RFA94%),合併症がRFAで少なかった(EMR12%,RFA2.5%).このような結果もあり,現在RFAが主流となっている.

3)Combination therapy

HGDや癌では,最終診断と生検診断が異なることがあると指摘されている 46.そのため腫瘍の可能性がある隆起に対しては,正確な病理診断とstagingの目的でERを行い,残ったBarrett食道に対しては異時性癌を抑制する目的でRFAなどを追加するCombination therapyが有用とされている 27),47.HGDや粘膜内癌症例を対象に,Combination therapyとComplete EMRを比較したRCTでは,腫瘍(HGD及び粘膜内癌)の根治率は96% vs 100%,Barrett食道の根治率は96% vs 92%と両群とも良好な成績であったが,狭窄率が14% vs 88%(p<0.001)とCombination therapy群で低くなっていた 28.またCombination therapyとComplete EMRを比較したSystematic reviewでも,根治率には差はなかったもののComplete EMRはCombination therapyに比べて狭窄(33.5% vs 10.2%;OR 4.7;95% CI,1.6-13.6),穿孔(7.5% vs 1.1%,OR 7.0,95% CI,1.6-31.3),出血(1.3% vs 0.2%,OR 6.9,95% CI 2.2-21.6)といった合併症すべてにおいて発生率が高く 48,Combination therapyがより安全な治療であることが報告されている.

4)その他

RFAの登場前には,APCやPDTといった治療が行われていた.PDTは腫瘍親和性のある光感受性物質を投与後,腫瘍組織にレーザー光を照射することにより光化学反応を引き起こし,腫瘍組織を変性壊死させる治療法である.PDTではHGDの77%で根治が得られ,異時性癌の予防効果も報告されている 49.また,APCによりHGDや粘膜内癌の80%で根治が得られ 50,異時性癌の予防効果も報告されている 51.しかし,APCやPDT後には,20%以上にBuried Barrett’s glands(扁平上皮下に埋没したBarrett’s glands)がみられると報告されており 52,PDTとRFA施行後のBuried Barrett’s glandsを比較したSystematic reviewでも,RFAの0.9%に対して,PDTは14.2%と高くなっていた.このような結果を踏まえ,組織破壊法としてPDTやAPCは行われなくなっている 53

比較的新しい治療法として,冷却窒素や二酸化炭素で組織を凍結破壊するCryotherapyがBarrett食道に用いられている.観察研究ではdysplasiaの81-97%,腸上皮化生の55-81%が根治でき,合併症も少ないとされている 32)~34.さらにERとのCombination therapyとしての有用性も報告されている 35.有望な治療法であるため,今後はRFAとの比較により有用性の評価が望まれる.

Ⅳ 本邦における食道腺癌に対する内視鏡治療とESDの成績

すでに周知のことではあるが,ESDはEMRに比べて一括切除や治癒切除率が高く,詳細な組織評価を可能として局所再発を減らすことができる 34),54)~58.そのため本邦では,食道腺癌に対するERのほとんどがESDで行われている(Figure 2).一方,癌をERした後の残存Barrett食道での異時性癌の発生頻度は,5年で1.1%と非常に低い 59.そのため,食道癌診療ガイドライン(2017)でも異時性癌予防目的でのBarrett食道への治療は推奨されていない.

Figure 2 

a:食道胃接合部にBarrett食道を認め,1時方向には5mm程度の発赤を認めた.発赤の口側扁平上皮はわずかに隆起し,柵状血管が不明瞭化していた.

b:発赤部分のNBI拡大観察では,不整な血管構造を認める.

c:マーキング.発赤部分とわずかな隆起を囲むようにマーキングを行った.

d:マッピング.最終診断はAdenocarcinoma tub1(未分化成分なし)T1b-SM2(400μm)ly(-)v(-)HM0 VM0 0-Ⅱa type 18×16mm.

e:病変の病理組織像.腫瘍腺管が扁平上皮下に進展している.

f:病変の病理組織像.扁平上皮下進展部でSM浸潤(400μm)を認める.

食道腺癌に対するESDの治療成績を,“Endoscopic submucosal dissection” “Esophageal adenocarcinoma” “Barrett’s esophagus”のキーワードでPubMedから検索したところ14編 60)~73の報告があった(Table 2).ESDをEMRと比較したドイツからのRCTでは,ESDがR0切除率(58.8% vs 11.8%:p=0.01),一括切除率(100% vs 15%:p<0.0001),治癒切除率(52.9% vs 11.8%:p=0.03)で優れており 69,合併症の発生率に差はなかった.Yangらのメタアナリシス 74では501症例524病変を検討し,ESDの一括切除率92.9%,R0切除率74.5%,治癒切除率64.9%,局所再発率0.17%(観察期間23カ月)であった.合併症は出血1.7%,穿孔1.5%,術後狭窄12%であったがいずれも内視鏡的にコントロール可能であった.本邦におけるBarrett腺癌に対する内視鏡切除後の成績でも,再発は極めて少なく(食道腺癌26例で局所再発0%,遠隔転移を含む再発4%,観察期間46カ月),良好な成績が報告されている 75

Table 2 

Barrett腺癌に対するESDの治療成績.

Ⅴ 食道腺癌に対するESDの成績:他癌との比較

Osumiらは食道腺癌と噴門部癌を比較し,一括切除率はいずれも100%であったが,治癒切除(食道腺癌:相対適応として<SM200μmを含む,噴門部癌:日本胃癌学会の胃癌治療ガイドライン2010年版に準じる)率は62% vs 82%(p=0.01)と食道腺癌で有意に低かったと報告し 70,Hoteyaらは食道腺癌,接合部胃癌,それ以外の胃癌の3群で比較検討を行い,R0切除率(64% vs 96% vs 96%,p<0.05),治癒切除率とも(48% vs 81% vs 86%,p<0.05),食道腺癌で低かったと報告している 61.食道腺癌と噴門部癌で差がなかったとの報告もあるが 63,食道腺癌は胃癌に比べ治癒切除率が低いようである.その要因として脈管侵襲やSM深部浸潤例が食道腺癌で多いことや内視鏡的な範囲診断の困難さが挙げられている 61),70.そのため食道腺癌の内視鏡的範囲診断には細心の注意を払い,内視鏡で診断が困難な場合は生検も併用すべきである.さらに扁平上皮下の進展が疑われる場合(Figure 2)は,その部分から十分にマージンをとり切除する必要がある.

Ⅵ 内視鏡切除後の治癒判定

本邦および欧米のいずれにおいても,粘膜から粘膜下層浅層程度の浸潤にとどまると思われる癌に対して内視鏡切除が適応されている.内視鏡切除後の治癒判定に関して欧米のガイドライン(Table 3)では,SM500μm以深の浸潤や脈管侵襲,低分化成分が非治癒因子として上げられている.逆にこれら因子がないものは,内視鏡切除で治癒する可能性が高いと解釈できるが,どの程度確実な治癒か(転移再発のリスクがどの程度低いのか)は明記されていない.一方,本邦ガイドラインでは,EP,SMM,LPM癌が内視鏡治療の適応(治癒と判定される癌)とされているが,その根拠となるデータも示されていない 24

Table 3 

ガイドラインでのBarrett腺癌に対する内視鏡切除の治癒判定.

そこで本邦において,食道腺癌症例を対象とした転移リスクの後方視的解析が行われた 76.結果は,SMMとLPM癌には転移がみられなかった.一方,DMM癌103例中9例,SM500μm以浅癌59例中4例に転移がみられたが,いずれも脈管侵襲陽性や低分化成分,3cmを超える病変などのリスク因子をもつ病変であった.またSM500μmを超えて浸潤する癌では195例中59例と高率に転移を認めた.この結果から,脈管侵襲や低分化成分がみられないDMM癌,3cm以下で脈管侵襲や低分化成分がみられないSM500μm以浅癌については,転移再発が少なく,内視鏡切除での治癒が期待できる.しかし,これはあくまで後方視的な検討に基づく結果で症例数も限られているため,前方視的な研究により確認する必要がある.

Ⅶ 今後の課題

わが国においても,食道腺癌は恐らく増加傾向にあり,今後更なる増加が懸念されている.内視鏡治療は,食道腺癌に対する低侵襲で根治性の高い治療であるが,以下のようにいくつかの課題が残されている.

・本邦のLSBEに対する焼灼は,本当に不要か?

・主にLSBEでみられる境界が不明瞭な癌の範囲診断をいかに行うか?

・癌の扁平上皮下進展や深達度の診断をいかに行うか?

・内視鏡切除の適応や内視鏡切除後の治癒判定方法の確立

このような課題に関し,欧米において多くの食道腺癌に対する診断治療経験を基に構築されたエビデンスが報告されている.しかし欧米のエビデンスは生検診断をベースにしたものが多く,拡大内視鏡を用いた詳細な観察で診断を行う本邦の診療に当てはめることはできない.また,胃癌と食道腺癌には,内視鏡像や転移ポテンシャルにおいて違いがあり,本邦において多くの早期胃癌を基に構築されたエビデンスを食道腺癌に外挿することもできない.つまり食道腺癌における課題は,本邦における食道腺癌の診療を通して解決していく必要がある.しかし,食道腺癌の罹患率が胃癌や食道扁平上皮癌の1/10にも満たないことを考えると単施設での検討には限界があり,課題の解決には多施設の協力が不可欠である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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